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魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
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第三十一話

 巨大な白い球体が、空から二つ地上に落下した。コンクリートを抉る衝撃も、内部までは伝わらない。恐怖感まで薄れることはないが、アトラクションとして楽しめる人間も存在しそうだ。


「……ここだったら、電車で来てもよかったのに。」


 分厚い扉が開き、空気の抜ける音がする。愛衣れいなは立ち上がって一歩目で愚痴をこぼす。


「電車動いてないよ〜。」


 星崎花子は空に向かって身体を伸ばしながら話す。

 移動用のポットは、逃げ遅れた人を中に入れて防護できるなど役割は沢山ある。球体なのは強度が高いため。全てに意味がある機能美なのだと東北は語るも、愛衣れいなには響かなかった。




 


 空が黒で覆われ、寄生生物が降り注ぐ。



ーコードネーム'ラブハート'

         チカラヲカイホウセヨ


 腰にかけたステッキは時を見計らい、聞き慣れた音声で語りかける。


「ゲートオープン…きて!」


ーアイ ヲ アナタニ


「地球をまるっと!包み込む大きな愛!魔法少女ラブハート!!」


 星崎花子より目線が低くなる。すこし得意げな隣りの女の子は、胸を這って細剣に手を添える。



「私もいっくよ〜!」


ーコードネーム'ホープハート'

         チカラヲカイホウセヨ


「ゲート〜おーっぷん!」


ーキボウ ノ ヒカリ


「光り輝く!希望を皆んなにプレゼント!魔法少女ホープハート!」



 地を蹴る音が聞こえる。人間の足音ではない。音が近づくにつれ気づく…揺れている。地響きが起きた原因は、寄生されし物(パラサイト)が一斉に集まってきているからだ。


「ラブ ほよほよビーム」


 ラブハートは全身に力を入れているため、ぷるぷるとふるえている。ステッキからは少しずつ、途切れ途切れのビームが空に向かって放たれている。辛そうだ。ラブクール状態で繰り出した'クール ショット レイン'と同じ原理だが、ラブのみで再現できたのは、攻撃力皆無のほよほよビームだけであった。

 ほよほよビームにも役割ができた。それはただのアピール…寄生されし物(パラサイト)に存在を知らしめる狼煙である。


「…ふぅ、来たみたい。通常型寄生されし物(パラサイト)と…ちっちゃいのは干物かな?」


 商店街から歩幅を合わせた干物の小型寄生されし物(パラサイト)が、列を成して行進する。間隔を空けて、通常寄生されし物(パラサイト)が列に加わる。商店街だけではない。四方から、不快な音を鳴らして迫ってきている。


「んーっ、あれは豆アジの干物だよ。間違いなーい!」


「お魚好きなの?」


「いやー、べっつにー。たまたま、縁があっただけー。」


「そうなんだ。」


 寄生されし物(パラサイト)が接近する。


「手筈通りで大丈夫かな。」


「うん、問題なーっし。……行くよ」


 ホープは走りだす。寄生されし物(パラサイト)の隊列に対し真っ直ぐに、速度を上げていく。


「ラブビーム!」


 ホープは背後から近づくビームを感じ、飛び跳ねる。ビームは干物の小型寄生されし物(パラサイト)を消滅させていく。通常寄生されし物(パラサイト)は足を取られ、歩くことすらできない。

 

「ーーホワイトフラッシュ!」


 飛び跳ねたホープは、商店街の店の壁を蹴り飛ばし移動。ビームが放たれている地面に落ちないよう、壁から壁へ、看板から看板へ。ホープが移動した背後では、通常寄生されし物(パラサイト)の首が、胴体からズレ落ち始めていた。

 寄生されし物(パラサイト)の隊列の最後尾まで移動したら戻る。再び壁を蹴りながら走り、時には寄生されし物(パラサイト)の頭部を足場に移動した。ラブのいる駅前ロータリーに出る。細剣を鞘にしまうと、ホープに斬られた頭部が落下する。爆風を背中で受けつつ、ラブの元まで帰還する。


