第二十七話
武器を持つ寄生されし物は、標識を引っこ抜いた手軽な武器を両手で構える。信号機や、タイヤの遊具を頭部にした寄生されし物は、拳を握る者、大きな掌を広げている者に分かれる。
キュリオハートに向かって真っ直ぐに歩く。あえて時間を潰しているのか、楽しんでいるのか、ゆっくり歩いていく。頭部位置に標識が高速で薙ぎ払われ、背後から巨大な拳が胴を狙う。…当たらない。武器が、拳が、ホープハートの身体をすり抜けている…ように見える。
「え、な、なに?気持ち悪っ!!」
「ひっどーーい!!!避けてから元の位置に戻って、普通に歩いてるように見せてるの!」
残像ってこと?普通に凄いことやってるのに、何かブレてる人間?が歩いてくるの怖い!怖キモい!うわっ、何人にも見える…反復横跳びしてるでしょ。……いじわるしよ。
ホープの頭上から落ちてくる二体の通常寄生されし物。自動販売機を頭部にした寄生されし物なので、重くデカイ。ちょっとした隕石である。
「はぁ〜?見・え・て・る・よ!!」
閃光。キュリオが目を細めた次の瞬間、隣にちょこんと座るホープがいた。
「なにやってんの。」
「あっ、忘れてた。うっかり〜」
よっこいしょ、と、聞こえてきそうな立ち上がり。キュリオの目の前に立ち、決めポーズをとる。
「ーーーホワイト フラッシュ!」
背後で二体の武器持ち寄生されし物、五体の通常寄生されし物の身体がズレていく。ケバブの肉のように斬られたバラバラ死体が積み重なり、落ちてきた二体の寄生されし物が衝突。爆発し、計九体の寄生されし物が消し炭となる。
決めポーズをとっているホープには、背後から風が吹き服と髪がたなびく。
シミュレーションのため、実際に斬ってはいない。感覚としては身体の半分が3Dアバターになったといえばわかりやすいだろうか。斬った瞬間に合わせて、斬った感触と重さが伝わってくる。滝城研究所の技術班は凄い。
「えっと〜…何を教えてくれるんだっけ〜」
「ふっ…それくらいで煽ったつもり?」
「え!?そんなつもりないよ〜、だって私以上に私のこと知って…あれ?嘘…だったの?」
キュリオの魔法の書がペラペラと捲れる。
「あれれ?あれれれれれ?疲れちゃった?」
シミュレーションルームの床から駐車券が頭部になった小型の弱っちい寄生されし物が、大量に湧いて出る。数えきれない。
「ねぇ、ホープ。空を飛ぶ寄生されし物が来た時はどうする?」
「わっ、ちょっと、えっとなに?空からだと、身体が間に合わないよ!地上にもいるんっ、だからっ、ちっちゃい!ちっちゃいよ!」
攻撃力もほとんどない。チクチクする程度。数が多くて、的が小さい。剣を使うホープにとっては面倒くさいてしょうがない。
「そうなんだよね。空中戦に専念したら、地上の寄生されし物は空見上げているだけなのか。…どっか行っちゃうと被害広がるから、対策が必要なの。」
部屋四隅に武器持ち寄生されし物が出現。足元に標識が十本ほど刺さっている。一本引き抜きホープに投げつける。
「ちっちゃいのが脚に、絡まっ…〜んあーっ!ホープ ベール ふらっシューズ!」
駐車券の寄生されし物を何体か轢き殺す。地上を埋め尽くす寄生されし物に勢いを殺され速度が出ない。背後で激しい金属音と、火花が散ったか少し熱い。
「あっぶな〜…絶対怒ってんじゃん…」
標識を引き抜き、槍投げの体勢に入る。駐車券に混じり、カードゲームのカードや、豆アジ等々、バラエティ豊かなちっちゃい寄生されし物が無限湧き。
「ねぇ!鞘使ってみてよ!」
「はいはーい、わかったー!」
鞘を地面に突き刺す。完全なる室内なので日の光は無い。そのため、回復に直結するホープハートのために、日の光を放射できる仕掛けが設置されている。
「よっこいしょーっ!」
突き刺した直後、飛び跳ね、剣を突き立て壁に着地。鞘の近くで高速の標識槍がぶつかる。弾き合い、ちっちゃいのを串刺しにしながら地面に突き刺さる。
「結局さー!実戦で使えないなら意味なくなーい?」
距離があるためお互い大きな声になる。
「まだ使ってないでしょー!使ってみないとー!」
予想通りなら、ホープハートの弱点がまた一つ無くなることになる。巨大な寄生されし物と、量で押してくる寄生されし物は適材適所、無理にホープハートをぶつける必要は無い。ラブハートがホープの苦手とする敵を得意としてやってくれる。でも…対空技が欲しい、どうしても! 対空最強クールハートの穴を私の知恵で埋めないと…託されたんだからっ!
