第三十九話
そのターミナル駅は、一日の利用客七万人以上を誇っている。普段通りなら、人の往来が激しい駅へ続く大通りに、二つの白い移動用ポットが着陸する。座標が狂ったか、一つは交番を破壊しながら落下した。
「はっはっは!私が悪者みたいだな!」
続いて、榛名奈々子がポットを押し開け、地上に立つ。
「えー、15時45分 現行犯逮捕です。」
「マジかよー…手錠じゃ心許ないなぁ。」
魔法少女ギャグを披露したところで、身体を伸ばしながら持ち場を確認する。住宅街は見えるが、駅から少し離れるだけで高い建物は無い。駅前のホテルや雑居ビルが一番高い建造物になる。
足元は一般的なコンクリート。海がある方向には、大きな橋、その先には少しの茂み。
「とりあえず把握する。時間も無いからね。」
ーコードネーム'キュリオハート'
チカラヲカイホウセヨ
「ゲート…オープン!」
ーミチビキ ノ メ
「知的に支配!導く未来!魔法少女キュリオハート!」
変身体になり、魔法の書を開く。有名な芸術家がデザインしただけの魔法の栞も、しっかり挟まれている。
「|'深緑の一時'領域拡大魔法」
戦地となると予測される範囲を全て支配。戦地に自らが立ち、地上で展開する領域拡大魔法の密度は濃い。支配された空間では、マークされた敵は一挙一動を把握される。
「おっ、奈々子も気合い入ってるな!負けてられないぞ!!」
ーコードネーム'パッションハート'
チカラヲカイホウセヨ
「ゲートオープン!!!」
ーココロ ヲ モヤセ
「真っ赤に燃えれば虎野朱!情熱猛らせ空を舞う!魔法少女パッションハート!!!」
パッションハートは炎を纏う。燃え盛る炎は気合いの証。空気は熱され、近寄るだけでも汗が止まらない。水風呂が必要になるだろう。キュリオが嫌がるため、五メートル以上は必ず距離を取るようにする。機嫌が悪いキュリオは面倒くさいのだ。
サウナ 理解派:ラブ パッション
否定派:キュリオ
誘われたら入る:ホープ
サウナというものは…:クール
「染まってきたわね…」
「それは見ればわかるけどな。」
空が寄生生物で黒く染まり、一時的な夜を巻き起こす。恐怖の大王は降ってこない。地上で生まれるのだ。
「来るぞ…」
「予測できてる…来るのは…」
ーー囲まれています。酒気に注意してください。
二人の魔法少女を中心に、寄生されし物が千鳥足で集まって来る。理由は一つ。キュリオが魔法で干渉し、自身の位置を知らせているのだ。ヤツらは、人間を襲うことしか頭に無い。
日本酒寄生されし物。日本酒を頭部にし、酒気を撒き散らす。通常の寄生されし物より判断能力に乏しい。しかし、力は数倍。理解不能な行動と戦闘スタイル。
「数は…多っ。」
「なんだー、百を超えたか?」
キュリオは乗ってきた白いポットの外殻の隙間に指を掛ける。そのまま引っ張ると、八つのボタンと、一つのレバーが顔を見せる。
「千二百。」
ボタンを迷いなく押していく。キュリオハート専用のコードは、025686。
「はっはっは!…らくしょーだな。」
ポットは開く。内部は移動用と異なっている。椅子の前には、二つの巨大なレバー。足元には二つのペダル。どちらも、座った際に、キュリオの手足が自然な位置へと調整されている。
開かれた扉は閉じる。
レバーを握ると前面モニターが展開。外の様子が映し出される。死角無し。底部が開き、脚が出現する。先端にタイヤが二つずつ装着されている。側面が開く。開かれた扉側に可動アームが出現する。指は三本ずつ。タイヤで移動し、可動アームで武器を扱う、球体型装甲ロボ。
「ポットロボWーーー起動!!」
魔装兵器ポットロボW。硬さと機動力、そしてキュリオが扱うことで得られる精密性。人間をちぎっては投げてきた寄生されし物を、投げてやる番が来た。戦う司令塔キュリオハート爆誕である。
