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魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
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第三十話

 第三回襲撃日、当日。時刻は正午を示しており、まさに昼飯時。二回目となる直前の確認会議には弁当が持参されている。魔法少女達は愛衣れいな特性のお揃い弁当だ。ピークが過ぎたとはいえ、まだ暑さを感じられる日が続くため、会議室はキンキンに冷やされた。榛名奈々子はひざ掛けをポンチョのように羽織っている。

 襲撃時間はおよそ四時間後。前回を踏まえ、集合時間は少し早い。既に襲撃場所と各自の動きが映し出されている。研究員は技術班も合わせて十五人、魔法少女四人、合わせて十九人が長机を囲んでいる。食事をしながらの会議を提案したはずの伊渕は、胃薬を飲むだけで弁当を袋から出すことができない。寄生されし物(パラサイト)は食欲が削がれるため映し出されず、文字だけが浮かび上がっている。手元の資料には鮮明に描かれているため、前野の気遣いは魔法少女達には通用しなかった。


「ご、ごほんっ、えー、確認に入りますが、特筆した変更点はありません。共有することは残っていませんか?」


 研究員達には緊張感。目の前の弁当を無言でつつく。鳥の照り焼きと、しらすのまぶされたご飯が目を引く弁当は、ポテトサラダばかり量を減らす。その緊張は想定された敵像にある。

 寄生されし物(パラサイト)の対応は主に特殊魔装部隊に任された。訓練と実験を経て、通常の寄生されし物(パラサイト)であるならば、十分な対応が可能だと判断された。以上の意味することは、魔法少女達の戦う相手は寄生されし者(ネオ・パラサイト)を想定していることだ。


「ねーれいな姉ぇ、このウィンナーが円になってるやつなに?」


「これはね、目玉焼きだよ。縦に切ったウィンナーに切れ込みを入れて円形に固定して、真ん中にうずらの卵を落としてるんだ。」


「へ〜、リアルな目玉ってことか。面白いこと思いつくな!はっはっは。」


「美味しいし、お弁当の見た目も愉快ね。」


 魔法少女達は対極に、愛衣れいなが作った弁当について会話を膨らましている。アスパラや人参の肉巻きをメインに、色鮮やかで健康的な弁当である。愛衣れいなのステッキがピックになっているが、製作者は技術班の誰かとしかわからない。


「ええ!?」


「どうしたの伊渕?驚いちゃって。」


「いや…キュリオハートが一緒に騒ぐのは珍しい、といいますか。」


「ふんっ…緊張し過ぎるのは良くないよ。皆んなもガチガチじゃん。朱と花子なんて、勝った後の祝賀会について考えてたよ。」


「あー!もうホープって呼ぶ時間なのに!」


「あんたもれいな姉ぇって呼んでたでしょーが」


 研究員達は目を丸くした。どこか今回は負けてしまうかもしれないと、頭にこびりついていたのかもしれない。目の前の弁当が、最後の晩餐に見えて仕方なかった。脅威を何より肌で感じてきたからだ。……より近くで戦っていた彼女達、魔法少女は、未来を信じて疑わない。