「じゃーさー!これってぇ!避け続けた方がいーい?それともー!倒していいのー!?」
「倒してもいーよー!もう一回出すだけだからー!!」
「それ意味ないじゃーん!」
壁から壁に移動し続ける。既にホープ ベール ふらっシューズは解除してある。脚への負担が大きいとのこと。社員食堂にて、膝をガクガクにしたホープハートが発見されている。裏で練習しているとバレるのだ。
「はっはっは、あいつら元気だなー。あんなに声出さなくても聞こえるのになー。」
「二人って学校でも同じ感じなの?」
「いやー?奈々子は自分から騒いだりはしないなぁ。花子は中学校舎だからよく知らないけど、成績だけ優等生やってるみたいだぞ。」
「そうなんだ。花子ちゃんは元気な人気者って感じのイメージだった。」
「正直魔法少女になったから、あまり関わらないようにしてるのかもしれんなー。私と奈々子によく会いに来るし。」
「三人同じ学校なのは心強いよね。そっかー…まぁ、危ないからね。」
「れいなは友達いないだろー。家でゲームばっかしてたんじゃないか?」
「…小学生の時は外で鬼ごっことかしてたよ?歳下の子と遊んでたりもしたし、お姉ちゃん的ポジションだった。うん、たぶん。」
「はっはっは!……はっはっはー!」
「嘘じゃないって!」
虎野朱と愛衣れいなは、榛名奈々子の忠告を忘れて会話を楽しんでいた。
綺麗な処置がしてある虎野朱に対し、包帯でぐるぐる巻きになっている愛衣れいな。互いに治療し合った結果である。愛衣れいなは満足そうだ。
「よーっし、もうそろそろいいでしょ。ここで滞空寄生されし物を投入!」
ホープ ソードの鞘が光っている。充填が完了したのか、初めてなのでわからない。
空中に出現する寄生されし物。ホープが戦った魚類が頭部になった寄生されし物である。何故飛べるのかは判明していない。低空を魚類が遊泳する。その上空に…初めて確認する寄生されし物。
「え?なにあれ?」
………まぁ、後で。
「よーっし、光れ!ホープ ソ〜ドっ!」
鞘に剣が戻る。鞘から光が失われ、引き抜いた剣に光が移る。
「おお〜、カッコいい!見て見て〜、朱もれいな姉ぇも見てる〜?」
光る剣を振り回しながら、飛んでくる標識槍を見ずに避ける。鞘に充填されるまで待っていた時間で慣れてしまった。
「ホープ!!剣の光飛ばしてみて!!!」
「ええ!?飛ばすの?飛ばせるの!?」
空中の寄生されし物がホープに向かって飛んでくる。
「とりあえずやってみるが吉! ん〜〜ふんっ!」
剣を振り払う。ホープの意思以上の速さで加速し、振り払われた剣から光が離れ、扇状の光線が放たれる。空中の寄生されし物は真っ二つになり爆散。埋め尽くしていた寄生されし物は武器持ちを含め、光に包まれ消え果てた。
「いてっ」
結果として、剣に振り回されたホープは着地に失敗。床に転がる。シミュレーションは終了し、真っ白なシミュレーションルームに戻っていた。巨大な三日月状の傷跡を残して。
「…ん〜、反動?が大きいなぁ。どうだったー?ちゃんと飛んだー?」
「はは…なんて機能付けてんのよ……」
榛名奈々子は無言で傷跡を指差す。
「うわっ!ちょっと引くんだけど…」
全力のラブビームと同等…いや、それ以上の攻撃範囲。威力は朱の必殺技'獣王 一閃'と変わらない!それを、こんなお手軽にやってのけた!
「…ふらっシューズで近づいて放てれば、敵が気付く前に倒せる…! あのモアイ級だって、内部から光に包まれ消滅するでしょ…私達も反応できないホープの速さに対応できるはずがない!あとは、タイミングだ…フル充填した鞘をホープの速さに合わせて渡す。無理か…? いや、ピッタリじゃなくていい。少しの時間は剣が光を纏っていられる。なら…」
「おーい!無視すん奈々子ー!」
バッコーン!
