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魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
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第二.五話

 私立向日峰高校。部活動が盛んな学校でありながら、偏差値が高く、進学校としての側面を持っている。去年は弓道部が大会で優勝したらしい。全体朝会で三〇分かけて功績を祝ったため知っているが、どのような大会なのかは覚えていない。そのため、地元から離れると運動部としての印象が強く、通っていることがわかると、運動神経が良いことを前提とした会話が繰り広げられる。


 図書委員会所属、帰宅部の私は少し肩身が狭い。そんな私だが、バリバリな運動部やギャルみたいな友人が多い。見た目で人を判断してはいけないとはよく言ったものだが、そのまま体現したかの高校だと私は思っている。


 入学初日、校長の挨拶は一分とかからずに終わり、内容は、勉学ができれば多少のことは目を瞑る。とのことだ。効果あってか、通っている学生の多くは、見た目に反して真面目で常識人のため、楽しい毎日を送っている。隣の席の福田萌香(通称:ギャル子)は、学年三位の成績を持っている。私は十五位ときた。


「ーっい…」


 これでも見た目には気にしている。でも勝てない。やっぱりギャルファッションに秘密が…?


「おーい、聞こえてるかー。」


 魔法少女としての訓練があるとは言え、ギャル子もチアリーディング部の活動があるから、時間の差はない…はず。やはりファッションが…!


「無視すん奈々子ー!」


 ばっこーん!丸めたノートが後頭部に炸裂した。


「うわーー!」


 変に大きい声が出てしまったが、クラスの皆んなは笑っている。いつものことだから。


「痛いじゃない朱!それに、無視すんなと奈々子の「な」を重ねて省略したでしょ。そういうガサツで丁寧さにかける言動が」


「聞こえてんじゃん…昼休みだよ!ご飯食べいこー!」


 いつの間にか授業が終わり、昼休みに突入していた。ギャル子は自作の可愛いらしいお弁当を、サッカー部のゴリラ、岩下原(通称:サカゴリ)とバスケット部のゴリラ、梶田涼平(通称:バスゴリ)の3人で机をくっつけ食べている。


「アカナナは今日の特別メニュー食べに行くんでしょ?写真撮ってきてよ。」


 アカナナは虎野朱と榛名奈々子の2人のあだ名だ。いつも一緒だから。そんなことないけど。


「今日は富士山カツカレーだからな!売り切れる前に早く行かないとな!」


「あんた以外で頼んでる人見たことないって」


 私達のクラス(二-A)から食堂は歩いて一分もかからない。四限の授業では、食堂からの匂いで腹の音が鳴り止まない。犯人はゴリラ二人。


「なー、奈々子。それで足りるのか?」


 鴨だし蕎麦。三百円のクオリティとは思えない美味しさ。贅沢な鴨肉と柚子皮の味変で飽きずに食べられる。


「朱。カレーで貴方の顔が見えてないし、貴方からも見えてないはずだけど、これで一般人は満足するのよ。」


 小さい体に吸い込まれていくカレーは、ものの数分で富士山から、ちょっとした段差ほどになっていく。


「そうか!未だに信じてないけどな!」


 栄養は全て胸にいっている。この一文は前野のレポートにあったものだが、最低ながらもマトを得ている。朱にレポートを燃やされた前野の顔は、元気が無いときに見ると笑わせてくれる。


「あっれー!?また二人で食べてる〜。友達いないの〜?」


 中等部の生徒は給食を食べているはずなのだが、色鮮やかなサンドイッチを袋から覗かせて、一人の少女が隣に座った。


「大丈夫!お姉ちゃん達が一緒にたべてあげるぞ花子!」


 星咲花子。魔法少女ホープにして政治家の娘。名前は覚えやすいからという理由らしい。透き通る色白の肌と長くて綺麗な黒髪。その身長から、お人形さんのようだが、本人曰くお姫様だそうだ。


