首都到着してもナナはお茶を飲む
『ケイトラ』で街道を疾走中も聖王国首都の防壁の巨大さに驚きはしたが、近づいて見上げる防壁の高さに「たっかいなー。」「でかー。」と声を上げてしまうほどだった。
防壁には首都の玄関口と言う巨大場門があり、門番と騎士団が入国する者達に執務質問をし、馬車に荷を検めていたる。
ナナは『通行手形』をいつでも取り出せるように準備し、ティアは荷台に行き偽造した木箱な中身をチェックし、何を言われても大丈夫なように荷物を整理していく。
荷物整理をし御者席に戻ったティアは、「荷台は大丈夫ー。」とナナに声をかけ
「それじゃ、順番までゆっくりするかー。」
「んー、ゆっくりしようー。」
ナナ達並ぶ出入り口は馬車専用という事もあり、『ケイトラ』の前後は荷物を積み込んだ荷馬車に囲まれていた。
何故か隣の立派な馬車専用に出入り口は、スムーズに馬車が進んでいるように見えるのだが・・・。
「隣はスムーズに進むねー。」
「立派な馬車っぽいから貴族様かなー。」
「あー、そういう事かー。」
「まぁ、そのうち入れるでしょうー。」
防壁に近づくにつれ『ケイトラ』を見つめる視線が多くなってきた。
ナナは絡まれるのは嫌だなと思い、『ケイトラ』を囲むように『結界魔法』を展開していく。
『結界魔法』は『魔法障壁』と違い、見た目では魔法の展開を見た目ではわからず、触って弾かれて初めて気が付く。その為に不用意に近づき弾かれて騒ぎ出す。
『結界魔法』に触れ弾かれて転がる男達は、何事かわからず声を上げているようだが、不用意に接触し失敗したにもかかわらず、ナナ達に何が叫んでくる。
叫んでいるがナナ達は『結界魔法』に1つ『消音』効果を持たせているので、ナナ達の目の前で口をパクパクしている男達が目の前にいる。
ナナとティアはあまりにも進まない前方の荷馬車を見つめながら、串焼きや焼き鳥を昼ご飯として食す。食べ過ぎて眠くなるので軽めの食事を楽しんでいる。
ちらちらと口をパクパクして騒いているであろう男達を見ながら
「なんか邪魔だね。」
「『結界魔法』の効果は十分。」
「何騒いでるんだろ?」
「・・・弾かれたんじゃない?」
「停まっている馬車に轢かれて騒いでいるとかなー。」
「それなら騒げるほど元気じゃないってー。」
暫く騒いでいると門番の騎士何名が『ケイトラ』に向かってくる。
騒ぐ男達と騎士達が何かしら話をしているのをナナ達は食後のお茶を飲み
「何やら騎士が増えましたなー。」
「口パクパクで何が何やらー。」
「まぁー、看板と『通行手形』があるから心配はしてないんだけどなー。」
「目の前の騎士が何か話しかけてない?」
騎士の1人がナナ達に向かい話しかけてたので、『結界魔法』を維持しつつ『消音』効果を解除した。
「何か御用ですか?」
ナナからの場違いと思える話し方に、騎士は驚きつつ
「ようやく話が出来るかな、君達に聞きたい事があるんだがいいかな?」
ナナとティアは「はて?」と首を傾げ、「んー。」と考えてから
「はい。」
「んー。」
「それじゃ、後ろの男たちが馬車に轢かれたと騒いでいるんだが本当かい?」
騒いでいた男たちは『ケイトラ』から離れた場所で騎士たちに囲まれている。
何か言いたそうな顔をしているが、目の前の騎士が剣を携えており黙っている。
「停車した馬車に轢かれるとは・・・何を言っているんですか?
轢かれて怪我もしないのであれば問題無いでしょうに。」
「勝手に荷台に触れて弾かれただけでしょ。」
「荷台に触れて弾かれたとは・・・魔法か何かなのかい?」
ナナとティアはこくりと頷き、まずは『通行手形』を見せる。次に冒険者ギルドから指名依頼の事を告げ、最後に『ケイトラ』の試運転と許可無き者は『結界魔法』で弾かれると教える。
「『結界魔法』ですか・・・、触れば弾かれる。
それは今も魔法の効果があるという事かな?」
「はい、並び始めてから魔法を展開してます。
この馬車は『魔法工房』の錬金術師アリス作の物で、馬車の倉庫維持は魔法陣により御者席に座る者の魔力により展開しております。」
「私たちは荷馬車の試運転を師匠から託され依頼されて動かしています。」
「壊されても盗難されても困りますから・・・。」
ナナとティアは正解半分嘘半分を騎士に教える。
うそを言ってない感じに真剣な顔ですらすらと話す。
騎士は『ケイトラ』をぐるりと見てまわり、『魔法工房』の看板を目にし「魔法工房・・・聞いたことないな。」と呟き、『ケイトラ』を触り・・・弾かれる。
弾かれ他の騎士達が一瞬警戒したが
「なるほど弾かれるな。」
弾かれたからなのか手をプラプラとしている。
「この衝撃なら弾かれて転がるか。
『結界魔法』の解除は任意でも?」
「可能ですよ、今は解除するつもりはないですよ。」
ナナは騒いでいた男達を見ながら話す。
ティアも今も騒ぎ出しそうな男達を見ながら
「襲われたら叩き潰していいんですか?」
「やりすぎては困るんだが・・・。
現状で騒いでいる男たちが一方的に君達の荷馬車で弾かれ転がったと。
『通行手形』の所持が君達の冒険者としての信用を確認しました。
すぐにでも入場可能ですが・・どうします?
