『軽トラ』と言う名の馬車とか
久しぶりに更新します。
『魔法工房』に籠り修練の日々を送っていたナナ達だったが、武器による戦闘と魔法による戦術の拡張、調合スキルで各種ポーションを調合可能になった。
冒険者年目になるナナは14才になり、ティアは冒険者2年目の13才になる。
『魔法工房』の屋敷の二階から修練場で模擬戦をしているナナとティアを見つめるグランとアポロ、2人は日課のゲームを勤しみつつナナ達の育成状況を確認していた。
いや、していたんだがグランはナナ達を見ながら呆れているし、アポロはナナ達を見ながらケタケタと笑っている。
「あれはやりすぎじゃろう。」
「おー、すごいすごいあれほど動けてランクEだっけ笑える。」
「いやいや、あれでランクEなら冒険者のランク制度に問題があるわい。」
「それは大丈夫じゃない、二人で共闘してもハクトに手も足も出ないみたいだし?」
「当り前じゃろう、ハクトは力を抑えているといっても神の人柱ぞ。」
「抑えているといっても神の力の一欠けらも無いんじゃないの?」
「それでもじゃ、人と神の力は天と地ほどの違いがある。力の一欠けらでも対応するのも抵抗するのも無理なはずんじゃが・・・。」
「そうなの2人とも動きについていってるし、ハクトの攻撃を受けがなしているよ?」
「ハクトの動きについていくのも、攻撃に対応できるのも人としては難しいはずなんじゃが・・・。」
「ナナは接近して攻撃と防御で上手く立ち回っているし、ティアは弓と魔法でハクトを翻弄してるね。」
「ナナの攻撃の隙をティアの弓での攻撃、ナナの傷を治すタイミングに補助魔法はティアが担当しているか。
「補助魔法の重ね掛けにハクトに狙われないように動き回りながら弓を射る、ますます腕を上げたようだね。補助魔法の効果時間も延長しているみたいだし今後楽しみだね。」
「接近戦のナナと遠距離戦のティアか、確かにのぉ。」
実際にナナは『剣修練』Lv5もあるのだが、剣が苦手なのか装備する事が少なかった。
その代わりなのか弓矢に関しては、冒険者になってからメイン武器になり、毎日の様に穴兎などを狩っては『魔法工房』に送っていた。最終的には熊や猪も同じ感じで『魔法工房』行きになるのだが。
修練場の模擬戦も少しずつ変化が出てくる。
ハクトの動きが一段鋭さを増し、ナナ達が対応出来なくなると被弾する数も増え、ナナが倒され転がされる数が増えてくる。
ティアも弓矢から遊撃に出るのだが、ナナほど動けずティアも被弾し転がされていく。
ナナとティアの攻撃も防御も魔法ですらハクトの攻撃に対応できず崩れ、3分後には揃って転がされハクトはアリスとルナに叱られる事となる。
「うむ、対応力を鍛えれば大丈夫かの。」
「あれは並の冒険者じゃ対応できないでしょ。」
「ナナとティアは目で動きを追えていたぞ、動きに対応は・・・まだ無理じゃの。」
「まぁ、そうでしょう。」
「「今後に期待。」」
修練場に転がっているナナ達にアリスが回復魔法を唱えると、眼を覚ました2人ががばっと起きだし、アリスに頭を下げている。何故かハクト一緒になってアリスに頭を下げている。
立ち上がり身体を動かしながら状態を確認し、ハクトを交えて模擬戦での考察を始めている。
立ち位置からの攻撃までの流れに、攻撃のタイミングと攻撃の手数にバリエーションの構築など、戦闘に関する講義が始まり、アリスは首を振りティアの手を取り屋敷へ戻ってくる。
ティアは講義の途中に連れ出され「え、あれ?」と悩む間もなく修練場を後にする。
その後ナナより先にシャワーを浴び、アリスと共に食事の準備へ取り掛かる。
屋敷の二階ではグランとアポロは『『格闘馬鹿か・・・。』』と呟く。
冒険者としての戦闘能力的には問題無し、森での野営経験も長期間の野営も可能。
