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断罪まで辿り着けない断罪劇

断罪まで辿り着けない断罪劇

作者: 言葉

「セラフィーヌ・ルブラン公爵令嬢!私はそなたとの婚約を破棄する為、何としてでもそなたを断罪する!」


それが響き渡ったのは学園のランチタイムでの事だった。


食堂の席の一角から、突然宣言された婚約破棄。


そのセリフを告げたのはアルセイヌ国第一王子であるジョエル・サタナエル。


セリフが始まるや否や、脱兎の如く速いスピードで勝手に駆け込んだ厨房から王子を覗き見るは公爵家令嬢セラフィーヌ・ルブラン。


この光景はもはや見慣れたものであった。


「セラフィーヌ!私は『真実の愛』を見つけたのだ!今日こそ・・・ってあれ?どこいった?セラフィーヌ?セラフィーーーーヌ!」


-----------------------------


遡ること3年前。


6歳から政略結婚で婚約していたジョエルとセラフィーヌ。2人は性格も頭の出来も正反対で、婚約当初から貴族の学園に入学する15歳まで、セラフィーヌはジョエルに対して小指の爪程の興味も持たなかった。

ジョエルからは所有物くらいには思われていたかもしれないが。

セラフィーヌは稀代の才女と名高く優秀であった為、妃教育は開始から1年で早々に終了。

ご機嫌伺いのお茶のはひと月に一度あるかないかで、会話のキャッチボールは噛み合わず投げっぱなし。

誕生日もお互い祝うわけでもなく、差し障りのないプレゼントに定型文のようなメッセージカード。

デートをしようなどと思ったことすらない。

公式な王家のイベントの時など、婚約者という立場のセラフィーヌが居ないと駄目な時だけ笑顔を貼り付け隣に佇む。

それはまさに政略の一言に尽きる婚約であった。


そんな2人は貴族の学園に入学し、学園内で会うことも無く今日でひと月という頃。


これから生徒会の新メンバーの発表式典が開かれる広間。

入学試験で首位だったセラフィーヌは、生徒会に是非にと誘われ加入。ジョエルは王太子にもかかわらず、頭の出来がちょっと残念過ぎた為か、メンバーにはいなかった。

セラフィーヌとしては、面倒が避けれてラッキー程度だった。


これから式典の開始を告げる生徒会長の挨拶がある・・・


はずだったのだが。


ステージに出てきたのは何やらピンクの髪の生徒を連れた、第一王子ジョエルだった。

そして声高に叫ぶ。


「セラフィーヌ・ルブラン公爵令嬢!私はそなたとの婚約を破棄する為に、そなたを断罪する!そしてこの私の『真実の愛』である、ラナ・フォルト男爵令嬢と婚約を結ぶ!」


ドヤ顔で宣言したジョエルは、ビシッと会場を指さしていた。

その指の指し示す先にはセラフィーヌ・・・ではなく、ただセラフィーヌと似た髪色似た長さの令嬢。

セラフィーヌは会場にはいなかった。

なぜなら、生徒会新メンバー紹介の為にステージ裏にいたから。

そして、ジョエルは物凄く視力が低かった。


「心して聞くように・・・ってあれ?よく見たら君、セラフィーヌじゃないじゃないか!セラフィーヌは?」


現在迷惑を被っている真っ最中の、

セラフィーヌの髪だけそっくりさんに問いかけている

ジョエルを見たセラフィーヌは

ステージ裏で白目を剥きそうになった。


待機場所のちょうどすぐ横に設置されていた機械を操作し、そろそろと開いていたステージの幕を閉じ、今のを無かったことにした。


セラフィーヌによって閉じられたステージの幕と共に始まりもせず終わった断罪劇は、

第一王子のポンコツぶりをまざまざと見せつけてしまった( 見せられてしまった )だけで終わり、学園の生徒は

きっと生徒会の寸劇だったのだ、と脳内変換した上で、記憶から消した。



しかしそれから僅か2ヶ月後。

テストの学年順位が貼りだされた廊下で、第一王子ジョエルが声高に宣言した。


「セラフィーヌ・ルブラン公爵令嬢!私はそなたとの婚約を破棄するために今日こそは断罪する!そして今度こそ『真実の愛』である才女ルナマリア・メーガン子爵令嬢と婚約する!」


ドヤ顔で才女と言い切ったジョエルの後ろの掲示板には、学年1位にセラフィーヌの名前があった。

ルナマリアは、中の下、いやもはや下寄りなジョエルの二つ上にいた。


・・・才女とは。


そして今回は髪色も長さも似ていない令嬢にビシッと指を向けている。

また視力が落ちたらしい。

眼鏡かければいいのに。

そんなセラフィーヌは向かいの校舎から中庭越しに、その様子を偶然見ていた。

断罪とやらが始まる前に放送室に飛び込み、園内放送で先生のフリをしてジョエルを呼び出し、そのまま放置し、忘れたまま帰った。


そんなジョエルの

婚約破棄宣言からの『今度こそ真実の愛』のお相手紹介のみで、あるのかないのかわからない断罪までたどり着かない寸劇のようなそれは、『ジョエル王子の断罪出来ない劇』と呼ばれ、

