魔法からの
いつもの様に草原で弓を構え矢を射る。
その一連の動作は目を閉じても穴兎を射るほどであった。
ただ問題は『周辺感知』や『身体強化』『速度強化』を同時に行使し
体力・精神力・魔力を消費し行える行為だった。
その為なのか食事の量が増えたり睡眠時間が延びたりしていた。
「宿屋の弁当は量があるから助かるけど少し足りない。」
そう言ってナナは『魔法工房』で調理した串焼きを頬張る。
最近では調味料も充実し味の変化があり美味しく焼上がっている。
穴兎の他にも黒毛牛や大猪なども調理され取り出し可能になっている。
「狩りの合間に食事をするのは・・・。」
草原の真ん中で串焼きを頬張る・・・。
『周辺感知』で周囲を警戒してはいるが冒険者としては無防備な感じが・・・。
「まぁ、お腹が減ってるし美味しいから良いか。」
3本目の串焼きを手にしながら『周辺感知』に反応があり
急ぎ風下へ移動し反応が何なのかを目視で確認する。
反応は4つあり最初は野犬が群れをなして移動しているのかと思ったが
良く見ると穴兎を3匹の野犬が襲っている様だった。
野犬は冒険者ギルド的には害獣対象で
『ロースポーツ』では人を襲い農作物を荒らすと言う。
ギルドへは討伐依頼があったはずだが初心者冒険者が最初に討伐対象にし
次第に報酬額により放置されがちで度々森から草原へ移動する群れが確認されていた。
「3匹の野犬か・・・群れと言っていいものかどうか。
野犬討伐はランクFの許容範囲だったはず・・・。
倒しても食べれる部位は無いし毛皮は・・・報酬額としても低いんだよなぁ。」
ナナは倒す対象としては報酬が低い野犬は放置したいが
目の前で如何にも狙って下さいと言わんばかりの野犬に狙いを付け
静かに矢を射る・・・1本、2本、3本。
必死に逃げていた穴兎は後ろから追いかけられていた野犬が倒された事を知り
暫らく身体を伏せていたが次の瞬間、草むらに駆けだし姿が見えなくなった。
「野犬どうしようかなぁ・・・。」
色々考えたがナナは『魔法工房』へ野犬を送り
手を合わせ「野犬を送りました、宜しくお願いします。」
それにしても草原での野犬との遭遇は『ロースポーツ』に来てから初めての事で
今回のように数匹の群れなら対応出来るが集団で襲われたら対応に困る。
「草原で野犬に襲われた事はギルドに報告した方が良いかな・・・。」
痩せ細り目が血走り獲物を襲い喰らう者。
複数の群れで獣であるにも拘らず連携し襲う者達。
冒険者の最初の難関とも言われる。
暫らくすると『魔法工房』の方から野犬の毛皮が取り出し可能になり
ナナは野犬の毛皮を取り出してから
「やはり穴兎より毛皮の質は劣化品としか言えんな。」
野犬の毛皮は『生活魔法』で綺麗にされてはいるが
基本的に穴兎の様な手触りも無く
色合いも煤けた灰色だったりしており
ギリギリ敷物として使えるかどうかと言った物だった。
毛皮と一緒に神様からの手紙があり「野犬は毛皮以外は活用方法無し。」と記載されていた。
ナナは手紙に頭を下げ「お手数掛けます。」と呟き
「今日は早めにギルドへ行って報告した方が良いな。」
毛皮を背中のリュックにしまい中を確認すると
穴兎の毛皮が5枚に野犬の毛皮が3枚あり
1日の冒険者の成果としては少ない気もするが
その日泊れる宿屋を確保したので満足し『ロースポーツ』へと帰還する。
冒険者ギルドへの報告は穴兎の毛皮の納品と野犬の毛皮の納品をし
「草原で野犬3匹と遭遇し倒しました。」と報告し
それで詳しい場所はと聞かれたので
「ここから500m圏内ですね。森からは離れていたので焦りました・・・。」
受付嬢は手元のナナの報告を書き記し
「それで3匹の野犬に襲われて倒したと言う事です?」
納品した野犬の毛皮を手に取り聞かれたので
「穴兎を追い掛けている野犬の群れをこっそりと矢で射りました。」
すると野犬の毛皮を凝視しながらキズの確認をし
「確かに毛皮の損傷は矢によるものです。動く野犬を1矢で仕留めるとは・・・。」
「穴兎に夢中でしたし偶々です。」
「明日から野犬の討伐も常駐クエストになると思いますが・・・ナナさんはどうします?」
「お断りします。」
「あれま、野犬の毛皮の報酬額が多少上がりますけど?」
