第二十四話③
皆が落ち着くまで大体十五分。前野もご飯を食べ終わった。私は洗い物。朱ちゃんと花子ちゃんは戦い方についてずっと話していた。二人とも接近戦メインだから気が合うのかもしれない。奈々子ちゃんは資料の裏にペンで書きなぐっていた。内容は奈々子ちゃんが使う魔法についてみたいだけど、私にはよくわからなかった。でもニヤニヤしてて可愛かったし、何かが上手くいったのかも。
「それでは後半戦、寄生されし物、寄生されし者について始めますか。」
プロジェクターはつきっぱなしだったので、スムーズに映し出される。これまで戦ってきた寄生されし物、寄生されし者だ。ご飯を食べた後でよかった。
「新しい資料をめくっていただければ、写真とともに、分類してまとまっているので確認してください。」
・自販機や信号機等を含む通常寄生されし物
・駐車券やカードゲームのカード等を含む小さく弱い寄生されし物
・魚類や蟹など生き物に寄生した寄生されし物
・他の寄生されし物を吸収し、一つの個体となった魚群の寄生されし物
・木に寄生した群生の寄生されし物
・武器を持った強個体の寄生されし物
・超巨大型寄生されし物
・人間に寄生した寄生されし者
「以上の寄生されし物に加えて、寄生元の特性を利用する個体が発見されている。しかし、特性というには発現した能力を裏付ける要素の振り幅が大きすぎる。タピオカのカップを頭部にした寄生されし物はまだしも、超巨大寄生されし物のモアイの攻撃に起因する'特性'というのがよくわからない。」
タピオカのカップを頭部にした寄生されし物は、ストローから巨大なタピオカを発射し、その弾性と威力から多くの隊員の命を奪った。誰が予想できようか。
モアイの光の輪は…うん、私も見当がつかないや。人間を吸収することに意味があるのか…私もビーム出すわけだから、人間ってビームの元になるってこと? ちょっと突飛すぎたかな。
「つまり、どーゆーこと?打つ手がないってこと?」
「いいえ、ある程度は可能かと思います。敵が強くなればなるほど、人智を超えた攻撃方法をしてくるのか…それとも人間がトリガーか…両方か。」
緊張感がはしる。写真を見ると悲惨な光景、心境を思い出してしまう。私もそうだ。
「なぁ、これおかしくねーか?」
朱ちゃんの眉毛がハの字になっている。肘をついて右頬に右手をくっつけて体重をかけている。
「まぁ、もっと細かく分類できると思うけど。」
前野は不服そうだ。何も言わないのは付き合いが長いとかじゃなくて、大人なだけだろう。
「そうじゃなくてさー、一回目の後に河川敷で倒したペットボトルは弱かったけど、二回目にモアイの前に戦った空きカップは、同じゴミ扱いだと思うけど強かったよなーって」
「朱あんた…どうしちゃったの?」
奈々子ちゃんが大袈裟に驚いてみせた。
「え?馬鹿だと思われてんの?」
「そうですね…ボスの違いとか、探せば違いはありそうですが、明確な違いは第二回襲撃日だったことによるのではないかと。」
「私もそれに同意。」
まずい、置いてかれ始めた。河川敷ってあれだよね、奈々子ちゃんの読んでた本に穴が空いて花子ちゃんが怒られてた…魔法少女になるの失敗すると爆発する話とか…あれ、同じ日だっけ?
「つーまーりー!強いやつは強くて、襲撃回を重ねるほどに敵が強くなってるってこでしょ? はやく本題いこうよ!」
「…前野、答えは出ないし…」
花子は単独での指令が多く、大変な時にいれなかったことを焦ってる…。それは花子のせいじゃないし、一人で戦い抜いて、勝って帰ってきた。この凄さを自覚していない。…でも、理解とかじゃなくて、気持ちなのよね。わかる。だから…このままでいい。この気持ちがホープハートを強くする…!