「おかえり。」


「ふっふ〜ん。もっと速くもできたけどねっ。」


ニャー


「あ、猫!」


「ちょっと!聞いてなっ…かわい〜」


 野良猫。茶トラっぽいが、雑種であろう。三匹が地下へ続く階段から、こちらをじっと見ている。三匹に続き、アメリカンショートヘア、ロシアンブルー、ノルウェージャン、ペルシャ……


「見て見てラブ!こんなに色んな猫がこっち見てるよ!助けてくれてありがと〜ってことなのかな?」


 ホープはぴょんぴょんと跳ねながら喜んでいる。笑顔が眩しい。反して、ラブの顔は暗くなるばかりだった。


「おかしい…絶対に野良じゃない…。」

 

 綺麗すぎる。それに、高級種ばかり。この近くにペットショップも猫カフェも無い。完全に家猫だ。羨ましい。…違う違う!

 避難時に置いていった?それにしては数が多すぎる。高級な猫ばかりだし置いていくのも考えられない。偏見だけど。ここに集まるもの理解できない。猫の集会はわかっていない部分もあるけど、コミュニティもできてない猫同士が一箇所に集まるなんて…


「ホープ。近づいちゃ駄目だ…絶対におかしい。」


「おいおーイ。愛くるしい猫ちゃんだロ?可愛がれヨ。」


 すぐに振り返る。背後、駅の屋根に座る人間と同じ形をした黒い何か。黒い鎧を、頭部を含め全身に纏い、かなり細身の印象を受ける。もしも、中に人間が入っているならば、骨だけが存在しているだけであろう。頭部の鎧には、頭頂部周辺に二つの突起…猫の耳を模しているのか、愛くるしさは感じれない。


「誰だ!」


 ラブが叫ぶ。答えなどわかっていた。


「ちょっと待ってくれヨ!俺は敵じゃねぇーヨ?それにヨ、自分から名乗るのが自己紹介だロ?」


 ヘラヘラ口調に、人を逆撫でする身振りをするソレは、口は無くとも声を発してコミュニケーションを取ろうとする。


「…私達は魔法少女だ。」


「知ってル!知ってるヨ〜。有名人だもんナァー。初めて見れて感動したよ俺っチ。」


 ステッキを握る。ホープは、腰を落とし、駆け出せる体勢になっている。


「…ラブ。私ならアレが気づく前に一撃当てられる。」


「おイ、おイ!きっこえてるつノ!わかっタ、俺ノ…名前は思い出せないけド、ほラッ、黒いの倒したんだゼ?」


 小声で話したつもりだった。耳が良い…のが、能力なのか?


ーー伊渕!


ーー…確認できました。寄生されし物(パラサイト)の反応消えてます。観測できる範囲ではありますが、それが話していることは間違っていないかと。


「だーかーラ!嘘ついてないっテ!その人も言ってるじゃないカ。」


ーー聞こえているのか…?周波数を変えっ


ーーこれでいいカ、聞こえルー?周波数ってやつを変えても無駄だと思うヨー。


ーー嘘だろ…


 かなりの高さがある駅から飛び降りる。しなやかに身体を捻り、怪我なく両手両脚で地上に到着。


「ふむふム。寄生されし物(パラサイト)ってよばれているのカ。そしテ、俺っちは寄生されし者(ネオ・パラサイト)って名前なのネ。」


ーーどこまで聴こてえるんだ…!口を開くな!


