盗賊討伐のその後とか
『ケイトラ』での野営は『魔法工房』で経験していたが、冬期間の野営は寒いのが前提として考えていたナナ達であったが、工房の布団での寝心地は相も変わらず最高だった。
夜明けと共に目が覚め、ナナはむくりと起きだす。
昨日は疲れていたのか、隣で寝ているティアは毛布に包まり丸くなっている。
「朝だよー、起きてー。」
「んー、おはよー。」
毛布に包まりながらむくりと起きだし、ナナにぺこりと頭を下げる。
ナナは眠気眼のティアに『生活魔法』を唱える。
すると身体の汚れから衣服の汚れまで綺麗に洗浄していく。
「んー、さっぱり!」
『くあっ!』と目を見開きティアが元気になる。
ナナは自身にも『生活魔法』と唱え、身体と衣服を綺麗にし
「それじゃ、ギルドへ行こうか。」
「んー、昨日の報酬?」
「そそ、襲った盗賊達の討伐報酬と奴隷としての販売額が貰えるんだったかな。」
「そういえばそんな事を言ってたような・・・。」
「初めての事が多すぎて半分も覚えてないよ。」
「盗賊は向かってきたら叩き潰してきたからね。」
「それに『ケイトラ』の事もギルドへ報告した方がいいでしょ。」
「確かアリスさんと色々話し合ったっていう設定?」
「そ、『魔法工房』の解禁。」
「半分以上は誤情報だけどね・・・。」
「こういうのは本当の事を散りばめて話した方がいいんだよ。
嘘と本当は紙一重、『ケイトラ』という実物もあるしね。」
「報告はナナに任せます。」
ティアは『魔法工房』でナナとアリスさんが面白そうに『魔法工房』の設定を決めていたのを聞いていた。
そして、話にハクトさんも加わり、気が付けばグランさんやアポロさんも・・・最後にルナさんも話し合いに加わり・・・壮大な『魔法工房』の設定と『錬金術師アリス』と『老師ハクト』が『魔法工房』で隠匿生活をしているという『事』にした。
無名の錬金術師アリスの最高傑作魔道ゴーレム『ケイトラ』
ナナ達は『ケイトラ』の試験運用の助手として活動している『事』にする。
『魔法工房』は人の目の届かない場所にあり、立ち入りが困難な場所にあるという事。
そして、最後に『ケイトラ』は完成後に順次販売予定である事。
順次販売はするが予約受付が『魔法工房』という事で、半分以上詐欺の様な触れ込みで話を通す事となる。
「それじゃ、そろそろギルドへ行こう。」
「んー。」
寝具セットは『生活魔法』で綺麗にしてから『魔法工房』へ送り、ついでに荷台内も綺麗にしてから外へ出る。昨日は気が付かなかったがロースポーツの都市内も積雪があり、『ケイトラ』の屋根にも雪が積もっている。
防寒装備のはずなのに寒さに手が凍る気がしてきたの、ナナはティアの手をつかみギルドへと速足で向かう。
ティアは山間の農村出身で寒さには順応していた。
隣のナナが思いのほか寒さに震えているのを不思議そうに見てから、突然手を握られ走り出した時は驚きはしたが、ナナの少し恥ずかしそうな顔は見ていて少しだけ嬉しくなった。
冬期間になってから初めて訪れた冒険者ギルドは、時期的な事もあり閑散としている。
部屋の中は唯一暖炉の前で冒険者達が暖を取っていたり、待ち受け室の大き目な火鉢に手をかざしている者達が談笑している。
その中で昨日の盗賊の集団と戦闘をしていた冒険者達が、ナナ達に声をかけてきた。
「おはよう、昨日は助かった。君達のおかげで誰一人欠ける事無く無事に依頼を達成出来た。」
「「おはようございます。」」
ナナとティアはぺこりと頭を下げ、それを見た冒険者達も慌ててぺこりと頭を下げ声を揃えて
「「「おはよう。」」」
それを見ていた暖炉の前で談笑していた冒険者達は不思議な顔をしていたが、ギルドの受付からの
「クラリスさん、昨日の荷物の運搬での詳細を聞きますので会議室までお願いします。」
「はい、今から向かいます。君たちも一緒に来てくれ。」
ナナ達は報酬を受け取れば済む話と思っていたが、会議室と聞いて思いっきり面倒そうと思ってしまった。
報酬の話と聞き嬉しそうに会議室へ向かう冒険者達の後ろをトコトコと歩く。
ナナ達が最後に会議室に入り、出口付近の椅子に座るのを確認し、ギルド職員から荷物の運搬依頼中の盗賊の集団との戦闘の話の聞き取りと、生き残った盗賊の処遇の話へと移行する。
「なるほど森からの奇襲で盗賊に囲まれ戦闘になり・・・ナナさん達が助けに入ったと・・・。」
「森からの襲撃には気を付けていたんだが、盗賊が集団で襲って来るとか予想外だったから対応できなかった。」
「彼らの助けが無かったら最悪依頼失敗の全滅だったかもしれん。」
「盗賊を倒しても怪我人も多かったしな、荷物を放棄しても依頼は失敗。」
「盗賊から逃げるにしても雪原から街まで辿り着けたかどうか・・・。」
「怪我をしたという話でしたが、話を聞くほどに大きな怪我は負わなかったのですか?」
会議室の中に重傷を負うほどの者は見受けらずギルド職員は首をひねる。
「彼らのポーションを使わせてもらった。」
「効き目は十分すぎる効き目だったぜ。」
「あぁ、誰一人死なずに済んだ!」
「うむ、そのポーションは店売りの物でしたか?」
「ポーションはどれも同じなんじゃないのか?」