「うわー!!」
ラブハートのステッキで後頭部を小突かれた。普通に鈍器。
「痛いじゃない朱!殺人未遂罪だからね、それ!両手で持ってるじゃん、重さわかるよね?ボーリングの球で小突かれるのと一緒だから。それに「な」を重ねて省略して…そういうガサツなところが戦闘スタイルに出るから隙が生まれ」
「ツッコミが長い!! そんなことよりさー、花子のアレなんなんだ? おい花子、技名考えた方がいいぞ!」
「いや〜、ちょっとね〜…得体の知れない力って感じがしてこわ〜い…なんて。」
花子ちゃんは三日月状の傷跡をちらちらと見ながら話す。私も'クロ'を経験しているからわかる。突然出てきた巨大な力は怖い。結果が同じでも、力を手に入れるまでの道のりに納得がないと、人は恐怖するのだ。いつでも強さは理不尽で恐怖と責任が付随する。
「まっ、ゆっくりってわけにはいかないだろーけど、私にできることは協力するよ。」
私達はたとえ一人が最強であっても構わない。誰が強いかではない、誰かが勝つことを求められている。…ただ、
「ありがとう、朱。んーっで、奈々子は何をぶつぶつ言ってたの?聞こえてたけど。」
「聞こえてるのに聞かないでよね。…私達に残された時間は短いけど、やるべきことがわかった。それだけで今回の会議は大成功!皆んなで勝つわよ!!」
私達は魔法少女だ。勝って、勝って、勝ち続け、その先まで手に入れる。全てを守るなんて幻想で、成し遂げられたことなど無い。でも、諦めない。…私にはやることがある。
「よーっし!なんか腹減ったなぁ、れいな姉ぇのご飯が食べたいなぁ。」
「ーーーっ! まだ、食材余ってたもんね。何食べたい?カレー?」
「ほんと、カレー好きだなー。社食でカレーとジャガバターといちごオレをラブセットって名付けられてるの知ってるかー?」
「え!!??」
「あ、言っちゃうんだー。大丈夫だよーれいな姉ぇ。特盛の上をパッション盛りって名付けてるくらいだから、あそこの社食はそーゆーとこだよ。」
「ええー…もうピンクじゃなくて黄色担当になろうかな……」
「まぁ、れいな姉ぇ?私はスイーツがいいんだけど、甘いものも作れたりーしちゃったり?」
「うん、簡単なものなら作れるよ。イチゴのムースとか?」
「はっはっは、それ絶対簡単じゃないぞ。」
「れいな姉ぇのスペックがどんどん上がってくよー!助けてぇ〜!」
「そんな、ふへへ…」
シミュレーションルームから出ようとカードキーをかざす。傷だらけでもちゃんと開く。
「おーい、奈々子ー!もう行くぞー。」
奈々子ちゃんはシミュレーションルームをチェックしている。スマホをいじりながら天井を見つめている。
「ごめん。ちょっとやることあるから、私は大丈夫ー。」
残念。本当は相談したいことあったけど、やることがあるなら仕方ない。
「…何かわかったなら共有しろよー?あと、グローブの変形させる実験に付き合ってくれよなー。」
「もちろん!」
三人でシミュレーションルームを後にしようとする。
「……あー、れいなさん?」
「なに?奈々子ちゃん。」
「私はわらび餅が食べたいんだけど…作れる?」
よーっし。
「冷蔵庫にいれとくねっ!」
扉が閉まる。
花子ちゃんの武器にあれだけの力があった。なら、朱ちゃんの武器が変形するのは軽くなるだけじゃない。教えなかったくらいのメリットがある…!たぶん危ない。もちろんそれは私のステッキにも…どうにかして見つけたい。
だとすると、やっぱり静香は強くなってからって考えてたのかな…んー、勘だけど違う気がする。ピンとこない。静香の性格なら…「違うわ。武器に頼ることを知ると、魔法少女としては強くなれない。言ってる意味はわかるわね。」こんなとこかな。
「はい、前野入ります。……シミュレーションルームってこんなデザインでしたっけ?」
「後で修復頼んでおいて。」
前野は項垂れる。そう、怒られるのは榛名奈々子ではなく、前野圭雄である。
「それで、どういったご用件でしょうか。」
「これを見なさい。」
シミュレーションルームが起動する音を立てて、一体の寄生されし物が出現する。
