第二十二話
一つになった両腕の刃は、背中から突き刺さり胸部から腹部にかけて尖端が露出した。ビームでは止まらなかった刃は、一人の人間の肉体で停止した。
胸部に巣づいた見覚えのある赤黒い泥は、寄生した生命と運命を共にした。どろりと落ちた泥によって、止められていた傷口から激しく出血し、愛衣れいなに真っ赤な雨が降り注がれた。
刃が背中から地に落ちた。刃には鼓動を繰り返す赤黒い血管が這う。カタカタと刃は駄々をこねるが、持ち主に飛び戻ることはできない。時が経つと静かになった。
大きな穴を通り抜ける風が、身体の内部を感じさせる。折れた肋骨と形の崩れた心臓、血の香り、滴り落ちる液体の音。しかし、愛衣れいなの瞳には、親愛なる女性の笑顔が映し出された。
「愛衣れいな。よかったわ。助か…った、の、ね。」
倒れるクールハート。守るために広げた両腕が私を抱きしめる。変身を保つことはできない。汚れた白衣の香無静香から、青く澄んだシャボン玉が浮き出ては、空に向けて上がっていく。
「よくないよ…なんで…なんで!!…なんでこんなことしたの…?」
シャボン玉は香無静香を掬い取る。浮き出れば浮き出るほど、肉体は形を失っていく。
「よかったのよ…これが私のしたいこと…全てなの。」
赤、白、黄色。シャボン玉の中に輝く綺麗な感情は、香無静香の感情だ。全て…全て…。
「嘘だっ…だったらなんで泣いてるの…!静香ぁ…私は、私はぁ…」
変身が解かれても頭髪は青く、瞳は宝石のようで、人間には戻れなかった彼女を抱きしめる。
「ふふっ。そうね。本当は、これからもずっと…一緒にっ…ひっぐ…い、一緒に、いたかった!」
冷たい身体なのに、どうして心がぽかぽかと暖かい?
「いようよ。一緒に…ずっと一緒にいようよ…ねっ? これからもずっと一緒だよ…。」
香無静香の想いは消えない。消えることなどありえないからだ。なぜなら
「愛衣れいな。ありがとう、私は幸せだった。」
愛しい人が戦っているのだから。
シャボン玉はもう出ない。彼女の肉体は残らず消えた。寄生されし物と同じく何も残らない。全て消える。愛衣れいなの腕の中には、空間が生まれた。
ああ…ありがとう…私の冷静…
魔法少女でよかった。
貴方を守ることができたから。
「あ、ああ…静香ぁ…静香ぁ…」
愛衣れいなの身体を黒い細胞が侵食する。体外に魔法陣が構成されていき、'クロ'が支配を始める。慈愛モードの再臨である。
「私にはっ…なにも…な゛い゛! ああっ、もう、な゛に゛も゛のこって、い゛な゛い゛!!」
受け入れたはずの'クロ'が、愛が、溢れて止まらない。愛衣れいなを止められるものは…
「あ゛あ゛あああ!!誰か!…誰かぁ………たすけて…」
黒く歪んだ感情は……
魔法少女でよかった。
貴方を守ることができるから。
冷静が喰い尽くす!!!
「愛衣れいな。貴方を助けるのは私。この香無静香よ!」
「…静香ぁ」
愛衣れいなの瞳は空を映すばかりである。ただ、確かに感じる…クールハートの感情。
ラブハートの感情とクールハートの感情
重なり合い
新たな可能性へ
ーリンクシマシタ ココロヲヒトツ二
「「ゲートリンク!!」」
ーラブ アンド クール
「「森羅万象を包み込め!私達の冷静な愛!!