「それでも野犬は毛皮以外使い道ないですから・・・。」
「あー、そう言われると辛いですね。」
「出来れば美味しく食べれる穴兎が良いです。」
「穴兎の肉も納品してもいいんですが・・・。」
「それはこちらで処理しますので大丈夫です!」
「・・・残念です。」
ナナは穴兎と野犬の報酬を手にし宿屋へを向かう。
ナナが出て行った冒険者ギルドでは草原に野犬が現れた事により
街道沿いの商隊や冒険者に注意を促したり
森での生態系に変化が無いかを冒険者達に探索を依頼したり
少しばかりギルド内が騒がしくなっていく。
宿屋に戻ったナナは早めに晩ご飯を頂き
部屋へ戻ると同時に『魔法工房』へと赴く。
晩ご飯を食べ終わった時間帯が夕方だと思うのだが
『魔法工房』の方は日が高く時間の流れが違うのかなと思いながらも
ナナは正面の屋敷へ向かい神様らへ挨拶も早々に
「最近疲れやすくて眠くなるんですがどうしたらいいでしょう。」と
疲れた社会人みたいな事を相談すると神様らは笑いながら
「それは魔力の枯渇と魔力の無駄使いじゃよ。」と教えてくれた。
「魔力の枯渇は・・・使いすぎ?
魔力の無駄使いは・・魔力の運用ミス?」
「そうじゃのぅ、ナナさんは『魔力操作』を修得したはずじゃが
もう少し修練をした方がいいかもしれん。」
「ナナさんは12歳にしては魔力の量は通常の方々よりも多めと言いますか多すぎです。
12歳の身体には使いきれないほどの魔力を保有していますが
魔力回復よりも魔力消費が上回り次第に身体が休みを・・・眠りを求めています。
魔力の限界値を知り魔力枯渇を防ぐ事を覚えましょう。」
「それと魔力の無駄使いじゃが『身体強化』や『速度強化』にせよ
通常魔力消費10必要な場合でもナナさんの場合100消費しておるしのぉ。」
「魔力を無駄に消費していたのか・・・。
眠くなっていたのは魔力枯渇だったと・・・それでどうすればいいですか?」
「そうじゃのぅ、少ない魔力でも『身体強化』などが使える様に身体で覚える方がいいかのぉ。」
「少ない魔力で効率良く魔力を消費する。」
「今まで弓矢で何とかなってきたから大丈夫だと思ったけど
魔法や魔力の事も考えないとダメか・・・。」
「ナナさんは火・水・土の属性魔法を修得してるから
穴兎を魔法で狩ってみてはどうじゃ?」
「その3属性でしたら・・・土魔法がお勧めですね。
火は穴兎を燃やしますし、水では倒せはしますが制御が難しいです。」
「確かにのぅ、土の基本魔法『土弾』なら穴兎を撃ち抜くか。」
「はい。少ない魔力で効率良く倒す。
本来なら無属性の『気弾』を使えれば良かったんですが。」
「いやいや、土魔法は火や水の様な派手さは無いが
堅実で無粋な魔法が数多くあるからナナさんにはお勧めじゃよ。」
「まぁ・・・自分的に派手な魔法や目立つ魔法は勘弁して貰いたいですけど
土の基本魔法の『土弾』ですか・・・修得してはいますが自身無いですね。」
「わしらが教えておったから大丈夫じゃよ。
なんなら屋敷の裏で魔法の試し撃ちをしても良いぞ。」
「そうですね。屋敷の裏には『魔法工房』専用の畑を予定しておりましたが
今なら更地ですし何か的を立てて魔法を試射してみますか?」
ナナは神様らと屋敷の裏へ回り畑予定地へ向かう。
確かに畑と作るつもりだったのか農作業用の道具が屋敷の壁に立てかかっている。
神様が20m離れたところへ魔法で土くれの的を作り始める。
最初は弓道の的を作っていたと思ったら次第に人型になり
180cmの鎧をまとった人型の的を作り上げる。
大きな盾に大剣を構えた姿は冒険者と言うより騎士の様でもある。
「良し良し、これなら多少魔法が当たっても壊れはせんじゃろう。」
「神様やりすぎですよ。どう見ても鋼鉄の鎧の騎士って・・・。
とりあえず、ナナさん最初は思いだす様に魔法を放って下さい。」
「はい、何度か魔法の修練で撃っていたと思うんですが・・・
何分久しぶりで過ぎて緊張しますね。」
ナナは目標の鎧の騎士に向かい『土弾』を放つが
込めた魔力が少なかったのか方向は良かったが鎧に命中と共に
『土弾』は砕け散った・・・。
「方向性は良し、魔力の充電不足。」
「ふぅ」と一呼吸をし再び魔力を込め魔法を放つ!
