雪道疾走と盗賊討伐とか
数か月ぶりにロースポーツに降り立った。
本来であれば春まで『魔法工房』で修練に明け暮れるのだが、『ケイトラ』の完成と実践投入を考えて街道を疾走している。
雪降るロースポーツの周辺はは一面雪原と化していた。
わずかに街道だけは場所の轍跡があり道が続いている。
その轍跡を『ケイトラ』が疾走している。
数日間の街道を疾走し、街道をすれ違う場所や冒険者に驚かれはしたが、声をかけられる前に走り抜けていった。
御者席のナナとティアは挨拶する事を忘れるはどの寒さで・・・それどころでは無かったのだが。
「速度を上げると寒くて辛い。」
防寒装備を着込み搭乗しているのに、ナナの手は震えている。
隣に座るティアも冒険装備の上に、追加で厚手のマントを重ね着をしモコモコしている。
それでもティアは寒そうにガタガタと震えている。
「冷たくて寒いですー。」
「ガラス張りでは無理でも何か対処しないとダメかも。」
「御者席の前を板張りしたら操縦が困難になるしな。
常時『結界魔法』を展開すれば問題無いかな?」
「魔力消費の心配?」
「それもあるけど『結界魔法』展開の維持で、『ケイトラ』操縦が心配かな。」
「ナナが魔法展開してよ、運転変わるからさー。」
「それがいいかな。」
『ケイトラ』を停車しナナとティアは操縦を交代する。
「『結界魔法』の展開は固定でいいかな?」
「走行中の『ケイトラ』の前方に展開できるかな。」
そう言いながらナナは御者席前方を指さす。
そこは板張りも無く風が吹き抜けている。
通常御者席は風除けも無い、『ケイトラ』も同様に上半身は外から丸見えであった。
ナナは「それなら・・・。」と『ケイトラ』を降り、前方に魔法陣を書いていく。
何度か悩みながら魔法陣を書いては消しを繰り返し、『簡易結界魔法』の魔法陣を書き上げる。
次に魔法陣に魔力を通し、人の目に触れないように『隠匿』(いんとく)を施す。
「これで走行中は『結界魔法』を展開するはずだよ。
消費魔力は車輪を回る魔力よりは小さくしたけど・・・。」
「『結界魔法』は魔力消費が大きかったんじゃないの?
走行中に魔力切れとか心配なんけど?」
「そこは大丈夫だよ。
本来の『結界魔法』の魔法陣では魔力消費が心配だったから、『簡易結界魔法』の魔法陣にしたから大丈夫。それ以上に寒さを防ぐには完全では無いから、何と無く寒くなくなった感じかもしれないけどね。」
「完全に寒くなくなったわけじゃないの?」
「雪の侵入は防ぐと思うよ。風除けも猛吹雪以外なら大丈夫かな。
寒さも抑えていると思うけど・・・試運転してみよう。」
雪降る中街道を進む『ケイトラ』冬期間に人の姿も無く、走っては停車を繰り返しては魔法陣を改良し改善していく、最終的に『ケイトラ』の車輪の回転の魔力は操縦者の魔力を消費し、『ケイトラ』の『簡易結界魔法』の魔力を助手が担当する事となる。
「寒さは抑えられて『ケイトラ』の運行に問題は無くなった。」
「魔力消費も抑えられているし大丈夫かも。
気分的に着込まないと寒いと感じるのはしょうがないよね?」
ナナとティアは寒くないと言って完全防寒装備で御者席で笑いあっている。
小型の火鉢が足元を温めていたので、暫くすると2人とも厚手のマントは外し、『魔法工房』でいる時の様な作務衣姿へ着替える。
「火鉢では暖かすぎるのかな。」
「暖房無しだと気分的に寒く感じます。」
寒い暑いは関係なく暖房器具としては無くせない火鉢であった。
そろそろ『魔法工房』へ帰還する時間だと思っていると、前方の方で数台の馬車が止まり戦闘をしている。
大量の荷物を積んだ荷馬車を守るように冒険者達が盗賊と思われる集団と戦闘をしている。
遠目でも盗賊の方が人数が多く、既に斬りつけられ倒れている者も見える。
御者は馬車の下に隠れているし、逃げる為なのか馬は傷一つないが怯えているのが見て取れた。
ナナはこのまま走らせると鉢合わせると思いながらも『ケイトラ』の速度を上げ
「ティア、お願い。」
ティアは急いで防寒装備に着替え、盗賊に向け魔法を放つ。
現状でどちらが正しいのかは分からないが、『襲う者』と『襲われ者』のがいれば、ナナとティは『襲われている者』を守る事にしていた。
優先するは盗賊の制圧と考え、武器を持つ右手に狙い撃ち、冒険者達が盗賊を無力化していく。
『ケイトラ』が馬車へ到着する頃には戦闘は終了し、怪我人の治療を終えた冒険者達が盗賊を縛り上げていた。