隣の入り口からならすぐに入れますよ???」
「普通に並びます。魔法を展開していれば大丈夫なので。」
「急いで無いし、ゆっくり進みます。」
ナナとティアは首都に到着したので、今から立派な馬車の中に紛れて進もうとは思わなかった。
「今からなら夜までには入れるでしょ?」
「ゆっくり進もうー。」
「まぁ、このペースなら数時間もかからないでしょう。
最後に騒いでいる男達はどうしますか?
目撃者からの話を聞いた限り、彼等が荷馬車に触れ弾かれ転がったのが複数の者が目撃してます。
君達が罪に問われる事はありません。」
「今回と同じ事があった場合の対処はどうしたらいいですか?
叩き潰していいですか?それとも殲滅ですか?壊滅ですか?」
「それとも埋めますか?」
「過剰に反撃されても困りますが・・・。
門番にいる私に相談に来ても大丈夫ですよ。
それでは騒いでいた男達には別途話を聞かなければいけませんので。」
騎士達は騒いでいた男達を引き連れて門へと戻る。
最後に話しかけた騎士の名前を教えてくれた。
『聖王騎士団 首都警備5番隊 門番担当 アンドレス』
「アンドレスさんね・・・覚えた。」
「他の騎士の名前は聞きそびれたというか・・・同じ鎧姿で覚えるのは無理です。」
「・・・同じく。」
「まぁー、いいや。お茶を飲みながらゆっくりしましょ。」
ナナは再び『結界魔法』に『消音』効果を付加していく。
静かになりお茶を飲み始めるのだが、先程の騎士との話を聞いていたのか、『ケイトラ』に近づく者はいても触る者はおらず、ナナ達に話しかけている者が数人話しかけては離れていく。
「冒険者っぽいのから商人っぽいのまで色々な人が話しかけてくる。」
「貴族っぽいのも混ざっていなかった?」
「あぁー、質の良い衣装を着飾った人がいたね。」
「口をパクパクしてたから何を言っているかは不明だけどね。」
「アンドレスさんとの会話が聞いていたら消音で聞こえないの知ってるはずなのに・・・。」
暫く何かを話しては離れていくを繰り返し、ナナ達はト ロトロと進む。
首都へ入る時にアンドレスさんに挨拶をしてから無事首都へ入る事に成功する。
挨拶をしつつ冒険者ギルドの場所とギルドの馬車置き場を教えてもらう。
「この門から左手の大きな建物で、剣と盾が描かれた大きな看板・・・。
馬車置き場は建物の隣のだったか・・・、馬の管理は離れた場所と言ってたな。」
「馬の管理は人手やら匂いやらの問題があるからねー。」
「馬の管理は大変そうー。」
「大変よー。」
街中をトコトコと走り住民たちの注目を受けながら、『ケイトラ』は冒険者ギルドの馬車置き場へ到着する。馬車置き場の空きスペースに『ケイトラ』を停車し、ナナ達が離れても大丈夫なように『結界魔法』を展開し、冒険者ギルドへ向かい歩き出す。
必要かどうかはわからないが背負ったリュックに『通行手形』を入れたし、特製の作務衣にを着込む。
ティアも同様に作務衣に背負いリュックで腰に解体ナイフを装備していく。
「それじゃ、到着した事を報告に行こうかー。」
「はいよー。」
場所置き場の『ケイトラ』は『魔法工房』の看板が目立つのか、誰かしらの視線は感じているがナナ達は気にせずギルドへと向かう。
その後、『ケイトラ』に触り弾かれ転がる者達の叫び声が馬車置き場へ響き渡る。
聖王都首都にある冒険者ギルドでは『魔法工房』と『ケイトラ』の事を聞かれたので、操縦は人にの物の者以外は無理な事、無理に接触した者は馬車置き場の者達の様になる事を告げる。
『ケイトラ』は現在試運転の途中である事と、『ケイトラ』の車輪は魔法陣で作用する事を教えた。
ナナが教えた事はロースポーツの冒険者ギルドで話した内容と同じ事なので、話したところで2度手間なので途中から知ってる前提で話を端折った。
「それで指名依頼で来たんですが、元聖女候補生のマリアさんはどちらに?」
「早めにロースポーツに帰還して依頼を済ませたいんですが?」
「それについてですが、元聖女候補生の彼女らは盗賊団の大討伐に強制参加中です。
君達は大討伐が終了するまでギルドで待機してもらおうと思いますが大丈夫でしょうか?」
ロースポーツの盗賊の襲撃から盗賊の大討伐の失敗、それから盗賊団の大討伐。
