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魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
25/71

香無静香の冷静(前)

おい!ここの枠だけ消えねぇぞ!


なんで?


他の魔法少女撮りにいったやつ全滅だよね?


戦ってるのって例の化け物じゃん


すげー、やっぱり人間じゃねーんだな


勝ってくれ。まだ死にたくない。


あれが地球滅ぼせるはずないだろ。考えたらわかる。ミサイルでも撃てば解決だろぉ?


魔法少女は悪魔の使徒です。滅ぼされることを願いましょう。私達は……

↑戦ってもらって文句言うな。俺は悪魔に助けられた。


悪魔でも何でもいい。あの子が助けてくれたんだ。応援せずして何をするのか。


悪魔じゃない魔法少女だ。俺も応援するぞ。


頑張れ魔法少女


日本は何やってんの?早く魔法少女を助けてよ


お願いです勝ってください。息子は今年小学生になったばかりです。お願いです。私にできることは何でもします。だから勝ってください。お願いします。


勝て!!


頑張れー!魔法少女頑張れー!


俺の家はもう無いけどさ、戦ってくれてありがとう。


俺は家も会社も無くなった!でも、大丈夫だ!戦ってくれてありがとう!




魔法少女ラブハート。彼女の名前よ。世界を救う彼女の名前を決して忘れないように。私からの最後の願いよ。








 

「ふひっ、終わったらクビだなっ。おっそろし〜。」


 防弾装甲の真っ黒な車は、外からは運転席すらも覗き込めない。瓦礫を踏みつけてもパンクはしない。車内の揺れは気にならないほど。


「誰がクビにするんだよ。ちょっとは考えて話せよ、イカれ女。」


 向かい合って座る男女は特殊な装いである。男の太ももには光で反射するテープが巻かれている。女はビビットピンクの派手なゼッケンが目立つ。人間相手ではすぐに発見されてしまうだろう。何を相手取っているかは明確にされていない。


「お前ら少し黙っとけ。遠足じゃねーことぐらいわかるだろ。」


 運転する男は低い声から威厳がある。法定速度は優に超えているが、既に道路として機能しておらず、取り締まる人間はいない。


「うぃ〜。」


「すみません、隊長。」


 それを見て扉の近くに座る白衣を着た女性は口を開く。


「構わないわ。仕事じゃなく私の我儘ですもの。」


 足を組み直す仕草に視線が流れる隊員がγ隊に一人。隊長と呼ばれる男は、驚きを打ち消すためか何度も咳をした。バックミラーでは表情までわからない。


「いえ、そうは言ってもですね

「しっつもん言いですかー!?」


「おい!余計なこと

「話しなさい。構わないと言ったはずよ。」


 二度も言葉を遮られた男と、会話に入るタイミングを逃した男。愚鈍な男二人は、凍った空気の対処をイカれ女に託すことになる。


「ふひひ、じゃあぁ、なんで役立たずが戦おうとしてるんですかねっ?」


 こ、このイカれ女がぁ!!!!!

 心の声はリンクする。既に下着はびしょ濡れ。脇汗は服の上から確認できる。次段階では過呼吸になる予定だ。


「…私にも出来ることがある。そう、思いたいのかも知れないわ。」


 少し目を逸らし、窓の外を見る。隙間から覗く景色は、元の姿と活気を失った敗北の色。慣れることはなかった。


「ほえ〜、それってぇ!具体的には

「あ!そ、そうだ!香無さんの昔の話とか聞きたいです!」


 暴走を止めるため、一歩踏み出す言葉のカット。反して、運転席では呼吸が荒くなっていく。


 おい、おい、おいおいおいおい!それも駄目だ!そんな勇気を教えた覚えはないぞ馬鹿野郎!メガネの研究員の一ヶ月青アザ伝説を知らないのか!?


 数多の戦場を生き残った男は、今、人生で一番、人生を消費している。日が落ちる前から鼓動のリズムは最高潮だ。


「質問権の横取りとはっ…偉くなったものだな新人くんっ!」


「お前のが後輩だっつの!!」


 そうだ。北に行こう。熊とか猪なんかを狩って生きてみるか。




「…そうね。こんな日だもの、昔話も悪くはないわ。」


 ……たすかっ…た?



