第二十四話②
調理実習室。滝城研究所にあるはずのない部屋…いや、教室と呼ぶべきだろうか。
「確か、アイシングクッキーって言うんだっけな。」
扉には、アイシングクッキー風デザインのドアプレートに、調理実習室と書かれたものが掛けられている。見覚えがありすぎるそれは、榛名奈々子と虎野朱がいた病室に掛けられていたものである。再利用だ。再利用で食堂を占拠しやがった。
「すみません、少し遅れました。」
初手謝罪。最善の一手だ。そもそも遅れたのは、パソコンじゃ見づらいからプロジェクターを持ってこいと言ってきた中学生のせいだ。僕は悪くない。だが、アレらは気性が荒い。この開ける前から圧がある入り口が物語っている。
ガラ…ガラ、ガラガラガラガラ
「なっ、食堂に夕日が沈んで…っ!」
眼前に広がったのは、暑さを感じるほど近くに感じられる夕日…! まだ太陽がギラギラと我が物顔で空にあるはず。だのに、夕日の哀愁さも美味しそうな匂いも……匂い…
「前野下だ。しーたっ。」
椅子に座って大量のライスとトンカツを頬張る虎野朱がいた。モゴモゴしながらこっちを見ている。それは夕日ではなく、チョモランマが如く積み上がったトンカツとその他フライだった。
「グラタンパンを作ると聞いていた、のですが。」
「前野ちゃんこっちこっちー! それは朱のご飯!前野ちゃんも食べる?」
三人の魔法少女が、パンをちぎっては中のグラタンにつけて食べている。実に美味しそうだ。こっちは昼抜きで急いできたのに。
「実はね、れいな姉ぇがさ、ほら、グラタンパンってパンの中身くり抜くじゃん?その中身揚げて砂糖まぶし始めてねっ!その続きで冷蔵庫にあった豚肉とかも揚げ始めたんだよねー!」
「冷蔵庫のもの勝手に使っちゃったけど、朱ちゃんいっぱい食べるから。」
なるほど。病院食にもなるってのに、真逆の食べもん作りやがって。
「よいしょ、あ、ご飯はこの炊飯器?」
「あ、前野!ご飯取るなよー!」
「ばっか、魔法少女の健康管理も僕の仕事だ。」
「興奮すると一人称俺の癖に。」
「えー、虎野朱、食事制限の必要あり…っと」
「はっはっは。後で燃やしておくからな、その手帳。」
朱ちゃんは食事を再開する。もう揚げ物の山が半壊している。揚げ物に隠れて炊飯器が頭を出した。朱ちゃん専用の炊飯器があったようだ。
前野…さんは、トンカツとアジフライ、イカリング、エビフライ、一瞬でメニューを見極めて皿に持ったみたい。やるな。チキンカツは見つけられなかったようだけど。
「ん、美味いな。すげー美味い。」
「あ、ありがとうございます。よく食べますね。」
「…? 伊渕と同じ扱いでいいですよ。んっ、やっぱ美味いな。チキンカツも取ってくればよかった。」
……ふん。
「前野。ちゃんと持ってきてくれた?」
「順応がはやい。…全部じゃないけど、ちゃんと言われた分は持ってきたよ。そこの食べ切れなくて困ってる人に怒られるんでね。」
「おおーい、別に怒ったりしないでしょ。モー、ヤダー。」
それは嘘。
「朱ー?食べ終わったら始めるよ。」
「はいよー。美味しかったぞ!」
食べてもらう機会なんて無かったから知らなかっただけで、私ってば料理できるのか。一人暮らし長いからかな。いや、海子さんに教わったからだろうけど。あの人たくさん食べる人が好きだったなぁ。今では理解出来るようになった。歳かな。
「僕は食べ始めたばっかりですけど、起動するまでに、事前確認しますね。」
「パスワードなに?」
榛名奈々子が勝手にいじっている。猛烈に思いつくパスワードを叩き込んでいるが、ロックがかかるからやめてほしい。
「あーあー、わかりましたって、ご飯は後にするのでやめてください。」
「わかればよろしい。」