「ぷぷぷっ、そうですね、そうですよ、緊張して勝てるなら震えてればいいんですよ。」


 口を開いて弁当をかきこんだのは、ドレッドヘアーの技術班の女だった。


「……その通りです…!」


 伊渕も無理やり喉に弁当を流し込む。それにつられ食事会がやっと始まった。


「あの、東北さん。」


「東北さん?」


「はい!私が東北です!これでも技術班No.2だったんですよ、今でもあの人には及ばないのでNo.2を名乗ってますけどね。」


 良く喋るドレッドヘアーの女は後頭部をかきながら恥ずかしげに答えた。魔法少女ではなく、特殊魔装部隊の兵器を担当する技術班である。


「あれって上手くいきました?何でしたら、最後に力補充したり、しますか?」


「無問題です!今日は猛威を振るうところ見れなくて残念ですね〜。」


「私に隠れてなーにやってたの、れいなさん?」


 ミニトマトを頬張りながらキュリオハートが睨む。


「いい、いや!あれ、部隊の人の武器作りを手伝ってほしいって言われて…」


「まぁ知ってたけど。私が提案したし。」


「へ?」


 東北は腕を組み、不敵な笑みを浮かべる。丸いメガネが光る。


「クククッ…改良に改良を重ねて、今じゃ地下五階に三段階ロックで保管されてます。じゃないと危ないですからね〜。」


 呼応するようにキュリオも不敵に笑う。


「ふふふっ…ラブハートの力なら通常寄生されし物(パラサイト)なら一撃、武器持ちだって当てられさえすれば…」


 どうやら、隠れて企んでいたのは奈々子ちゃんだったようだ。私の力でいいなら、今後も活用してほしい。


「てかよー、会議の確認に戻るけどさー、ホープとラブはいいよなー、ほんと羨ましいぜ。」


 弁当は研究員用に用意された照り焼き弁当に変わっている。背後のゴミ箱に空いた容器がいち、にー、さん…。次に食されるであろう弁当を、榛名奈々子が手で遠ざける。


「ふっふーん!日頃の行いよねっ!終わったら一緒温泉入ろうって約束もしてるんだからっ。」


 ラブとホープがあてがわれた地は有名な温泉街であった。温泉まんじゅうが駅でも売られるほど、街を上げての観光地域だ。


「まぁまぁ、こればっかりはしょうがないのよ。それに、私達も観光くらいできるでしょ。」


 第三回襲撃日において、より激戦地になるのは二つの地点となる。その一つを担当するのがラブハートとホープハートの二名。寄生されし物(パラサイト)の他、寄生されし者(ネオ・パラサイト)の存在が懸念される。


「なぁーにが、観光だよ。森と日本海眺めてろって言うのか?はっはっは!飯屋は絶対やってないぞ!」


 もう一地点はパッションハートとキュリオハートの二名が担当。温泉街同様、寄生されし者(ネオ・パラサイト)の対応が必要と予期される。


「観光に行くわけではありませんので。それに、日本酒が有名で楽しいところです。」


 前野がモニターを操作し、パッションとキュリオの担当地を鮮明に映し出す。聞いたことも見たこともないコンビニと、広大な大地が広がっている。


「未成年だよ!!…観光だって八割はじょーだんだ。」


 資料をペラペラとめくる者。隣の者と談笑する者。幾度も変更と確認を繰り返した内容だ。今更理解していないことは…


「ね、ねぇ、奈々子ちゃん。やっぱり危ないんじゃ…」


「…あのー、れいなさん?理解してないのと、理解したくないのどっち?」


「理解してー…ないわけじゃない…」


 ラブの目は飛び魚のように水面を揺らした。短いピンク色の弁当箸がパクパク口の開閉を繰り返す。


「あのですね、今回は二つの地点が離れていることもあり、キュリオの能力範囲的にですね、専念すべき所を見逃す理由にはならなくて、えーっと」


 伊渕が小走りで近づき、頼りない説明を始めた。元よりラブハートこと愛衣れいなは、今回の作戦を全面肯定していなかった。

 キュリオの能力を活用するには、二つの地点の中間に位置させることはできない。使用できる能力が限られるからだ。フルに活用するには、戦闘者の近くであれば近くであるほど良い。特殊魔装部隊への通信を滝城の研究員が補うことで、極端な作戦ではあるが、キュリオはパッションの近くで付きっきりとなった。


「伊渕は黙ってて。…れいなさん、私は大丈夫。無策じゃないのは知ってるでしょ?戦う力がなくても、死なない力はある。…証明したよね。」


 ……


「…わかったよ。……いや、わかってた。ごめん。」


「いいよ、口に出さないと不安なのは一緒だしね。」


 会議は進む。資料が読まれ、映し出された予定の戦地での動きが立体で説明される。

 戦地の避難誘導は順調に進んでいる。主に災害と銘打った反強制の避難であるも、従わない人間がいることも事実である。従わない者の多くは、何が起こるか勘づいている様子であった。思い入れが強い地を離れない者、ただの興味で残る希望を伝える者と様々だが、横暴であろうと、訴えられるリスクの無い我々は、誘拐気味にその地から引き摺り出す。


「前野ちゃん。直前になってわるいけど、γ隊と通信できるようにしといてよ。」


 ホープとγ隊は前回、同じ範囲を担当していた。他の隊と比べてホープの性格上からか、コミュニケーションを積極的にとっていた違いがある。


「不安ですか?」


「ちがいますー。担当範囲が近いからってだけでーす。」


「そうですね。寄生されし物(パラサイト)の対応を任せられるほどになったわけですし、本当の意味で魔法少女の補助をできる機会があるかもしれません。」


 ホープは真面目な面持ちで前野を見る。


「甘いよ前野ちゃん。」


 皆がその珍しさから、目線がホープと前野に集まった。


「…すみません。特殊魔装部隊は強くなりました、が、我々も死に行かせるような命令を下す気はもちろん」


「ちっがーう!私が最速で終わらせて手伝いに行こうって思ってたの!もうっ、誰だと思ってんの。」


 会議室は再び安堵の空気に戻される。

 特殊魔装部隊は、魔法少女の指揮下というわけでは無い。そのため、報せていない事柄も多い部隊である。他人に死ぬ覚悟を持たせることを嫌う節がある彼女達に、ボロを出すわけにはいかず、特殊魔装部隊についての話は慎重になってしまう。伊渕は関わりが薄いと嘘をつき、なんとか乗り切っている。