「…わかりました。これが香無研究員の愛衣れいっげふっ!ゴホッ、あ゛ーあ゛ー何でもないなんでもない!」
呼ばれた。聞き逃さない。静香も前野も…たぶん伊渕も私に隠してることあるでしょ、たぶん。
「これが、香無研究員が残したレポートに記してあった寄生されし物、寄生されし者の記述です。」
映し出されたものはチグハグで、具体性に欠け、妄想と一蹴されてしまいそうな記述と手描きの絵である。可愛くない。こわい。…静香らしくないそれを見ていると、人の日記を盗み見ているような感覚がある。罪悪感だなぁ。
前野圭雄による「愛衣れいな日記」寄生されし物未発表記述まとめ
・現代武器寄生されし物
銃や刀剣類に寄生した場合、一線を凌駕する力を持つのではないか。永遠に追尾する銃弾、全てを斬ることができる剣、一帯を破壊する爆弾を無限に生成。魚雷やミサイルに寄生した場合は事前に防げない時点で負けね。
寄生元の性能と変わらないことも考えられるわ。ただ手足が生えただけの自立移動砲台になる可能性ね。対策が容易なら問題無し。
・動物寄生されし物
動物園にいる猛獣だけに限らず、猛禽類や猪くらいなら日本にも野生で存在する。空から攻めてくる寄生されし物が生まれるのは時間の問題ね。遠距離攻撃で撃ち抜く必要あり。私や愛衣れいなであるなら対処は可能。マーカーで位置を把握する必要があるわ。私が適任ね。
・二重寄生されし物
寄生されし物に寄生する可能性。二重に寄生することに意味があるのか。体積やエネルギー源が増えること、頑強さも上がりそうね。核が二つ存在することも厄介。一つに融合したとしても核の強度が上がるでしょう。首や核を同時に破壊することを求められた場合、二人での対応になる。星崎花子の速度で同時破壊か。何秒までが同時に該当するか見極めが必要。
・オーパーツ・未確認系寄生されし物
日本に存在しているのであれば、活用は考えられる。謎が多い寄生されし物に加えて、存在があやふやなものが寄生元となれば、混乱は避けられない。対応策に、そういったものに詳しい社員を調べ上げておく必要がある。オカルト系も考えられる。幽霊が存在するとして、すり抜けるのではないか。妖怪は存在するなら寄生できそうではあるわ。
・妄想・神話系寄生されし物
人間に寄生できなくとも、人間の死体に寄生は可能だと思われる。人間の脳を活用し、寄生元の妄想や、知識として存在する神話上の生物ですら再現してくる寄生されし物の発生。それこそ、特殊能力と呼ばれるものや、自然現象を再現しかねない。正面から立ち会うには時間が必要。遠距離から核を撃ち抜くことが求められる。
・死体寄生されし物
人間や動物、何かしらの生き物の死体に寄生した寄生されし物。特に、人間の死体に寄生した場合、通常の寄生体以上の力を発揮する可能性。冥界の存在が明らかになっているため、能力と呼ばれるものを使用するか。引き込まれて一撃死だけは避けなくては。
・人間寄生されし物
生きた人間に寄生した寄生されし物。可能性としては低い。魔法少女の失敗と同じく爆発するのではないか。爆発しなくとも形を保てないわね。魔法少女と同じく、感情や、強い思いで寄生されし物になれた場合は、これ以上に厄介なことはないわ。魔法少女と同じく、呼応した力を使うはずね。強い想いを持つ人間とだけでは判別不可能。魔法少女の適性を持つ人間を探し出すとしても時間がかかりすぎる。同じ魔法少女の戦いなら経験のある私達に分があるわ。
・寄生しない元の存在
寄生生物を送り込んできている生命体。現段階で勝ち目なし。
「中でも、現代武器、動物、二重寄生されし物は十分あり得るかと。武器持ち寄生されし物が、武器を使う発想を持ってることを証明してくれているので。」
「動物も魚や蟹がいたもんね。二重はありえるの?」
「あると思う。マグロが飲み込まれて一つになったじゃん。」
花子ちゃんは真剣だ。
「そういう意味ではありえるか…」
ふむ…結果論だけど人間に寄生したし、他のも的外れなわけでもない気がする。だって静香だもん。ただの可能性でも、妄想ってほどじゃない。静香がオーパーツだとか、未確認生物とか、幽霊、妖怪なんて考えてるのは意外だったけど。もしかして、そういうのが好きだったのかな。うーん、違う気がする。
人間の脳を利用て!静香さんって、陰謀論とかも好きってこと!? 甘いもの狂いでSNSやってるだけでちょっと意外だったのに。…いや、知らないからこそ考察に入れてるってこと? 天才ってそういうものなのかぁ? れいなさんは…駄目だ、何かニヤけてるし…たぶん。資料を睨んでるわけじゃない…たぶん。
それにしても'冥界の存在が明らか'が気になる。'クール ショット デッド エンド'のこと?第一号との初戦で、身体を壊しながら撃ち放った一撃…。それ以前から冥界なんてのにアクセスできてた?引き込まれて一撃死ってなに!?冥界に行くと戻って来れないとか?そもそも行けないでしょーに。分からないことが多すぎ!!……勝ち目なしってなんなのよ……
「あー、もー! れいな、訓練相手になってくれ!身体動かしながらの方が、いい案出そうだろ?」
