第三十四話
γ隊は未曾有の危機に陥っていた。最初は肉まんや、食品サンプル、手相占いの看板など、予測通りの物を頭部にした寄生されし物の処理に追われていた。手筈通りに行動。無理もなく、寄生されし物を倒していった。強個体は拘束し、恐山の魔装兵器クレイジー ブラッド レディで頭部を破壊した。作業感が気に食わないのか、恐山は戦闘が始まってから不機嫌だったくらいだ。
「おい!生きてるかぁー!」
「ふひっ、着いてきてますよぉ〜」
「鈴木っ、はぁ、翔大、はぁ、生きてます!」
寄生されし物は逃げの一手だった。それも一つの方向へ、示し合わせたように逃げ出した。魔法少女でもない俺らが、全力で逃げる化け物共に追いつけるはずもなく、マーカー頼りに、修理された装甲車を走らせることとなる。
「くそっ、残ったのは三人だけか!」
「副隊長がっ、生きてるはず、です…」
「ふひーっ、他の隊員も、生きてる可能性もっ、あるじゃーん。」
一時間以上車を走らせた。途中で寄生されし物を倒したりもしたが、通信も入り、ボスがいるところに車は向かっているそうで、結果は変わらないことを理解した。目的地は、ラブハートやホープハートが戦う、必死の戦地の近くであるとわかった。それでも、後三十分は車を走らせなきゃ、巻き込まれることもないだろうと安心していた。
「あんなんっ、反則だろぉ…」
「ひゃっひゃっひゃっ…」
「キツイな…俺らの悪運も尽きたか。」
γ隊が対応する寄生されし物のボスの存在が、全てをかき消した。どんなに訓練を積もうが、経験があろうが、関係ない。何故なら、超大型寄生されし物であるモアイ級…いや、それ以上の巨大な化け物に追われているからだ。超大型寄生されし物第二号……城。
「隊長…すみません…」
「馬鹿野郎…全員終わりだ」
「地獄で会おうゼぇ〜ブラザァ〜」
城は巨大な腕で三人を捕まえ、開いた大口に放り込んだ。城に入ったことなどない三人に、比較対象は存在しない。たった今、恐怖するものとしての原核が生まれた。
ガタッ…
「ふひっ、ひひひっ…ひゃーはっはっはっは!!」
「ん、あぁ…うるせーよイカれ女……は?」
生きてる……生きてるぞ!ここは…城寄生されし物の中か?普通の建物の中っぽいけど…
「おい、平凡人生!愛しの隊長がいねーんですけど。」
「…いないな…いや、平凡人生ってなに!?あだ名?」
「探しに行くぞ?通信も駄目だから、あのクソの体内ってのは間違いないはーずー。」
「まぁ、そうか。他の隊員も生きてるってとこだしな。」
二人で城の内部を観光する。日本家屋っぽい 長い廊下を歩く。装備の重さもあるのか、少し軋むところもあった。先頭の恐山は軽快に歩いていく。左肩のB6だけ外し、右手に装備している。俺は右肩のB6を外し、左手に装備した。互いを補うためだ。同じ装備だからか、すべきことは大体わかってる。……あれ?…同じ装備?
「おい、魔装兵器はどうした?」
聞くのが恐ろしいが、知らない方が危険だ。
「…隊長が持ってる。」
聞いても危険とは恐れ入った。
ホープソードの光は扇状に広がり、リバティーを頭からつま先まで、丸々全て飲み込んだ。全てを消し飛ばす光の粒子に触れれば、欠片一つも残らない。
「……ゴホッ、ごほっ…はぁ、痛い。」
足元に刺してあった鞘は、日の光を吸収した、言わば光の塊である。そのため、ホープは真近で光にあたることに成功。リバティーの攻撃を受けながら回復していたのである。…耐えられることを理解していた。
「…ん、通信は…無理かぁ。」
どんな能力なんだろ?見当もつかないや。第一号の黒い靄ってわけでもないし…いや、無色透明に進化していて、今もなお、周囲に漂ってるとか?んー、なんでもアリってわけじゃー、ないだろうし…うん。判断材料が少ない状況推測しても、かえって固執しそうだし、考えるのはやめとこう。
「…お゛い…どこ行くんだ?…この゛クソボケぇええええええ!!!!」
正面に現れたリバティーは、右半身が無かった。左脚一本で立ち、断面からは黒いヘドロのようなものが滴り落ちる。
「うっそ〜…ーーホワイトフラッシュ!」
一直線に延びる閃光。瞬き一つで剣先はリバティーまでたどり着く。ホープソードによる突き…
「ククッカカッ…テメーもよぉダメージが溜まってんなぁ…軽いんだよ゛!!」
剣先が埋まるのみで、致命傷にはならない。
「テメーもってことは、ちゃんと効いてるんじゃん。」
くっ…引き抜けない…この剣を失ったらまずい…
「はぁ?甘ちゃんやろーが…これでっ、元通り゛だろ゛う゛がぁ…」
失った右半身が一瞬で再生する。繋ぎ目は不恰好ながら、元通りだという印象を受ける。
第一号並みの再生力!…もう勝ち目なくな〜い?
