終わり良ければ何とやら
『赤目』の黒熊の対応に森の中を散策していた冒険者達は、休憩場所のログハウスから肉の焼ける匂いに誘われ、ナナに「お疲れー。」「美味そうー。」とか挨拶もそこそこに焼肉を頬張る。
何の肉が厚切りで焼かれているのかはわからないが、酒場や宿屋では見た事もない肉の塊を黙々と齧りつく。
ナナとティアが忙しそうに焼いている前では、聖女候補生のマリアと神父のシルバさんも同じく肉の塊に齧りついたり、煮込みスープを美味しそうに食べている。
暫くして聖騎士の3人も帰還し、ナナは小さく手を上げてから空いている席に3人を座らせ、焼き立ての肉の塊を「焼きたてです。」と言って3人の前に並べる。
「厚切り肉か・・・豪勢だな。」
「今日で護衛依頼も最終日ですし、明日には聖王都へ到着でしょ。
それに疲れているので美味しい物でも食べて身体休めた方がいいですよ。」
「そうだな、今日は戦闘続きで身体を酷使しすぎた。
本当であれば援軍と共に荷馬車が来る予定だったが、先の戦いで援軍はおろか荷馬車も戻ってしまった。
ここから聖王都までは徒歩で1日の距離だし、明日は朝一で聖王都へ向け出発すれば問題無いだろう。」
「そうですね。『赤目』の黒熊の影響で森の中は静かですし、徒歩で向かっても問題ないです。」
「問題があるとすれば・・・美味しい料理を食べすぎないか心配なだけです。」
疲れていたのかお腹が減っていたからか聖騎士の3人は何度もお代わりをしていた。
冒険者達の方も食いすぎたのか椅子に深く座り目を瞑っている。
マリアとシルバさんは上品に食べながらも、冒険者と同等に量を間食し・・・冒険者と同じく眠そうにしていたので、ティアに「マリアが眠そうだからログハウスで一緒に休んでいいよ。」と告げる。
ティアは「片付けはいいの?」と聞きてきたので、ナナはにへらーと笑いながら「今日は早いけど休みなー。」と答える。
ティアはテーブルに散乱している空になった皿を魔法で綺麗にしたり、焦げた肉などを集め廃棄したりして、簡単ではあるが片付けをしてから「それじゃ、先に休むねー。」と言ってからマリアを背負いながらログハウスへと向かう。
ナナの遅めの食事は、厚切りのステーキ・・・肉の塊よりは、『串焼き』や『焼き鳥』が好きなので、ステーキを一口二口頬張り、「ん、たれが美味い。」と頷きながら食べ勧める。
煮込みスープを温め直し、ほろほろに柔らかくなった肉を頬張る。
肉ばかりじゃなく、新鮮野菜もサラダにして肉野菜肉肉野菜と交互に食べていく。
ナナが食べ終わる事には、野外調理場はナナにシルバさんとサウンドさんの3人が焚き火を囲んでいる。
3人は食後のお茶を飲み・・・ナナだけがお茶で、2人は果実酒を飲んでいる。
「明日で護衛依頼終わりですねー。」
お茶を飲みまったりしていると、美味そうに果実酒を飲みながらサウンドさんが話し始める。
「なぁ、『赤目』の黒熊は倒したのか?」
「んー、倒したのかなー。」
サウンドさんの質問にナナは曖昧なに答えると、シルバさんも驚きながらも
「倒してないのですか?」
「『赤目』の黒熊は木々を薙ぎ倒しながら、森を超え山の麓へ向かったようだったが・・・、どうなんだ?」
「逃げ足には自信があったので、山の向こうまで追いかけっこしましたよ。
倒したかと言われたら・・・戦っていたら『赤目』の黒熊は崩壊しましたし・・・。」
「倒したから崩壊したんじゃないのか?」
「『大討伐』の時も同じように何も残らなかったと記憶しておるんじゃが・・・。」
「何も欠片も残らなかったし、戦いはしましたが・・・倒しましたと言えるかどうか。」
「それでナナさんから見て『赤目』の黒熊は強かったか?」
「聖騎士団の一団を瞬殺したと聞くが?」
「多分予想以上に巨大であり、俊敏に動き攻撃範囲が広かったから強そうだったんじゃないかな?」
「俊敏で攻撃範囲が広いのは強いと思うんだが・・・。」
「騎士団を瞬殺したのなら強敵だと思うぞ。」
「逃げながら弓矢や魔法で倒せなかったなー。」
「それでどうやって『赤目』の黒熊と対峙したんだ?」
「んー、蹴った。」
「え、無手で『赤目』の黒熊と対峙したのか・・・。」
「腰の剣は使わなかったのか・・・。」
「腰の剣は戦闘向きじゃないし、弓矢の方が得意なんですよ。
それに討伐依頼より採取依頼の方が好きですから。」
「確かにナナさんとティアさんの装備は冒険者達が着込む装備と違うと思っていたが、弓矢と採取が得意な冒険者か、それに土魔法で建物を構築する事が出来るか・・・。」
「この際、弓が得意でも採取が得意でも関係ないですよ。
『赤目』の黒熊と対峙に無事だった事と、自身も怪我無く戻ってきた事を喜ばないと。」
「逃げ足は自信がありますからー。
それに『大討伐』の『アレ』より弱かったと思うけど?」
「『大討伐』の『アレ』と同じモノなら聖王都も危なかったはずだ。
聖騎士団総がかりでも対応できたかどうか・・・弱くて助かったと思うべきか・・・。」
「『赤目』を捕食し進化した異形の魔獣。
それを弱いと言えるナナさんはどれほど強いのか。」
「強くは無いですよ。
普通のランクE冒険者です。」
「ナナさんや、それ程の実力があるのにランクEなのは何故なんだ?」
「冒険者ギルドでは薬草採取しかしてないから?
穴兎や黒熊を討伐してもギルドに報告も納品もしてないから?」
「討伐依頼をしていないとは何故なんだ?
黒熊討伐が可能ならランクも上がるはずだろうに。」
「そういえば、先ほどの焼肉は・・・穴兎や黒熊なんですか?」
「穴兎に黒熊・・・大猪も美味しいからギルドに納品せずに美味しく頂きました。
下処理すれば焼いても煮ても炒めても、美味しく食べれます。」
「確かに美味かったがよう、少しは冒険者としてランクを上げた方がいいぞ。
いつまでの低ランクでは冒険者では、行動範囲も依頼内容も制限されるぞ。
基本的に美味しい食材は高ランクの依頼で手に入るからな。」
「美味しい物の為にランクを上げることを勧めるのか?」
ナナは少し悩みながらも、お茶を一口飲み
「美味しい食材は魅力的ですね。
まぁ、こっそり討伐して料理すれば問題なんですけどねー。」
「こっそりでもランクにより立ち寄り禁止範囲もあるはずなんだが?」
「もっとも実力的に問題なければ大丈夫なんじゃ。」
「何にしろ護衛依頼が終われば普通の冒険者として暮らして生きますよ。」
ナナはお茶を飲み干し、「今日は防壁の外扉を封鎖して寝ます。」と言いながら防壁へ向かう。
暫くして、防壁の外扉を土魔法で固め進入禁止にしてからログハウスで倒れる様に眠るのだった。
サウンドさんとシルバさんはログハウスで倒れる様にに眠るナナを見ながら「やはり疲れていたか。」とか、「緊張が一気に解けたんじゃろう。」とか話し、流石に寝ずの番が不在ではと聖騎士達と冒険者達が交代で焚き火の前で警戒することになる。




