第二十五話
榛名奈々子と虎野朱が、安全地で二人並び座り観戦する中、星崎花子と愛衣れいなが相対する。
愛衣れいな(23) 172cm→130cm(変身体) 滝城研究所職員 魔法少女
星崎花子(15) 144cm 中学三年生 魔法少女
大人対中学生…否、魔法少女 対 魔法少女
原則、魔法少女同士の戦闘は禁止されている。治りが早いといえど、施せる処置は人間と同じものである。魔法一つで傷が治ることはなく、寄生されし物との戦闘に完全な状態で挑むためには必要な決まりである。
しかし、何事にも例外はあるもので、互いの連携のため、'理解'が目的であるならば、全力を出さないことを条件に、立ち合いのもと可能とされている。
「れいな姉ぇ!私の全力について来れると思わないでよねっ!」
ホープ ソードを引き抜き、先端をラブハートへ向ける。腰を落とし、身体をかがめる。
「私の全力…当ててみせるよ。」
腰に引っ掛けたステッキを手に取る。両手で構えて、目でホープハートを、、とら、えーーー
「消えっ…ラブビーム!!!」
真下に放たれるラブビーム。床にぶつかり、抉りながら周囲に跳ね返る。シミュレーションルームという限られた空間での、ラブビームによる一帯攻撃。ピンクの絨毯がうねり広がる。地上に逃げ場なし。
「ーーーホワイト フラッシュ」
ひらり舞い落ちる少女が一人。ラブハートの頭上から、天井を蹴っての急降下。閃光は視認後では間に合わない。左肩から真っ直ぐに、鋭く、痛覚の知らせ。
「ぐっ、かはっ……!」
速さに付随した風による道の先にはホープハート。
「カバー付けてるから斬れてないよ。いっったいと思うけどね〜。」
確かに、真剣であれば心臓が真っ二つだった。でも、真剣でなくとも鉄の塊だ。正直痛い、思考がまとまらない。
「…ラブビーム…っ!」
ホープハートに向けて最短距離を最速で放つラブビーム。避けることなんて…
「見えてるよ…」
背後から聞こえる一撃の音。右肩を背後から突き。剣が肉に入ってくる。
「っぶ、ボンバー!」
投げずのラブボンバー。つまり自爆である。背後のホープハートは爆風に吹き飛ばされ、軽く壁に背中をぶつける。
「いった〜……」
背後から声が聞こえる。爆風を払い顔を上げるとそこには、背後からの声の主が、目の前にいた。
「タフさは間違いなく魔法少女で一番だよね〜 普通そんなことできなくなーい?」
ゆらり…身体を捻り振り向く。ホープハートの剣に鮮やかな光が反射する。本来は血塗られ、鈍い光が目に届くこととなる。…ステッキが光る。
ーコードネーム'ラブハート'
オノレヲカイホウセヨ
「本番はこれからってこと? れいな姉ぇ!」
右斜め方向、壁を蹴る、左斜め方向、ラブハートの真後ろ、壁を蹴る、剣を…向ける!
「ゲートオーバー…いくよ」
「ぐぅ〜〜っ…わわっ!」
ピンクの光に押し返される。痛みは無い。トランポリンに飛び込んだような、身体が宙に浮く感覚。
ージアイ ヨ ツタエ
「全てを受け入れ 目覚めろ感情
魔法少女ラブハート 自愛モード」
愛衣れいな 130cm(変身体)→172cm(自愛モード)
ステッキは左脚へ。ビームは放出する。
「ラブビーム スマッシュ…」
空中へ放り出されるラブハート、しかし、地に落ちず、滞空する。それがラブハートの翼。空を飛ぶ。
「空を飛んだくらいで逃げられないよっ!」
地を駆け、壁を蹴り、天井を駆け、空中に反射し続ける光の線。得意の直線移動ではない。苦手であったはずの鋭角の移動で、ホープハートは最高速度を更新し続けている。寄生されし者第一号の最速の刃を超え、クールチャージとラブビーム スマッシュの合わせ技を超えた、最高速度の更新である。止まらない、留まらない。
「どういうことなの…?あれだけの速度で壁にぶつかれば死んでもおかしく無い。なのに速度を落とさずにラブハートを完全に包囲している!」
榛名奈々子の目には光の線にしか映っていない。変身体であったとしても、ホープの姿を確認することはできないだろう。虎野朱も同様である。
「はっはっは!弱点を克服しやがった、もう誰にも止められないぞ!」
ホープハートは日の光を受けると回復する。光が差す限り輝き、光がなければ輝く光になる。星崎花子は考えた。私にとって光とは何か。そして辿り着いた結論は、パッションハートの炎が私にとっての光だということ。私の光は他の魔法少女の得意を含有する素敵な能力だ。ならば纏えない道理が無い。
光を纏った私は反射する!
笑顔が笑顔を作るように…
希望が映し作り出すのは希望
ホープハートは光を纏って
最高速で
助けに応える希望となる!
「ホープ ベール ふらっシューズ!」
発動時、ホープハートは速度を落とさずに曲がることができる。
これがホープハート、自他ともに認める天才である。まさに、人類の最高到達地点。
見えない…このままぶつかれば肉片になりそうだ… でも、それはホープハートも同じこと。だから剣でくると思う。私の攻撃で当たるものが無い…から、今は耐える。耐えて、耐えて、チャンスを見逃さない。言ってくれた…私は魔法少女で一番タフ!
