第四十一話
ーコードネーム'パッションハート'
オノレヲカイホウセヨ
「ゲートオーバー!!」
ーアコガレ ヨ フタタビ
「情熱想起し 目覚める感情!
魔法少女パッションハート 大勇モード」
纏っていた炎は結晶化し、パッションの身体に装備されていく。新たな燃え盛る炎と、結晶化した炎、二つの炎を纏う姿が'魔法少女パッションハート 大勇モード'。真の纏いが顕現した。必ず立ち上がるだけじゃない、守るために攻撃を受け切る頑強さ、居てくれるだけで安心する…そんなヒーロー像に向けて歩き始めた。
「ふざけているのか貴様…姿が変わろうと矮小な人間に変わりえぬっっ!!」
人魚の歌声。対象者の脳に干渉し、意識を無意識下で創造された別世界に幽閉する。その後、宿主がいなくなった肉体を操り破壊の指示を下す。
パッションは耳を塞がない。間違いなく歌声は耳に届き、脳を蝕んでいた。
「無駄だ!私を待ってる人がいる!もう寄り道はできない!!」
「…イカれておるのか…何を見てきたんだ貴様は!!」
連続の人魚の歌声。精神干渉から音波攻撃へと切り替える。皮膚を震わせ、内部に侵入、内臓にダメージを負わせ始める。
「展開しろーーー炎結翔」
結晶化した炎は、パッションから離れ滞空する。空中に固定された炎結翔は蹴り飛ばしても動かない。
パッションはブースターから炎を放出。跳躍力を上げて炎結翔に飛び乗る。足より少し小さいが、踏み場としては十分な大きさだ。炎結翔から炎結翔へ、空中を自由に駆け回る。向かう先には人魚型寄生されし者。
「何故だ…何故、人魚の歌声が効かぬ。人間ではないのか?」
炎結翔は、ブースターの炎が衝突することで爆発する。爆発を纏い強力な炎が次の炎結翔へ。パッションは空中で加速し続ける。
兎を模した炎を纏い、空中を跳ねる炎の兎は、月をも砕く一撃を繰り出す。
「炎舞炎兎のパッションブーストキーーーック!!」
人魚型寄生されし者の腹部にパッションのキックがめり込む。魚類寄生されし物を集めての防御は間に合わず、寄生されし者の防御力を上回る攻撃は深刻なダメージを負わせる。
「私は魔法少女…人間は既にやめてんだ。」
崩れた銀行の瓦礫に人魚型は墜落した。瓦礫が飛び跳ね土煙が舞う。滞空していた魚類寄生されし物に動きはない。土煙はゆっくりと薄れ、倒れる人魚型を目視できる。
パッションは地上に降りる。炎結翔は再び装着され、装甲へと戻る。
「終わりなわけないよな。」
足音…かなりの数だな。日本酒寄生されし物よりも音が軽い。魚以上日本酒以下…このタイミングだ、人魚が呼びせたのは間違いない。日本酒以外で予測してたもの…米とかかー?いーやっ、そんな単純じゃないな…害虫だろー。米を食べるタイプの虫に寄生した大群系の寄生されし物。予測でも上位にきてたからな。燃やし尽くしてやる。
「……なんだ?頭身が高い…虫じゃないぞ…」
揺ら揺らとおぼつかない歩き方。寄生されし物にしては細身で、覇気を感じられない。強者特有のプレッシャーがない。肌にひりつく風が当たらない。ひたすらに嫌な予感を目で、耳で、全身で感じさせられる。見覚えのある生き物だった。
「…ふざけんな……」
人間にとって一番馴染みのある動物とは。犬か、猫か。それともチンパンジー?…否。
「ふっざけんなぁああ゛あ゛あ゛!!!!!」
人間である。
「失念していた。貴様の刃が我に届こうが関係なかったのだ…我は人魚。不死身の存在なのである。」
人魚にダメージは見当たらない。血液の一滴も垂れていない。元の状態であった。
「テメーがやったのか……?」
パッションに向かってくる人間は、寄生されし物の細胞に全身を蝕まれ、強制的に歩かされているように見える。目の焦点は合わず、声にならない声を出す。
「我は人魚だ。人間を惑わす力は有名ではないのか?持っている力を振るってはいけない道理はなんだ?」
「ふざけるな!!テメーの目的はなんだ!人間が必要あるのか!?」
「無い。貴様の攻撃は我に有効ではなかったが、邪魔立てするならば殺すと言ったはずだろう。」
寄生されし物の細胞に蝕まれた人間との距離は縮まる。
「……炎結音翔」
炎結翔同士を叩く。響く音は人魚の歌声に似ている。人間の内部に入り込み、浸透、情報は把握され、反射し、パッションの耳へと戻っていく。魔法少女の力を使ったエコーロケーション。導き出した答えは変わらず残酷なものだった。
「お願い…殺して…」 「助けて…助けて…」
「痛い、痛いよぉ」
「なんで…」 「お前のせいだ…」
「魔法少女…」 「死にたくない」
「魔法少女…」 「殺してやる…」
「誰か…誰かぁ」 「痛い、あ゛ぁ…」
「魔法少女…ゆるさぁないぃいいぃぃ」