この雑な感じは奈々子ちゃんと朱ちゃんが、魔法少女になってしばらく経ってかららしい。朱ちゃん曰く、かしこまってると訓練中に弊害になるからって前野から提案があったそうだ。仲良いことは素晴らしきかな。
プロジェクターが音を立てている。もうすぐ起動が終わるのかな。わりと時間かかるよね。
「えー、各自の武器と、今後発生が予想される寄生されし物、寄生されし者について、香無研究員のレポートを読み漁ることが今回の目的ですね。」
「はーい!大丈夫だよ〜。」
設置したプロジェクター脇にパソコンと前野。最前列に花子ちゃん。その斜め右後ろに奈々子ちゃんと朱ちゃん。左後ろに私。
前野のご飯に手を出そうとした朱ちゃんの腕を奈々子ちゃんが掴む。なんか…既視感が…。
「それでは武器からいきましょう。資料ペラペラめくりながら聞いてもらえるとわかりやすいかと。」
前野は十枚ほどの資料を配る。下段に詳しい事がまとめられていて、図と簡潔な内容が中心にでかでかと書かれている。わかりやすい。
「流石、良い仕事してる。朱や花子にもわかりやすい。」
「はぁ〜〜?年下相手にイキって喜んじゃって、かわいそ〜〜」
「はっはっは!英語も現文も負けてるクセに〜」
「まーっだ言ってる!まーっだ言ってる!総合力で勝負しなさいよ!」
ふふっ、いつもの展開が微笑ましい。
「それではラブハート 愛衣れいなさんのMMS(マジカルメタモルフォーゼステッキ)-001号機から始めます。」
前野はスルースキルが高いなぁ。
「そんな名前だったんだ。」
「1号機ってなーにー?」
「ワンドじゃなくてステッキなのね。」
「2号機以降も作成予定でしたが、1号機に機能付け加え続けたので無くなりました。資料を見ての通り、魔法少女が力を流しやすいようになっているのと、よく喋る、アラームをする、変身の強制解除、お菓子が収納してある等の機能があることは確認できてます。あと機能付けすぎて重いです。」
「ええ!?お菓子腐ってない?」
「そこじゃないでしょ。」
前野は少し頭を抱える。なんだ、やるのか?
「お菓子は数年保ちますよ。賞味期限切れとか気にせずに。何故そんな機能があるかは、ページ下部に書いてあるので暇な人だけ読んでおいてください。そんな事はどうでもいいんです。」
保存食…。後で読んでおこう。暇じゃないけど。
「このメタモルフォーゼって、ラブハートにではなく、棒自体が変形することみたいなんですよね。」
「変形?」
「詳しいことはわかりません。日記に書いてなくて。おそらく、内容が消されていて、これは危ないとだけ書いてある日記があったので関係があるかなと。復元はできないと思いますが、やってはみるので文句言わないでください。」
「な、何も言ってないのに…」
あの棒が変形するとなると…銃になるとか?見た目ダウジングの棒みたいになりそう。お菓子取り出すところから始めてみようか。
「前野ー!早く私のグローブやってくれ!」
朱ちゃんが前のめりになって手をあげている。それに対して花子ちゃんがやれやれと手を広げる。そんな花子ちゃんは自身の武器のページを開きスタンバイ済みだ。
「パッションハート 虎野朱さんの武器、パッション ガントレットとパッション ブースターですね。ガントレットは、まぁグローブで良いです。ブースターはかかとに付けてるやつです。」
「ほう、それでそれで?」
ウキウキだ。
「ブースターは何も無いです。ラブハートのステッキと同じ役割です。」
「な、なにー!?」
ノリノリだ。
「ガントレットの方ですが……なんと……」
前野もノってきた。
「……変形します!」
「うおおおおおおおおお!!!」
うおおおおー……あ、そうか。朱ちゃんのが変形するから、私のが変形するのに疑問がなかったのか。
「両手で指を絡めるように組み、力を入れ、前に噴射するように放出すると装甲が外れます!」
「うおおおお!……外れるって良いのか?変形か?」