馬無しの馬車を前に戦い終わった冒険者達は不思議そうな目で『ケイトラ』を操縦しているナナ達を見つめ、慌てて冒険者達が頭を下げてくる。
ナナ達は急いで『ケイトラ』から降り冒険者達に「だいじょうぶですか?」と声をかける。
「すまん、助かった。」
「街までもすぐと言うところで盗賊の集団に襲われた。」
「あいつら森に隠れて気がついたら囲まれて危なかった。」
「装備から見て冒険者崩れの盗賊かもな、戦い方が盗賊っぽくなかったな。」
「集団戦になれていたな、それに見てみろよ。」
冒険者の1人が盗賊の片手剣を見せてくる。
それは全て同じ片手剣であった。両手剣も同じく似たような紋章が見て取れた。
「これは騎士団の通常装備品だ。」
「大討伐時に亡くなった騎士からかすめ取ったのかもしれん。」
「騎士が盗賊になったという事は?」
「「ないな。」」
ナナの指摘にきっぱりと冒険者達が声を揃える。
「ここの騎士たちは王に忠誠を誓い、聖王国に忠誠を誓う高潔な者達だ。」
「何があっても民に剣を向ける事は無いんだ。」
「それは冒険者も同じだけどな。」
「そうなんですね、確かに大討伐時の騎士たちは高潔な人達でしたね。」
「その剣は騎士団へ返却ですか?」
大事そうに剣を抱えている冒険者に話しかけると
「あぁ、これは冒険者達が持っていていい物じゃないしな。」
「剣だけでも騎士団に帰らせてやりたい。」
「盗賊の数も尋常じゃないし、組織的な集団なら冒険者ギルドへ報告が必要かもな。」
「20人上の盗賊の集団ならギルドでも情報があるかも知れん。」
最終的に盗賊の生き残り12人と騎士の剣19本はロースポーツの冒険者ギルドへ任せる事になる。
盗賊の集団の襲撃により怪我を負った冒険者は手持ちの回復していくが、重傷者を癒す事が出来なかったのでナナとティアは調合したポーションを格安で売る事となる。
これは無償でポーションを譲るのは後々問題になると言われた為である。
重傷者の容態も安定し、今は馬車の荷台で横になっている。
盗賊の生き残りはロープに繋がれ荷台の後ろに傷心しながら立ち尽くしている。
馬と馬車に支障が無い事を確認し、街へ向かう事になるのだが、冒険者達は盗賊を倒した報酬やらをナナ達に支払うという話になり、ナナ達も急遽ロースポーツへ向かう事になる。
馬車3台の後ろをトコトコと走る盗賊達をぼんやりと見ながら、『ケイトラ』も同じくトコトコ走る。
それは走るというより徐行している速度であり、疾走感無しの多大なストレスを負う事になる。
「トコトコ走るねー。」
「トロトロでしょー。」
「ロースポーツの城壁が見えるけど明るいうちに着くかなー。」
「見える城壁は近くて遠いー。」
「最悪夜通し走り抜くんじゃない?」
「それは大変辛い、安全運転すぎる気がするよ。」
「前を走る馬車が本来の馬車の速度じゃないの?」
「え、あんなに遅かった?」
「盗賊達もいるし、ギルドの手続きで幾分かの報酬があるらしいから大事に護送中かなー。」
「・・・転ばないギリギリで走っているように見えるけど?」
「ソレハチガウヨー。」
それから2時間後、暗がりの中ロースポーツに到着し、盗賊の集団の襲撃をギルドに報告し、全部終わったのは日付が変わった後になる。
報酬は翌日と言われ『ケイトラ』をギルドの裏に停車し、ナナとティアは荷台で夜を明かす。
寝る時は厚着をし工房からいつも使っている布団を取り出しナナ達は眠る事になる。
『ケイトラ』荷台の広さはナナ達が眠る布団幅ぴったりだったことから、寝るだけの家を作ったと言えるが、夜営時は寝袋と言うのが普通であるのだが、工房で寝るのも夜営で寝るのも同じ布団になるとはナナ達は考えていなかった。
もっとも寝やすい点で言ったら布団が一番であるが。
馬無し馬車はロースポーツの門番に驚かれたが、それ以上に盗賊の集団に襲われた事を告げると、冒険者ギルドからギルド職員が飛んできて大騒ぎとなる。
『ケイトラ』の存在は次の日にギルド職員から質問攻めになるのだが・・・。
盗賊の引き渡し報酬はナナ達が思った以上の金額になり、冒険者達に渡したポーション以上の金額となる。
荷物を運搬していた冒険者達も重傷を負ったが亡くなった者がおらず、数日の養生した後に再び荷物を運ぶ依頼をこなし始める。
ナナ達が渡したポーションの効き目が良かった事もあり、次の日に20本のポーションを購入していった。
もちろん価格はギルド価格に反映されたもので、冒険者達も値段の安さに驚くほどであった。