「え? うん、いいよ。」
「私も行きまーす。」
虎野朱、愛衣れいな、星崎花子が立ち上がる。訓練場にはα隊、β隊、γ隊とは別に、魔法少女専用のシミュレーションルームがある。
「んー…もぉ…私も行く!朱の方が正解だこれ!…前野、ごめんだけど後はよろしく。」
「はーい、ごゆっくりー」
言い切る前に彼女達は調理実習室を後にした。椅子にどかっと深く腰を下ろし、肩で息をする。
「今日の仕事終わり。もう、誰がなんと言おうと終わり!」
終わらない。小一時間後に緊急呼び出しがある。
滝城研究所にもすっかり慣れた。私に関しては住んでるのもある。すれ違う研究員の人達も多少は名前を覚えた。北山さんに北本さん、北崎さん、東北さん、北さん。その内の北本さん、北崎さん、北さんは今でも菌の研究に携わっている方で、全く関わりがない。面白いから覚えた。顔は一致しないけど、皆んな眼鏡をしてる。
「なぁ、私もれいなのビームみたいなの出したい。」
まだキックのことを諦めていないみたい。炎を纏って拳で殴る朱ちゃんのスタイルじゃ、自身を空高く浮かすことはできないのだ。敵を足場にして、無理矢理ジャンプするとかならできる。
「隣の芝生は青いってやつよ、朱。」
「そーそー、私だってビームとか炎とか出したいもんっ。」
花子ちゃんは速度を生かしてかなり上空までジャンプできる。その代わり、何か衝撃を与えられるものが無いと移動ができないため、空中で無防備になってしまう。リスクは大きい。
「いや、よー、結局物理攻撃じゃねーか。炎だけでどうにかできるようにならないと、物理無効の敵にはなす術なしだ。」
「確かにそうだけど……さっきの資料見て思うところあったの?朱。」
「まっ、そんな感じ。単純にパワーとか、数!って敵は今後減りそうって思っちった。だから何とかしなくちゃーってなー。はっはっは。」
ぺたぺた。靴の音のみが響く時間。強さに貪欲になるのはいいが、視野が狭くなるのは良くないことだ。本人達は理解があるので、時折り、頑張ってはしゃいでみたりする。
長い直線の廊下は、地下でも閉塞感がないように照明や壁紙が薄っすら水色になっている。壁のつなぎ目が埋められているのか全く無い。それらが相まって、ぼーっと歩いていると、感覚が薄れていくというか、空の中にいるみたいな、進んでいるのかどうかもわからなくなってくる。
「れいな姉ぇ?」
先頭を歩いていた花子ちゃんが、最後尾にいた私の元にやってきて、顔を覗いている。魔法少女になってからよく顔を覗かれる気がする。
「どうしたの?」
シミュレーションルームに近づく。寄生されし物を映し出すために、数多の最先端のさらに先の機材が置かれている部屋がある。そのため、近づくと音があるためわかるのだ。……行き慣れてるので目隠しでもわかるけど。
「なんかぼーっとしてた! なに考えてたの?」
横に並んで歩く。身長差が30cmくらいありそう。変身時には愛衣れいなの方が小さい。摩訶不思議。
「なにも考えてなかったよ。ぼーっとしてた。」
「ふーん…そうなんだ。だったら私が勝っちゃうよ。」
シミュレーションルームへ続く扉にカードキーをかざす。更衣室を抜け、直前の扉の前に立つ。榛名奈々子が再びカードキーをかざし、真四角で真っ白な空間が広がった。
ーコードネーム'ホープハート'
チカラヲカイホウセヨ
「「え?」」
虎野朱のみが星崎花子を無反応で見ていた。
「ゲート〜おーっぷん!」
ーキボウ ノ ヒカリ
「光り輝く!希望を皆んなにプレゼント!魔法少女ホープハート!」
真っ白なその姿は、以前のままではない。これから戦う、お前を斬るという思いが皮膚に、心に刺さってくる鋭さがあった。
「朱。悪いけど、私が先にれいな姉ぇとやる。すぐに終わるからいいよね。」
落ち着いている。少し冷たく、悲しい闘志。
「ちょっと、どうしたの?らしくないよ花子!」
反して榛名奈々子は動揺する。動揺したかった。
「…ちっ。……いいぜ。私は次でいい。」
「朱もどうしたの!?ねぇ!どうしたの!?」
理解は容易く脳に到達する。受け取った愛衣れいなに選択肢はない。
「わかった。私も本気でやるよ。」
「ねぇ!聞いてるの!答えて!!」
虎野朱は自身のカードキーかざし扉を開けた。星崎花子と虎野朱はシュミレーションルームに入っていく。自然な足つきで、星崎花子は中央へ、虎野朱は部屋の隅へ。
「奈々子ちゃん。心配しないで、大丈夫だよ。」
「大丈夫じゃない!皆んなおかしいよ…」
「皆んな強くなりたいんだ。これは覚悟だ。…私を思いやる優しい覚悟だ。だから…全力で応える!」
シミュレーションルームは姿を変える。私達が戦う前の姿の街。取り戻す景色。
ーコードネーム'ラブハート'
チカラヲカイホウセヨ
腰にかけたステッキから、何も変わらない音声が聞こえてくる。聞き慣れた機械音。
「ゲートオープン…きて!」
ーアイ ヲ アナタニ
「地球をまるっと!包み込む大きな愛!魔法少女ラブハート!!」
ラブハートvsホープハート
最強の感情vs最高速の希望