「ち、違うし〜。友達ならいっぱいいるんだから。」


 そんな事は聞いていないが、実際に友達はいるみたい。いっぱいは嘘だけど。


「じゃあどうして此処にいるのかしらね。」


 見た目に反して表情や動きが豊かで、あたふたというオノマトペが頭上に見える。気がする。


「べっつに〜今日は食堂で食べたい気分だっただけ〜。」


「わかった!給食で嫌いな食べ物でも出るんだろー!」


「ぎっ!ギクッッ!!」


「うわっ、初めて見た。ギクッッって声に出る人。」


 賑わう食堂に三人でいられる時間は、魔法少女になった見返りの一つである。第一回襲撃日から、二週間が経とうとしているが、崩壊が激しく、未だ封鎖された駅や商店街が残っている中、私立日向峰高校と附属の中学校には崩壊の跡がない。魔法少女達の精神状態を安定させるため、彼女らの生活範囲の守りは、その他と比べ圧倒的に優遇されている。このことを知っている者は滝城研究所の一部職員と、香無静香、虎野朱の二人である。


 


「運命の日から約二週間。魔法少女とは何か、奴らは何者だったのか。早い復興が望まれる中、疑問は深まるばかりです。」


「その…運命の日とは、何でしょうか。」


「ああ、運命の日とは、何者かに襲撃された日を指す言葉ですよ。若者を中心に呼称されるようになり……」





 復興の様子や、私達に関する番組が報道され続けている。壁にかけるように設置された大型のテレビでは、食欲を無くす内容が流されているため、朱は近くのテレビはチャンネルを変えている。勝手に変えられた番組は「炎の王子 デンジャラスファイア」という子供向けヒーロー番組の再放送だ。


「デンジャラス王子は愛馬を燃やしてから、馬に乗らないんだ。その代わりにデンジャラスファイアって言う炎のロバに乗ってるんだぜ。」


 平らげた後のカレー皿は洗ったかのように真っ白だ。


「次の襲撃日まで、あと十日。次はここが襲われるかも知れない…でもより多くの人を救うためには」


「奈々子っ!」


「あ…ごめん…」


 予想を上回るほどに落ち込む奈々子に、花子はキョロキョロと助けを求めるように朱を見る。


「あー、奈々子?お前は能力柄責任を感じやすい立場だし、深く考えない方がいいと思うぞ。」


「うん…わかってる。」


 襲撃日が近づくにつれ、訓練を重ねていても、漠然とした恐怖に襲われる。


「わかった!遊びに行こう!!私達にこそ休息は必要だろー?」


 勢いよく立ち上がり、堂々とサボり宣言をする朱。食堂のおばちゃんは目を丸くしている。


「ふ〜ん、いいこと言うじゃない朱〜。観たい映画があるから付き合ってよねっ!」


「先輩をつけろ、花子ー!」


「いったーい!」


 花子の頭からごつんと良い音が響く。高校生が中学生に暴力を振るっている現場なのに、身長差がほぼ無いため、子供同士の喧嘩に見えなくもない。


「っふふ…しょーがないわね。遊びに行きましょうか。」


 途中、ギャル子からサボりを煽るメールが何通も来ていたが、観る映画からポップコーンの味まで、言い争っていた私は気づかなかった。











「静香。ご飯食べに行かない?」


「あら、もうそんな時間なのね。はい、栄養バーのフルーツ味よ。」


 天井から頭上に向けて長方形の固形栄養食が落とされる。無機質なトレーニングルームに軟禁される毎日で、魔法少女について詳しくなったし戦えるようになった。…はず。このままじゃお荷物だった私には必要だったことだけど、トレーニングと栄養バーと睡眠だけでは生きていけないのだ。


「私は静香と一緒にご飯行きたいなー、なんて…」


 主従関係を教えられるほどボコボコにされた私は、ひどい顔でお願いしているに違いない。


「愛衣れいな…!」


「さー、午後のトレーニングは模擬戦闘だったかなー!」


「そうなら、そうと言いなさい。」


「ふぇ?」


ーオワリデス オワリデス


 シミュレーションルームの出入り口が開き、白衣姿から打って変わり、お洒落な格好の静香が待ち構えている。


「なにやってるの。早く着替えてきなさい。」


 私が血反吐を吐いていても、眉一つ動かさなかった静香が鼻歌とスキップをしながらエントランスの方へ消えていった。私の友達は脳の改造でも施されているのだろうか。…いや、これは昔からだった気もする。


 私の訓練は主に二つで、敵に慣れる訓練と、魔法少女の力を使いこなす訓練。前者は時間がかかったものの身を結んだと言っていい。後者は…うん。明日も頑張ろう。

 静香が言うには、他の魔法少女は、魔法少女になるために変身するのだけど、私は勝治くんを守るために変身したため、敵を倒す事に執着しているらしい。戦うための手と、逃げるための足。最初の変身で必要だったこと。

 自身を守ることに力を使えていない私は、一撃が致命傷になってしまう。全身を魔法少女の力というやつで覆わなくてはならないんだけど、これが難しい。癖になってるのかも。それに、静香がラブハートの特性上なんとか言ってたけど…なんだっけ?