「あれは小学三年生の頃。私はいじめを受けていたわ。」








        香無静香の冷静



「私に話しかけない方がいいわ。」


 クラスの隅でぶ厚い本を開く女の子が言った。その子の机は削られた跡があり、きたない、きもい、でてけ、きえろ、ハッキリ読めるのはこんなところ。後で聞いた話だけど、大人達は揃って「気味が悪い」と関わろうとしなかったそうだ。


「なんで?それ、なんか難しそうだね。なんの本?」


 八歳にして目つきが悪い転校生が話しかける。香無静香が転校して半月が経った日のことだった。隣のクラスの子が話しかけにくるなんて、からかいに来るか、いじめられっ子が希望を持ってやってきたのか…不快な訪問だと決めつける。香無静香はひねくれていた。


「………。」


 静かに本を読み進める。


「ねぇ…あ、あの、……うん…」


 話しかけにきた子は(ども)ってしまう。


「れいなちゃん!ドッチやらないの?」


 教室のドアから元気な声がする。やんちゃそうな女の子。


「あ、ごめん、後でいくね。」


 「わかったー」と返答が届けられる。既に遠くからの声。立ち止まって話せないのだろうか。その数秒で何か変わるのだろうか。丁寧さが足りない。


「あ、わ、私は隣のクラスで…」


 根暗な女の子がめくる本の表紙には'超菌再生論'と書かれている。著者は…香無・B・ドルガール。


「興味ないわ。消えてちょうだい。」


 ………。十五分ほどたったか。めくられたページ数は三十枚といったところ。アンケート用紙を栞代わりに挟み、ゆっくりと立ち上がる。トイレに行ったら休み時間も終わるだろう。完璧な時間調整である。


「んぐっ!」


 伸びきった前髪に隠れたデコがぶつかる。立ち上がったはずの椅子に座り戻された。衝撃で首にかけた家の鍵が服の中で暴れて痛い。


「なに…え?」


 涙目で鼻血を垂らして棒立ちしている女の子。間違いなく話しかけてきた子だ。デコが顔面に当たったのか。状況が飲み込めなくて、数秒時が止まった。教室がざわざわする。鼻血だ!鼻血だ!と、見たらわかることを何度も繰り返して馬鹿みたい。

 いえ、違うわ。どうしても聞きたいことができた。


「ずっとそこに立っていたの?」



 '愛衣れいな'は答えた。




「き、消えてっ…なんてっ、いわっ、言わないで…」


 スカートを握る手に力が入っている。涙をこぼさないように、我慢、をしているのだ。


 '香無静香'は理解できない。


 涙を流したのは私の方だった。涙の理由はわからない。




「きゃー!!何やってるの!喧嘩はやめて!!」


 甲高い声で女教師が叫ぶ。騒ぎは大きくなり、私達の事情も聞かずに両親が呼び出されることとなった。何の部屋だったか、ふかふかのソファーで、お菓子がテーブルに置いてあった。


 結局、二人の両親は来なかった。


 放課後になり、二人で帰るように言い渡された。帰り際、こんな事態に来ない親なんて失格だと教師どもが話していたのが聞こえた。

 愛衣れいながギラりと睨む。小学三年生の女の子に睨まれ黙る大人達。私はスッキリした。



 帰り道。意外にも私の住むマンションと家が近く、なかなか別れることができない。

 夕暮れの通学路。二人で並んで帰る。空気が生暖かく、立ち並ぶ一軒家の玄関には、クローンのような朝顔の苗が決まって置いてある。


「私はトマト育ててるよ。」


 使い込んでいる赤いランドセルを揺らして話し出す。もう必要ないはずのティッシュが右鼻に突っ込まれている。


「あ、これはね、海子さんのおさがりなんだ。欲しいなんて言ってないのにくれたんだよ。実は欲しかったんだけどね。」


 よく見てる。


「…私に構う必要はなに?貴方に得なんて無いはずよ。」


 色褪せた青色のランドセルを揺らして話しかける。


「えーっと、得とかよくわからないけど、難しそうな本読んでて…いや、なんだろ…うまく言えない…」


 空を見上げて考えている。そのまま、ふらふらと歩く。


「んー、私にもよくわからないかも。でもね、なんて言うんだっけ、こういうの。」


 いつのまにかビルが増え始め、交通量も比例して増えてきた。


「あ!そうだ!」


 信号の赤色が目に焼き付く。十年以上経っても、この赤色はフラッシュバックする。


「危ない!!!!」


 伸ばした手がランドセルのかぶせ蓋を掴む。思いっきり引っ張ると、中が見えるほどに破けてしまった。私をクッションにして尻もちをつく。


「あなたに…興味があったから…」


 鼻から飛び出たティッシュは道路に落ちている。その上をトラックが、軽くクラクションを鳴らしながら通り過ぎた。背後の歩行者は、見るだけで足を止める者はいなかった。



 ため息をつく。



「愛衣れいな。もう少し周りを見なさい。危ないわ。」





 愛衣れいなはその後いじめを受ける。私と仲良くしたからか、ビリビリのランドセルを縫っているのが気に食わなかったのか。理由はわからない。当時から身長が高く、目つきが鋭かった愛衣れいなへのいじめはすぐに終わった。しかし、距離は埋まらずに、ドッチボールに誘われることがなくなった。


