追々考えます
ナナの装備が一新し、攻撃手段が増えた事により、近距離での攻撃手段が格段に向上した。
攻撃範囲的には大剣の半分も無い分、攻撃回数が増えている。
ハクトさんの攻撃に何とか耐え反撃できるまで鍛え上げ、ナナ達は『ロースポーツ』へ再び戻る事になる。
ティアもまた回復魔法の習得により、致命傷以外なら治せるほどに成長する。
季節が秋になり『ロースポーツ』周辺では、冬眠前の黒熊が深き森や浅き森での目撃情報が多数あり、冬期間前の冒険者にとって格好の獲物となっていた。
『大討伐後』に大勢の冒険者達が犠牲になり、新たに冒険者になった者達が指導者の下、突貫ではあるが新人冒険者がギルドに大勢いた。
その中でもランクE以上の冒険者達がパーティーを組み、浅い森で黒熊討伐に出かけている。
ランクEでも5人で1頭の黒熊相手なら問題無く、複数の黒熊を相手にする場合は、複数のパーティーで対応していた。
その中でもナナとティアの2人組もまた黒熊討伐に参加していた。
新人の報酬としては十分すぎる報酬額に新人冒険者達はこぞって参加し、少なからず怪我をしたり負傷する。
黒熊相手にティアが弓を構え矢を射る。
ティアの一撃により膝を砕かれ、体勢を崩した瞬間にナナの一撃で頭を砕く。
『旋棍』(トンファー)の一撃は黒熊の硬い皮をものともせずに黒熊の頭部を破壊する。
斬撃による討伐でなかったので黒熊の皮と肉の状態が良く、ナナは即座に『魔法工房』へと送る。
浅い森でナナ達が黒熊を討伐する姿を多くの冒険者達が目にするが、一切冒険者ギルドに報告も納品せずにいると冒険者ギルドの方から
「あのナナさん達が黒熊を討伐していると目撃情報があるのですが?」
薬草採取の依頼を終え、薬草を納品していた時に声をかけられた。
「ん?黒熊は倒してますよ?」
「浅い森でも結構黒熊みるね。」
「餌不足なのかいきなり襲い掛かるから驚くけど。」
「藪の中から『がぁー!』と来るからなー。」
「あ、いえ、そういう訳でも無く。
倒しているなら討伐数に応じて報酬もありますが・・・。」
「あぁー、黒熊は食糧として討伐しているので気にしなくて大丈夫ですよ。
それに黒熊の革も肉も残さず使えますからね。」
「冬期間に食べる黒熊鍋は絶品です。」
「『串焼き』や『ステーキ』も捨てがたい。」
黒熊料理に妄想していると、受付嬢が苦笑しながら
「ひょっとしたらですが、ナナさん達は薬草採取しながら黒熊以外にも討伐していますか?」
「はい、黒熊に大猪・・・一角兎に穴兎と・・・後は、野犬や黒狼なんかも倒してますね。」
「一番多いのは穴兎かな?」
「そうだね、薬草採取中は穴兎と野犬に一番会うかな?
森では一角兎が結構見かけるし、黒熊は目視確認後に襲って来るし、大猪は向かって来れば倒すけど・・・森へ逃げていく場合もあるから数は少ないかな。」
ナナとティアが上げていく獣達は、『ロースポーツ』周辺で見られる8割の生物であり、ランクEで対応できる範囲を超えている。
ナナの話を聞きながら受付嬢は一瞬驚いた表情をしていたが、「ふぅー。」と深呼吸をし
「なるほど、ナナさん達はランク以上の成果を上げているのを確認しました。
それでギルドに報告しなかったのは『食糧』にしていたと?」
「はい、ギルドの依頼を受けていなかったので報告していません。
それとギルドに納品出来る物もありませんし、報告する義務もないと思いました。」
「冒険者ギルドからの依頼以外と考えれば報告義務は発生しません。
それでもナナさんが倒した黒熊がギルド依頼の討伐対象だった場合、冒険者が依頼不達成になる場合もあります。
出来ればギルドに納品しなくても討伐数と倒した場所の報告をして下さい。
ギルドの依頼を受理していないので、依頼達成しても報酬無しのランクアップ無しですが。」
「・・・別にいいですが、倒したところで納める物も無く。
ギルドとして信憑性に欠けていると思いますが・・・?」
「その辺はナナさん達を信じます。
森に危険な黒熊や大猪を間引いてもらった方が安心します。」
「んー、了解です。
とりあえず、今日は浅い森で黒熊3頭の野犬12頭討伐済みです。」
「穴兎と黒狼も多少倒したー。」
「どっちも毛皮と肉は頂きます。」
「冬期間前に食糧入手ー。」
「黒熊に野犬に黒狼に穴兎ですね。どちらも浅い森で討伐済みっと。
そういえばナナさんは冬期間どうするんですか?
