表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女ラブハート  作者: 鈴木まざくら
12/71

第十一話

 信号、自販機、看板、自転車、遊具、ペットボトル、駐車券、パソコン、カメラ、プラスチックのカップ類、魚類、タラバガニ、木、マネキン、モアイ……

 魚やカニにも寄生してみせた。寄生元に明確な共通点は無い。

 寄生するって聞いたとき、私達も職員も最初に思っただろう。


    人間が寄生されて操られる


 なのに、一人たりとも人間は寄生されなかった。

 シュミレーションでも人間に寄生し、失敗すると爆発、真っ赤な肉塊になって死に至ると結果が出た。


 死なずにいられた。


 寄生されし物(パラサイト)の力を利用してやった。


 素質があったんだって。


 だから魔法少女になれたって…


 そう…思っていたんだ。



「海子さん…わるい冗談はやめてよ。」



 間違っていたのは私だ。



「ねぇ、海子さん!」



 これは戦争なんだ。



「な゛にか い゛ってよ゛!!!」



 便利な生き物が住んでるんだ。



「れ゛いな ち゛ゃん゛…お゛はよ゛う」



 使えないなら…使えるようになるまでだ。




「うわ゛わ゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


 愛衣れいなの悲痛な叫び

 踏み出すたびに現実に近づく

 感情は強く波打ち

 力は呼応する


ーアイ ヲ モトメテ


 無詠唱による変身。しかし、以前のラブハートではない。悲しみに呑まれ、戦う覚悟がそこにはなかった。その結果、愛衣れいなの姿から変わらずに、魔法少女として変身した。目線が低くなることはない。

 繰り出す拳に覇気はなく、海子は避けることもせずに受け続ける。

「あぁ…そうだ、この黒いのが悪いんだ…今すぐに剥いであげるからね、海子さん。」

 海子に纏わりつく寄生されし物(パラサイト)の肉体は、超巨大寄生されし物(パラサイト)であるモアイにも有効だった威力を持つ、ラブハートの力でも傷一つつかない。代わりに殴る拳は少しづつ赤く染まる。

「大丈夫だよ。私が助けるよ。だから大丈夫。今すぐ悪いところを取れば元に…元に、戻るんだよぉ…戻るんだぁ…」

 涙が流れる。とまらない。首元の魔法陣も薄く、弱々しくなっていく。消えてしまえば、魔法少女の変身体は保てない。

「そうでしょ、海子さん…」


「あ゛いぃ」


 海子の拳がラブハートの腹部に当たり、後方にぶっ飛ぶ。口からは血が流れ、元より限界だったラブの身体は動かすことを許さない…はずだった。


「ぐっ…あ゛あ゛っ、…大丈夫、大丈夫だよ。これくらいなんてことないよ…」

 骨は折れ、肉は内部から裂け始めている。物理的に立ち上がることなどできない。ラブの身体を動かしているのは、魔法少女としての力だけである。無理やり力で体を覆って、人形で遊ぶ子供のように、右足を動かし、左足を動かし…前へ進んでいく。

「早く、帰ろう…今日はご飯食べに行ってもいい、かな…」

 ぎこちない動きで、一歩、また一歩。海子は迎えにいくように、ラブの元へ歩み寄る。拳を握りながら…。

 しかし、途中でピタリと止まってしまう。


「な、なんで…し ず、かぁ…」


 ラブハート…愛衣れいなはその場で倒れ、そのまま眠りについた。首元の魔法陣の上から注射器が刺さった痕がある。


「ごめんなさい。愛衣れいな…」


 背後に立っていたのは香無静香。注射器には睡眠薬が入っていた。



ーーガッハッハ!クールハートの子よ。生きていて何よりだ!…そして何をやっている?


ーー眠らせただけよ。戦いの邪魔になるという理由だけでは不満かしら。


ーー違う。そうではない。何故クールハートの子が戦うことになる。今すぐラブハートの子を起こせ。


 通信先では落ち着いた口調の裏に激しい怒りが感じられた。


ーー必要がないわ。


ーークールハートの子よ、冷静になれ!お前はすでに一度負けたのではないか?もう一度挑めば勝てると思っているのか?そんなわけがない!前回と比べお前は満身創痍だろう!負けるまでのタイムが縮まるだけだ!!…いや?今度は死んでしまうかもしれないな!!!


ーー私は冷静よ。冷静だからこそ、立ち上がった。立ち上がれたの。


ーー何を意味がわからないことを!何度も言わせるな!クールハートの子…いや、我が社の研究員 香無静香よ。お前に才能などない。未来などない。さっさとラブハートの子を起こして戦わせろ。アレにはそれだけの力があるのだ!!!


ーー通信を切るわ。…所長。貴方の行いが全て間違っているとは言いません。しかし、愛衣れいなを守るためなら、私は手段を選ばない。


ーーふざけるなぁ!!!!早く、早く起こせ!!今が最大のチャンスなのだ!命令だ!早く!早く起こ


    ーーーーープツンーーーーー




ーコードネーム'クールハート'

         チカラヲカイホウセヨ


「ゲートオープン」


ークール ニ キメロ


「森羅万象!全てが私の予測をなぞる!魔法少女クールハート!」


 …………………


「……攻撃しにこないのは慢心かしら。それとも、得意の観察の時間に入ったということ…どちらにせよ敵とすら思われてないようね。」


 クールハートは愛衣れいなを背後に立ち塞がる。海子の目線は、クールハートの足下から外れない。


「私は…魔法少女として誰よりも劣っているわ」


 クールの口調は落ち着いているが、哀しみが伝わってきてしまう。


「どこまでいっても冷静になってしまうから。感情に起伏がない。力を引き出す力が欠如している。欠陥品ってやつね。」


 クールの銃は平べったく、縦長である。その理由は、銃身に沿う形で、注射器が二本入っているからである。一本は睡眠薬。そして…


「でも、私なら。冷静に…冷酷に、今すべきことをやり遂げられる。きなさい…籠原海子(カゴハラ ウミコ)。」


 もう一本には、クールハートに合わせて調整された寄生されし物(パラサイト)の細胞が入っている。調整したとしても、実験段階では死に至らない可能性が高いというだけであり、猛毒である。


「貴方を処理します。」


 魔法陣が生き物のように体を這う。


            拡がり、侵蝕する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