問題があるとしたら移動手段が徒歩のみ、馬や馬車の様な移動手段がない事かな。
「そういえばナナ達の移動手段はどうなったかの。」
「維持費を考えれば馬や馬車は無理でしょ。」
「そうなるとテイムとかか?」
「それとも錬金術でゴーレムとか?」
「どちらもアリスが教えてるはずじゃが・・・。」
「錬金術はナナがテイムはティアが習得済み。
夜な夜なアリスと一緒にゴーレム作りをしているし、ティアとルナのアドバイスで騎乗可能なゴーレムを試作していたね。」
「錬金術に魔法陣のハイブリッドで何が出来るやら、騎乗なら馬とかかな。」
「あれは馬と言うより『キメラ』かな。」
「え、『キメラ』???」
アポロの目を瞑り深いため息をしているのをグランは首を傾げる。
それから1ヵ月後に工房でゴーレムが完成する。
騎乗可能な座席もあり悪路も移動可能なスタイル。
荷物も積載可能な広い荷台に転向にされない造り。
それはナナの前世の世界で言うところの『軽トラ』だった。
「『軽トラ』を異世界風にした感じ?」
アポロが困惑しながら感想を呟く。
「見た目は馬車の馬無し?」
グランもゴーレムを眺めながら率直な感想を口にする。
外装を触り車体を下から見てみたり内装を見て
「荷台は何もないのぉ。」
「車輪は4輪で大丈夫?」
「荷台はカスタマイズしやすくする為に何もしてないです。」
「カスタマイズ?」
「一応は寝る為に簡易寝室は準備してます。
それ以外にもテーブルとイスも用意してます。」
「荷台に壁や屋根は作らないの?」
「そっちも準備してます。骨組みを木材で外壁を何にするか悩んでます。」
「材料によっては重くて動きを阻害するし、一般的な馬車は木材仕様なものが多いはずじゃ。
それ以外には帆馬車は幌仕様な馬車も一般的じゃな。」
「冒険者達の馬車は帆馬車が多かったはずじゃ、荷台の広さに加えて大人数乗れるからね。」
「帆馬車か・・・荷台の屋根を丸く加工しなきゃいけなか・・・。
帆に関しては道具屋か馬車関連の商店と相談かな。」
「防水加工の布でもいいんじゃ?」
「屋根部分だけ木材で作って壁無しとかでもいいんじゃない?」
ナナはグランとアポロと話しながら手元のメモ帳に何やら書き込んでいく。
御者席の上部から荷台にかけて屋根を描き、荷台に屋根を支える壁を書いていくと
「そういえば馬車の外壁は一般的に木材ですか鉄製ですか?」
「一般的には木材じゃのぉ。貴族連中は高級感を出すために手を加えるがの。」
「鉄製の馬車は一般的には皆無。鉄にすると重くて馬の負担がなぁ・・・。」
「馬車の見分け以前に馬車を見るには馬の数が多い方が貴族連中と思えば十分じゃ。」
「見た目が大きくて綺麗で高級そうな馬車は気を付けな。
連中はめんどくさいのが多いからな。」
「はい、それはアリスさんからも言われました。
それでゴーレムの大きさも一般の大きさの半分の大きさにしました。
車輪の大きさも一回り小さく、二回り厚みを持たせました。」
「それで車輪の回転はどうやったんじゃ?」
「車輪周りは錬金術で加工して、車輪の回転は新たに魔法陣を構築し改築し完了しました。
車体の方向転換は前輪を左右に動かす事が出来ます。」
「魔法陣の消費魔力は?」
「御者席に座った者から回収します。
消費魔力はそれほど大きくしてませんが・・・一般的にどうなんだろう?」
ナナの話を聞きながら隣のティアとアリスが首を振っている。
その光景はナナやティアなら大丈夫な魔力消費という事なんだろう。
「車輪周りは魔法陣により車輪を回転するのみに特化したものです。
ある意味専門の専用の魔法陣と言えます。それを後輪駆動に使用してます。
一応前輪にも補助駆動として設置してますが・・・。
悪路専用ですから使う状況は考えたくありませんね。
先ほどの消費魔力ですが一般的に1つの魔法を使用した魔力で走行距離は500m程でしょか。
