第四十二話
「榛名奈々子。よく頑張ったわね。こっちに来なさい、出口まで案内するわ。」
綺麗な長い髪に、吸い込まれそうな青い目。白衣を着て……両脚で…立って…
「……静香さん…」
クールハートではない。香無静香がそこには立っていた。車椅子も無い。元気な身体で、死んだはずの彼女は立っていた。
「さぁ、こっちよ。早く来なさい。」
相変わらず無表情で、何を考えるかわからない。でも、たぶん、私達のことを考えてくれてるんだ。そういう人なんだ。
「皆んなが待ってる。貴方が必要よ。」
私が一番尊敬してる人。嫌な役を自分から名乗り出る。自分がどう見られるかは考えてない。だから、人によっては、効率と結果を重視する冷たい人に見えるかもしれない。でも、本当は…誰よりも優しくて…甘いものが大好きな、カッコいい女性なのよ…っ!!
「ふっざけんなぁああ゛あ゛あ゛!!!!!」
許さない…絶対に許さない!!
「榛名奈々子。どうしたの?大声を出して。」
「うるさい。これ以上しゃべんな偽物ヤロー。」
「何をいっているの?私は香無静香よ。」
あの香無静香が、こんなマヌケなわけがないのよ。変身もせずにここにいるはずがない。話に内容が無い。あの人なら、まず情報共有なのよ。そして…会えるのなら、アノ人に顔も見せないで、ここにいることが許せない!
「静香さんは死んだ。それを乗り越えようとここにいる。」
拳に力を込める。その威力は、魔法少女としては失格。ただ、仲間への侮辱を晴らせるには、熱き怒りの拳が必要だった。
「キュリオパンチ!!」
拳は香無静香(偽)の顔面にめり込む。紙屑で作られていたのか、抵抗力は無い。か弱い拳でバラバラに崩れていく。
その背後から現れる黒い腕。キュリオの顔面を掴む。声も出せない。意識を掴まれ、引っ張られていく…視界はぼやけ…
闇の中、キュリオハートは姿を消した。
瞼の上から当たる暖かな日。畳の匂いは気持ちの良いものとは言い難い。子供の頃にこぼしたジュースとか、いろいろなものが染み付いて、特有の匂いになってしまっているのだ。耳を澄ますと、虫の声と森の音。懐かしさに包まれると安心するのは何故だろう。それは…不安とはかけ離れた時間を思い出しているから。
「奈々子ちゃん、お友達が来てるよ。」
あれ…おばあちゃん?…なんで私は、おばあちゃん家にいるんだろう…。
「こんにち奈々子ー!」
「…朱?なんでここに?」
小っちゃい朱。今とあんまり変わらない。…なんで、朱だってすぐわかった…?
「何って遊びに来たんじゃねーか。寝てたら、夏休みがもったいないぞ!」
夏休み…そうか、夏休みなのか…。だったら、遊ばないとね。楽しまないといけないんだ。
「こんにち奈々子じゃ、なんにもかかってないじゃない。」
「細かいこと気にすんなよー、スイカ食べようぜ!」
朱はおばあちゃんが用意したスイカを食べている。しかも、半玉。おっきなスプーンで掬って食べてる。
「そんなに食べたら、お昼ご飯食べれなくなるじゃない。」
器用にスイカの種を庭に吐き出してる。綺麗な放物線を描いて、蟻の行列を邪魔するように落下した。
「スイカは九割水分だから、ねっちゅーしょー予防になるし、いっぱい食べた方がいいんだぞ!」
「へー、そうなんだ。限度はあるけどね。」
できるだけ小さいスイカをとって口に運ぶ。キンキンに冷やされてて、甘くて、とっても美味しい。果物屋が家まで販売に来るのって、田舎あるある。
「へへっ、奈々子は誤魔化せないなー」
「全くもー…平和ねー。」
七月二十八日
今日は朱と一緒に海に行った。焼きそばの大食い大会には、年齢制限で出場できなくて、朱が泣いていた。わたしが慰めた。
七月二十九日
今日は森に探検に行った。入っちゃダメだと、知らないおじさんに怒られた。朱が泣いていた。帰り道はあまり話せなかった。
七月三十日
今日は野菜を収穫した。トマトが苦手な朱は、食べれないと泣いていた。夜ご飯はお肉にしようっておばあちゃんに相談してあげた。
七月三十一日
今日はお使いに行った。お米を貰いに行った帰り道、朱がお小遣いを落としちゃって泣いていた。私のお小遣いを分けてあげた。
八月一日
今日は朱が泣かなかった。今日は一日中、一緒にアニメを見ていたから。明日は続きを見ようと約束した。
八月二日
今日も魔法少女マジカルベリーを見た。面白かった。朱は泣かなかった。
八月三日
今日も魔法少女マジカルベリーを見た。面白かった。朱は泣かなかった。
八月十四日
今日も魔法少女マジカルベリーを見た。面白かった。朱は泣かなかった。
八月%々日
今日も朱は泣かなかった。魔法少女マジカルベリーが面白かった。
八月×」〆-3=°
今日も面白かった。朱は泣かなかった。
×*八>〒*4〜
朱は泣かな8^=°。魔法〆々7[目を×*
」5々3#÷+]||°〜=
朱はr〆%っだrj? ×3キュljt:〆×5
「奈々vt|>3=|〆>!」
「どうしたのー?魔法少女マジカルベリー始まるよ?」
「奈vlg」÷々×°=!!!」
「もー、一人じゃ何もできないんだからー。」
「行くな!キュリオハート!」
「え?…なに?」
テレビにはマジカルベリーが映っている。
「貴方は魔法少女になれたのよ。戦いなさいキュリオハート!」
うまく聞き取れない。
「思い出して!貴方の力の源を!!」
「おばーちゃーん!テレビ壊れちゃったー!」
居間にいるかな。
「行かないで!私を…忘れない=¥:々…9>¥1〆」
「あれ…?直っちゃった。」
八月二十二日 お祭りの日 二日目
お祭りは神社で二日間行われる。子供が参加するのは二日目で、一日目はお祈りだとかでつまんない。せっかく朱といるんだもん。屋台が並ぶ二日目に行くに決まってる。
「ほら、綿菓子売ってるよ。」
「+*%4助け+・14ve…」
あれ?音が出る綿菓子なんて不思議。
「奈々子<:×5々°°>?」
「大丈夫だよ。お小遣いたくさん貰ったから、食べたいもの食べていいんだよ?あっ、たこ焼き!」
「〒」5〆=けてrg÷6!魔法÷8$¥>>^」
ふふっ、今日のお祭りはみんな楽しそう!