人間がエネルギーとして利用されている事例は、超巨大寄生されし物であるモアイで確認している。そのため、戦地の人払いを徹底してきた。犠牲者を出さずに敵の戦力を削ることができる。しかし、人魚型寄生されし者は、歌をもって戦地に呼び寄せた。ここまでの道筋で犠牲者も出ていることが予想できる。また、黒泥が発生する前に戦地にいないと矛盾する。最初から使う気で待機させていたのだ。
「ごめん…ごめんな……」
パッションは謝罪の言葉を口にしながら、人間だったもの、寄生されし者の成り損ないを殺していく。出来るだけ、痛みを感じないように、一瞬で殺す。意識を飛ばしてから殺す。炎はなるべく使わない。肉体を燃やされる痛み、空気が吸えなくなる苦しみをパッションは理解していた。
「我を邪魔する人間の存在は予期できていた。そやつらを始末するには、同じく人間を使うことが良いと判断していたのだが…そうか、そんなにも躊躇なく人を殺せるか。貴様は身も心も人間ではなく、魔法少女というやつなのだな。」
寄生されし物と異なり、肉体の破壊を恐れないで繰り出す程度の、打撃技しか持ち得ていないため、魔法少女を倒す力はソレにはない。拳を突き出し、暖かい肉と血を感じながら殺すだけである。時間はかからない。足元には、合計八十七名の死体が転がった。
「貴様は英雄でもなければ、人間の心を持ち合わせぬ化け物だ。」
返り血で染まるパッションハートに、変身を超えた変身を成し遂げた姿は無い。
「勝てば官軍負ければ賊軍…などと言う言葉は貴様に当てはまらぬ。勝敗は関係なく、人々に恐れられる化け物として生きるのだ。」
人魚の歌声よりも、人魚の言葉はパッションを惑わしていた。
「私は絵空事じゃねぇ。現代を生きる魔法少女だ!…助けてやりたいけど、助からないことは私達が一番知ってる。人間の言葉を再生するだけの殺人機械を生かして…誰が救われるって言うんだ!!」
キュリオの顔が見たい。ただ、その気持ちで心を保つ。
「私に出来ることはお前を倒すことだ。私が望むものは友達の救出だ。今はそれだけでいい…私に迷いはない!展開しろ炎結翔ぉーっっ!!」
炎結翔がパッションから離れ、空中で固定される。足場のための散開ではない。一つにまとまり、炎のボードと化した。
「嘘をつくでない。迷っているから口が回るのであろう。」
炎のボードに飛び乗る。ブースターの炎に反応し、後方が爆発。爆風で吹き飛ばされるように空を飛ぶ。クールハートが寄生されし者第一号との戦闘において、敵の刃を利用したサーフィンに着想を得た。
「お前が悪いんだろーが!!」
炎の波に乗る。赤光が人魚へ伸びる。
「それが貴様の本音だ。」
暗い…手も足も…大丈夫、うん。ここはポットロボの中か……反応無し。外は真っ暗。記憶が正しければ穴に落ちた。寄生されし者が現れて、能力で足場を無くされたとかかな。
「|'深緑の一時'領域拡大魔法」
…嘘でしょ……。何も無い…ここには何も無い…。別の世界に送られた?なにそれ、ふざけてるの?何も無いこの空間もよくわからない。全く知らない素材?で作られてる。
「|'深緑の一時'勝利の黄金線……っ!」
どこ、どこにいるの!?…パッション…どこなの…反応が……なんでよ…。
「ふぅー…はぁー……よし。わかってる。敵性反応も無い…なら、外に出て探索するしかない。覚悟を決めろ…戦えるんだって証明しろ私…っ!」
プシュー…
非常用のハンドルを回す。開いた先から覗くが、闇が広がっているのみ。ポットロボが固定されているのが、落ちていっているのか。手を伸ばすも、風も感じられない。右脚を出す。地面では無いものの、立ち上がることはできそうだ。
ポットロボから出る。半分浮いているよう。地面を蹴ってる感覚が無いのに立ち上がれるし、歩くこともできる。上下左右、全てが闇だ。魔法のおかげで、自身が脚を左右に出していることは把握できる。
「嘘…消えちゃった…」
振り返る。ポットロボとの距離で、自分の位置を確認しながら歩いていた。意識を外した瞬間はなかったが、ボロボロと崩れて消えた…ように感じた。
「腕が生えた。巨大な手がポットロボに触れると崩れた…なんなの…」
もしかして出なかったら死んでた?
「違う!!ラッキーなんて考えるな!今、死ぬ状況に立たされてるんだ!ヤバい…ヤバい!」
どこに行けばいいかもわからない。状況も把握できてない。打つ手がない!
「……………死ぬ?」
…ポットロボの方向は駄目だ。また腕が生えてくるかもしれない。歩きながら考えろ…まだ死ねない。
「朱は一人で戦ってるんだ。私が諦めてどうするの……私が!…私は朱と一緒に戦いたい…」
ポットロボのあった方向に背を向ける。
「榛名奈々子。よく頑張ったわね。こっちに来なさい、出口まで案内するわ。」
懐かしい声がした。




