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魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
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第四十四話

 十七時には閉まってしまう何でも屋が一軒。この村では、コンビニのような扱いだ。必要なものは、半月に一度ほどのペースで売りに来る人間がいる。田舎者だと馬鹿にして、値段が少し高く設定されていることを、この女は知っていた。


「あ、薬は……」


「まーった、あんたかい?あれは薬じゃ治らないよ。」


 その男は、心底迷惑そうな顔をして払い除ける。都会で流行っているとかいう水を売るのが、そんなにも大事なのか。


「でも…お医者様が薬で抑えるしかないと…」


 必死で貯めた金を手の平に乗せて見せる。女は情に訴えかけにきたわけではない。客としてここにいる。


「わからねぇヤツだな!」


 硬貨が土で汚れる。一枚一枚、丁寧に拾い上げ土を払う。背中を足で何度も蹴られた。女の細い身体には、とても響いていた。青いあざが点々とついてしまった。それを見つけてくれる人はいないことが、女の唯一の救いだった。

 御近所の村人には、寝たきりの旦那様に執着する人として、遺産がどうであるかや、呪詛の家系だとか、根も葉もないことを言われていた。家には近づかれなかったものの、外に出れば冷たくあしらわれ、目線は痛く精神を蝕んでいた。


「旦那様。気分はどうですか?」


 寝込む男と看病する女が住む家は、干上がった池が庭にある平屋だ。二人が住むには大きな家だが、男の親族の持ち家であり、病気になった際に逃げるように渡されたものだった。今は縁を切られた状態である。


「ゔ…ゔぅ……」


 家は小さな神社の前にあった。その神社に神主はいなく、人が立ち入ることもない。離れた場所にもう一つ神社があり、こちらは必要ではなくなってしまったようだ。不憫な女は、自分と重ねて、用がなくなった神社を簡易であったが掃除していた。


 女は男と会話をした記憶は遠くのものだった。



 ある夏の日だった。その日は、夏にしては涼しく過ごしやすい一日であった。男の体調は優れないが、今日は幾分楽なのではないかと女は思っていた。

 女にできる働き口は限られていた。今より身体が丈夫だった頃は、汚物を掬い取り処理する仕事をしていたが、今になっては運搬する力がない。女は嫌なことでも命令に従う姿に目をつけられ、放置された墓地を掃除することとなった。

 その墓地は動物の住処になっていた。女を襲うことはないか、必ず遠くから覗いていた。鳥や獣の糞の処理、苔のはった墓石の掃除、伸びた雑草を刈る仕事が主となる。その土地を管理する男は、女の仕事が遅くても何も言わずに日銭を払い続ける。


「これ…忘れ物かしら…」


 後に判明することの一つ。この墓地は呪われた地であり、定期的に近くの場所に住む者を殺していた。理由まではわからない。知るものは全て死に絶えた。つまり、女は生贄として雇われたのである。…それが、女は時が来ても死なず、何食わぬ顔で仕事に来た。土地の主は、死人が出なくなったことを喜び、日銭を躊躇わなく払い続けていたのだ。


「お札が貼ってあるから、神社に保管するべきなのよね。」


 女は神社に見つけた箱を保管した。お札が何十枚と貼られた箱に嫌悪感が無かったのは、厄がある物ではなかったのか、この女であったからか。


 その晩、男は消えた。


 朝になり、男が消えたことに気づく。寝たきりの状態であった男がいなくなってることは不思議であった。女は村に出て、男を見ていないか聞き回る。時には蹴り飛ばされても、血だらけになってしつこく聞いた。


