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魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
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第二十八話

 腕立て伏せ、スクワット。正しい姿勢でする筋トレは、新生される前からの生き残りである俺でも未だ慣れない。短、中、長距離ランもフル装備で行われる。考えてみれば当たり前のことだ。それでもα隊の隊長は、俺が適正な服を着て走るよりも速いタイムを叩き出す。人間やめてる。

 午後からはシミュレーションルームとかいうやつで訓練。ククッ…今思い出しても笑ってしまう。あいつらの驚く顔。腰抜かす奴もいた。もちろん俺は全く動じない。本物と戦ってるし。…それでもスコアが平均より低いのは、どういうことなんだ。ふざけてやがる。


「ふひっ、新人に負ける人おった〜。今日はα隊との合同練習だゾ?」


「わかってるわ!…ったく、静かにしてろイカれ女。」


 風呂と睡眠時以外は大体フル装備なおかげで、飯時でさえ訓練状態だ。肩凝りが治らない。隊長は恐山の魔装兵器を背負っていた時期なんて、釘が刺さらないくらい硬かった。


「おーい、お前ら二人はこっちだー。」


 俺達γ隊の隊長が大きく手を振っている。機嫌がいい。物凄く嫌な予感がする。


「ふひーっ、隊長ったら、こんなところで…」


「よしっ、今日はこのセットアップチームなので。それじゃ、あとはよろしく。」


 隊長は足早に去っていく。


「うむ。わかり申した。」


「は、恥ずかしいのかしら、ふひっ」


 セットアップされた四人のチームとは…赤髪のサムライ、βの緻密ハゲ、部隊知名度一位のイカれ女、そして平々凡々の俺の構成だ。


「α隊…隊長…」


 真っ赤に染められた髪をポニーテールにまとめ、胸にはサラシを巻いている。脇部位に穴がいているため、容易に確認できる。通気性を考慮した改造だろう。隊長がそれでいいのか?服の上からでもわかるほどに鍛えられた肉体。特に下半身がすごい…なんていうか、すごい。…なに見てんだイカれ女。


「よろしく頼む。拙者は心地(こころじ) 呼夢(こゆめ)、ココちゃんかユメちゃんと呼ぶが良い。」


 ……知ってるわ!!スコアは不動の一位、無敵の女ザムライじゃねーか!日本刀型の魔装兵器で、寄生されし物(パラサイト)に突撃しにいく変態と聞いている。銃はあまり好きじゃないらしい。


「やっほー、ユメちゃーん!初めて一緒にやるね〜」


「めぐちゃん!本日は共に頑張ろうぞ。」


 将来の夢はお嫁さん。白馬の王子を拉致するために鍛えたイカれメルヘン女…そりゃうちのイカれ女とも気が合うだろうよ。誰もが知ってる。だって宿舎にプロフィール帳貼ってあるんだもん。小学校とかで流行ってたやつ。最初見た時、知らない恐怖を感じたわ。合同訓練が始まる前の顔合わせガイダンスから、恐怖が続いているんだわ。


「ん?めぐちゃん?誰のことだ?」


「ほう、毛根を消滅せし男はβ隊であったか。それでは自己紹介を。拙者の名前は心地呼夢だ。ココちゃんかユメちゃんと呼ぶが良い。」


「もうハゲって言っちまえよ!…俺は君山ジェイスンだ。」


 自己紹介二回したことはスルーしたな。…このβ隊のハゲは見た目と裏腹に射撃が得意だ。それもかなり高いスコアを叩き出してる。イカれ女に絡まれてたから知ってる。


「私は恐山 (めぐる)。めぐちゃんと呼ぶが良い。」


 絶対呼ばない。


「俺は鈴木 翔大(しょうだい)。これと同じγ隊です。」


「ふむ。それでは持ち場に行こう。拙者達の時間は総隊長殿以外の、隊長、副隊長が皆参加しておる。気を引き締めて行こうではないか。」


 …ほら。嫌な予感的中だ。


「ふひひっ!テンションあっがるーん!」


「くそっ…楽な訓練なんて一度もないな。おい、翔大。話すのは三回目か、どうだ?調子は。」


 実はハゲは部隊きっての人格者だった。部隊の中での話ではあるけど。…部隊員はどこかおかしい奴らが多く、前にイカれた人間と臆病な人間は、どんな戦場だって長生きできないって話で盛り上がった。あと、ぶっちぎってイカれたヤツは殺しても死なない話。結局、イカれた人間が死ぬってのは、精神負荷でイカれざるを得ないヤツのことで、元からイカれてるやつは関係ないのだ。