「さぁ、やろうか…」
パッションもまた、戦う準備に取り掛かる。纏う炎を脚へと集中させていった。
「あまり派手にやらないでよね。」
全方位、日本酒寄生されし物。千鳥足なのは、酔っているからではなく、寄生元の特質だろう。拳は強く握られている。身体に力は入っていない。距離にして、およそ二百メートル強。
「鷹の炎翼」
踵のブースターから炎を放出、爆発させてジャンプ。空から見ると、寄生されし物がドーナツみたいに見える。
「行くぞー! 舞えよ情熱!回って猛ろ!」
炎をガントレットとブースターから放出し、回転しながら地上を目指す。丸まりながら、回転を利用し加速していく。
「三分の一はいくかな。」
パッションの本気の一撃でも、全力のラブビームだろうと四百の寄生されし物を同時に倒すことはできない。しかし、条件は揃っている。
「パッション ローリング インパクト!!」
日本酒寄生されし物に炎の一撃が入る。炎が漂うアルコールに引火し、爆発。爆発が爆発を呼び、地球にクレーターが形成された。巨大なディスカウントストアは跡形もなく消えてしまった。買い物に苦労する。
「|'深緑の一時'勝利の黄金線」
金の糸をポットロボWが可動アームで巻き取っていく。
やっぱり途中で引火しなくなった…。アルコールの度数を変えた?…いや、そもそも吸引から人間を動けなくするために、ありえん酒気を漂わせてたと思うから、正常に戻しただけってのもありえる。ホープだったら、息止めながら戦うことになったわけだから、本当はめちゃんこ強い寄生されし物なんだろうな。
「キュリオー、ちょっと遅いんじゃないかー?」
背中から生えた金色の紐を引っ張られ、引き摺られ戻ってきたパッションは愚痴を漏らす。いくら気合いが入っても、爆発に巻き込まれれば痛いため、タイミング良くキュリオが救出する算段だった。
「爆発する前から助けるのはむーり。ほら、さっさと立つ。まだまだ残ってるから。」
日本酒寄生されし物ばっかりだな…ボスの姿が見えない。地下?酒造とか?いや…日本酒のボスが酒関係ってデータないから、ちょっと寄生されし物の予測が当たったからって、決めつけるのは良くない。うん。
「それじゃっ、私は距離とってやらせてもらうから。」
ポットロボWの開いた側面の中は、武器収納庫になっている。可動アームで取り出したのは、特殊魔装部隊の銃であるB6が元になった機関銃。通称、B6機関銃である。全くB6サイズではない。
「ファイアー!」
キュリオの二丁機関銃により、向かってくる日本酒寄生されし物は粉々になっていく。一弾で穴が開き、頭部に命中すれば一撃で倒せる。代わりに反動が激しく、人間が扱えば関節と筋繊維にさよならを告げることになる。また、弾一つ一つが、魔装兵器であり、大量生産にも限りがある。コストが高いのだ。キュリオの能力と併用することで、弾数を温存できることも大きい。
「すっげー…魔法少女でも喰らったらヤバいかもなー。」
パッションは、B6機関銃の威力に関心を示す。訓練中に触らせてもらえなかったことも、忘れてはいない。
「魔法少女相手じゃ当たらないでしょーに。…左側から攻めてって。散らばり出した。」
塊になっていたら銃弾の餌食になってしまう。しかし、逃げようとしても、キュリオには見えている。どこから攻めればいいか、手に取るようにわかる。
「おっけー!」
パッションは身体を低く、時々四足になりながら地をかける。日本酒寄生されし物は回り込まれてしまった。
「牛の炎角」
特性から、予測不可能な動きをしたところで、真っ直ぐに突っ込んでくる炎の角を避けることはできない。拳ではなく、攻撃範囲の高いタックルは有効だ。
キュリオから伝達されるように走り回る。先には決まって、逃げようとする寄生されし物の姿があった。背後から角でバラバラにする。パッションが走った跡は、裸足では歩けないほど熱くなっている。
