第二十四話①
グレー色の迷彩服を纏う屈強な人間達は、五列、三ブロックに分かれて並んでいる。中には派手なピンク色のゼッケンをつけている者もいて、周囲の色ついた目線を奪っている。
無機質。四方に鉄板を埋め込んだら、行き来の扉を用意して、地下だし窓もいらないな。空気穴だけ付けとけば、文句を言う人がどこにいようが口を塞げる。本当に、どこにいようとも。
無機質部屋に訳あり人間。開かれた扉から入場したのは前野圭雄。クリーニングに出したばかりのスーツを身にまとい大勢の眼前に。首元につけたマイクを触るから、不快な音が室内に反響してしまう。偉そうな咳払いを済まし本題へ。
「新生α隊、β隊、γ隊。君達は特殊魔装部隊として魔法少女の補佐を行ってもらう。」
粛々と進んでいくガイダンスは、命に関する話が多く、少しくどい。新生された部隊員は半分ほど上の空の様子。隊長や副隊長といった隊員は、義務感か、責任感か、内容は把握しようとする姿勢が見られる。原因は原稿を音読しているだけの前野にもあるだろう。
「敵によっては死体すら残らない場合もある。誰が生き残っているかを瞬時に判断できるか否かは、生死に直結する能力であり…えー、同部隊の隊員の顔と役割を把握するためにも」
「ふっは!一人で戦え無いやつは死んじゃうから、覚えなくてもいいゾっ!先輩からのありがたいお言葉で〜す。」
………。時に人は立ち止まる時間を必要とする。
「えー、人を助ける行為は己を助ける行為に繋がっているか、それは時と場合によりますが、
「もう一度言ってみろや、ガキ。」
反して、集団となると、立ち止まる時間を拒絶する人間がいることも確かである。
「おぅおぅ、じ、人材不足だなぁ。こんな雑魚でも時間稼げるのかなぁ〜。不安だなぁ。ふひっ。」
「…私達は人を助けるために己をも助ける使命があるので、犠牲が助ける行為に繋がっているわけです。」
「そうか、ガキだろうと女だろうと殴れる俺は幸せもんだなぁ!」
β隊のスキンヘッドの男は拳を振り上げる。服と同じ柄のキャップが勢いで落ちると、はち切れそうな血管が浮き出ていることを確認できた。
「おーっと!まぁまぁ、ちょっと、落ち着きましょうよっ、ね! この女イカれてんすわ。ねっ!」
女と顔見知りであろう男が静止に入る。寄生されし物だけでなく、寄生されし者と相対し、生き残った猛者であるにも関わらず膝が少しビートを刻んでいる。
「すまないな。俺の部隊員だ。後でキツく言っておくから勘弁してやってくれ。」
頭を掻きながらダルそうに話しかける男はγ隊の隊長。第二回襲撃日の功績から総隊長としての責務を負うこととなった。本人にやる気は無いもよう。
「……人類の為に死ねではなく、人類の為になるためには生きなくてはなりません。これから向かう戦場では例外なく、死ぬことが楽であり、助かる道です。」
「た、隊長ぉ〜。このハゲ、後輩のくせになめーきなんですよー。」
「いや、お前の方がっっっ!!??」
スキンヘッドのβ隊員が振り下ろされた拳は隊長の後頭部に命中した。
「頭も下げれねーのか?隊長様はひょっ!?」
スキンヘッドに真っ赤な線が一本。
「あっつッッ!!!」
天井には銃弾が一発埋め込まれた。ここは体育館でも無ければ、銃弾はバレーボールではないので、そのままデザインとしてほっとかれるだろう。
「て、テメー…アタシの隊長に何晒しとんじゃー!!!」
女の左手には藍色の銃。真四角の形像でトリガー部分のみ手をかけられるよう空洞になっている。以前から改良され、二つの銃口が空いているため、一つの銃から銃弾と拘束弾を発射できるようになった。両肩に装備してあり、プロテクターの役割もこなしている優れもの。ただし、特殊な形像の他、狙いづらいため訓練が必要。ほぼB6サイズのため、そのままB6と呼ばれている。
「こ、こいつやりやがったー!!!」
「何してんだイカれ女!」
「おい!この女を取り押さえろ!」
「よくもうちの隊員を撃ちやがったな!」
「ふひっ、全員でかかってこいや馴れ合い部隊め」
「撃て!撃ち殺せ!」
「俺の足踏んでんじゃねーぞお前!」
「肩のB6が当たってんだよきぃつけろボケ!」
「なんだとテメー!」
銃声と肉が殴られる音が響く。スキンヘッドの男は鼻血まで噴き出ている。
「隊長!なに無言で槍伸ばしてるんですか!?」
「馬鹿野郎、カバーしたままだろうが」
「テメーら!B6は無しにして槍出しな!カバー付けたままでな!」
「α隊の隊長まで加わるのかよ」
「ふひひっ、銃無しならアタシの試し斬り手伝ってくださぁぁあああい」
「ヤベェ!魔装兵器だ!何で平隊員の女が持ってんだ、早く逃げろ!」
「身長よりデカいぞ…ノコギリみたいな大剣に大鎌?…何にしろ普通じゃねー!」
「えー、それでは急遽内容を変更いたしまして、今から親睦会にします。怪我人は出口右手の突き当たり仮設救護室に。」
前野はノートパソコンで頼り無いガードをしながら、無機質な部屋を後にする。
「こっわ〜……ね、奈々子見てた? 前回私を背負ってくれてたハゲの人血だらけだ。」