「どうも。全くスコアは伸びませんが、調子も変わらずですよ。」


「ははっ、そうか。…次の襲撃日に備えてやってることとかあるのか?」


「んぁ?特にありませんよ。毎日訓練訓練訓練訓練、夜は疲れて寝るだけです。」


 数十人が同時に使用する部隊用のシミュレーションルームは広い。正確には、何室かがリンクしていて広く思えるだけ。俺達の始点は…C-3。ど真ん中。


「そんなもんか。」


 生き残り組だから期待したのだろうけど、正直運だろ、運。どんなに装備が良くなったとしても、化け物どもも強くなるんだから同じこと。はぁ、死にたくねぇ。


「それでは、拙者とめぐちゃんが前衛なので、後衛は頼みます。」


「「了解」」


 α隊の隊長、心地は槍を両手に持っている。一本は恐山の分だ。槍は柄の部分が伸縮し、少し大きなストラップほどの小ささから、最大150cmまで大きくなる。恐山はB6と呼ばれる銃を両椀から外し、トリガーに指をかける。真四角の状態から、起動し、B6サイズまで変形。身体が大きな隊員は、変形後のまま腕に装備している。やめてほしいとのこと。



ーーα隊、γ隊の合同訓練を始めます。



 シミュレーションを用いた寄生されし物(パラサイト)との模擬訓練。

 訓練内容:セットアップされたチームで寄生されし物(パラサイト)との戦闘を行う。撃破、拘束にてスコアが加算。逃亡させた場合は減点。他チームの妨害は許可されている。しかし、他チームが拘束している寄生されし物(パラサイト)を逃亡させてしまった場合、逃亡させたチームが減点される。チームに加算された点数の振り分けは、貢献度により変化する。チームの欠員に対し減点は発生しない。




 巨大なビル群が立ち並ぶ大都会。四車線の道路には、ぶつかり半壊した車と、避けて駐車された鍵の刺さったままの車が、埋め尽くさんとばかりに残されている。沿って植えられた木々は未だ健在。信号が青に変わることはなく、どこか遠く鳴っているクラクションを止める者もいない。


「前方に五体。通常のタイプ。右方に三体。通常タイプ。その中間に、八体。内二体が武器持ち。」


「簡潔で結構だ、ジェイスン殿。このまま前進する。」


 寄生されし物(パラサイト)の位置が知らされる。通信妨害に備え、通信タイミングや正確さ、知らされる隊員はランダムとなっている。全く通信が入らないことも多々ある。入らない回の生存率は圧倒的に低い。

 叩き壊されたような建物、車が増える。看板から駅方向に進んでいることを知る。


「新人くんっ、ひーだり!」


 ばしゅんっ


「もう古参の類だっつの。」


 拘束用の網弾を発射する。その先には木の寄生されし物(パラサイト)。網に枝や根が絡まり動けないようだ。


「ひひっ、はぐれかなぁ?」


 二丁の銃を撃ち続ける。対象が崩れ去るまで、場所を変え、距離を変え、撃ち続ける。頭部位置がわからない木の寄生されし物(パラサイト)を倒すためには、有効的な攻撃方法である。


「ふむ、翔大殿はめぐちゃんの補助であるか。スコアが伸びない理由というわけであるな。」


 銃 B6を腕に装着し直す。


「嘘…褒められるなんて…記念日になっちゃったね!」


「なるかい!そこまで褒められてないし。」


 俺らが騒いでいる間、ジェイスンが周りを警戒してくれている。そういうところが俺のと違いなのか。γ隊の雰囲気が悪いよ。


「…おい。」


「なんだよ〜、気ぃ張りすぎジャーン?」


「ちげぇよ、馬鹿。…音がする。おそらく、二体の方を倒しに行ったやつらがいるはずだ。」


 銃声がする。恐山みたいな、イカれ射撃じゃなくて、一定のリズムで撃ってる感じだ。


「これは拙者のとこの副隊長だな。急ぐぞ御三方!彼奴は地味だが根性がある。時間をかければ武器持ちも拘束くらいするだろう。」


 五体と三体の寄生されし物(パラサイト)は、中心の八体の寄生されし物(パラサイト)と同じ群れだと仮定。五体から崩すか、三体から崩すか判断が必要な場面、迷わず五体を選んだ。結果論だが、正解だったようだ。三体を取り合うことになるより、五体を倒し、武器持ち合わせた八体戦に途中参加する方が、火力が二人もいるうちのチームに合っている。横取り作戦。


「二体確認。駅前ロータリー。」


「ジェイスン殿は槍をお使いになるか?」


 心地は既に二本の槍を持っている。


「いや、緊急時以外使ったことはないが。」


「なら、貸してくれ。翔大殿も。」


「はぁ…」


 結局、両手に槍。両腰に槍。両肩に銃。


「それでは、目の前の二体は任せよう。残り三体は拙者が担当致す。…それでは!」


 心地は走り去ってしまう。単独行動は最低最悪の悪手。何処か、誰も知らない場所で、ひっそりと戦力を一人失うこととなるからだ。

 増やした武器の重さを感じさせない速さ。二体の寄生されし物(パラサイト)が見逃すはずもなく、コンクリートブロックを投げつける。


「……」


 コンクリートブロックは空中は砕ける。

 ジェイスンは放置された車の上に座っていた。膝を立てて、それを軸に狙いを定める。恐山同様、二丁拳銃。続けて、投擲前に、掴んだコンクリートブロックを破壊。そのまま頭部に向けて射撃する…も、弾かれる。


