「戦争」「ヤカン」「嫌な幼女」
ヤカンに水を入れ、火にかける。
遠くに聞こえる銃の音と火砲の音が、浮世離れした場所に、現状を教える。
戦争の最中に、父は兵として、母は医学を学んでいた故に、野戦病院の手伝いとして駆り出された。
そんな訳で、この家には、たった一人、幼い少女が暮らしていた。
「火をかけお湯を沸かしましょー、熱めの紅茶淹れましょー」
間延びした、なんとも言えない歌を歌い、長い白銀の髪を揺らす少女。
曇天のひと時の中、扉を叩く音がした。
「はいはい?」
その先に、満身創痍の男が立っていた。
よく見る服だ、軍服なのだろう。
脇腹は紅い染みが出来ていた。
「……ああ、お前さん、家族は?」
「お父さんは兵役に、お母さんは野戦病院に」
「……じゃあ、ここに一人か。俺は長く持たない。せめて、暖かな場所で眠りたい……そう思ったんだ。なあ、お前さん、もし……もし良かったら、ここで死なせてくれないか?」
「はい、こんな場所で良ければ」
そう言って少女は肩を貸し、ダイニングの椅子に座らせた。
「そうそう、飲み物を淹れようとしていたんでした。傷口に染みるかもしれませんが、いかがです?」
「ああ……頂こう」
掠れた声でそう呟くのを聴き、少女はヤカンの液体を白磁のマグカップに入れ、兵士に渡した。
「……ありが……と……う……?」
兵士は、その液体を不審に思った。
紅い。そして、透明ではない。
もしかして。
「……あらあら……お気に召さない?」
「……これは……もしかして……」
その刹那、思い出したくないことを思い出した。
最近、敵味方関係なく、兵士が突然失踪していることを。
「……ふふ……ふふふ……あはははははあはは!!」「いいわ……その表情!!希望のない顔!貴方……私の人形にしてあげる!!」
兵士は咄嗟に動こうとした。
だが、怪我が酷く、思うように動けない。
死を……感じた。
「あら……ダメよ?動いちゃ。せっかくのその顔が、無駄になるもの」
足首を刺す。
ああ、これで動けない。
手首を刺す。
ああ、これで抵抗もできない。
そしてーー
脳を刺す。
これで
貴方は
材料よ。
人形を作る手を止める。
「あら……いけない。紅茶を飲むのを忘れていたわ」
材料のために注いだ紅茶を一気に飲み干す。
「ふふ……さあー人形を作りーましょー……貴方の肉は綿に、貴方の皮膚は布に、貴方の髪をそのままつけて……」
少女はまたなんとも言えない歌を歌い始める。
沢山の人形を作るために。
そしてーー
「お父様、お母様、私は、すごく楽しいですよ」
キッチンの隣に置かれた、二つの人形を見て、少女は微笑んだ。
私、ホラー関係を避けて生きてきたのでホラーですかと言われるとどもります。