これから一緒に戦う部隊をモニター越しで見ながら、ホープハートこと星崎花子は話しかける。
「見てたわよ。私が設置したんだから当たり前でしょ。」
玉ねぎをみじん切りにしながらキュリオハート 榛名奈々子は答える。
「前野ちゃんにカメラ頼んだのは私だもん!」
一斤の食パンを抱きしめながら、モニターの前から離れない。
「おおっ!ニンニクがぐちゃぐちゃだ!」
榛名奈々子の背後で盛り上がる二人。
「え?普通じゃないの?え?」
ニンニクを握りつぶしていたのはラブハート 愛衣れいな。魔法少女握力ランキング一位。
「私はできるけど、普通ではないだろー?はっはっは!」
パッションハート 虎野朱。両手で挟むようにじゃがいもを持ち、粉砕する。
「わっ!…皮剥く前にバラバラにしてよかったの?」
「あ、そうか。やっちまったなー。」
「やっちまったなー…じゃなーーい!!!!包丁使え包丁を! 皮剥く前とかじゃ!ない!っの!」
あれから一ヶ月以上経った。私達は以前より一緒にいる時間が増えた。いつ死ぬかわからないとか、マイナスな理由ってわけじゃない。何か、覚悟的な…? うん、ただ、一緒にいたいだけかもしれない。でも、私達四人は前向きになったのは確かだ。身も心も魔法少女になっていく…望みが明確になる怖さが薄れていくのだ。
「ねぇ、れいなさん。その手こっち向けないでね。」
忘れ去られたニンニク。握り潰され続けたことにより、激臭を放つ液体が両手から滴っていた。
「わー!無くなっちゃう!」
急いで両手を開く。まな板にぽとりとニンニクだったカスが鎮座した。両手を覆う液体は開いたと同時に飛び散る。いつのまにか虎野朱は星崎花子と共にモニターを見ていた。
「ぎゃーー!!っエプロンセーフ!……いや、お気に入りのやつ!!!!」
「あ、ごめん…」
勢いよく着ていたエプロンを床に叩きつける奈々子。れいなはリュックから何かを取り出し始めた。
「これ、洗濯してる間に使って。予備で持ってきたんだ。」
「エプロンの予備って…まぁ使わせてもらおうかな。」
れいなさん、無頓着に見えて可愛いエプロンしてるし少し期待。
……れいなさんのはシルエットの猫が寝転んでる感じのやつ。ちょっとしたアクセントというか、主張し過ぎてないわけ。
「ぷぷー、見て見て朱。すっごいよー。」
「ぶっ!そ、それはちょっと、ぶはっはっは!」
「…もうエプロンじゃなくて芸術作品なのよ…」
奈々子の胸部からは大口を開けた可愛らしい猫の顔面が飛び出ていた。超が付くほどリアルな猫。猫ミュージカルだった。
「買ったけどサイズ合わなくてさ、よかったら奈々子ちゃんにあげるよ。」
「んん〜っ、い、らんわぁぁーー!!!」
今日は魔法少女四人で昼食にグラタンパンを作っています。本来行くはずだった静香さんのオススメの店はもぬけの殻だったから。そりゃそうよね。
今日の予定はグラタンパンを食べた後、魔法少女各自の武器や、今後発生が予想される寄生されし物、寄生されし者について学ぶことになっている。武器について、私達が知らない静香さんのサプライズ機能が残っているだろうから。寄生生物についても、確証が無いって理由で話してくれてない予測がいっぱいあるはずだ。
前野は出し渋ってたなぁ。パスワード管理してるの前野しかいないのを良いことに。何か良く無いことでも見つけたのだろうか。少し楽しみである。この榛名奈々子に隠し通せるものなどないのだ!………少しでも静香さんのこと知れたらいいなぁ。
「なぁ〜、れいながさ、…聞いてる?」
あ!静香さんってどこで服買ってたんだろ。そういうのもわかったりするのかな。未来の私の為に抑えとく必要があるわよね。
「あんさ〜、れいながくり抜いた食パンの中身を揚げて砂糖まぶしたの作ったぞ。」
いや、れいなさんが知ってるかな。でも猫だからなぁ〜。普段の服はカッコいいけど、猫なんだよなぁ〜。
「もうなくなるけど、奈々子は食べなくていいのか?」
「食べる!!」
「おい…ガキ、強すぎだ。絶対おかしい。」
「ふひっ…ハゲのおっさんも強いジャーン!…」
「何でだ、なんでこのイカれ女との差が埋まらない…」
……α隊の隊長を最後には圧倒してたな。こりゃ俺より強いってことか? γ隊の隊長代わってくれ……いや、やっぱいい。
「泣いてんのぉ後輩くんっ!かっなしいねぇ〜」
「な、泣いてない! 人間性が終わってんだ、総合で俺の勝ちだっつの。」
「ふっ、坊主。人間性じゃ生き残れねぇぞ。」
「おおお、良いこと言うなぁ、生存ハゲに改名してあげよう。」
「元々ハゲって名前じゃねぇよ…俺は君山 ジェイスンだ。」
「アタシは恐山。ハゲすんは覚えなくてもいいよ!どうせ死んじゃうしぃ。」
「お、おお、お恐山ぁ!? ハッハッハッハ!!似合いすぎてっ、ぷっ、はーはっはっは!」
「隊長ぉ〜、このハゲぶん殴っちゃって!」
「もう誰も動けねぇよ…」
緊急出動があったらどうすんだ
誰が見つけてきたんだ、全く…
それにしてもこれは私の仕事ではないでしょう…
ボソボソと愚痴がよだれの如く湧いて出る。午後から仕事がある前野に代わり様子を見にきた伊渕が、今日一番の貧乏くじだった。




