第三十六話
たとえ城の中であったとしても、直線の廊下というのはたかが知れている。大人二人が競争でもすれば、端まで辿り着くのに時間がかかるものでもない。また、相対している城型寄生されし物は、山の上や、隔離された場所にあるわけではない。元は駅から十分ほどの位置に立つ、市街地の観光名所だ。
「なぁ、なぁったら」
「うるせぇ、くたばれ。」
同じ場所を歩き続けている感覚。恐山の気も立っていた。
「このまま歩いても解決しねーだろ。無限廊下だ。」
「あ゛?それお前が考えたのか?クソダセーぞ。それとも、歩く以外の提案があるですかー?」
壁や床を破壊しようにも、寄生されし物と同じ硬さであり、破壊しようにも傷をつけるのが関の山であった。気合いで攻撃し続けても、城型寄生されし物の再生力が勝り、苦労は水の泡になって消えた。
「クソっ……このまま閉じ込められて餓死ってこか?あんまりだ。」
「……ふひっ…」
恐山は、ただひたすらに歩いていたわけではなかった。
「どうした、おかしくなったか?」
「みぃつけたぁ…ゾ!」
恐山は数えていた。壁を区切る木の枠組みから、次の枠までの歩数である。
「五歩半…こっからここまでで、五歩半。まっ、正確じゃないけど、大体五歩ちょっと。でもよぉ〜ひひっ!」
「な、なんだよ、歩幅がなんなんだよ。もったいぶるなよ!」
「十八セットだ。この廊下は、この枠が十八セット分でループしてる。その証拠に、目の前のセットが、四歩分しかないジャーン!」
「ループ説とか、歩数とか、全然お前の妄想の範疇じゃねーか。全然繋がりがあ?」
翔大の右腕が、壁をすり抜けていた。指先に何か当たる感触はない。壁の先に空間がある。
「マジかよ…」
「ふひーっ!だぁかぁらぁ、お前は凡人なんだよ、この下の中の下ぇ〜」
「それ、平凡でもねぇーだろ!」
体力が削られた二人は、壁の中へと入る。そこに広がるのは、γ隊員の死体である。一人は腹部を切り裂かれ、もう一人は首を落とされている。
「おい、おいおいおいおい、寄生されし物の中に寄生されし物ってことか?」
「それも、武器持ちって、ことジャーン!」
「モンスターハウスってやつか…そりゃ、無駄に歩かせて、心身疲れた後に殺せば効率いいかもしれないが…」
すーっ、息を大きく吸い込む。その次の行動は、あまり選択肢は多くない。翔大の嫌な予感は当たる。
「で、て、こぉーーーーい!!!」
「馬鹿かテメェ!」
足音は聞こえない。ふすまが開く音だけが響く。待ち構えていたのか、足音も立てずに近づける強者なのか、判断する暇も必要もない。
両手にB6を構えて、二人で連射する。扇子を頭部にする細身の寄生されし物であり、武器持ちである。γ隊員を少なくとも二人以上殺したことは間違いない。しかし、屋内で薙刀という長物は扱いづらく、四丁分の拳銃から放たれる銃弾を弾き飛ばすことはできない。
ガガッ ガガッ
細身であったこと、敵と一部屋分の距離しかなかった。この二つの要因。そして、互いがどこを狙うか分かっていた。関節を半分に分けて担当、必要な箇所を適切に撃ち抜く、前へ進むことを許さない。五分以上の銃撃戦を終えて、武器持ち寄生されし物は、その場に倒れ、消える。
「テメェの考え通りになるのは…すっげぇ気分が悪い。」
「ふひひっ!さいっこぉーー!!…でも、こいつだけじゃねぇぞ。」
「わーかってる!見られてることぐらいよ!」
ふすまが開く。開いた先の部屋でも、そのまた先の部屋でも。必要な分を必要なだけ。俺はそう感じた。
「ってぇーーーー!!!」
「おっらぁーーーー!!」
軍隊。横に五体並び、後ろには…最後尾は見えない。頭部は団子が一つ。団子って城っぽいか?
「んだらーーーー!!」
「くそったれーーーー!」
先頭の五体が倒れ消える。全く同じ寄生されし物が五体並ぶ。全てみたらし団子。
「オラオラーーーー!」
「くっそーーーー…」
先頭の五体が倒れ消える。全く同じ寄生されし物が五体並ぶ。全てみたらし団子。みたらし、みたらし、みたらし団子。
「ぐぐぅーー…」
「がぁー……」
先頭の五体が倒れ……ないっ!
