サービス終了の時
空に、日付が浮かんでいる。何の装飾もなく、ただ無骨な数字があった。
それを見ている者達は皆、その意味を知っていた。それは、死期である。その日付を迎えた瞬間、この世全ての人、全ての物が死ぬ事を、全ての存在が知っていた。
だからといって、何か焦る訳でも、何か特別な事をする訳でもなく。ただ、普段通りの生活が続いていった。焦り、不安。そんな物は無い。己の存在が永遠では無い事など、生まれた時から知っていたから。
ただ、何もかもが消えてしまったとしたら、我々は一体、何のために存在したのかと問いたくもなる。
もし、叶うのだとすれば、どうか消えてしまう我々を、少しでいいから覚えていて欲しい。
たとえ年月が記憶を朽ち果てさせるとしても、それが当たり前の、人間の死者に対する葬いというものだ。だからこそ、そんな葬いを。
見えているのなら、救えという話でも無い。ただ、そうして欲しい。そんな漠然とした想いが、皆の中にあった。
やがて、その時は来た。それは実に当然であるから、皆何か慌てたりはしない。最期は、どうにかこうにか笑っていたい。いかにも楽しそうに、生を謳歌しているように、最期を迎えたい。
そんな死に様は、ありふれた、しかし、それでもなお尊い心構えであった。あるいはそれは、もしも我々の姿を見ているのなら、どうかこの姿を覚えていて欲しいという、彼らの美しき努力なのかもしれない。
嗚呼、そして世界は、音も無く崩壊を始めた。ただただ無が全てを飲み込んでいく。彼らを観測していた者が、彼らを看取る者が、果たしているのかどうかは定かでは無い。
しかし、もしいるのであるならば、彼らが如何に平凡だとしても、その記憶が露とならぬように――ただ、願う他無い。居るかも分からぬ、その何かに。
やがて何もかもが無へと消え、ただ記憶が、そして思い出だけが後に残った。風も吹かず、墓標も無く。ただただそこには無だけがあった。