第二十話
自動回収機能の実装。距離が離れたまま一定時間経過すると、愛衣れいなの生体反応を感知し、自動で戻ってくる。実に便利な機能である。忘れ物や、落とし物に困らないようにという思いが詰め込まれている。宙に浮かぶ仕組みを理解している者は少ない。
ーーラブ大丈夫!!??
「な、なんとか…」
くるくるとブーメランと似た軌道で、第一号の両腕に刃が戻ってくる。部品が綺麗にはまった時の軽快な音とともに再装填。装着感を確かめるように、撫でながら手首であろう部分を回している。目線は腕に集中しているようだ。
ーー早く立ち上がって!次の攻撃前に仕掛けないと!
ステッキを掴み急いで立ち上がる。やっぱり、素手から出力するより効率が良い。
「そういえば、魔法じゃなくて通信で声聞くと…ちょっと変な気持ち。」
ーーしゅーうーちゅーうー!!
ーーはっはっは!
朱ちゃんの笑い声が届くから聞こえてくる。
ーービーム二撃で二発目は不意打ち!できる!?
「で、できる!…いくよ」
両手でステッキを握り、顔の右側に構える。左脚で踏み込み、相手に向かって突き出す。先端から放出されたビームが一度途切れ、一回り小さくなったビームが再度放出される。真正面で受けるならば一つのビームにしか見えない。
「がぁあ゛あ゛…」
怪しく輝く黒い肉体にピンク色が反射する。美しさすら感じてしまう眩さは、ゆらりと動く腕刃によって一面に拡がる。光の先には土煙が舞う。
一発目のビームが散った後に続く二発目の不意打ちが、腕を振り払った第一号の元に届く。
「があ゛」
……………
ーーこっれはー、ちょっと笑っちゃうかも
ーー全然笑えないぞ奈々子
ーーえ、まぁ…その通り!
一回り小さいビームであったが、確かに命中した。通常個体の寄生されし物であるなら足首だけが残るのみだろう。
「ど、どどどどうすれば?」
第一号には小さな傷もできなかった。当たったビームは肉体に斬られたのである。
「が が がぁーーーーーーーーー!!!!!」
全身をペチペチと叩き、その場で小踊りをする第一号。誰が見ても歓喜の姿だと答え、言葉に反して肩を落とすだろう。
ーー…ラブ。正直ね、倒せるビジョンが全く見えない。こっちは全員同意見…みたい。
伊渕と前野は首がとれるほど頷く。朱は口を開けなかった。
私、榛名奈々子はずっと考えていた。今回の流れについてだ。寄生生物に全てを乗っ取られた相手と対峙する。パワーアップしたラブハートが、迷い無く相手とぶつかり勝利する。
…でも、現実は上手くいかないし、ラブが深く傷つく結果だけが残るかもしれない。そしたら、私達は何ができるだろうか。戦えなくなっても私と朱、花子がいる。静香さんだって絶対治してみせる。
そういうことを考えていた。
ーー全力の攻撃当たっても…これは無理。今のラブの攻撃が効くようになる策は考えつかない。ごめん!けど、だからこそ!…逃げてからだよ。逃げるのが最優先。
ーー私は、ぐっ、ああ゛ぁ…戦えるぞ!
反動をつけてベッドを揺らしながら、無理矢理起きあがろうとする。
ーーやめろ!無理だっつの!避けられんのかアレ!?変身もままならないのに!
通信先の様子は聞かなくてもわかった。
「ごめん…逃げるのは無理だ。」
ーーえ?、あ!…な、なにこれ…
華麗にくるっと一回転。空中で片脚ずつ放り投げるように飛ばす。脚についていた刃は、空中分解しスマートフォンほどの大きさになった。腕刃を飛ばした速度よりは劣るが、攻撃範囲は桁違いに広がった。魚群のような黒き刃の嵐が、風を巻き込み地を削り、ラブを狙う。
「ラブビームスマッシュ…」
脚に装着されたステッキから放たれるビーム。空中に逃げるラブを当然のように追い掛ける刃の嵐。
…いくぞ。大丈夫だ。衣を全力全開…全ての刃を感じとれ、被害は最小限だ。
「ラブビーム!!!」
刃の嵐にビームで穴を開ける。ラブビームスマッシュの状態からのラブビームの影響で、遥か上空に昇っていく。
空中で身を丸め脚へと手を伸ばす。ステッキをひっくり返し、自身の側に発射口となるハートを向ける。
ーーいったい何をするつもりなの!?
ーーこれって……ラブ!いっけぇぇえええええ!!
ステッキから自身を巻き込みながらビームを放出する。左半身を完全に覆うラブビームの推進力で、刃の嵐に突っ込んでいく。ビームと同じ速度で刃の中を突き進むラブハートは、キックのポーズをとっていた。
「ラブビーム…メテオ!インパクトー!!!!」
嵐を抜けてラブハートの左脚は第一号に命中する。腕刃のガードを間に合わせない一撃は、胸部に衝突し、第一号はぶっ飛んだ!