「もう、死ねや。」
リバティーの腕がホープの首を掴む。能力に頼らない寄生されし者の腕力。ホープの細い首に指が食い込んでいく。
いっ、息ができない…何秒で失神するんだっけ…違う!その前にへし折れる!やばい、冷静じゃない、どうする…あー、もう!!
「ほー…ぷ……ぼんばぁ…」
ホープソードが光り輝き、爆発する。ラブボンバーの駄目な所を踏襲した自爆である。
「ふざっ…」
リバティーの身体の一部を吹き飛ばし、ホープは全身にダメージを負った。ホワイト フラッシュ ソードで、放出できなかった分の力を爆発させただけの簡易なものだ。
「…はぁ…隠し球だったのに…」
リバティーから煙が立ち込めるも、倒れずにホープを睨んでいる。
「…一撃だ…一撃で終わらしてやるぞ…クソガキィイ!」
一瞬にして消える。見えない。見えるわけがない!
「やっぱり……瞬間移動だ。」
瞬間移動には種類がある!
・分子レベルに肉体を分解し、指定した位置で再構築する。
・高速で移動し、移動の過程を消す。これは、密室じゃ使えない。
・ココではない場所を高速で移動している。
・指定した場所と場所を入れ替える。この力は、さらに二種類に分かれる。分子の再構築をする場合と、ココでは無い何処かを移動しているため、突然現れる場合。
・幻覚を使用し、実際に移動はしていない。
・新しい空間を作り上げ、そこに引き摺り込むを条件とし、その空間では主の思い通りになっている。
・原理など無い。ただ、目的とした場所に移動することができる。
…えーっと、こんなところ?他にもある?キュリオか、ラブ…ならもっと詳しいかな。本とか漫画好きだし。ゲームとかアニメだったらパッションも…ってあれ!?私だけ知らないの?やだー、後でキュリオの本棚勝手にあさっちゃお。
「…来ないな…何か大きい物でも運んでる?重量で移動速度や距離が変わるのかな?…何が来ても対処法がないなぁ…それなら、無理に力使って移動せずに、温存して向かい打つのか正解…だよね。」
「ごちゃごちゃうるせぇ…な゛!」
背後に現れたリバティー。攻撃が来ると衝撃に備えるが、ホープの眼前には綺麗な景色が広がった。
「落ちて死ね」
超上空に瞬間移動させられる。リバティーは、瞬間移動をもって逃げるも、ホープは空を飛ぶ術がない。
「うーん、たしかに一撃必殺かもっ…」
衣を全力展開、外気から防御。魔法少女だし凍えて死ぬとかは無いと思うけど、耳はやられるでしょ、たぶん。あれ?スカイダイビングってしたことないけど、人間が大丈夫なら、死ぬことはない…? それより着地時の衝撃が………
「…きれー……」
ホープハートの身体は優しく暖められていた。足下には雲、目の前には輝く太陽がーー
「あぁ…そうか、わかっちゃった。…太陽とは、日の光とは、ホープハートの能力とは…」
ホープハートのダメージは吸い取られていく。身体の中には要らないものだから。今は…この暖かな気持ちを、身体いっぱいに満たしたい。
ホープは落ちていく。
ゆっくり ゆっくり
目を閉じて
深呼吸をする
新鮮な空気
暖かな光
希望は心にあった
貴方にも魅せてあげるーーーー
落
ち
舞
る
い
降
り
る
「あ゛ん?なんだ?この、眩しい…」
「リバティー…後ろ後ろ〜」
「ひっ…」
リバティーにとって、背後を取られることは恐怖であった。見えない暴力が襲うから。冷たいコンクリートに背中をつけて毎日過ごした…この分厚い壁の向こうにあると信じていた光が…希望の光が…肉体を持って現れた。
「うっ、あぁ…あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
リバティーの左の裏拳は空を切った。漂うのは日の暖かさのみ。
「伝わったよ…貴方の身体の冷たさが…何か怖いことがあったの?どこから逃げたかったの?」
ホープは自身の暖かさで、反するリバティー冷たさが理解できた。私とは違う。ただ…同じことだってある。通じ合える。彼女は…
「私はここにいるよ」
希望を欲している。
「クソだ、全部クソッたれだ!不幸に屈する悲劇野郎も、常識と当たり前に洗脳されたモブ野郎も、能力があると信じ込む傀儡野郎も!どれだけ綺麗事並べようが、子供一人救えないってことを理解できない!キモい勘違いゴミ野郎なんだよぉおおお!!!!」
「希望で満たされたホープハート…私が最速で助けてみせるっ!!!」




