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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある夏の日、

作者: 山彦

※犯罪性的表現あります。苦手な方ご注意ください

※至らない点や不快な点あると思いますが、全て自己責任でお願いします


医者が患者を殺そうとしたら、という

if話です。


細かい現実性は無視していただけると

幸いです。


一瞬時が止まった


目の前で呼吸器で繋がれてる男に見覚えがあった。


いや、忘れられなかった。


こいつは私と私の家族を苦しめた張本人だから


------------------------------


10年前、

専業主婦の妻と、私立の女子中学校に通う一人娘の3人で、慎ましく暮らしていた。

私は医者だから、それなりの稼ぎはあったが、病院勤務の多忙さにやられ、豪遊することも無く、しかしそれもあって今は一般よりは少し楽な生活だった。


妻とは合コンで知り合った。

どっかの大手企業の受付をしていたそうで、顔は平均よりよかった。

加えて主張の少ない性格で、学生時代はそこそこもてたであろう。

そんな妻と出会いトントン拍子で結婚までいきつき、娘が生まれた。


妻は娘に少し過保護なところはあったが、一人娘なら仕方ない。俺が家にいない分、教育で口出しするのは控えていた。

娘も娘で、端正な顔立ちをしており、長い綺麗な黒髪をポニーテールにするのが定番だった。正確も明るく、よくまっすぐ育ってくれたと思う。

今度生徒会長に立候補するらしい。


傍から見ると、穏やかでなんの不自由も不安もない生活を送っていたし、これがずっと続くと思っていた。


あの日までは。


10年前の夏の夜。娘は強姦された。

翌日に生徒会長の立候補演説があり、その予行練習で学校に残っていたらしい。


私と妻がその事実を知ったのは翌日の朝だった。

私はたまたま前日から休みで、家にいた。

昨夜から携帯にも出ない、学校に連絡しても帰ったと言われる娘。24時をすぎても帰ってこなかったので、妻は警察に連絡した。


朝の犬の散歩をしていたお爺さんが、公園の草場で気絶している娘を見つけ救急車を呼んだらしい。


発見時、保護した救急隊員からは、その時の様子を詳しく伝えられなかったが、身体中アザだらけで、鼻血と精液が混じったものが顔に塗れていた、という話は、近所からの噂で聞いた。


その後、娘は不登校になった。無理もないが、あの明るくて真面目で、生徒会長に立候補するような娘はどこにも居なくなった。


家では荒れるようになった。

娘に起きた現実を娘以上に受け入れられない私は、仕事にのめり込むようになった。荒れる娘も妻に任せ切りだった。


あの事件から妻は、少々病んでいたが、娘が手に負えなくなってからはもっと酷くなった。


私が帰ると、リビングにはよくガラスの破片が飛び散っており、妻のすすり泣く声と、その白い手首には赤い血が流れていた


だんだん妻が機能しなくなり、私が前以上に家に帰らなくなった時、

妻に内緒で勤務先の病院を変えることにした。わざと県外の病院にした。



妻は私と比べて無知で世間知らずだった。私の言うことをよく真に受けるが、人の話を疑いもせず、自分で考えようとしない性格だったので、色々言えば単身赴任は簡単な話だった。


正直こんな上手くいくとは思わなかった。

当時の妻は、元の性格以上に加えて現実にダメージを受けていたこともあり、投げやりになっていた。

おそらく、私の言っていることをちゃんと理解していなかったのだろう。



そして今、単身赴任を初めて10年たった。

たまに2人の様子を見に家に戻るが、年々酷さは増した。

不幸なことに妻の両親は事件の2年前に交通事故で亡くなっているため、妻が頼れる相手は誰もいなかった。


今年で24になった娘は、あの頃の面影は無くなっていた。ポニーテールの髪も乱雑にショートカットにされており、女性である自分の体が疎ましいらしく、幾度となく自傷していた。知り合いの精神科医に診てもらっているが、最近精神病院への入院を勧められた。


1人で暮らすようになって10年。


目の前の現実から逃げるように生きてきた俺に神様がチャンスをくれた。


------------------------------


夜の見回りに、出歩いていた時に見つけた。


娘が泣きながら、何度も何度も、自慢の黒髪をむしりながら、犯人の顔の特徴を伝えて、出来上がった似顔絵を、私は毎晩見ていた。


だから、絶対に見間違えるはずがないのだ


10年経っている。整形しているかもしれない、そう言っていた警察もたかだか強姦野郎を見つけるのに、苦労していた。


だけど、今、俺の目の前に、横たわっている。


心電図の音が響いていた。


この点滴に薬物を混ぜれば殺せるけど、どうしようか。

呼吸器を外せばすぐ殺せるけど…手っ取り早いのはポケットにあるハサミで喉を刺すことだな…


普通ならもっと感情が昂るはずだと

思うのだが

私はなぜか恐ろしく冷静だった。


こいつがいなければ。

今頃もっと幸せなはずだった。

私は医者として賞賛され、美人な妻がおり優秀な娘がいるはずだった。

あの時から計画はなくなったのだ。


俺が捕まろうが、医者として倫理的に訴えられようが、どうだっていいのだ。

もう疲れた。


殺したあとの手順と、妻と娘への生活費。

自分の親への対処。友達。同僚。


院長は記者会見かな…

そんなことを考えながら、1番苦しみながら死ねる薬を探しに行くために調合室へと向かった。



窓から流れ込む風は生暖かくてじっとりしている。

10年前もこんな夏の日だった気がするよ、夏美。

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