去年と同じで『ロースポーツ』を離れるんですか?」
「冬期間の予定は未定ですが。今年はティアもいますから『ロースポーツ』から離れて冒険者をするかも知れないし、部屋にこもってポーション調合するかも知れません。」
「えへへへ、冬期間に何するか楽しみー。」
「聖王都への護衛依頼時にティアさんのポーションが好評でした。
ナナさんも同様のポーションを調合出来るんですか?」
「えへへへ、ナナの方がポーション調合得意だよー。」
「出来ますよ。冬期間中の仕事として習得しましたし。」
「冒険者ギルドへポーションを納品しませんか?
ギルドは常にポーションの確保は必須です。それにポーション調合は冒険者の必須スキルと言う訳でないので、ポーションを自前で準備できない者達ばかりで・・・。
冒険者ギルドでもポーションの納品は常時依頼をしてはいますが、誰も納める者がおらず今では専門の調合師からポーションを購入してます。」
「調合師ですか?初めて聞きました。」
「ポーション屋さん??」
「そうですね、ティアさんの言うポーション屋さんと言うのがしっくりきます。
調合師はポーションのみならず、薬師としても活動してます。
傷薬からポーションまで、気付け薬から毒消し薬まで調合スキルで作られた物を調合し販売する者。」
「それなら冬期間は調合師っぽい事をしようかー。」
「ポーション調合しまくりー。」
ナナは保管庫からポーションの小瓶を取り出し受付嬢に渡す。
『魔法工房』で調合したポーションだったのだが、受付嬢は小瓶を『鑑定』し・・・「なるほど・・。」と呟き、「これの品質ならギルドに納品可能です。」と頷く。
「このポーションが常時調合出来るなら調合師として生活可能です。
冒険者ランクEであり、12歳と13歳でありながらポーション調合師ですか。」
「冒険者の依頼の合間に調合してるので、販売納品より保持保管が今の状況です。
冬期間に調合予定なので薬草も乾燥しながら大量に保管済み。
ティアと2人でのんびり調合出来る量は確保してますよ。」
「そういえば、乾燥薬草は束で大量にあった気が・・・。
あれ全部調合するとしたら結構な数のポーションが出来る気がする。」
「いろいろ試したいし、いろいろな薬を調合したいなぁ。」
「ポーション以外で?」
「そうだよ、1つしか調合出来ないとかカッコ悪いでしょ?」
「んー、そうかも。」
「それで今現在ギルドに納品可能なポーションはありますか?
あるだけギルドで買い取りますよ?品質によりけりですが・・・。」
ナナは少し考えてから保管庫から次々と受付嬢の前に並べていく。
ポーションの小瓶30本並べた辺りから、ギルドで待機している冒険者達が騒ぎ出してきた。
何か騒いできたなと思い、小瓶35本並べてから受付嬢に
「とりあえず、これだけありますがどうします?」
「もちろん全て買い取ります!!」
受付嬢は並べられたポーションを『鑑定』し、予想以上多めの報酬を受け取る
報酬額が多い気がしたので「これであってるの?」と思わず聞いてしまい。
「現在ポーションは保管量が著しく減っています。
買い取る量より消費量が多すぎてギルドとしても悩みの種で・・・。
ナナさんが一時的でもギルドに納品してもらえれば問題解決なんですけど。」
「それは追々考えます。」
「追々考えますー。」
冒険者ギルドへの納品を済ませ、『魔法工房』に帰還したナナはティアから
「冬期間は調合師になるの?」
「調合師になってもいいけど、去年は冬期間中はポーション調合し、春まで引き込まっていた気がする。」
「調合師として冬期間過ごすとしたら・・・定期的にギルドに納品する必要になるのかなー。」
「のんびり過ごせない気がするー。」
「・・・冬期間前に大量にポーションを納品すれば冬期間は引きこもろうかなー。」
「・・・うんー、引きこもろうー。」
内緒では無かったナナとティアの黒熊討伐と大猪討伐についてギルドの受付嬢からの指摘される。
それとポーション不足の為か、ポーションの納品をお願いされた。
ナナは悩みながらも「追々考えます。」と答えるしかなかった。