「ちっ、遠いな。」


「すっげー…」


「ハゲてるだけあるぅ!ハゲすん!」


「調子狂うなぁ…っつか自由すぎるだろ!何なんだあの女!」


 二体の寄生されし物(パラサイト)が走って向かってくる。ドタドタという走り方に反して、かなりの速度が出ている。


「うちの隊長はそんなことないですよ。」


「俺んとこも普通だよ、普通! どうしてあれが隊長になってんだ!」


 ジェイスンは変わらず車の上で狙いを定める。足元を撃ち抜き、寄生されし物(パラサイト)の一体が転ぶ。


「強いからに決まってんジャーン!」


 二丁拳銃は腕に装着し直される。右の掌を空に掲げて叫ぶ。


「ふひっ、魔装解放ぉー!!!」


 空から鉄の塊が降る。恐山は目の前に落ちたそれを掴む。


「クレイジー ブラッド レディ…さ、最高ぉ…」


 クレイジー ブラッド レディ:恐山廻専用の魔装兵器。硬い!重い!デカイ!の三拍子。恐山よりもデカイ。くすんだ赤紫色の巨大なノコギリ。刃面の反対には巨大な鎌が付いている。欲張り武器。鎌部分は厚いノコギリ内部に収納可能。特別な機能は特に無し。ぶんまわし、遠心力で敵を押し斬る。恐山より大きくしてしまった弊害で、背負うことが出来なかったため、代わりにγ隊の隊長が背負っていた。しかし、邪魔すぎるという真摯すぎる思いから、必要になった際、恐山に向けて射出し届けるようになった。


「ふひっひひひひ」


 全身を使って振り回す。圧倒的なリーチ差から、寄生されし物(パラサイト)の拳よりも先に衝突。首に深く突き刺さる。ノコギリを右脚で蹴る。さらに深く、突き刺さっていく。


「もっと、もっとぉ!」


 左腕の銃を手に取り、刺さった場所に撃ちまくる。右脚と銃弾で深く、深く!そして、頭部を切り離す。

 転んだ寄生されし物(パラサイト)が起き上がる。そのまま巨大な掌を恐山に向けるも、再び地面に頭部が近くなる。


「こっちだ」


 寄生されし物(パラサイト)の左脚に拘束弾。倒れた勢いに合わせて、ノコギリを引き抜く。反面には鎌。頭部が宙に舞う。


「ふひーっ、決まっちゃったなぁ」


 二体の寄生されし物(パラサイト)が消えて無くなる。


「隊長を迎えにいくか。」


「足手まといくんは、ブラッド レディを持ってくれたまえ、なっ!」


 くっ……はぁ、しょうがない。事実だ。よいしょっ…がぁ、重っ、重すぎる…。


「俺が持とうか。走り回ることもないからな。」


「い、い゛い゛!、これくらいはやらせてくれ。」


「訓練中に訓練とはっ…見直したぞ荷物持ちくんっ!」


「武器の適性サイズもわからない馬鹿は黙ってろ。」


 駅に向かって歩く。車の上にひっくり返った車が乗っている。タクシーが何台も転がっている。激しい戦闘があったことが窺える。破壊の後は商店街の方へ向かっている。


「隊長がいない…まだ戦っているのか。」


「確かに負けたとは考えづらいから、そう…なのか。」


「倒すしか頭に無いみたい…拘束もできるのに…」


 こいつは本当に我が身振り返ることができていない。α隊の隊長だとしても、ただの鍛えた人間が車ひっくり返しながら戦うのか、実は人間じゃ無いとか?…いやいや、ひっくり返したのは寄生されし物(パラサイト)だろ。投擲しただけ。投擲…投擲…


「…違う。」


「お前の生き方か?」


「うるせぇ!…アイツらが投擲するのは逃がさないためってのもあるだろ。なのに、離れた商店街の方まで移動したのか?」


 そうだ。あのイカれた隊長が逃げる選択も無い。ということは…


「倒したんだ。この短い時間で三体倒した。そして、向かったんだよ。八体の方に。」


「…なんで商店街の方まで壊れてる。四体いたってことか?」


「先に行ってるって印に壊しただけじゃないか?こっちに来いって。」


「…なるほどな。納得だ。本当に勝手だ。」


 恐山は既に商店街の方へ歩いて行ってしまった。信頼されているのかも知れない。


「勝手と言えば、魔法少女の人達がシミュレーションルームに馬鹿でかい穴開けた話しってる?」


「は?穴開けたって、そんなことできるのか?」


「詳しくは知らないけど、計算上じゃ地割れ起こせる威力らしい。最初は傷跡が残る程度で、出撃日が近づくになって威力が上がっていって、今はもう地割れ。」


「それ騙されてないか?信じられねぇ。」


「騙されてないって。偶然盗み聞いたんだから。」


「何やってんだオメェは。」


「おーーーい!早くしろノロマハゲ野郎共がぁー!」


 遠すぎて豆粒に見えても、中指を立ててムカつく顔をしていることはわかる。これがγ隊の絆か。


「ハゲは一人だ馬鹿やろー!」


「もう怒る気にもなれねぇ。」


 商店街の入り口を過ぎると、破壊の跡もなく綺麗なものだった。やはり、こっちに来いというだけなのだろう。


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