「キーン!」と鎧に当たり『土弾』が跳ね返される。
「方向性は良し、魔力の容量十分。次に『土弾』そのものを強化。」
神経を尖らせ魔力を込める『土弾』に二重に魔力を覆い魔力を放つ!!
「ズガァ!」と鎧に『土弾』が命中し鎧の一部が陥没している。
「『土弾』の威力は十分だが貫通するには『土弾』を小さく小型に・・・。
それと命中率を上げる為に『土弾』に回転を加えて・・・。」
ナナは再び鎧の騎士へ向かい魔力を込め始める。
先程の『土弾』よりも小型の姿をし高速回転をしている。
『土弾』に纏う魔力を二重三重と重ねてから一気に放つ!!!
「ゴォ!」と鎧を貫き・・・その反動で鎧は『土弾』の回転方向でふっ飛ばす。
「あれ?やりすぎ??」
「ふぉふぉふぉ、魔力を込めたのは気が付いたが二重三重と重ねがけの影響かのぅ。
込められた魔力では考えられないほどの威力ある魔法になったのぉ。」
「そうですね。土の基本魔法のはずなんですが・・・見た目以上に凶悪な『土弾』になりましたね。」
「命中率を上げようと思っただけなんですが・・・ダメですかね?」
「ふぉふぉふぉ、これくらいで驚いてはダメじゃ。
ランクA以上の冒険者達はそれいじょうの魔法やスキルを有しておる。
ナナさんも上を目指すならこれくらいで気にしちゃダメじゃ。」
「そうですね、野犬にはもう少し威力を落さないと倒しても砕いて回収不可でしょうから。」
「あの上を目指す気は無いんですけど?」
「無いのか?本当に?」
「この力があればランクAを目指すのも可能ですよ?」
「冒険者として力を付けるのは当然ですが
ランクを上げて冒険者をするつもりはないですよ?」
「そうじゃのぉ、ランクを上げるのが冒険者として正しいとは思わんし
無理などせんようにナナさんが思う様に生きなさい。」
「ナナさんなら力に溺れず冒険者を続けると思います。
そして、気が付いたらランクAとかになっちゃってたり?」
「衣食住で不満が無ければ現状維持で生活していきますよ。
魔力と魔法の修練は毎日の日課として頑張りますが。」
「人の目が気になるならここで修練してもいいし。」
「最初は『土弾』の発射までの時間短縮を考えましょうか。」
「やはり魔力を込めてから放つまでの時間短縮か・・・。
頭で考えながらでは時間のロスか・・・これも要練習だな。」
「少ない魔力で効率良くじゃ。」
「修練の先には低コストで魔法を放つナナさんの姿が!って感じでしょうか?」
「目標は早く正確に穿つ『土弾』です!!」
魔法を使う者は基本的に専用の杖を装備するのだが
ナナはその事を知らず無手で魔法を放つ事になる。
自然体からの目標に指を向け魔法を放つ姿は冒険者からは首を傾げられるのだが
それ以上に魔法を放つまでの時間や威力の方に目が向き
ナナの独特のスタイルは万人向けとは言えないものになっていく。
『土弾』
土の基本魔法『土弾』は石つぶてを放つ属性魔法。
込められた魔力により威力や命中距離が変動する。
ナナは『土弾』を魔改造し鋼鉄の鎧を撃ち抜く魔法へと昇華させる。
消費する魔力が少ない事からナナの基本攻撃魔法となる。
魔法を使う者は魔法の威力を向上する為の杖を装備したり
魔法の効果向上の為の装備を揃える者が多くいた。
全身を魔法効果向上やら最大魔力値向上する装備を身に纏い
前衛よりも後衛の方が装備に金をかける者たちも多くいた。
ポーションなどもその1つで体力回復ポーションよりも
魔力回復ポーションの方が高額で取り扱われており
魔法を志す者達は自前で魔力回復ポーションを調合したり
ポーション調合師と契約し定期的に魔力回復ポーションを購入していた。