舞台は廃坑、戦闘開始す
盗賊団の大討伐は聖王都の首都では極秘裏に計画が進められていたが、首都に集結する冒険者達、聖騎士団本部での食糧の大量購入、冒険者らは武器の整備や武器の購入、冒険者ギルドによる回復品の大量購入。
物資の動きから騎士団と冒険者ギルドで何か動きがあると首都の住民は感じ取っていた。
そして、盗賊団の面々も再び盗賊討伐があると思い、首都に潜伏しては盗賊団と密に連絡の取り合いをしていた。
目的地の聖王国と共和国の国境付近の廃坑付近に到着する。
何度か盗賊団からの襲撃により、予定よりも進行に遅れが出ていた。
後方支援の代表は聖騎士団が担当しており、冒険者達は後方資材を守る事に専念している。
彼らは無事に先行していた部隊に、後方資材を運び大討伐を成功される事。
荷馬車は周囲の警戒、馬車を守るために『魔法障壁』を展開し、盗賊の気配があれば即攻撃をし、到着まで神経をすり減らし、先行部隊と合流後には少しだけ『ほっと』していた。
先行部隊は盗賊団の拠点を確認し、廃坑周辺を調べている。
盗賊の殲滅よりも盗賊団の行動を観察していた、何処から現れ何処へ向かうのか。
そして、大討伐における拠点の確保である。
秘密裏し進行する作戦であったが、盗賊からの襲撃の多さに隠れて行動するのを早々に諦めた。
『土魔法』得意な者達が『土壁』で簡易防壁を作り上げ、『風魔法』の『風刃』により拠点周辺の木々を伐り倒した。
伐り倒した木々で『櫓』(やぐら)を組み上げ周囲を目視で警戒する。
それ以外は薪としての活用は無理でも、纏めて蔓草で結ぶ、森の中に隠して置く、これで盗賊の足止め程度には使えるだろう。
先行部隊と後方部隊は無事に合流し、ナナ達も拠点に『ケイトラ』を停車し
「やっと到着ー。」
「んー、座りっぱなしで疲れたー。」
「さて、私は挨拶してきますね。」
ナナとティアが『ケイトラ』から降り身体をほぐしていると、マリアが他の元聖女候補生と一緒に拠点の建物へ歩いていく。
多分マリア達には特別な任務でもあるのだろう。
ナナは拠点を見渡し、防壁の高さや厚みを確かめ、次に櫓を見上げては首を傾げ
「あの防壁はあれで完成ですか?」
ナナに話しかけられたのは、櫓の上で周囲を警戒していた3人の冒険者の1人に
「ん?どうした何があったか?」
「防壁はあれで完成ですか?」
冒険者の1人は何を聞かれているのかわからなかったので
「少し待て。」
そう言って櫓の上で鐘を鳴らす。
『カーン』
響いた音に周囲の緊張が上がった気がしたが、鐘の音は1つという事で数名の冒険者が集まってくる。
「どうした、何があった?」
「交代か?」
櫓の上から冒険者の1人がスルスルと降りる。降りると同時に集まった冒険者の1人が櫓へ登る。
警戒する人数が3人になったのを確認し、ナナへ向き直り話しかける。
「それで何を聞かれたのか教えてもらえるかな?」
櫓から降りてきた冒険者は、後方支援に同行してきた冒険者と思い、拠点内で分からない事でもあったのかナナ達に話しかける。
「拠点の防壁は高く厚くしないんですか?」
「あれでは破壊可能・・・。」
「拠点の防壁としては最低限のはず、後方部隊と合流前で魔力の消費を抑えた結果だね。」
「大討伐前に防壁の強化や拠点の拡張が今話し合ってるはずだよ。」
冒険者達から次々と話しかけられ、ナナは少し考えてから
「それでは防壁の強化は話し合い後に考えます。
最低限自分たちの安全確保に努めます。」
「寝る場所の安全確保かなー、寝る場所は何とかしなきゃー。」