「これって…」
「そう、二重寄生されし物でしょ、これ。…何か隠してることない?」
それは、香無静香の日記に書かれた未発表の寄生されし物と特徴が酷似していた。
上空を飛ぶのは一体の寄生されし物。ペットボトルを頭部にし、翼を生やしている。ペットボトルと鳥の寄生されし物だと一目でわかる。鳥の名前はわからない。白い翼であることだけが判明。
動物寄生されし物だけであるならば、いずれのことを考え、シミュレーションに導入してても、さほど驚かない。しかし、動物と合わせて、二重寄生されし物でもあるそれは、榛名奈々子に看過できるものではなかった。
「………」
「何か言いなさい。…言いなさいよ!!!」
「……………」
「静香さんの予測は妄想じゃなかった!滝城研究所は寄生されし物の研究を経て、創り出したんだ…新しい寄生されし物を!!今までの寄生されし物も…創られたんじゃないの?出現時間や場所を把握できるのは、地球外生命体が実験都合のために発信しているのではなかった!実験をしていたのは地球側だった…」
「…」
「全ては偶然手に入った寄生されし物の細胞を利用するため。でも、確たる証拠が無かった。あの香無静香でさえ、知ることができなかった真実。疑うことを口に出せば問題が起きる。だから、黙って記したんだ。時が来るまで隠しておくつもりだった。そうじゃないの?」
「…ぷっ、ふふっ、はーっはっはっは!」
「何がおかしいの…っ!」
「いや、そんな冗談言っちゃう人だったんだって。少し意外でした。」
「は?」
「だって、これって香無研究員が実験で作った残りでしょ。ほら、予測したなら実験するでしょ、研究者なんだからさ。それを、ぷっ、ははっ! あー、ごめんなさい、ほんと。たぶん、疲れているんですよ。」
「………」
「たとえ託されたとしても、香無研究員になれってわけじゃないですよ。あの人はそんなこと求めない。貴方は貴方らしくでいいんじゃないでしょうか、キュリオハート 榛名奈々子さん。」
「…そう、ね。疲れていたのかもしれない。……変なことを言ったけど、忘れてね。」
「誰にも言いませんよ。報復が怖いですから。」
「ふふっ、そうかもね。」
シミュレーションルームの扉は開く。長い廊下。壁のつなぎ目も無ければ、薄っすら水色。変なところでこだわりを感じる。
「あー、もー、恥ずかしい恥ずかしい。何言ってるのかしら、ほーっんと。」
わかってる。寄生されし者は研究所の誰かが創ったものじゃない。だから、さっき言ったことはひどい妄想だ。
…疑ってたんだ。ずっと。だから目の前に形として疑わしい物が出てきた瞬間、爆発した。
「逃げてたんだ、私。」
全ては研究所のせいで、わけのわからない化け物に襲われてなどいない。その方が楽だもん。今からでも爆破しちゃえばいい。この研究所を跡形もなく。…それ以上かも。本当は全てシミュレーションで、誰も死んでいなくて、明日は皆んなで映画観たり、おすすめのパンケーキを食べに行く。それくらい考えていた。
「負けていられない。私も強くなるんだ…もう誰も死なせないために。」
長い、長い廊下。水色が冷たく感じる。何かを成し遂げた者は、清々しい気分になれるのだろうか。歩く音が心臓の音をかき消して、脳を活発に動かすことだけを考えられる。今、この廊下は役目を果たし始める。
助けを呼ぶ声がする。瓦礫の下?ビルの上?生暖かい血が冷えていく時、生命が失われるだろう。誰かを助けなければ。大人?子供?冥界からの手招きを望む者がいる。楽にしてくれと未来をかなぐり捨てた。
助けを呼ぶ声がする。とても、とても近くで。
限界だな。平然を装っていても、香無静香の死亡は心身を蝕んでいる。何故死んだ、香無研究員。彼女達には貴方が必要だ。俺に出来ることは少ないよ。貴方と違って感情を隠すのは苦手なんだ。こんな俺じゃ、誰かにまで手が回らない。
「安定剤を強くするか。」
第三回襲撃日が近づいている。彼女達には勝ってもらわなくてはならない。人類の為に。
「あー…死にたくねぇなぁ。」