「遅い!!!!」


「ギャーーー!!!!」


 静香が音も無く近づき更衣室のカーテンを引きちぎった。下着姿のまま連れ出されそうになったけど、何とか抵抗。仁王立ちの静香に着替える様子を見られる中、居合わせてしまった女性職員が気配を消してその場を去っていった。丁度真ん中の更衣室のせいで、扉を開けたら否が応でも見えてしまうのだ。


「あ!!これ、壊れ、え?」


 当然、シミュレーションルームの更衣室のため、男性も通り抜ける。というか、シミュレーションルームに行くためには通り抜けなくてはならない。そのためのカーテンなのである。


「なに、見てんの…伊渕ーー!!」


 静香の後ろ回し蹴りが腹部に命中し、扉を壊し廊下を転げ回る伊渕。滝城研究所魔法少女担当職員の制服は特別性で防弾仕様らしい。よかったな伊渕。これから、壊れた扉とカーテンを直さなくちゃいけなくなったけど、頑張れ伊渕。

 静香によって、情けない顔で気絶している伊渕の写真が魔法少女内で共有される。メッセージは今日の伊渕と一言付けられた。



 高層ビルが立ち並ぶオフィス街の外れ、花火を見るのに打って付けの小さな神社がある山の麓に滝城研究所はある。工場か何かだと思っていたのだが、実の所、マッドサイエンティストが蔓延る魔の巣窟であった。マッドサイエンティストランキング一位は静香である。他の職員は可哀想な伊渕と、あまり話した事のない前野くらいしか知らないので、当然の結果かも知れない。

 そんなマッド静香も、外に出れば普通の女の子である。近くの大型ショッピングモールまで、無駄に長い高級車で送ってもらう間もずっとそわそわしていた。私が飲食店を調べている中、食事はできないであろうきらびやかなお店をチョイスしていた。友達と遊びに行くだなんて何ヶ月?いや何年ぶりだろうか。

 子供の頃は行くだけでわくわくしたショッピングモール。私が行っていたとことは違う店舗だけど、内装は変わらないらしい。いつの間にか予約が取られていたパンケーキのお店に連れ込まれる。ピンクと白が基調の可愛いお店だ。それにしても、パンケーキがご飯代わりとは驚いた。


「ダブルベリーパンケーキ、シロップとホイップ2倍かけで。」


 メニューと睨めっこせずに、スムーズに注文とは流石クールハート。


「え、えっと、このチョコとバナナのパンケーキを…」


「シロップとホイップはどうしますか?」


「普通で…お願いします。」


「ちょっと待って。ホイップは二倍で。」


「かしこりましたー」


 静止を促す手が行き場所を無くしてしまった。何より、危なかったわねと言わんばかりのしたり顔がこっちを見ている。


「せめてホイップは二倍にしないと、撮り甲斐が無いことを教えてなかったわね。」


「撮りがい?」


 静香のパンケーキうんちくを聴きながら約十分。白い巨塔が運ばれてくる。驚く顔をしてみたけど、テーブルは間違っていないよう。恋する症状のような面持ちで写真を撮りまくる静香。被写体はもちろん生クリームタワーだ。


「ああ、あれね、SNSのあれね。わたしやってないけど。」


 返事はない。今は美味しそうに生クリームを頬張っている。とりあえずご飯代わりにはなるボリュームだ。未知の体験だけど


「けっこう、美味しい。」


 甘いものは苦手意識はなかったけど、食べれるものだ。気づけばお互い十分ほどで完食していた。お店も混んできたため、会計をして店を出る。そうだ、店名くらい覚えておこう。……天使の小学生?パンケーキのお店ってこういうものなのかな。いや、おかしいのか。天使のパンケーキとかじゃダメだったのかなー。