 私へのいじめは飽きたのか、本をゆっくり読めるようになった。愛衣れいなは本の内容をしつこく聞くから、頑張って説明してあげてるのに、半分も理解してくれなかった。

「凄い!小学生が半分理解できるの凄いから!!」

 榛名奈々子の声が聞こえる。幻聴か。





「静香ってお父さんがイギリス人でしょ? 静香も香無・B・静香ってこと?」


 もぐもぐ。


「私は香無静香よ。ミドルネームは要らないわ。てっきり、苗字が香無であることを聞かれるのかと思ったけど、着眼点が違うのね、流石よ。」


 私達は一緒に帰ることが習慣となっていた。帰りに駄菓子屋でチョコ菓子の買い食いもする。


「あー、たしかにそうかも。」


「そういえば、ご両親は何をやっているの?」


「静香のママとパパは研究員で帰ってこないんだっけ。私のママは警察で、パパはお医者さんだよ。二人とも海外で働いてるの。」


「海外で働いてるって、特殊な環境なのね。」


 お父様は調べがついたが、お母様は今になっても情報が出てこない。おそらく表の人間じゃない。愛衣れいなは知っていたのだろうか。


「れいなちゃーん!」


 籠原海子。お母様のお知り合いだとか。謎に包まれているが、歳はそこまで離れていないと思われる。


「あ、海子お姉ちゃん!」


 そう、まさしく姉妹といったところ。顔は似ていない。

 ハグする二人の横目に挨拶をする。


「こんにちは。」


 挨拶は基本。


「あらー!しずちゃんも一緒ねっ。そうだ、カレー食べていきなさい。れいなちゃんは食べるでしょ?」

「食べるー」

「今日はそのまま泊まっていっちゃえば?親御さんには電話してあげる!明日は土曜日だけど何か用事あったかしら。あと、そうそう、朝カレーって健康に良いらしいわ!あ、でも、夜と朝で連続カレーになっちゃうわね。どーしようかしら!」


 そうね。私もそう思うわ。


「あーとっ、嫌いなものがあっても一口はたべてもらうからね〜。厳しいんだから〜。でも実は私は、嫌いなものはれいなちゃんに食べてもらっちゃう!内緒だよ〜。この子何でも食べちゃうから。」

「じゃがいも蒸した?」

「もちろん、じゃがいも用意してるわ。しずちゃんもじゃがいも食べるわよね。ここの角曲がったら近いけど、商店街寄ろうかしら。好きなお菓子買ってあげようか。って、あらやだ、お米少なくなってたの思い出したわ。買ってから帰りましょ。家着いたら、ご飯炊いてる時間に二人ともお風呂入っちゃえばどうかしら?」


 そうね。私もそう思うわ。


「静香、お風呂一緒に入ろう。」


「そうね。私もそう思うわ。」


           …?


「ふふっ、急いで帰りましょうか。」


 愛衣れいなと籠原海子に合わせて両手を掴まれて引きずられて行く。あまりに慣れない普通の家庭に、ドギマギしていたが、心地の良いものだった。

 二人でお風呂に入り、シャンプーハットなるものを使ってみた。正直邪魔。甘い匂いのボディーソープは好印象を持てた。

 風呂から上がるとカレーの良い匂いがする。親が帰ってくる稀日以外は、シュークリームやケーキ、冷凍のグラタンで好き放題していた私には、健康が過ぎる匂いだ。


「へ〜、菌の研究…ピンとこないけど、納豆菌なら知ってるわよ。」


 パクパクとカレーを頬張る。家庭のカレーって結構本格的なのね。


「違うよ海子お姉ちゃん。凄いんだよ、無くなった腕とか生えてくるんだって!菌で細胞を活性化し続け形作るんだよ。医療だよ、医療。」


 説明不足よ。勉強が足りないわね。


「それは凄いわねぇ、サイン貰った方が良いかしら。」


「残念だけど、今の段階では、治る前に寿命が尽きることになるわ。」


「じゃあ長生きしなくちゃね!」


 ………。


「れいなちゃんもしずちゃんも、カレーのおかわりまだまだあるからね。」


 愛衣れいなと関わるようになって、疑問が増えたような気がする。


「おかわり!」


「はーい。しずちゃんは?」


「私は大丈夫。……このじゃがいもはいつ食べればいいのかしら。」


 夜が更けていく。


 愛衣れいなとの別れが近づく。

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