「もう知りたいことはないかラ、ばいば〜イ。」


 通信が切れる。黒い靄は出ていない。ラブとホープの通信機が壊されたのだ。第一号のビームでも壊れなかった機械が、全く音を発しない。


「んー、うんともすんとも言わないや。…敵じゃないってのは嘘ってことかなぁー?」


 ホープは剣を構える。


「だハーッ!嘘に決まってるだロ!ばぁ〜カ。うろちょろしてた黒いデカブツは邪魔だっただケ。これからは俺の時代なんだからヨー!!」


 武器は見られない。手も脚も人間と変わらない。しかし、話ができる寄生されし者(ネオ・パラサイト)…弱いわけがない。何もわからないというのは恐怖を増大させ、冷静さを失わせる。


「ーーホワイトフラッシュ!」


 ホープの一閃。意識した時には首元に剣先が届いている。

 ホープは寄生されし者(ネオ・パラサイト)の背後にいた。当たった感触が無い。避けられたことに気づけなかった。


「うっそ…なんで避けれんの?」


「速いナ。すっげー速イ。えっト、ホープさン?」


 避けたことを当然のように話す。足場を見ると、ほとんど動いていないことがわかる。ホープの速さを完全に見切ったとなると、打つ手が無い。


「ホープハート。ホープって呼んでいい。目的はなんなの?まだ誰も殺してないんでしょ?」


「俺ハ…猫型とでも呼んでレ。あんたらの形式に沿ったよい名前ダ。俺は猫を愛しているから丁度いイ。あト、人間は殺したゾ?この姿になる前モ、なった後モ。」


 何度も繰り返した言葉のように感じられた。殺人者であることを、自己紹介の延長線上で話す猫型。悪びれない。

 ラブがステッキを構える。


「やめとケ。当たらないサ。…うン、とりあえズ、ラブさン。あんたと話がしたいヤ。ホープさんの相手は俺じゃなくテ…あァ、もうすぐ来るゾ?」


 ラブとホープは辺りを見渡すも、敵の存在を確認できない。ブラフかと、猫型に再び目を移すも動きがない。


「…影?」


 猫型を合わせて三人を隠すほどの影がかかる。丸い影が数えきれないほど広がっていく。ラブとホープ、猫型が影の正体を確認するため、空を見る……目を疑った。


「うワー…どうなってんだこレ。」


 影の正体は…人間の頭部だった。百を超えているかも知れない人間の頭部が、空から降ってきている。表情のほとんどが無表情、笑顔や、驚いている顔もあるが、苦痛や恐怖に染まった表情をしていない。

