春も採取・・・
季節は春になり、『ケイトラ』試験運用は少しばかり大型化を果たす。
御者席もゆっくり3人が座れる広さを確保し、ナナが1人で仮眠するのにも十分な広さがあった。
車輪も少しだけ大きくしたし、車輪の溝には『不壊』の魔法陣を刻み、壊れないように頑丈にした。
それと、『ケイトラ』の外側には薬草を常時干し作業が可能とする為に、物干し竿が『ケイトラ』外側に完備している。
荷台もティアたちが立てるほど屋根が上がり、木箱っぽい小屋から移動用の小屋へと姿を変える。
薬草が沢山干された小屋なので、『魔法工房』の名の通りにポーションを調合する人がいるのが見てわかる仕様になっている。
荷台が広いと言ってもナナ達が雑魚寝するにはギリギリの広さであり、それならばとナナは1人御者席で休むことになる。
その代わり荷台でも調合が出来る様に、3人が並んで調合作業できるように、仕事机と椅子は工房から持ち出した。
『魔法工房』の看板の通り、移動用調合部屋へと進化する。
調合はしても販売は・・・その場のノリと勢いで。
ナナ達が薬草採取ばかりしているのは冒険者ギルドでは誰でも知っている事であったが、ギルド職員達はナナ達がポーションを調合可能な事も知っている。
この度、聖王国の冒険者ギルド本部からの、調合師によるポーション増加計画。
調合可能な冒険者をギルドとして、正式なギルド職員としての雇用。
もしくは、調合出来る冒険者による調合を指導してもらう。
その中にはこの数年、冒険者ギルドへポーションを納品した者、もしくは、調合スキル持ちの者。
ナナ・ティアの名前もその中に入っていたが、定期的に薬草を納品しているので、ギルドとしては薬草を大量に確保してから、ナナ達に話を通すつもりでいた。
「そういえば、ギルドでポーションの調合教室をしているらしいぞ。」
ギルドで薬草を納品し、露店で焼き鳥を頬張っていると、近くの露店で串焼きを購入している、冒険者が何やら話しているのが聞こえてくる。
「冒険者に調合を教えてるの?」
「まぁ、教えているけど適性があればギルドで雇用するって話だよ?」
どちらも女性の冒険者らしく、頬張りながら自身も聞き限りの情報を教えている。
「それなら試しに調合教室に参加してる?」
「えー、やった事ないのに?」
「何するかは行けばわかるでしょ?」
「確かに・・・いってみるか。」
「調合教室は最初は5日連続で多少は報酬が出るって聞いたけど?」
「何で最初は5日なの?」
「調合の手順を教えるのに1日、残りはひたすら調合を繰り返すらしい。」
「・・・まぁ、試しにギルドに参加するって言って来るかー。」
「何人かに声かけてみんなで行こうかー。」
「その方がいいかなー、知り合いがいない所に5日間いるのはきつい。」
「今の時間ならギルドに戻って来てるだろうし、面倒だがギルドへ戻って知り合い全員に声かけよう。」
「了解ー。」
その冒険者は追加で串焼きを10本購入し、ギルドの方へ歩いていく。
ナナはさっきの話が気になっていたが、ティアとリタが串焼きを購入し頬張っている。
そして、ナナが串焼きの料金を支払い。
「冒険者ギルドでポーションの調合教室か・・・。」
「薬草の需要が増えれば良し。」
ティアが『キリッ!』と串焼きを頬張りドヤ顔をする。
「ポーションの納品依頼が無くなる可能性があるかなー。」
リタが『マジかー。』と頬張るのを止め、困った顔をしている。
「ポーションの調合が出来る人を確保するのは良いと思うよ。
ギルドではポーション確保に大変そうだし、盗賊団の大討伐時にはポーションが足りなかったし。」
「足りない以前にナナが『魔法工房』のポーションの備蓄使っちゃったでしょ?」
「大討伐後半の後方支援が増えたのはナナさん達の仕業でしたか・・・。
ポーション消費が凄い事になってたはずですが?」
「調合スキルを覚えたてのポーション全部放出しちゃったねー。」
「工房の倉庫が片付いて良かったけど、あの追加分はギルドにも請求して無いし。」
「それでナナはどうする?ギルドでのポーション調合教室に参加するの?」
「んー、現状で教えてもらえる事は無いかなー。
アリスさんからの教えで十分だし。」
「確かに調合はアリスさんに教えてもらってるから、他の知識は逆に邪魔になる可能性もあるね。」
「私は言われたとおりに調合するだけです。最近成功率向上で楽しくなってきましたしー。」
「リタさんは初心者から卒業したから、調合もこれから面白くなるよ。
他の調合にも挑戦してもいいし、1つのポーションを極めてもいい。」
「ポーション調合は工房での寝る前の日課になってたから・・・調合の腕も上がったしね。」