「今日到着したばかりで疲れているだろうし、無理はしちゃダメだよ。」
「君らは後方支援の護衛依頼に支障が無いように。」
「「はい。」」
ナナとティアはぺこりと頭を下げ、『ケイトラ』へと戻る。
ナナ達を見送った冒険者らは
「後方支援の護衛っぽくないね。」
「聖女候補生の護衛じゃないかな?馬車で一緒だったらしいし。」
「あの馬無し馬車?聖王国内で噂になっていたかな。」
「魔力で稼働する馬車か・・・。魔力量が少ない俺らには無縁な話だな。」
「確かに・・・。」
『ケイトラ』は拠点の一角にある馬車置き場に停車している。
馬は拠点の隅の方で身体を休めている。
荷物が積まれた荷馬車もあり、騎士達や冒険者達が馬車に簡易屋根を作っている。
「拠点確保の為に伐り倒した木々で組み上げているね。」
「屋根は帆にするのかなー。」
「先ほど到着したはずなのに、こんなに早く屋根の骨組みが完成とか凄いな。」
「ナナも同じ事が出来る?」
「んー、無理だよ。」
ナナは馬車置き場は屋根が完成するまで邪魔になりそうなので後にする。
ナナ達は拠点を見て歩き、現状維持では十分に盗賊の襲撃に耐えれるかを調べる。
「防壁は高さと厚みが必要。」
「拠点と木々との間が近いかな。」
「治療施設の拡張は・・・今やってるみたいだからいいか。」
「調理場の拡張は必須じゃない?」
「食事は各自準備だっけ?」
「・・・どうだっけ、ここまでの移動中は各自で準備していたけど?」
「その辺はマリアさんが来てから話を聞こう。」
拠点をぐるりと周りナナ達が馬車置き場に戻ると、馬車置き場に立派な屋根が完成している。
それと馬車置き場の隣に建つ治療施設も拡張が完成し、元聖女候補生達が施設内で色々準備をしている。簡易ベットに包帯にポーションも並べられている。
ナナ達はこっそり治療施設を覗き見し、マリア達にバレない様に『ケイトラ』へと戻る。
「護衛依頼をするなら一緒に資料施設にいればいいのかな?」
「んー、交代でマリアさんを護衛する?」
「交代と言うか元聖女候補生は女性がのみだからティアが常に離れず護衛した方がいい。」
「了解、ナナはどうするの?」
「周囲を警戒か、ポーション調合かなー。」
ナナとティア以外が忙しそうに動き回っているのを横目にお茶を飲む。
盗賊団への大討伐開始までの僅かな、ゆっくりした時間がそこには流れていた。
元聖女候補生達や討伐隊から大討伐開始まで防壁の強化をし、治療施設も遠距離からの攻撃に対し施設の防衛力を上げる。
本来なら馬車置き場の防壁の強化をしたかったのだが、拠点の防壁を高く厚く堅硬を重点的に考えた結果であった。
ナナとティアは『土魔法』が使えるので、大討伐開始寸前まで時間の許す限り拠点の色々な場所を強化していく。護衛対象のマリアはナナとティアと同行し、護衛と拠点の強化を同時に進行していく。
採取した薬草は調合出来ず『ケイトラ』の荷台で乾燥作業中である。
「護衛依頼のはずなのに馬車移動と防壁強化しかしてない・・・。」
「久しぶりに『土魔法』しか使ってないや・・・。」
「いやいや、拠点の殆どの強化しちゃってない言ってるんですかー。」
「頑丈にするのは難しくないよ?」
「ただ硬く厚くするだけよ?」
「それでも慣れてない者には難しいんですー。」
「使い続ければ慣れるからマリアさんも頑張れ!」
「頑張れ!」
「・・・はい。」
「『土魔法』の『土壁』が自在に使いこなせば夜営に便利よ。」
「野営時に寝ずの番する事なる寝れるよ。」
「それは魅力的な話。」
「大討伐が始まれば忙しくなるだろうし、やれる事はやっておかないとね。」