 頭部は落ちる。真っ赤な花火が地面に咲く。鈍い音と、鉄の匂い。皮膚に跳ねた血液が生暖かく、死の匂いの中で生の感触を味わう。


「なんだお前ら?人間じゃ無いだろ。」


 突然目の前に女が現れる。身体のあちこちが黒い鎧で覆われているものの、寄生された人間の姿がはっきりと確認できる。


「…これは、貴方がやったの?」


 ラブは潰れた顔と目を合わせながら答える。


「こっちが質問してんだろーが!!ふざけてんじゃねぇーぞ!」


 女は酷い剣幕で怒鳴りつける。


「私達は魔法少女だ。それで、これは…貴方がやったの?」


「お前は!?キモいお前だよ!」


 猫型を指差す。


「俺っチ?君と同じだと思うヨ。あの黒い液体に飲み込まれたんだロ?」


「その、クソみてぇな口調は何なんだ。」


「ほラー、見ての通り顔面も全部覆われてっからサ!君の身体の中ハ、俺とは違うのカ?」


「…ちっ、体感だがその通りだ。見た目の皮を被ってるみてぇで、ちょっときめぇ。それに記憶も曖昧だ。」


「そうそウ!やりたいことはわかってんだけどネー。」


 会話は続く。寄生されし者(ネオ・パラサイト)が情報共有をしている。


「これは!…貴方がやったの?」


「さっきからうっせぇんだよ!見てわかんねーのか?」


 ステッキが光る。


「ラブビーム!!」


 ラブビームが猫型と新しい寄生されし者(ネオ・パラサイト)をまとめて狙う。近距離、広範囲のビーム攻撃。


「なにすんだクソボケ!」


 脇腹に膝が突き刺さる。突如、寄生されし者(ネオ・パラサイト)が出現した。地面に何度も身体をぶつけながら、吹っ飛ぶ。


「かはっ…」


「ラブ!…ーーホワイトフラッシュ!」


 ホープの一閃が狙うも、瞬間、真横に出現する。


「テメーもだよ!」


 寄生されし者(ネオ・パラサイト)の前蹴りがホープに衝突する。防御できない。急に速度のベクトルが変化し、内臓が浮き、揺れ動く。コンクリートに肌を擦り、出血する。


「それじゃ君に白いのは任せるヨ。」


 ラブビームを避けた猫型が、ラブに向けて歩き出す。


「おい!!テメーもだよ黒いの!」


「黒いのじゃなくて猫型ナ。そう名乗ってるノ。」


「じゃあ私のことは、リバティー様と呼びな。あと、テメーは殺す。全て殺す。同じ空間に存在する人間共は皆殺しだ。」


「はいはイ。」


 リバティーは拳を猫型に突きつけるも、当たらない。拳をするりと回避し、再びラブの元へ歩き出す。


「別に殺しにきてくれて構わないガ、後にしてくれないカ?」


「…ふん、いいだろう。そこに寝転がってるクソを殺したら次はお前だ。」


 ホープが立ち上がり、日の光を吸収する。


「ホープ ベール ふらっシューズ…」


 最速の魔法少女が走り出す…も、一歩目で目の前の景色が変わり、次の瞬間には、後頭部を地面にぶつけていた。走り出したら、首に腕が当たった。ラリアットをされたことは理解できる。事実に至る経緯はわからない。衝撃でふらっシューズが解ける。後頭部をぶつけた影響か、視界が揺らぐ。首を掴まれ、再び投げられ、受け身もとれずに衝突する。


「あーあー、キモいキモいキモい。同じ空間に存在するんじゃねぇよ、改造人間如きが。」


 ゆっくりと立ち上がる。視界が少し治ってきた。変わったとはいえ、先程までいた駅前ロータリーと景色が似ている。近くだろうと、遠くだろうと、一瞬の間に移動した……わからない。


「……ホープ ベール ふらっシューズ」


 どうする…どうする!わからない、敵の能力も何もかも。それに私は冷静じゃない。だから、今は時間を作らなくちゃ。距離をとって、考えろ!


「おい。逃げんじゃねぇよ。」


 目の前に現れる|寄生されし者《ネオ・パラサイト。急カーブ。…先回り…どうやって?敵の詳しい場所に移動させられた?土地勘が無い場所だから、先回りされた?……違う、ここは同じ場所だ。そう離れていない。

 ビジネスホテルと居酒屋、その先には旅館。二車線の道路に出ると、そこには…


「…くっそー…これでも私ってば、最速のはずなんだけどな。」


 女は答える。


「理解がおっせぇーやつだな!お前じゃねぇんだよノロマ野郎!この世界で最速なのはこのリバティー様だ!!それ以上は存在しねぇぇえええええ!」







「話をしようカ、ラブハート。」


 猫型は優しく話しかける。辺りには見ていた猫が集まってきている。


「この猫達見てヨ。愛くるしいだロ?この子達ハ、飼い主と本当の意味での家族になれなかったんダ。愛されてなかったんダ。」


 猫型は語る。猫の首を優しく撫でながら、ラブの反応を伺っている。


「お前なんかに話すことは…ない!」



ーコードネーム'ラブハート'

        オノレヲカイホウセヨ



「ゲートオーバー…いくよ」



ージアイ ヨ ツタエ



「全てを受け入れ 目覚めろ感情

      魔法少女ラブハート 自愛モード」



「あリャー、まぁいいけどサ。それじゃ殺し合いながら話そうカ。君の場合ハ、伝えた方が美味しくなると思うんダ。」


 猫型は余裕を崩さない。



 …まだ、ラブハートは手の内を何も見せていない。

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