「ははっ…そうですよね、すみません。お土産はお任せしますよ。」


「うん!まっ、お土産屋やってたらねっ!」


「あ!そっか…私達もお土産買えないよね…。猫とか兎とか、あそこのお土産は見た目可愛いのが多くて…」


「どーせ、可愛くて食べれないでしょーに。」


 会議は終わる。来るかと予想していた滝城研究所の所長は、最後まで姿を見せなかった。今、何処で、何をやっているかを知る術はない。結局、弁当を食べて、お喋りをしながら、何度目かの資料に目を通す。それだけであった。





 会議後、各々一時間ほど自由に過ごした。体を動かす者、仕事をこなす者、精神統一をはかる者と様々だ。愛衣れいなは、とある場所でソワソワとしていた。





 午後三時。予定では、襲撃時間の一時間前になる時間。現場へ射出されるポットが置かれた部屋に入室する三人の魔法少女。


「あれ?れいな姉ぇがもういる!」


「はっはっは!落ち着かなかったんだろー?」


「ちょっとだけ早く来ただけだよ。三十分くらい。」


「ちょっとじゃ、なーーーい。」


 職員用IDカードをかざす。ポットの入り口が開く。


「……行こう。」


「うん。」「ああ。」「…そうね。」




ーラブハート シートベルトヲツケナサイ シートベルトヲ


「二度と乗りたく無かったんだけどな。怖いから。」


ーモクテキチ ハ ニュウリョク サレテ イマス


「よし、きばれ…私!」


ーハッシャ シマス














 午後四時。空は黒で覆われた。雨雲と違い、恐怖と不快感を与えてくるソレは、巨大な雨粒の形をもって地上へと降り注ぐ。自販機、自動車、看板に、信号機。寄生されれば、黒い岩石のような手足が生み出され、寄生元を頭部に位置させた化け物が動き出す。

 首を動かすだけで発見を可能とした人間が見つからない。殺しても殺しても、何処かで悲鳴やすすり泣く声が聞こえるほど、大量に存在していた人間は、降り注いだ地域から避難を済ましていた。

 寄生されし物(パラサイト)は速い。避難済みの地域から、無尽蔵を思わせる体力で走り出せば、人間を見つけることに時間はかからないだろう。膝に力を入れ、前傾姿勢をとる。今すぐにでも走りだす様子をみせるも、その必要はなくなった。


「ふひっ、隊長ぉ〜。もう始めちゃってもぉ〜?」


 つい先程まで、姿を確認できなかった人間が続々と現れる。湧いて出た人間をじっと見つめる寄生されし物(パラサイト)


「ああ、それとマーカー弾を忘れるなよ。一匹たりとも見逃すことはできない。」


 立ち並ぶ中華飯店と煌びやかな商店街。肉まんを見つめる恐山に、ご馳走を約束させられてしまった総隊長が横に並ぶ。


「だってさ、聞いてましたかぁ〜?」


 その後ろに一人。


「黙ってろイカれ女。自分の仕事は忘れねーよ。」






「それではα隊総員、任務開始。」


 心地は腰に日本刀らしきものを携えている。戦闘態勢。歩き方一つとっても、強者の威厳を感じさせる。


「…心地隊長。口元にずんだ付いてるっす。」


 口元に緑色のアクセント。


「ふむ。これは失敬。」


「お店やってませんよね。…まさか?」


「違うぞ前田副隊長殿。試食が出しっぱになっていただけだ。」


「そうすか。」







「β隊、戦闘に入れ。ここが一番数が多い。時間を無駄にするな。」


ー了解


 既に魔装兵器は解放状態である。神社前の広場に寄生されし物(パラサイト)が引き寄せられるように集まりだす。


「予想はしていたが、実に不合理な生物だ…許されない。」


 β隊の眼前に集まった寄生されし物(パラサイト)の寄生元は、焼き餃子、茹で餃子、揚げ餃子に冷凍餃子。餃子の群れ。辺りはニンニク臭で満たされた。

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