第二十六話
榛名奈々子と膝枕をされる星崎花子。安全地にか弱い携帯扇風機が起動している。事務室から借りてきたもののため文句は言えない。シミュレーションルームの中央では虎野朱と愛衣れいなが相対する。
愛衣れいな(23) 172cm→130cm(変身体) 滝城研究所職員 魔法少女
虎野朱(16) 149cm 高校二年生 魔法少女
「ふっとべ」
ラブハートへ向けられた熊の一撃は足元の床を粉砕、爆発し、爆風を持って視界を遮る。後ろへは回らない。掟破りの直線攻撃、裏をかく。
「牛の炎角」
炎の角が煙を切り裂き猪突猛進……これは牛突猛進?
ステッキを上段に構え、振り下ろす。腕力任せだが、爆発させつつ勢いを足した頭蓋骨粉砕必至の一振り。
「知ってた…っぞ!」
角とステッキがぶつかり火花が出る。崩れず向かい打てる炎の角に、どれほどの質量が込められているかはわからない。
パッションハートは頭を地面に近づける。ラブハートの望んだ形である。そのままステッキに力を込める。パッションは待っていた。この勢いを利用して一回転。
「鰐の炎顎」
完全に振り下ろされた腕を挟み込むように、脚でラブを捕らえる。炎と脚力をもってラブを鯖折りにする。
「くっ…ラブ、ボンばっ」
「させるか!!パッションボンバー!!!」
脚は外さない。ブリッジの体勢になり、ガントレットの掌で炎を圧縮、爆発させる。パクり。内部で爆発させたわけではないので変形はしない。空中に放り出されたラブとラブを挟むパッション。
「行くぞー! 舞えよ情熱!回って猛ろ!」
炎をガントレットとブースターから吹き出し、回転しながら地上を目指す。
ま、まずい、まずいまずい!これは大変なことになる。足だけ床から飛び出る感じになる!すっごい間抜けな感じになる!!いや、その前にくらったらキツい、頭かち割れる。
「パッション ローリング…」
ーコードネーム'ラブハート'
オノレヲカイホウセヨ
「ゲートオーバー!」
「インパクト!!」
ージアイ ヨ ツタエ
衝突の瞬間、自愛モードへの変身が間に合う。変身時の衝撃と、130cm(変身体)→172cm(自愛モード)の身体変化により、脚から抜け出し床を転がる。パッションの踵が衝突した床は大きく抉れ、ひび割れた。
「いてて、素直にくらってはくれないか。」
後手後手じゃ勝てない…っ!
「ラブビーム!」
真正面に放たれるビーム。ラブの予想は外れ、上下左右どちらにも回避せず、逃げも、防御もしない。
「ライオンだ!」
ライオンの炎を模した単体最高火力。獣王がビームに爪を立てる。ネコ科特有の身体のしなりを利用して、飛びつき、噛みつき、爪で裂く。
「おっ、がっ、」
ラブビームに全身を飲み込まれていくパッション。波に飲まれて、地面がどこかもわからずにバタバタと手足を動かす。ピンク色のビームに炎が舞って少し綺麗である。
「何やってんの…」
外から見れば、突然ビームに突っ込んでいった自殺志願者。指先から順に溶けて無くなるだろう。榛名奈々子は頭を抱える。
「ぐっ…がぁっ!」
壁に叩きつけられるパッション。吐血し、纏う炎が解けて消えた。ダメージは大きい。膝に力を入れ立ち上がり、拳を構える。鼻先にぶつかるほど近くにラブハートのステッキ。
「見逃さないっ…ラブビーム!」
超近距離から放たれるビーム。ラブの本気、覚悟のラブビーム。
「こういうことだろ?…なぁ!ホープハート!!」
ビームはパッションの両腕に吸い込まれていく…否、強制的に纏われていく! 力の流れが変えられる。ベクトルは自由自在、思い勝手に弧を描く。今のパッションは流れに身を任せる。流れはパッションに身を任せる。
パッションハートがしていることはホープハートの'ホープ ベール ふらっシューズ'ではなく、クールハートの技に近しいものであり、香無静香の人外じみた能力あっての力である。最後まで理解されなかったパッションの'勘'のたまもの。
「炎舞炎兎のパッションビームキーーーック!!」
兎を模した炎を纏い、パッションブースターから噴き出した炎とラブビームの力を利用した回し蹴り。
即座にステッキでガードするが、頭部が吹っ飛ぶほどの衝撃で意識が一瞬途切れる。口の中を切ったのか、よく知ってる血の味がする。肩が床にぶつかり目が覚めるも、視界はぐるぐると回っている。視界ではなく、全身をぶつけながら転がっているのだ。
「鷹だーー!」
上空から鷹を模した炎を纏い、巨大な爪が狙って急降下してくる。
「っラブ、ビーム…」
飛び散る床の破片と爆風、ビーム。
「おっら!」
パッションの着地先にラブハートはいない。視界は遮られている。熊を模した両腕で振り払う。
「あっ、馬鹿!」
榛名奈々子の声は届かない。
「ラブビーム スマッシュ。」
自身の場所を教えてしまったパッションの首にはラブの左脚が構えられていた。ステッキは通常のスマッシュ形態とは少し変化している。角度がつき、蹴りに対しビームの力が加えられるようになっていた。防御姿勢もとれない現状、脚が振り払われていたら首の骨を折られてるだろう。詰みである。
「くっそぉー……」
パッションハートは虎野朱に戻る。続けてラブハートも愛衣れいなに戻った。