「変形って書いてあったので。防御力が落ちるのでお勧めしたくなかったようですよ。軽量化することと、パージした際に雑魚は倒せる、強いなら目眩し程度の効果はあるそうです。…正直、香無研究員的には珍しくボツ機能だったのではないかと。」
空いた口が塞がらない。朱ちゃんの。花子ちゃんも煽ろうと後ろを向いたけど、本当にショックを受けている姿を見てアワアワしている。
「朱。有効性あるよ。」
「ほ、ほんとうかぁ?」
「内部でパージさせれば効果ありそうだし、目眩しも、再変身が比較的楽な朱には強い武器に化けるでしょ?」
「そうだな……」
む、納得しないか。
「何より変形するのはカッコいいじゃない。」
これでどうだ。
「…! そうだな!はっはっは!」
…たぶんパージしたパーツが、時間経過で戻ってくるはず。そうしないと一回きりになるから、静香さんなら戻る機能も付けてる。絶対。でも…戻ってくると隠れてる場所バレるから、回復する時間は作れないだろうなぁ。
「ねぇ、朱ちゃん。力溜めまくってさ、無理やりパージしたら爆発するんじゃない? あ、腕が大変なことになっちゃうね。」
……!!
「それだ!たぶん静香さんも必殺技として用意しようとしたんじゃない!? デメリットさえ克服できれば…なんとか!」
「おお!盛り上がってきたな!」
ラブボンバーと同じことを考えて言ってみたけど、何だか上手くいったみたい。
「うんうん。盛り上がってきたのはいいことです。でも、長くなるので次いきますよ。」
前野お腹すいたのかな。後で揚げ物を温め直してあげよう。
「はい、次はホープハート 星崎花子のホープ ソードですね。」
「さぁ前野ちゃん!凄いの言っちゃって!」
目をキラキラとさせている。期待度はかなり高めだ。
「剣の鞘に機能がありました。」
「それでそれで?」
「なんと鞘が光を吸収します。剣を吸収した鞘に一度戻して引き抜くと、剣自体が光の力で強化されます。」
「いや〜強くなりすぎちゃったかな〜。ふへへへ。」
照れている。可愛い。正面から見たい。
「で、何で静香さんは教えてくれなかったの?」
…あちゃー。花子ちゃんが止まっちゃった。
「めちゃくちゃ熱くなります。鞘が。そのため腰につけていられません。起動する時は地面に突き立て、動かさないようにしないと光を集められません。剣も時間が経つと強化が解けます。また、強化中は光るようで、敵によってはバレバレです。結論、速さで勝負するホープハートには合っていません。愚鈍で動かない敵には使えるのではないでしょうか。」
話の途中から花子ちゃんが真っ白に。灰になって消えてしまいそう。
「…えっと、花子? 今は考えつかないけど、後で一緒に考えよ?」
「…うん……」
んー、持ち歩けたら使えるってことだよね。静香が機能付ける時に無かったことも今はあるだろうし……わからんっ。
「最後にキュリオハート 榛名奈々子。変身時に出現する本…名前ありましたっけ?」
「魔法の書。そのままにした。」
「では、魔法の書に挟む用の栞こと、魔法の栞ですが、有名な芸術家に魔法を表現したイラストを描いてもらっているそうです。」
………そんだけ?
「………そんだけ?」
ハモってしまった。
「それだけです。それでは、今後発生が予想される寄生されし物、寄生されし者について……休憩挟みますか。」
一度パソコンを閉じて椅子に座る。まだ食べ切れていないご飯が残っている。
「あ、揚げ物温めますよ。」
「ありがとう。…レモンあったりする?」
「私には合ってない…使えない…」
「ぐぅ、渡された時に「便利でしょ」としか言われなかった…けど、なんか幻想的なイラストだし…でも、使えるなら静香さんが言わないはずない…いや…でも…うーん…」
「はっはっは!元気だせよなー!」
次回、寄生されし物、寄生されし者対策会議?