「まずは基本のポーションを極めます。」
「本当は怪我を治すポーション、魔力を回復ポーション、毒を消すポーション、麻痺を治すポーション・・・数多くあるポーションで1番使うのは、怪我を治すポーションと魔力を回復するポーションだしなー。」
「結構胃腸に効くポーションも人気あるけどギルドへは納品して無いな。」
「胃腸に効くですか?」
「あれは二日酔いに効くポーションなー。
薬草も特殊な部類で面倒なんだよ、効き目は保証するけど一部の需要しかないな。」
「冬期間は熱さましや咳止めのポーションも需要がある。
こっちも別の薬草だから採取が面倒、効き目は保証されてるからどっちの薬草もギルドで採取依頼が出てるね。」
「まだまだ覚える事が多そうですね。」
「調合を習得したからと言って、全てのポーションの調合を賄えると考えない方がいい。
個人ではやれる事は限られているし、それ専用で露店で販売している者もいるしね。」
「ナナはポーションを自分の店で売ろうとかは考えなかったの?」
「そうですよ、ナナさんなら自分の店を持つのも可能でしょ?」
「店を持つのは可能だけど、冒険者として活動できなくなるし、毎日店にいると疲れそうじゃない?」
「あぁー、それは疲れるかも。」
「確かに・・・。」
「『ケイトラ』があれば半分露店みたいに売れるから気にしない。
本当は冒険者になって危険が少ない薬草採取系冒険者になったんだけど、気がついたら色々やっちゃったかなー。」
「ギルドには薬草採取をして、偶にポーションを納品するランクE冒険者と言ったところでしょうか?」
「野犬の群れや灰色狼の群れに対応できる、ランクE冒険者はいないと思いますが?」
「辺境のロースポーツはランクEでも強いんじゃない?魔の森での討伐依頼が豊富だから?」
「それは去年以前の話でしょ?近年ではロースポーツでは感謝祭は控えめになってるよ。」
「『赤目』騒動以来、冒険者ギルドでは初心者育成に力を入れているみたいだけど、魔の森での討伐はもう少し先って話だ。大猪や黒熊相手に立ち回るのは無理だとさ・・・。」
「そのうちギルドから魔の森での討伐依頼が増えそう。」
「冒険者ギルドにも『赤目』大討伐時に参加した冒険者もいるし、何より『赤目』大討伐以降冒険者が増えたと聞いてた。」
「それはロースポーツだけが明確に『赤目』を討伐したからです。他の地域でも似たような『赤目』の討伐が行われましたが、倒す事も出来ず追いやる事で大討伐は成功した事にしました。」
「『赤目』騒動って他の地域でもあったの?」
「あの時はバタバタしていて気が付いたら終わってたし。」
「聖王国では首都を中心に『赤目』と思われず騒動が10ヵ所でありました。大きいのはロースポーツと同じく都市部破壊クラスの天災級のものから、地方の都市部が壊滅するクラスのものまで。
数多くの聖王騎士達と冒険者達により聖王国は守られました。」
「なんか次々と問題ばかりが出てるな、ポーションが無くなるのは必然か?」
「『回復魔法』の使い手が少ないのも問題?」
「多分どちらも問題ですね、後方支援に携わる者達の育成をしなかった罰です。
誰も彼も前衛になり、後衛を選ばなかった・・・、誰かが進んで『回復魔法』を習得したり、みんながポーションを調合出来れば議題にもならなかった事です。」
「そういえば『回復魔法』は聖王教会で教えてもらえるの?」
「教えてますが、基本聖王教会に所属するという事で、魔法を覚える為には教えてないはずです。逆に『回復魔法』に適正のある者達は教会としては囲い込みに動きます。」
「それで冒険者達の中に『回復魔法』使いがいないのかー。」
「聖王教会としては『回復魔法』を使える人材を危険な冒険者にしておくのを黙って見ていられないと・・・?」
「それは建前。」
「有事の際に『回復魔法』が使える者達を派遣できると知らしめる為、その事で聖王国での地位固めが目的かもなー。」
「「「世知辛いなー。」」」
ナナ達の小さな呟きは、露店で買い物する者達へ聞こえたが、ナナ達の会話を最初から聞こえた者からしたら「確かになー。」と逆に参道の意見が漏れた。
冒険者ギルドでは、予定人数よりも多い人数が調合教室に参加していた。
冒険者に成り立ての者から、10年以上冒険者をしていたであろう者まで、教師役の冒険者から調合の方法をレクチャーされ、全員がポーション調合に集中していた。
このポーション調合教室は、日に日に参加人数が増え、教師役の冒険者では手が足りず、引退した冒険者も駆り出され、ナナ達が採取した薬草が足りない事態になっていく。