「知らねぇつってんだろ!…ったく、夫が神隠しにあったとして俺に聞いてどうすんだ。」


「神隠し…?」


「寝たきりの人間が一晩で消えたんだろ。そいつは神隠しじゃねーか。それとも、病気持ちの厄介者を拐う奴がいるってのかい?」


 感謝を伝え、墓地を管理する男の元へ向かう。


 墓地には動物達が集まり、落ち着かない様子で動き回っている。何かを探しているように女は感じた。


「…すみません。旦那様が…神隠しに…」


「神隠しぃ?ははっ、それはお前が悪い。」


「え?な、なんで…」


「うちの神社は跨がせねぇ。お前の家ん前にもあったろ、そこで願ってりゃいい。」


 管理する男は、それ以降何も言わなくなった。



 途中、木屑を踏みつけて血が流れた。



 家の近くまで帰ってきた。心臓が痛む。身体中が痛いはずなのに、心臓が気になって仕方がない。

 家を覗くも男の姿はない。神社に向かい鳥居をくぐった時、何者かに誘われたように感じ、本殿に入っていった。


「あれ…この箱…」


 以前保管した箱のお札が焼き切れていた。鳥肌が立つ体験だが、女は躊躇せずに箱に触る。中身に入っていたものは肉のミイラであった。


「これ…」


 何かの肉のミイラだが、鱗のようなものがある。魚の肉とは思えない。女は肉から目を離すことができない。


「あぁ…ありがとうございます…」

 

 女は感謝の言葉を発して、ミイラを口に含み飲み込んだ。水分は無いはずのミイラから、赤色の液体が噴き出て止まらない。口から(あふ)れ、脚に向かって(こぼ)れていく。


「私は…」


 女の身体は異形のものへと変わっていく。


「この村の人間を皆殺しにして、貴方様へ捧げます!!」


 下半身は鱗で覆われ尾鰭がついた。


「これで救われる!私は…救われるのですね!」


 女の目線の先には何かがある。


「待っていてください。私が探しに行きます…」


 呪われた地。呪詛の家系。謎の死。全てがホンモノであったのだろうか。


「何年…何十年…何百年だろうと!私は探しに行けるのです!!」


 

 村が一つ消えた。

 村人は自らの頭部を、潰れるまで墓石に叩きつけていたことが判明。例外なく、自立できぬ赤子も同じ死因であった。


 女は役目を終えて力を失った。不死の呪いのみ身体に刻み込まれ、探し続ける。





 時は経つ。


 悪夢は再び発現する。異質の存在が、生ける化け物の身体を蝕んだ。

 






「「ぐぅ、あ゛あ゛ぁ我はあ゛!貴様ら人間共を゛ぉ゛滅ぼすあ゛っ!」」


 上空に泳ぐソレの体長は約10mと、元の人魚型と比べ三倍近い大きさとなっている。声が重なっているように聞こえる。人魚型と変わり、冷静さは感じられない。


「ところで、パッション。あれ何?」


「人魚の肉を食べた不死らしいぞ。」


「ファンタジーね。じゃあ…冥界人魚型寄生されし者(ネオ・パラサイト)で。」


「あれは冥界だったのかー。」


 情報共有をしながらキュリオは周囲を確認。冥界に飲み込まれた前と後では、全く異なっていた。周囲一帯は更地に変わり、上空から狙いやすくなっている。不利な地形だ。冥界が発生していた場所のみ、不自然に発生前の綺麗な地面へと戻っている。