「寄生されし物が集まり出した。最後の抵抗かも、早く戻ってきて。」
「わかった!」
圧倒的であった。特性を使う寄生されし物千二百体の相手を、難なくこなしていく。予測していた寄生されし物が出現したことも大きいが、パワーアップしていることを実感できる。
キュリオのいる地点へと向かうが、キュリオの姿が見えない。遠くからでも、手足の生えた丸いロボは目立つはずが、一向に見える気配がない。
「…後ろ!」
気配を感じた。キュリオのいる大通りに出た瞬間、背後からの視線。しかし、背後には誰もいない。
「汚らわしい…穢らわしい…ああっ!耐えられない!」
それは、空を飛んでいた。下半身が魚の人間。ホープが一度戦った魚類は、空中に浮かんでいたため、魚型が浮かんでいることは珍しくない。しかし、それは完全な魚類でもなければ、浮かぶよりも、空を泳いでいると表現する方が正しい。また、下半身が魚の人間など、創作上の存在でしか知らない。
空を泳ぐそれが、人間の言葉を話すことに驚いた。それは、私、パッションに目線はなく、背後、大通りの方を見ながら話している。
振り返ると、キュリオと日本酒寄生されし物がいたはずの場所は、黒い泥の溜まり場のように変化していた。その泥から、真っ黒な腕が何本も生えている。周囲には、逃がさないようにするためか、一帯を囲むように、真っ黒な腕が等間隔で生えていて、黒い粒子を撒き散らしている。遠目で見れば、黒い壁が私達を囲むように出現したように見えるだろう。
「キュリオ…?」
キュリオからの返事も、通信さえも通じなくなった。嫌な予感は的中する。
猫型とラブハートが戦闘中の滝城研究所通信室。キュリオとパッションのチームとの通信が復旧しない中、所長が到着した。
「ガッハッハ!へこたれてるな前野研究員。これを見たまえよ。」
通信室に入るなり、魔装兵器を思わせる蓋が両側に着いたカプセルを見せつける。透明で中が見える円柱部分にまで、寄生されし物の細胞らしき血管が侵食している。中に浮くのは、黒い粒子。
「…寄生されし物の一部ですか。」
この黒い粒子を発した寄生されし物が生きていて、崩壊前に見せていると推測した。
「違う。そんなちゃちなもんじゃない。」
中身をかき混ぜるため、カプセルをクルクルと回す。黒い粒子は混ざらず、輪郭がボケるだけで、元の形を保持している。
「これは、パッションの子とキュリオの子が戦ってるであろう寄生されし物の一部だ。撃墜されたドローンから採取した。結果も報告済みだろう。」
ただ、我々を絶望させるだけの伝言…
「予測六番…」
予測六番とは、香無静香が「愛衣れいな日記」に記した寄生されし物についての予測、その六番目のことである。
・死体寄生されし物
人間や動物、何かしらの生き物の死体に寄生した寄生されし物。特に、人間の死体に寄生した場合、通常の寄生体以上の力を発揮する可能性。冥界の存在が明らかになっているため、能力と呼ばれるものを使用するか。引き込まれて一撃死だけは避けなくては。
「寄生されし者第一号と戦った時、香無研究員が意識無く放ったデッドエンドとかいう技があっただろう?あれと似たものだ。」
死体に効くものはなんだ?聖水か?不死身の寄生されし物など、悪夢でしかない。……パッションが全て焼き払うか、キュリオが核を見つける…全て仮定の上での妄想でしかないな。
「一撃死ってのはなんだろうなぁ、ククッ、解決策までは予測できなかったか香無研究員よ!ガーッハッハ!!」
クール ショット デッド エンド
クールハートの特性「冷静」に喰われた感情が、亡者と共に香無静香の肉体を触媒に蘇る。喜怒哀楽が虹の弾丸となり、敵に必ず命中する。
繰り出された包丁をすり抜け、海子に命中。