魔法少女ラブクール…
クールタイムはここで終わりよ!」」
170cmを超える身長。フリルの付いたドレスは、ピンクと青が基調となる色合いで、身体のラインがわかるほどタイトである。ピンク色のツインテールは綺麗にまとまっていて、内部の青色が見えている。右目はピンク、左目は青い、二人の魔法少女体が重なり合った姿は、互いの要素を纏い、地に降り立った。
「「ラブビーム クールショット」」
先端のハートに青色が入ったステッキから、ピンク色のビームが噴射される。ビームに青い線がはしり、撃ち出されたビームは線の通りにバラバラになる。ビームは数多の弾丸へ。
ビームの弾丸はぶつかり合い、全方位に広がっていく。着弾するは黒い靄。破壊することができない靄を、弾丸は一つ残らず吸収し、消し去った。
「があ゛?ああ゛…あ゛!!」
靄を消されたことに気づく第一号。引き戻せない刃を諦め、全身から靄を再度噴射する。
「「無駄よ。全て冷静が喰い尽くす。」」
広がっていた弾丸は、ぶつかり合い、第一号の元へと集まる。第一号の肉体を傷つけることはできない。しかし、全方位が撃ち込まれる弾丸は、黒い靄を全て食い尽くした。
「あ゛あ゛っ!!がぁ…が!が!」
両脚の刃が真っ二つになる。上昇し、右脚の刃は右腕に、左脚の刃は左腕に装着される。
ーーっ!!??つ、繋がった!?繋がったぞ!!
ーーラブ!大丈夫!?生き…て…
映し出された姿は以前のラブハートではない。魔法少女の二人は直感で理解した。
ーー嘘…静香さん……
ーーえ、は?香無研究員の発明品ですか?
ーーち、違う!これは、そういうもんじゃないぞ伊渕…
榛名奈々子と虎野朱の目には涙が流れていた。理解しても受け入れ難い想いと、仲間が選んだ結末を見届けなくてはいけない想いに揺られて。
「榛名奈々子。虎野朱。これが私の答え、私の最後よ。見ていなさい、魔法少女の可能性を。」
ーー……わかったよ、静香さん。
ーーはっはっは…や、やっちまえ!ラブクール!
理解も受け入れもできない男二人は、いつの間にか震えていた。立っていることもできなくなり、その場に倒れ込み、新たな魔法少女の姿に目を奪われる。
「がぁがぁがぁ!がぁ!がぁ!」
両脚の刃が失くなったためか、地を蹴り、両手は振らずに走ってくる。
「「クール ショット レイン」」
ステッキからふよふよと、光の粒が空に向かっていく。上空で停滞し、ピンク色の星空が広がった。
「「シューティング ビーム」」
走る第一号に降り注ぐビームの雨。全てのビームは肉体によって切り裂かれる。地面に当たったビームの破片が足場を悪くし、第一号は上手く走ることができない。
「「ラブビーム スマッシュ」」
機動力を奪い、その最中、ビームで上昇し続ける。
「が…がっ…がっ…」
第一号の遥か真上に停滞するラブクール。左脚は狙いを定めている。
「行くよ、クール」
「ラブ。全力で行きましょう。」
「「クール チャージ!!」」
停滞しているクール ショット レインが、ラブクールに発射される。背中に撃ち込まれたクール ショット レインが輝く羽のように形成されていく。自身に向けて撃つビームの推進力と輝く羽で、加速し続けるラブクールは、瞬きひとつの間に第一号に衝突する。
「「ラブビーム メテオインパクト!!!」」
第一号は衝撃でバラバラに弾け飛ぶ。頭部とか、指とか、そういった具合ではなく、パーツもわからないほどの肉塊といったほどにバラバラに。
「クール、私達勝てるよね…」
「ラブ。勝てるわ、私達なら。」
肉塊は近くの肉塊と合わさり形を為す。不足した肉は生み出し、修復する。
「がぁ…」 「がぁ」
「がっあぁ」
「あ゛あ゛…」
「がが」
「がぁがぁ」
「ががあ゛」 「あ゛ぁ」
「あ゛あ゛ぁ」
三十体。分裂した第一号は両腕に刃を持ち、こちらをじっと見つめる。
ラブクールは少し歩く。香無静香が死亡した場所には、血溜まりも残っていない。瓦礫に腕を突っ込み、クールの銃を取り出す。ステッキは腰に掛け、平べったい青い二丁の銃を握る。
「これが私の可能性。最後の力よ。」
ーラストスキル ノ カクニン ハツドウ シマスカ?