「あ!静ねぇだー!」


「バカ!自分からバラして…」


 背後から聞き覚えのある声が飛んでくる。制服姿の三人組に、静香が眉間に山脈を築きながらスタスタと向かっていく。


「あちゃー、やっちまったな!」


 向かう先は、奈々子ちゃんと朱ちゃん。そして、花子ちゃんの三人組だ。訓練が別で合わないけど、名前は静香から教えてもらったのだ。


「貴方たち学校はどうしたの?」


 笑顔が怖いというのは不思議だ。スイカに塩をかけると甘みが際立つのと同じく、怖さが倍増する。


「静ねぇも一緒に映画観にいかない?」


 ショッピングモール中にゲンコツが三度響いた。花子ちゃんが今日は二回目だのなんだの言っていたが、微笑ましい光景だと思う。こんな日々が後が十日しか続かないなんて信じたくないけど、今日を守るためにも、戦わなくてならない。




 その後のこと。結局五人で映画を観に行った。ホラー映画を絶叫上映なるもので観た。主人公を応援するだけで、怖さよりアトラクションのように感じる。花子ちゃんが必ず驚くので全く飽きなかったのも大きい。


 ショッピングモールを出て、頭が駐車券の寄生されし物(パラサイト)を発見した。偶然の出来事だったが、早期発見ができて怪我人も出ず良かったし、いつものヤツより小さかった。犬くらい?静香は今頃になって出てくることが気になっているみたい。





 二回目の襲撃日が、命をかけての戦いが恐くて眠れない。夜の散歩のつもりが神社まできてしまった。十日間。主に奈々子ちゃん…キュリオハートとの合同訓練に参加させてもらった。戦闘中は名前じゃなくて魔法少女名で呼ぶことを忘れて、何度も怒られたけど、戦える基準値までは達せた。

 当日は、滝城研究所の本社がある山中に向かう予定みたい。本社は、本業となる菌についての研究所で、侵入を許してはいけない重要な役割だ。と、まぁ、説明を受けたわけだけど、寄生されし者(パラサイト)の出現率は圧倒的に低い。私以外の魔法少女は軒並み繁華街や住宅街を担当するところから、戦力にはなりきれていないのだろう。


「へこむわぁ…栄誉バー太郎はどう思う?

(ウン!イマデキルコト ヲ ガンバロウヨ‼︎)

だよねぇ…」


「メンタルケアも大事だけど早く休みなさい。」


「うわーー!!」


 幻聴!?何で静香の声が!?夜の、山の、神社の端!偶然にも来れる場所じゃー


「後ろよ愛衣れいな」


 獣道すら無い木々の隙間から覗かせる眠そうな顔があった。


「なんで、ここにって顔ね。ずばり発信機よ。」


「発信機!?え?どこどこどこ」


「年不相応な猫のぬいぐるみキーホルダーの中よ」


 スマホにつけてあるアメリカンショートヘアの背中に、注意しないと見えないほどに小さい縫い目があってしまった。


「ねこじろうーーー!!!」


 猫を抱きしめる私の隣に、平然と座り足を組む。おのれ、今度愛用のペンに猫のシール貼ってやる。


「何かあったのかしら。」


 …魔法少女として未熟な私を支えるために、ここにきたことぐらいわかる。だから、全てを受け止めてくれるだろう。不安や不満をここで吐き出してしまいたい、未熟さを認めてしまいたい。


「最後の走り込みをしてただけ。」


 静香はずいぶん先へ行ってしまった。世界を救うため、ずっと準備をしていた、戦っていた…。まだ、追いつけないけど、私は隣を歩いていたい。子供の頃と同じように…せっかく出会えたのだから。


「そう、ならいいわ。」


 何も聞かないでくれるのね。


「私の担当さ、すぐ終わらせて手伝いに行くから。」


 静香の担当は私の地元周辺だ。何も心配はしていない。でも、大切な場所だから。


「期待してるわ。」


 戦いが始まる。大切なものを守るための戦い。







定期連絡 保護観察担当A区域職員


魔法少女関係保護対象者

虎野朱 十五名

榛名奈々子 十三名

香無静香 八名

星咲花子 二〇名

以上 計五十六名の対象者を確認

第二回襲撃日にA区域から順に保護致します


愛衣れいな


以上の魔法少女の保護対象者はA区域からE区域に確認できず、観察区域外に出たものと考えられる。

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