さらにその尽くを打ち破り(?)決して断罪まで行かせないセラフィーヌは崇拝されていた。そしてそれは3年間、数ヶ月置きに延々と続いた。



そして今日は、断罪劇御用達の卒業式である。


卒業式が終わっても広間に残る今年度の卒業生たちは、今日で断罪出来ない劇も見納めか、と、当たり前にあるであろう断罪出来ない劇が始まるのを待っていた。


そこでフッと照明が落ち、ステージにスポットライトがあたった。

そのライトが照らすステージのカーテンが開き、

そこには第一王子ジョエルが、学園最後の『真実の愛』を連れて佇んでいた。

3年間でジョエル王子の断罪出来ない劇は演出が細かくなっていた。セリフはほぼ変わらないが。


「セラフィーヌ・ルブラン公爵令嬢!私はそなたとの婚約を破棄する!」


ドヤ顔でビシッと指指す先には、3年間で初めてセラフィーヌ本人がいた。


「今日こそはっ!全てをかけてでも断罪するっっ!」


セラフィーヌはジョエルに寄り添う人影を見て、

困惑し、生返事になった。


「はぁ」


「セラフィーヌ!私は『真実の愛』を見つけたのだ!今度こそ!

この記念すべき学園35人目の『真実の愛』であるノエル・フィール侯爵令嬢と婚約をする!絶対する!その為にそなたを断罪するのだ!まずはだな――」


その宣言を聞いていた広間の卒業生たちは、色んな意味の困惑の色で埋め尽くされた。


そしてそんな周りの困惑を代表し、断罪直前で発言したのは、我らがセラフィーヌ様だった。


「ジョエル王子殿下、本日で卒業ですし、一言、宜しいでしょうか」


静まり返った広間に、静かなセラフィーヌの声が響いた。


「なんだセラフィーヌ!これからようやくそなたを――」


「ジョエル王子殿下、ノエル・フィール()()()()は男性のはずですが」




「・・・・・・・・・え?」




セラフィーヌは少し考え、

ノエル・フィール侯爵令息は演劇部で女形をしていたから、その一瞬を見た王子が一目惚れしたとかだろうと予想したのだが、


「え、だって・・・ノエルはロミオとジュリエットのジュリエットだろう?・・・え?」


やはりか。


そして、それまでジョエルの隣にわけもわからず立たされていたノエルには


「あのージョエル王子殿下。突然親しくされたり、やたらスキンシップが多い理由が分からなかったので戸惑ってたんですが・・・思いもよらず有名な断罪出来ない劇に参加出来た事は嬉しいですが、えっと、すみません、俺は男に興味はありませんし、婚約者もいますので」


と、確かに女性顔負けの美しい笑顔でふられた。


さらに静まり返った広間に、セラフィーヌの声が続いた。


「ジョエル王子殿下、そもそもですね、なぜかお忘れのようですが、ジョエル王子殿下とわたくしの婚約は学園入学前に破棄になっておりますわよ。ジョエル王子殿下が『真実の愛』に()()()()お目覚めになられたという噂が理由でのこちらからの婚約破棄ですわ。ですのに・・・最初の断罪劇(?)は何の冗談かと思いましたわ」


「は・・・?・・・ぇえ!?私の方が婚約破棄されていた!?・・・そ、そんな、いつの間に?え?え!?」


混乱極まれりなジョエルにセラフィーヌが一言。


「ジョエル王子殿下、付け加えますと、わたくしには隣国に新たな婚約者がおりますし、明日早々に輿入れしますの」


「・・・え?セラフィーヌが?こ、こしいれ?うっそ!」


ちょ、言い方。


ていうか婚約発表もしたし、王族なのに知らないとか大丈夫?新聞読め。

相変わらずこのバカ王子は失礼極まりないわ。

まぁこれも最後だし、許しましょう。


「ええ。ですので最後に・・・王子殿下の『断罪出来ない劇』は、婚約者でいた9年間よりはよほど楽しめましたわ。王子殿下には是非、『真実の愛』の先の『永遠の愛』を見つけて欲しく思いますわ」


「永遠の・・・愛・・・!?」


何かバカ王子の琴線に触れたっぽい。


わたくしは、一足先に真実の愛であり永遠の愛を見つけましたから。


「それではごきげんよう」


卒業式会場の広間を背に、セラフィーヌは学園を後にした。



翌日輿入れの馬車の中でセラフィーヌがそういえば、と一人呟いた。


「結局、35回もチャレンジしたらしい王子の

わたくしへの断罪って何だったのかしら?

そもそも、目的が未だに謎のままなのよね・・・」



END


何か思いついたらサブストーリー書くかもです。

モブ視点とかの。


誤字報告ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ノエルが参加できて嬉しいって言ってて笑ってしまいました。 もう完全に面白イベントとして認識されてる…! [一言] こんな平和な断罪モノ、初めて見ました。 こういうのもいいですね。
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