「調合は出来そうにないけど?」
「それはしょうがないかな、拠点強化は必要だしね。」
「休める場所は必要、頑丈なのは大事よー。」
「そうですね、みんなが戻って帰る場所は必要です。」
ナナとティアの『土魔法』に感化されてか、マリアも覚えたての『土魔法』で防壁の強化に努める。
それ以外にも野外に大型調理場を作り、マリア以外の元聖女候補生らが拠点で討伐隊の食事を忙しそうに作っていた。大討伐が始まれば食事も満足に食べれる保証もなかったので、開始までは美味しい食事を嬉しそうに食す。
それから2日後、聖王国騎士団と冒険者達による大討伐が開始される。
元聖女候補生マリア達を含む者達は拠点で待機し、負傷者の治療に専念する為である。
ティアはマリアの隣で治療の手順などを話し合っている。
ナナは拠点を守護する者達と警備について話し合う。
拠点の守護は、騎士団の盾持ちと回復が得意な者達が多く、冒険者側は遠距離特化の揃え、襲撃を受けても遠距離からの狙撃、接近されても盾で弾き飛ばす。
ナナはマリアの護衛として来ていたので、盗賊襲撃時にはマリアの護衛に専念した方がいいと言われた。
それまでは拠点でポーション調合をして過ごす。
廃坑での戦闘は守りを固めた盗賊側に軍配が上がり、討伐隊の怪我人が拠点に運び込まれる数が日々増えてくる。
廃坑内は複雑に入り組み、入り口は複数あり通路の分岐も多数あり、盗賊の討伐に加え廃坑の探索、やる事がありすぎて大討伐の終わりが見えない状態にあった。
盗賊達も状況が悪くなれば廃坑内を爆破し、討伐隊を生き埋めを決行していく。
討伐隊も捕獲から殲滅へと行動を移行するのに時間がかからなかった。
負傷者もポーションで治らない重傷者も増加し、『回復魔法』での回復が追い付かず、治療施設に怪我人が溢れるようになる。
元聖女候補生達は魔法の使い過ぎにより、数時間ごとに魔力回復の為に身体を休める時間が増えていく。
魔力をギリギリまで消耗し、身体を休めては回復をし、倒れるまで魔法を行使する。
ティアはマリアと同じく『回復魔法』により、早々に護衛役から回復役にポジションが変わり、ナナがマリアの護衛として治療施設で活動していた。
先行隊が廃坑付近を調べ尽くしたと思われたが、未発見の出入り口からナナ達がいる拠点への襲撃が増え、ナナは戦いの舞台へ赴く。
森に隠れた盗賊を弓を構え矢を射る。
殺気ただ漏れの盗賊は森で獣を狩るナナにとって強敵と言えず、黙々と淡々と森に潜伏する盗賊を狩りつくす。
拠点防衛の護衛役として参加していたので、ナナが森の中で大量の盗賊を倒している事は、拠点防衛の防衛隊は知る事は無かったし、ナナも自分から盗賊を倒したことは報告しなかった。
ナナが盗賊を30人ほど倒す頃には、拠点への襲撃事態無くなった。
廃坑攻略が始まり20日後に、廃坑内から盗賊の姿が消え、討伐隊が廃坑をくまなく探索しても、盗賊の1人も発見する出来ず、盗賊団の大討伐は終了した。
また、盗賊が盗んだ物資の発見は叶わず、連れ去られた人達の遺体だけが見つかった。
その中には聖王国の関係者のみならず、共和国の関係者も発見されたとか・・・、詳しい事はナナ達が知る事は無かった。
少しだけ聖王国のお偉いさん達が頭を悩ませた事案が増えただけである。
盗賊団の大討伐が完了した事で、本来の護衛依頼で再開される。
元聖女候補生マリアのロースポーツへの護衛依頼。
聖王国の首都まで街道を疾走してきたので、ロースポーツまではゆっくり長旅を楽しみながら『ケイトラ』は街道をトコトコと進む。