※腕力、握力、腕相撲も魔法少女で一位
全部感じて、ダメージは最小限に…!
「全力全霊の衣だ!!!!」
シミュレーションルームに広がるラブハートの衣。部屋中にラブハートの魔法少女の力が異常な量充満する。
ホープハートも衣が無理くり展開されていることを感知する。だが、衣は攻撃手段ではない。認識できない速度を出しているホープハートには関係がない。悪手である。本来であれば、その衣を自身の周りに圧縮して防御として活用すべきであった。
「あっ……れぇ〜…?」
速度は落ちていく。光の線がぶれ始め、ホープハートを視認できるようになる。ついには、人間がただ走ってるほどの速度に落ちていき、ふらふらと、その場に倒れた。変身は解かれ星崎花子へ。
「え?…っ、花子ちゃん!!」
ラブハートは倒れた星崎花子の元に向かう。目を回し、鼻血を垂らしていた。顔もほんのり赤くなっている。
「奈々子ちゃん!」
「わかって…うっ…」
なんて濃度…衣じゃないでしょ、こんなもん。れいなさんの力の中で溺れてる感覚がする。
「奈々子私も!」
「朱はそこで待ってて!」
急いで花子をれいなさんと一緒に安全地まで運ぶ。ラブハートが変身を解いた影響か、充満した衣は急激に薄れていく。
力を一瞬で手に入れて、次の瞬間で喪失した…みたいな。気持ち悪っ! 頭痛くなってくる。
「大丈夫!?花子ちゃん!聞こえる?」
「うーん…うーん…」
鼻血は止まっているが、依然として火照りが引かない。眠っていて起きる様子もない。
ーコードネーム'キュリオハート'
チカラヲカイホウセヨ
「ゲート…オープン!」
ーミチビキ ノ メ
榛名奈々子はキュリオハートへと変身する。星崎花子の胸に手を当て目を閉じる。
「うん、やっぱりそうだ。」
「わかったのか、奈々子!」
星崎花子の体内にはラブハートの力が流れ込んでいた。高濃度の衣の中を高速移動する際に、空気中に漂う力を吸収し利用したのだ。また、敵の力でもなく、さらにはラブハートの力であったため、特に受け入れやすかったことから過剰な力を吸収してしまった。
「言葉の通り、力に酔ったってことね。」
んー、これ大問題だ。ラブハートの力が規格外なこともだけど、敵に吸収されでもしたら最悪のシナリオ。敵だと認識してれば、そんなことは無いとは思うんだけどー…力を奪ってくる敵なんていたら……こっちの戦力をぶつける相手は間違えられないなぁ、ほんと。
「結局、大丈夫ってこと?」
ものすごく心配しているのか、だらしない顔になってる。れいなさんは研究所の人と比べても感受性が豊かよね。それが強さの秘訣? 普段表に出さないのもあるのかな。あ、だから、同じタイプの静香さんと気が合うのか!
「大丈夫も、大丈夫。自然と力が抜けて元通りだよ。このまま寝かせときましょ。」
それにしても、シミュレーションが傷だらけに…! 後で修復頼まないと。
本来シミュレーションルームは、パラサイトの模擬戦のための部屋である。そのため、魔法少女同士の戦闘ともなれば、新生α、β、γ隊が親睦会をしたような部屋を使うべきである。ボコボコになったシミュレーションルームを直すのは大変なのだ。
あと、これは花子に言っとかないと。所々ついてる傷跡って花子が最後に使った技の影響でしょ、これ。不規則に見えて、一度通った空間をわざとらしく避けてるから、逆にわかりやすい。目で捉えるのは無理でも、クールハートみたいに予測し出す敵には、カウンターや罠を仕掛けられるかも。
ーコードネーム'パッションハート'
チカラヲカイホウセヨ
え〜〜。場所変えようよ。…無理かぁ。圧倒的なラブハートの力の保有量とか見ちゃって、血が騒いだのか、顔が戦闘モードになってるし。
「ゲートオープン!!!」
ーココロ ヲ モヤセ
「真っ赤に燃えれば虎野朱!情熱猛らせ空を舞う!魔法少女パッションハート!!!」
最初から熊を模した炎。好戦的になってる証拠だ。
ーコードネーム'ラブハート'
チカラヲカイホウセヨ
「ゲートオープン…きて!」
ーアイ ヲ アナタニ
「地球をまるっと!包み込む大きな愛!魔法少女ラブハート!!」
「ラブハート!まだまだ全力でいけるよな!」
「うん…私も負けてられない…っ!」
ああ、さっきのはホープハートが勝った感じなのね。確かにラブハートに有効打が無かったし、本当は剣の柄の部分で殴られて終わってたのかも。最後のは誰も予想してなかったラッキーパンチなとこあるもんね。
「よしっ!そうこなくちゃな!はっはっは!」
「熱い!!さっきから朱の炎があっついの!二人とも安全地から出てからやって!!!!」
寝ている花子の頬にも汗が垂れる。
早足で中央に移動する二人。キュリオハートから榛名奈々子へと戻る。携帯扇風機を取り出し、寝ている花子にもあたるような角度を探してみる。
「全力で行くからな!」
「全力で応える!」
ラブハートvsパッションハート
最強の感情vs活火激発の情熱