いつ終わるかわからない大討伐が終わるのを待つのか・・・。
参加してもいいけど面倒そうだな・・・。
「いつ終わるかわからないのに待つのですか?」
「マリアさんは大討伐に参加中ですか?」
「盗賊団の大討伐は5日後に開始予定です。
現在盗賊団の住みかと思われる廃坑へ向け進行しています。
後方支援のマリアさん達は2日後に首都を立ちます。
参加するのであれば今日明日中にギルドへお知らせ下さい。
ロースポーツの冒険者ギルドからナナさん達の調合したポーションの話は聞いています。
大討伐に同行しポーションを調合してもらえれば嬉しいのですが・・・。」
「出来ればマリアさんとお話をしたいのですが可能ですか?」
「それなら大丈夫です。
ナナさん達がギルドへ到着後に、マリアさんにナナさんの到着を知らせました。
ギルドへの到着は暫く時間が必要かもしれません。
そういえばロースポーツの大討伐時にマリアさんの護衛をしていたと聞きましたが?」
「はい、数日しか護衛依頼として活動してませんが・・・。」
「数日で終わったからね。」
「大討伐は長期間の護衛依頼だったと思うのですが?」
「ロースポーツの大討伐時に避難していた住民の護衛っぽい事をしていて、ロースポーツに戻って急遽護衛依頼の事を知りました。その数日後に大討伐が終わってしまい・・・。」
「あの時は大変だった。装備は壊れるしめちゃくちゃ疲れたし・・・。」
「その時はランク的に護衛依頼は受理できないはずですが・・・。」
「魔物に襲われている馬車を助けたのが縁で・・・そのまま避難先まで護衛っぽい事をしてました。」
「ギルドからは報酬貰ってないから、護衛依頼っぽいって事ですよ。」
「ランクEの冒険者よりも戦える考えた方がいいのかな。?」
「戦う事より薬草採取ばかりしていたので、人並みに戦えると思ってもらえれば大丈夫です。」
「聖王都の周辺は冬期間にもかかわらず採取可能ですし、大討伐の移動時に採取できるかも。」
「集団行動時に薬草採取のために列を乱すのは勘弁してもらいたいんだが・・・?」
「それなら休憩時に採取か・・・。」
「夜間採取も可・・・。」
「夜間中は周囲を警戒してもらいたいが?
後方支援の集団と支援資材の運搬もお願いしたいんだが?」
「うちの荷馬車は荷台が狭いので無理ですよ?」
「2人が横になるスペースしかないですよ?」
「そうかー。聞いた話では『結界魔法』を展開するから安心して運ばれると思ったんだがな。」
「まだ試作品の馬車ですから、最低限の荷物を置く場所しかありませんよ。」
「御者席に3人座れるのでマリアさんの護衛依頼を受けたんです。」
「荷台も人が立てるほどの高さもありませんし。」
「中腰の高さしかないもんね。」
ナナ達はギルド職員と『ケイトラ』の話や盗賊団大討伐について色々話をしていた。
それから30分後、走ってきたのが息を切らせながら、元聖女候補生のマリアがギルドへ到着した。
冒険者ギルド内の待ち受け室の隅で、お茶を飲むナナ達を見つけるのだった。
聖王都までの道中に用意した弁当はおにぎりの味付けが多種多様用意されており、ナナは定番の『塩おにぎり』が一番好きで、ティアは『肉巻きおにぎり』が一番好きだった。
毎食1つずつ弁当を開けてはおにぎりを頬張り、ニコニコしながら食事を楽しんだ。
「「アリスさん、今日も美味しい食事をありがとう。いただきます。」」
「「アリスさん、今日も美味しかったです。ごちそうさま。」」
この挨拶が『ケイトラ』での食事での定番の挨拶に決まる。
食後の仮眠・・・昼寝は、荷台へ移動しキッチリ布団で寝る時もあれば、御者席に座りながら仮眠する事もあった。
途中に盗賊の襲撃もあったが、襲われた時は問答無用で撃って燃やして・・・燃やし尽くした。
叩き潰して放置するより、燃やして塵も残さない方が証拠も残らないと思ったからだ。
襲われた事をギルドへ報告するのも面倒だし、倒した盗賊を数えるのも面倒だし、道端の石を蹴るように道端の盗賊を燃やし尽くす。
聖王都の首都へ向かう街道では、巨大な火柱や衝撃を伴う爆裂音が聞こえた。
そして、焼け野原を疾走する『ケイトラ』が目撃されたとかなんとか・・・。