「「拘束弾!!」」
傷ついた五体の寄生されし物と、天井、床、ふすま、全てを繋げて拘束する。動けない寄生されし物を、後ろに並ぶ寄生されし物が邪魔だと押している。拘束は少しずつ引き剥がされていく。
「逃げろー!!」
「あぁ〜ん、愛しの魔装兵器があれば…たいちょお〜」
「弾数は残り…六発!?無いも同然じゃねーか!」
「たいちょー!どこですかぁ〜」
「後は…拘束弾と、伸縮捕爆槍の未発射が俺と恐山で四本、マーカー銃……マガジンが足りねぇんだよ!」
「どこ〜愛しのハニーはこっこでっすよ〜」
「倉庫から盗んでまで多めに持ってきたのに!装甲車にある分も担いでくればよかった…」
「ねぇねぇ」
「くそっ、くそっ、なんだようっせーな!」
「もう追いついてきた。」
「くっっ……そがぁぁああああ!!!」
推定八十体の寄生されし物が、巨大な掌を広げて追いかけてくる。
「「にっげろぉおおおおお!」」
ふすまを蹴り破り走って、また蹴り破る。体力の限界も近い。
恐山は歩数を数えていた。また、この部屋もループしている。寄生されし物が追いかけるには必要だから。そして、恐山がループを見つけるも、ふすまに顔をぶつける。蹴り破れなかったからだ。追いつけないなら、続きなど必要ない。
「死んだァァアああ!!」
恐山は二本の槍を起爆させる。穂先は四方へ飛び散り、粘着性の網が出来上がる。寄生されし物の進行は止まらない。網に絡まり、一歩は出なくとも、動けない寄生されし物を違う寄生されし物が押し込む。
「ちょっ、ふにゃ〜〜」
「情けない声出すんじゃおごあがだなががががが
寄生されし物が押し寄せる。生き埋め状態になる。寄生されし物も押しつぶされ動けない。…ならば、全て巻き込み始末する必要がある。ここは、城型寄生されし物の内部。意志ある戦場。
パカリッ
床が開く。足場を無くした。寄生されし物もろとも、全て落ちる。
ギギギギギギ
落ちた先には高速回転する黒き刃。巻き込まれれば、元の姿も思い出せないだろう。
「掴まれ!!」
一本の槍を壁に突き刺し、内部で爆破。壁に向けて垂直に固定する。
落ちていく寄生されし物は、粉々になっていく。二人で八十体の寄生されし物を始末した実績を作ってしまった。
「城にあんな粉砕機ないだろ…」
「城寄生されし物の一部じゃん?」
恐山は翔大の残った槍を奪う。そのまま、翔大を踏みつけ槍を二本目の固定。足場にして、開いた床から脱出する。
「ふざけんな!イカれ女が!」
「ばぁ〜か。ほれ、掴まったらどーよ〜?」
恐山は最初に倒した武器持ち寄生されし物の薙刀を、翔大に向けて差し出す。薙刀の柄を掴み、二本の槍を蹴り飛ばし、勢いをつけて脱出。
「最初の部屋…」
「離れろキモカス!」
「がっは…」
脱出した際、恐山に馬乗りになったことが気に食わなかったのか、本気のアッパーを繰り出した。
恐山は一人で歩いて行ってしまう。翔大も起き上がり、追いかける。
「休憩するわけにもいかないよな…」
「ふひっ、わかってんじゃねーかっ!」
正確な位置は把握されていない。把握されているのならば、奇襲されることに間違いはない。だが、把握されていないわけではない。同じ場所に留まれば、寄生されし物をけしかけられるだろう。
血の匂いが漂う。ループしている様子はないが、どこに向かっているかもわからない。向かいたい場所は二つ。一つは恐山の魔装兵器を背負う隊長の元。もう一つは、出口としている。
「隊長なら目印の一つでもつけそうだけど、再生がネックだな…」
マーカー弾で文字でも書くか?どこまでが再生する条件なんだ?さっきの拘束弾は変化無し。槍の穂先が刺さった場所は、再生されてるみたいだけど…
「とりあえず…試すか」
壁に向かってマーカー銃を発射する。マーカー弾は壁で破裂し粉が舞う。
「あれ……」
マーカーの跡は一瞬にして消え失せる。再生である。
「こほっ、こほっ…おい、コラ下の下。遊んでんじゃねーよ。」
「なんでだ…別に攻撃性は無いはず…」