「全く、悪い癖。視界が遮られてても朱は炎でバレる。それは振り払っても結果は一生。でも、炎を消したら条件は一緒、そこに朱の感覚なら優位に立てる可能性がある。さらには、」
「わかってる!わかってるよ、もー! …あー、勝てなかった。なぁどうやったら勝てた?」
寝転ぶ朱とれいなさん。特にれいなさんは連戦で、四回?も変身してる。ビームの連射はできても、変身する消耗は変わらないか…。朱みたいに再点火って感じではないし…んー、でも、朱もダメージが大きいと変身するのキツくなってくるもんな〜。
「大技ばっかじゃなくて、殴り合いに持ち込めばよかったんだよー。だって、近距離ならビームより殴った方がはやいっしょ?私ってば冴えてる!」
途中から何事もなかったように花子は起き上がった。それどころか、全回復って感じ。
「確かに…近距離の肉弾戦なら、最初から炎の分だけ朱ちゃんが有利だもんね。でも、ビームで移動するよ。」
いや、そうじゃない。わかってることが大事なんだ。
「そうか! 最初から逃げようとしてくるなら、対策も立てやすいってことか! 」
「なるほど、流石だね、花子ちゃん。私も自爆以外で何か考えないと。」
そう!それ!!別に自爆する必要ないでしょーに。ステッキの先端だけとかにしてよ、ほんと。……できるならしてるんだろうけどね。あんなに器用に料理してた人が、何で不器用発揮しちゃうのか。不思議。
「ま、まぁーねー! やっぱり〜、俯瞰して考えるって大事だからねー。」
「そうだよな。そこまで考えてなかったよな。ごめん花子。」
「わー!!かっ、考えてました〜、全部まるっとお見通しでした〜。」
常備してあるタオルで血を拭き取りながら話し合う。床がボコボコなので、安全地に四人で移動する。
「それにしても、花子ちゃんも朱ちゃんも、いつの間にこんな強くなったの?」
「ふっふーん、そうでしょ、強くなったんだから! できることを端から試してるだけなんだけどね。マネして、練習して、自分のものにする。れいな姉ぇも一緒でしょ?」
花子ちゃんの笑顔が眩しい。踵を鳴らしながら、ぴょこぴょこと歩く。
「いつまでも私達は魔法少女の先輩だ。頼ってくれよなー、はっはっは!」
両腕をブンブン振りながら歩く朱ちゃん。普通なら歳下にこんなにも心配されていることを、よく思わないかもしれない。
「ありがとう。これからも一緒に頑張りたい。」
でも、私達は普通じゃない。
「はっはっは、ホントはわかってないだろー」
第三回襲撃日は特殊魔装部隊なんてのもいたりするが、予想だにしないことが絶対起きる。私達が判断を間違えば人が死ぬのだ。使われるだけの兵器じゃいられない。
「大丈夫。私が戦地に立ち続ければ、未来は変えられる。……あとねー、寄生されし物の話全くできてないのよ。皆んなちゃんと考えてる?」
しまった。今日の議題をすっかり忘れていた。
「じゃーさー、せっかくシミュにいるんだし、模擬戦やろうよ!私はまだまだやれるから、私と奈々子で! 朱とれいな姉ぇは観戦でき〜まりっ」
床の破片を踏みつけ音が鳴る。普段通りに使えるのだろうか。
「私は構わないけど、どっちがいい?私が寄生されし物の種類とか出現場所、タイミングを決めるのか、ランダムにして花子の補助やるのか。」
「もっちろん、奈々子が寄生されし物操る係!補助有りじゃヌルゲーだもん。」
シミュレーション訓練では、寄生されし物ランダム出現と、予め決めた模擬、手動で操作の三パターンがある。奈々子ちゃんがいる場合は手動が多い。難易度が跳ね上がるのだ。
「じゃー、私はれいなと治療しつつ見てるよ。さっ、早く行こう!」
朱ちゃんと手を繋いで歩く。暖かくて小さい手は、皮が少し厚い。燃えたとかなんとか。ずっと握っていたい。
安全地で互いに治療する。簡易なものだけど、今日くらいのものなら明日には治る。魔法少女になった利点の一つ。次の日に青アザだらけで歩いてると目線が痛い。
シミュレーションルームが起動する。傷だらけの部屋に合わせて、崩壊した街並みが投影される。映像と実際の地形が合っていないと、何も無いところに段差があったりすることになるので、重要なことだ。
ーコードネーム'キュリオハート'
チカラヲカイホウセヨ
「ゲート…オープン!」
ーミチビキ ノ メ
「知的に支配!導く未来!魔法少女キュリオハート!」
続けて武器持ち寄生されし物が二体と、星崎花子の背後に五体の通常寄生されし物が出現した。キュリオハートはキーボードに置くように手を広げる。寄生されし物を操作するイメージ。
ーコードネーム'ホープハート'
チカラヲカイホウセヨ
「ゲート〜おーっぷん!」
ーキボウ ノ ヒカリ
「光り輝く!希望を皆んなにプレゼント!魔法少女ホープハート!」
対してホープハートは剣を鞘から抜き、自然な体勢で構える。以前のホープにとって、囲まれることはアドバンテージを活かせない最悪な状態であったが、今のホープには焦る必要がない。
「んー、考えてるんだけど、やっぱりー自分の得意なことをいかに早く押し付けるかだよねぇ〜、そう思わない?」
「ふふっ、短絡的!私が貴方達のことを貴方達以上に知ってることを教えてあげる!」
対寄生されし物模擬戦開始。
エントリー ホープハート
寄生されし物操作者 キュリオハート