そういって冒険者の1人がリュックからポーションを1つ取り出す。
ギルド職員はポーションの瓶を見つめながら
「ギルドで販売しているのではないか・・・。
効き目と効果はギルドの物と同様の品質か。」
「ポーションの効き目は問題無いぜ!全員が体験してるからな!!」
「あぁ、斬り傷から完治したしな!」
「おかげで昨日の酒は美味かった!」
「うむ、盗賊の集団との戦闘とポーションは関係性なしと・・・。
次に盗賊の集団についてですが、森の中から現れたと報告がありましたが?」
「警戒はしていたが馬車の前後を囲まれてしまった。
雪降る森の中からの弓矢による狙撃に、範囲魔法で馬の動きを阻害しての戦闘で対応できなかった。」
「魔法は馬の動きを止めるだけみたいだったが・・・。」
「弓矢は俺達を狙い撃ってたな。」
「気が付けば20人以上武器を持った奴らに囲まれてた。」
「捕らわれた盗賊達の武器に弓矢は無かったと思いますが?」
「それなんだが、俺達に斬りかかってきた奴に弓を持っていた奴はいなかった。」
「魔法を唱える者もな。」
「回収した武器はあれで全てのはずだぞ。」
「弓も矢も無しで杖も無しか・・・。
まだ森の中に盗賊達がいる可能性がありますね。」
ギルド職員が思考の海に沈む前に、冒険者の1人が声を上げる。
「それで今回の荷物の運搬依頼はどうなるんだ?」
「昨日荷物の運搬の完了を確認しました。期日までの運搬ですので大丈夫ですよ。
それに加え盗賊の討伐依頼に、回収された武器の報酬、盗賊の奴隷の売り上げも加算されます。
奴隷の売り上げ報酬は奴隷商人との相談になりますが期待していいと思いますよ。」
それを聞き嬉しそうに声を上げる冒険者達、依頼の成功報酬に追加での報酬に嬉しそうだ。
「そだ、盗賊討伐報酬と売り上げを彼らにも分配してくれねえか?」
ギルド職員は冒険者達の彼らと言われたナナ達を見て
「ナナさん達が今回の盗賊討伐の手助けという事ですね。」
「あぁ、俺たちが襲われていたのを助けてくれたし、ポーションも分けてくれた。」
「あの奇襲が無かったら危なかったしな。」
「何よりポーションが助かった!」
「わかりました、分配に関しては人数割りという事で分配しましょう。
盗賊の奴隷の売り上げ以外は渡せると思うの受付カウンターへ向かってください。」
「よし、報酬を貰いに行くか!」
「これで少しは懐も温かくなるぜ。」
冒険者値は会議室を出る前にナナ達に
「ありがとうな。」「本当に助かった。」「ポーションの販売をしたら絶対買うからな。」
沢山のお礼を言われ、有り難いやら嬉しいやらで困っていると、ギルド職員から話しかけられる。
「今回はお疲れ様でした、偶然とはいえ多数の冒険者達が助けられたのは、ギルド職員としては感謝してもしきれません。」
「本当に偶然なので気にしないでください。」
「たまたまだし。」
「それで雪降る街道で偶々何をしてたんですか?」
「試運転です。」
「雪道を疾走してました。」
「試運転で雪道を疾走???」
ギルド職員の頭の中を疑問符が並ぶ。
「お世話になっている師匠から魔道ゴーレムの試運転をしていたんですよ。」
「馬無し馬車の試運転です、雪道でも問題無く走れるかどうか、停まれるかどうか・・・とかね。」
ギルド職員は盗賊の集団との戦闘以上の事を聞かされ
「なるほど昨日門番の報告にあった馬無し馬車はあなた達のゴーレムの事だったんですね。
門番たちの報告後に詳細を聞いたはずなんですが、若い冒険者の2人が乗り込んでいたとしか聞いてなかったんですが・・・、それでゴーレムはどちらに?」
「冒険者ギルドの裏に停めてありますよ?」
「雪が積もっていたけど大丈夫かな。」
「耐久テストを思えば大丈夫じゃない?
どれくらいの圧雪でつぶれるかとか・・・水漏れも気になるしね。」
「確かに走るだけが試運転じゃないしね。」
ナナとティアは嬉しそうに話をしているのを、ギルド職員は気になったのか
「それを見る事は可能ですか?」
「可能ですが、動かすのは無理ですよ。
設計者の設定上、私たち以外が操縦する事が出来ないので。」
「そうなんですか?」
ナナとティアはこくりと頷く。
ギルド職員の頭の中に馬無し馬車は、馬の維持費が無くなくと思い何としても入手出来ないかと思い始めていた。
『魔法工房』は錬金術師アリスが住まう場所である。
錬金術師アリスは錬金術を極め魔法をも使いこなし、魔道ゴーレムを作り上げる。
老師ハクトは彼女の祖父にして戦闘格闘体術を極めし使い手である。
ナナとティアはアリスとハクトの弟子として住み込みで『魔法工房』に身を置く者達である。
『魔法工房』は魔の森の奥の最奥へある。
ナナとティアには『魔法工房』への帰還用の魔法陣が刻まれており、大量の魔力の消費により帰還可能となっている。もちろん帰還用の魔法陣は隠匿され人の目に触れる事は無い。
以上の事柄をナナとティアはギルド職員に話し、帰還用の魔法陣の証明に数名のギルド職員と冒険者の前で何度か『魔法工房』への帰還を繰り返し、話した内容に間違いないことを示す。
もちろん『ケイトラ』に乗りナナ達以外が動かせない事も試した。
結果的にナナ達以外に操縦負荷の変わった馬無し馬車という事で納得してもらった。