「綺麗好きなだけジャン?暇なら前歩いて盾にでもなれ。」
綺麗好き…マーカーの汚れは寄生されし物の再生力で、簡単に落とせる。でも、粘着性がある槍の拘束は時間がかかるから後回しってことか?なんだ…なんか、人間臭いぞ、この寄生されし物。
「止まれ!」
ふすまを開けると、そこにはγ隊員の死体の山。全て斬殺されたように見える。首や腹など、一撃で致命傷となる場所を的確に狙っている。
「…おい、引き返すぞ。」
「無理。」
背後は先程開けたふすまがあるはずだった。壁。それも、ふすまが開かないとかの問題じゃない。石の壁である。
「この先に、確実に俺らを排除できるヤツがいる。」
「たっぶんね〜、ふひひひっ…どーしても、殺したいんだろぉ〜ねぇ〜。」
「落ちてるB6に残り弾が無い、撃ち切っている。」
「やっばいね〜…ビンビンくるゾ!死の感覚だ。」
つまり、わざわざB6を撃たせ切ってから殺した。殺し方から武器持ち。弾が当たらなかったのか、武器で弾いたのかはわからない。少なくとも、ちょっと強い程度の人間が立ち向かえる相手じゃない。
「行くか…」
「行くしかないよ〜ん」
恐山と俺は、それぞれ死体から槍を二本ずつ回収し装備する。
「恐山、魔装兵器さえあれば勝てるか?」
「…期待薄だねぇ。明らかに速いよ、相手。一撃で倒せるなら可能性アリ。どっちみち御陀仏の誕生だけど。」
「そうか…」
部屋の中に死体がある。マーカー弾の汚れなんかより、真っ先に片付けたいだろう。でも、しない。誘い込まれている。この寄生されし物には知能と…遊び心がある。冷徹に始末するなら、床の下にあった黒い刃で殺せばいい。それをしないってことは、しない理由がある。遊び心…そう思った。人間臭いこの寄生されし物にはありそうだから。他の理由は…今のところ思いつけない。
「………音?」
恐山が呟いた。そして気づく。刀の斬り合いのような音じゃない。藁人形を棒で殴るような、衝撃に見合わないような音だ。ずっと続いている。それも、音と音の間隔がとても短い。
「誰かが…戦っている?」
いや、自分に良い方へ考えすぎだ。敵が素振りでもしているのかもしれない。練習中にお邪魔するということだ。
一枚のふすまを隔てて、敵の存在を認識する。と、同時に。
「…二人だ。」
「…ふんっ」
恐山がふすまを開ける。
羊の群れ。魔装兵器。チャクラムという武器であり、二対一体。刃の部分が、羊の毛のようなモコモコに覆われている。あらゆる衝撃を、モコモコ部分で受け流し、吸収。攻撃力ではなく、持続力に特化した武器であり、一撃で命を落とすことを前提とした行動をする特殊魔装部隊において、何もかも逆をいく兵器である。
使いこなすは、γ隊副隊長である陣 続郎。圧倒的な反射神経と、意識途切れるまで集中することができる、特殊体質である彼であるからこそ、使いこなせるのである。
「陣…副隊長…」
相対するは、剣を持った二刀流の寄生されし物。兜を頭部にする二刀流の武器持ち寄生されし物は、赤い甲冑を着込んでいる。展示してあったものだろう。その姿、歴戦の大将軍。
二本の刀と二対のチャクラム。高速に振り下ろされる刀をチャクラムで受け流す。腹部に向けて横払いされた刀を、チャクラムで受け敵に受け流す。寄生されし物の攻撃の軌道を変えられるのは、衝撃を受けるモコモコと、チャクラムという円の形によるものであり、魔装兵器であることの証明。通常武器では、武器ごと真っ二つである。
「ふひっ、やっるぅ〜」
いつから戦っていたのかはわからない。おそらく、死んだγ隊員と一緒にいたのであろう。反して、陣は傷一つついていない。大粒の汗が流れるのみである。身体の疲労は、目に見えて溜まっている。そして…大将軍寄生されし物は、自身の攻撃で傷ついていく。
戦いの間に入ることは不可能。陣の体力が無くなるのが先か、大将軍寄生されし物が倒れるのが先か…二人には、指を加えて眺めていることしかできない。