「gf¥g/p6/ev/じょ!」 「g」bて!」
「qをd7d」
「_jA#…4°€・…」
「1546・($|!gb@A\//」
「e×5…#b9…」
「皆が_p&"待っg#y!」
「はっはっは!」
「そうね、楽しいね朱。」
太鼓の音と踊る人。鳴り止まない。止まらない。
「はっはっは!」
「…あれ?どうして笑っているの?」
「はっはっは!」
「教えて、朱。知りたいの。」
「はっはっは!」
「知って共有したいの…貴方と笑い合いたいの。」
「はっはっは!」
「なんで…なんで…私は笑えないの?」
なんで……?
「思い出したようね。榛名奈々子。」
「マジカルベリー…?」
なんで…道の真ん中にテレビがあるの?お祭りなのに…朱は泣いているの?
「ずっと憧れていたのでしょう?魔法少女になりたかったのでしょう?」
「うん……うん!」
「助けなさい。目の前で泣いている子を助けるのよ。」
目の前の…朱…?
「違う。朱じゃない…泣いているのは…私?」
「貴方は泣いていた。ずっと…泣いていたの。もう、自分を隠さないで…貴方は素敵よ!」
涙が溢れる。目の前の泣いてる私と重なり、一つになっていく。過去の私と、なりたかった私。
「さらけ出すのよ、魔法少女キュリオハート!貴方の想いが、感情が!全てを超えて仲間を助ける!!」
私は魔法少女になる。
そして…
「私は知りたい!過去の私を救いに行ける、そんな魔法少女になれるのか!未来に進む好奇心が…私にはある!!」
ーコードネーム'キュリオハート'
オノレヲカイホウセヨ
「ゲート…オーバー!」
ーカコ ヨ ミライへ
「過去の渇望が 呼び覚ます感情!
魔法少女キュリオハート 憧憬モード」
憧れの存在へなることが、過去の自分を救える唯一の方法だと覚悟を決めた変身。浮遊する本が一冊増える。白く綺麗な表紙の本にはタイトルは書いていない。名前の欄には'キュリオハート'と大きく書かれている。過去の自分となりたい自分…二つの姿が重なった姿こそ、'魔法少女キュリオハート 憧憬モード'。
「マジカルベリー、テレビ使わせてもらうよ。」
テレビの画面に手を伸ばす。'深緑の一時'勝利の黄金線を使った際と酷似しているが、モニターに手を突っ込んだ感覚はもう無い。痛みも恐怖も存在しない。
もうマジカルベリーはテレビに映っていなかった。太鼓の音もせず、周囲に人は見当たらない。
身体は全てテレビの中へ。おばあちゃん家も、海も、神社も、全て崩れ消える。一つの世界が無くなった。
闇の中で身体が再構築される。視界に映ったのは、二度目の闇。
「ここは冥界だったのね。それを寄生されし物が無理やり繋げてきた。」
憧憬モードのキュリオは闇さえも理解する。見えなかったものはじわじわと浮き出て、姿を見せる。
「この亡者の中に核がいる。死してなお残る執着を持った寄生されし者…」
キュリオが立つ場より遥か下、亡者達の悲痛な言葉と腕がひしめき合っていた。
移動する。過去を未来へ連れて行く彼女は、終着点に縛られない。闇からも抜け出せる。外へ出るための綻びは、キュリオにしか違いがわからない。
「く、そぉ……」
憧憬モードでさえ、キュリオハートに戦闘力は無い。力の源は知りたい気持ち。敵意を持っていたら知ることはできない。
闇の綻びから無数の黒い腕が生えている。来るものを妨げるために存在するそれは、触れた箇所を崩し、この世から消え去る。キュリオも例外ではない。
ここの綻びしか出口となる場所は無い。キュリオには断言できた。知っていたからだ。
「………青い光…?」
無数の腕の中。一際目立つ、青く輝く腕が手を広げて伸びていた。
疑わず、ごく自然に、その手を握る。思考を放棄したわけじゃない。どころか私は…とても冷静だった。
「生きなさい。そして、仲間を助けるのよ。」
「…ははっ…簡潔でわかりやすいや…」
ーーーーー闇が晴れる。