「…あと、どれくらいもつ?」


「正直か?」


「決まってるでしょ!」


「ん〜…限界を超えて限界を跨いでるところだな。次からは血液パック用意してくれ。はっはっは!」


「全く…またしばらく入院生活だからね。」


「うげー!さいあくだ。」


 冥界人魚型の視線が定まる。ゾンビのような黒い魚類寄生されし物(パラサイト)が生まれ、遊泳し出す。


「ただの人魚ん時は、魚をいろんな形にして攻撃してきたぞ。」


「厄介ここに極まってるわね。」


 キュリオの手の平から金色の糸。その先には、パッションが乗ってきた移動用ポット。


'深緑の一時'(グリーンルージュ)勝利の黄金線(フリーゴールドライン)…よっこいしょ!」


 白いポットが糸に引っ張られ、冥界人魚型へ飛んでいく。避ける素振りは無く、そのまま衝突。

 冥界人魚型を掴む黒い腕に触れた箇所から、崩壊が始まっていく。白いポットが黒く変色。


「おい、キュリオ。ポット無いと死ぬぞ!」


「そんなことわかってるっての。時間作ったんだから、じっとしてて!」


 キュリオはパッションを後ろから抱きしめる。


「うぇ?ど、どうしたんだよ。」


「静かに!」


 息を整える。身体が崩壊する感覚を思い出す。分解されていき、再構築する…冥界で掴んだ感覚。


「…大丈夫……私ならできる…」


 キュリオの姿に変化が現れる。バグったゲームのように、身体がブレ始めた。体重が減っていく。やがて、パッションは背中に暖かさのみを感じるようになる。


「……知りたい…全て……一つになって…真の理解を……」


 ポットが朽ちて地上にカケラが落ち始めた。

 キュリオの姿は完全に消え去った。キュリオの意識は途切れる。目には見えずとも、パッションは変わらずキュリオの体温を感じていた。


'深緑の一時'(グリーンルージュ)共鳴する再構築パーフェクトシンパシー


 キュリオは目を覚ます。視界は6cmほど低くなっている。胸部にかかる負荷が増えたことに対して苛立ちを覚える。貧血で意識が薄れ、全身に激しい痛みが流れることを察知し、痛覚の伝達を断つ。身体の把握と、意識の完全共鳴。


「名付けて、キュリオinパッションモード!」


「うわっ!身体の中から声がするぞ!?…ちょっとキモいな。そのままだし。」


「わかりやすくていいでしょーが!それにキモくない!」


 パッションハート大勇モード状態の中、二冊の本が浮遊する。キュリオハート憧憬モード時に出現する二冊の本と同じである。パッションに入っている状態で出現させる意味はない。入っていることの目印なのだ。


「「湧けぇ、震え゛、穴だらけになれ゛ぇ゛!ーー燦 々 針 淵(さんさんしんえん)」」


 捻られ黒い魚類寄生されし物(パラサイト)は針になる。黒い針は集合し、黒い波を作り出す。流れ出る方向は無論パッションである。


「「熊の炎腕」」


 両腕に集められた炎を力に任せて叩きつける。キュリオの能力をもって、無駄は無くなり、威力は上がる。黒い針の波は炎に飲み込まれ、端から塵と化し背後で舞う。

 

「「恐れて朽ちろ゛ぉ゛!永遠の死が足を引き摺り込む゛!ーー冥 生 頼 儡(めいしょうらいらい)」」


 背後の塵が再び形を得る。以前よりも歪で禍々しい姿になった魚類寄生されし物(パラサイト)が、近距離での急加速。気づいてからでは遅い、急死の一撃。


 パッションに動揺はない。熊の炎腕で爆発した炎の一部は身体に纏われ、炎結翔(えんけっしょう)を通して威力が増大。踵のブースターにチャージされていた。背後から迫る敵への回し蹴り。


「「炎舞炎兎のパッションブーストキーーーック!!」」


 キュリオinパッションは二度殺す。炎を纏った巨大な脚が命狙う敵を、全て焼き尽くした。

 脚に纏った炎を、ガントレットへ。炎の再利用で、消耗しきっているパッションをカバーする。


「「情熱のパッションキャノン!!」」


 間髪入れずに、合わされたガントレットから放たれる炎の砲弾。冥界人魚型に衝突し、肉の焼ける臭いがする。焼け落ちた身体から炎がパッションへ戻る。情熱は情熱を引き寄せ、より燃え上がる。


「息ぴったりだな。以心伝心だ!はっはっは!」


「…悪いけど、唐揚げを食べるのは身体を治してからだよ。」


「本当に思考を読むのは勘弁してくれ。」


 大きな独り言にしか見えない状態だが、見ている人がいないため問題はない。

 冥界人魚型は少しずつ肉を崩壊させて消火していく。


「「あ゛あ゛あ゛あ゛!みな゛っ、皆殺しぃ゛い゛!!」」


 新たな技に対応するも、致命傷もまた与えられない。


「…あいつ苦しんでるよ。」


「うん。私達で終わらせるんだ。」


 '情熱と好奇心'で'生と死'の攻略に挑む。

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