走行速度が早ければ早く消費しますから・・・100mも走れればいい方じゃないかと。」
ナナがメモ帳に夢中になりアリスが車輪周りの話を開始する。
アリスは手のひらに車輪を回す魔法陣を描き始める。
「魔力により車輪を回す速度を上げていきます。
注ぐ魔力により回転数に変化を持たせました。
それと前進のみならず後進も可能にしてます。」
「魔法陣の取り扱いに関しては?」
「完全にこのゴーレム用な為に開示するつもりはありません。」
「貴族連中に目を付けられた場合の対処は?」
「そこは起動運用はナナさんとティアさんのみになるように設定しております。」
「起動システムという事かの?」
「はい、錬金術で加工したハンドルは記憶した魔力により起動してます。
今のところナナさんとティアの2人が起動出来、それ以外の人が座っても触っても起動できません。
それとゴーレムには全体に複数の魔法陣を描かれてます。
『不壊』(ふかい)は車輪周りを重点的に、『汚れ知らず』(よごれしらず)は汚れたら綺麗になります。どちらもゴーレムが起動しない夜間に魔法陣が発動します。」
「『不壊』は聞いたことあるけど『汚れ知らず』は初耳なんじゃが?」
「『生活魔法』の綺麗にする魔法の魔法陣バージョンです。」
「それでこれは使えると思うか?」
「使える以前に目を付けられる可能性しかありませんよね。」
「一応は目を付けられても大丈夫なようにゴーレムの側面に『これ』を描きます。」
アリスの言った『これ』は看板であった。
「『魔法工房』?」
「そうです、個人所有のゴーレムと言うより工房の所有物という事か?」
「個人の物というより工房の所有物という事で対応します。」
「それにしても『魔法工房』の名前をここで出すか・・・。」
「工房所有といっても誰にも知れる事がない工房名だがな。」
「それでも看板を掲げる意味はあると思います。
ご用は工房へお願いしますと言えばいいだけですからね。」
「我々しか知らない工房であり、人の辿り着けない工房か・・・。」
「看板があっても襲って来る輩もいると思うが?」
「そんな輩は返り討ちにすればいいんです。
倒して埋めれば証拠なし、斬って燃やして埋葬しましょう。」
「それでもゴーレムを取り上げられたら?」
「取り上げられても動かす事も出来ませんよ?
『不壊』により通常壊す事叶わず。
それにゴーレムには単独で帰還可能ですよ。」
「ゴーレムの帰還とな?」
「はい、ナナさんとティアさんの任意で『魔法工房』への単独帰還可能です。
一応不審者の侵入を防ぐという意味で生き物は帰還不能となってます。」
「生き物以外の者はが帰還するのでは?」
「ゴーレムやら怪しげな者は帰還途中で魔力を抜かれので『抜け殻』(ぬけがれ)が帰還する可能性がありますね・・・。そこは別途対処する必要がありますね。」
「帰還用のゴーレム置き場を厳重にする必要があるのぉ。」
「いや、厳重以前に任意なき者は『魔法工房』には立ち入り禁止で強制送還だから問題ないよ。」
「そういえばそうか、入った瞬間に送還されるか・・・最悪で最強なトラップじゃ。」
「それでもゴーレム置き場は厳重にします。」
「「それがいい。」」
アリス、グラン、アポロの神様会議は『魔法工房』の安全面に関して話し合いに変わっていった。
ナナとティアは工房の片隅で御者席の屋根の高さについて話し合いをしていた。
その後のゴーレムの姿が『軽トラ』から、移動用ゴーレム『ケイトラ』へと姿を変える。
四輪駆動魔道ゴーレム『ケイトラ』は、全体を四角いフォルムの馬車の姿をしていた。
馬無しなので車輪がついた箱なのだが、『ケイトラ』の側面には『魔法工房』の看板を掲げており、『ケイトラ』よりも『魔法工房』の名前が知れ渡ることになる。