ーーすごい…
胸部装甲にヒビが入り、破片が宙に舞う。
ーー流石だぜ!カッコいいぞ ラブ!!
「わっ、と、と、ちょっ、と!」
着地を考慮していなかったためか、空中でふらふらしたかと思えば、ビームの出力を失敗、からのひっくり返り、地に身体を打ち付ける。
気づけば、ビームに覆われてなかった主に右半身に刃で切り傷が多くできてしまった。
「痛った〜…けど、身体バラバラにならなくてよかった…」
ーー…これはビームは切れても、物理での攻撃じゃ切れないってこと…?
「たぶん、普通のキックじゃ脚なくなると思う。感覚なんだけど。」
ーービームとキックの混合技なら、切れる前に衝撃でぶっとばせる…ってことかな…リスクありすぎでしょ!失敗したらバラバラ死体だよ!?わかってるの!!??
「ご、ごめん…でも逃げられないんだ。絶対に。直感でわかる。…だから、やるしかないって思った…ごめんなさい。」
また心配をかけてしまった。いくら強くなっても心配ばかりかけてるよね。もっと頑張らなくちゃ。
ラブハートが座り込む衝撃を受けた場所は、隕石の落下地点のような地形へと変貌を遂げていた。
ーー謝るなら許してあげなくもないけども…まぁ何もできない自分は許せないけども!
ーーはっはっは!私も!あと、キックは後で練習するからな
ーー勝手にして
「が!あ゛あ゛ぁ」
ーーラブ!
「うん!気づいてる!」
散らばった両脚の刃が浮かび上がり、第一号の元に戻っていく。
肌が引っ張られるような感覚がある。切り傷から流れる血が少し増えた。頬にはねると鬱陶しい。
刃と刃が重なり合い両脚に戻っていく。第一号は起き上がらずに瓦礫と寝ている。ひび割れた胸部装甲は治らない。
ーーちょっと!遠距離じゃないの!?
ラブハートは走り出していた。戻っていく刃を追い越して第一号に近づく。
「どうせ撃つなら確実に…!」
戻りきっていない両脚に…ではなく、ビームを回りながら放つ。
「斬れちゃうか…」
ビームは小さな刃達を避けるように飛び散っていった。
ーー地面に向かって撃ってみて。刃を下から撃つイメージ。
「わかった…!」
第一号に向けてラブビームを放つ。肉体に当たり、斬られ、周辺に拡散する。小さな刃達は打ち上げられ第一号まで距離ができる。遠くからカタカタと音が聞こえ、再び持ち主の元に戻るため動き出す。
「なるほど…斬れない平面から…」
ーーなんか…地面で跳ね返したりとか想像して…いや、いいや!ナイス ラブ!
「このまま押し切る!」
ラブはひび割れた胸部装甲にステッキを押し付けようとしたところ
ーキケン キケン
「わかったよ!」
紙一枚ほどの間隔を空けて放つ。
「全力の…ラブビーム!!!」
滝のようなビームが周辺に斬られ、散っていく。
「もっと…もっと…全力で!!」
止まらないビーム。斬られたビームが絨毯のように広がる。消える量を放出する量が上回り続け、ピンク色の海に一人の女の子が溺れているように見える。
「もっと…!!限界を超えろ!!!」
第一号の肉体にピンク色が侵食していく。
「ゲートォー!…オーバァーー!!!!!!」
全ては眩いピンクに包まれる。
ばしゅんっ
第一号の肉体が内側から弾ける。ピンク色のビームの残骸が消え、ラブハートと倒れる第一号の姿が確認できる。
ーーラブ!逃げて!早く!!!
逃げる要因など確認する必要があるなど無い。一目散に逃げる、逃げる。ステッキを左脚に装着。ラブビーム スマッシュ。空中へ、逃げる。逃げる。
空から見ると、現状がすぐにわかった。遠くへ飛ばした刃が高速で第一号に戻っていった。ふと、目を離すと、いつのまにか第一号は両腕両脚に刃が戻った状態で立ち上がりこちらを見ている。
「流石にビームもキツくなってきた…」
肩幅ほど足を広げて、刃を地面に奥深く突き刺す。両腕は軽く広げた。頭部には光を飲み込む黒が集まっていく。
「…ラブ……ビーム!!」
先手必勝のビームは第一号に向けて放たれる。
「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
頭部から放たれる黒いビーム。ラブビームの数倍はあるであろう巨大な黒が、ビームごとラブハートを飲み込む。
ーーら、ラブが…いや、嫌!、嫌!!
ーー落ち着け奈々子!生体反応消えてないだろ!
「があ゛っ!!」
第一号の肉体から、黒い靄が所々に混ざった風が辺り一帯に吹き荒れる。
ーーお前が動揺してどうすんだ!
ーー伊渕!これって
ーーわかってます!あの靄通信妨害ーーーーガッ
通信は切れる。
黒いビームに撃ち落とされ、空中を自然落下する愛衣れいな。
「…まだ…まだ…」
第一号は地面から足を引き抜き、愛衣れいなをじっと見つめている。
「きばれ…私!」
愛衣れいなの金髪からピンク色が覗かせる。




