『紅眼』去りし後始末し
『赤目』の黒熊こと『紅眼』を倒したナナは、ティアの待つ休憩場所を目指し、迷いながら山の麓から休憩場所へ戻ることになる。
戻りの道すがら薬草採取したり、大猪を見つけては『魔法工房』へ送ったり、見つけた先から採取したり討伐していた。
ナナが全力で駆け抜ければ1時間で戻れる距離であったのだが、ナナは色々やりすぎて3時間かけて帰還を果たす。
休憩場所はティアが「もう大丈夫みたい。」と告げ、ナナが封鎖した避難場所の入り口を開放する。
ティアが周囲の安全を確認し、聖騎士達が防壁外を警戒し、冒険者達が続いて安全確認の為に休憩場所周囲を警戒に出かける。
ティアが見張り台から、聖騎士団の一団が倒れている事を副隊長のサウンドさんに告げると
「彼らを救出に行って来る。
出来ればポーションがあれば融通してもらえないだろうかー!」
見張り台の下からティアに向かい声を上げているのを聞き、ティアはこくりと頷き見張り台を降り。
「はい。」
そう言いながら袋いっぱいのポーションを渡す、サウンドさんは袋の重さを驚き、袋の中身を見て再び驚きながら自身のマジックバックに大事に保管する。
「ありがとう。これで助けられる。」
「すぐに向かいましょう。」
聖騎士達3人が馬に騎乗し、倒された聖騎士団へ向け駆けて行く。
ティアと聖女候補生のマリアに神父のシルバさんが聖騎士達3人を見送る。
「それじゃ、ご飯の用意をしましょー。」
「え、まだ危ないんじゃ・・・。」
「それに外に『赤目』の黒熊が見当たらないと言っても危ないのでは?」
マリアとシルバさんがさっきまでの戦闘を思い出し周囲を経過している。
周囲を警戒しているといっても、スキルで知る術がなく・・・さっきから周囲をきょろきょろと見渡している。
ティアは何度大丈夫と言っても周りを気にしていたので、何かをしていれば気が紛れると思い2人と一緒に野営調理場でご飯の準備を始める。
食事の準備と言っても料理を温めるだけであったので、まずは火を熾す前に戦闘後に埃っぽくなっている現状を魔法で綺麗にする。
先の戦闘で野外調理場は、破壊も破損も免れたので、直ぐにでも調理可能だった。
まずは火を熾しお湯を沸かし、お茶の準備を始める。
ナナとティアはギルドの依頼中であっても、草原や森の中だろうと休憩中はお茶を飲み、『串焼き』を頬張ったりしていた。
お湯を沸かしお茶の準備をしているのを、不思議そうにマリアが見ていたので「はい、どうぞ。」と勧める。
2人はティアからコップを受け取り、椅子に座って静かにお茶を飲み始める。
お茶の入れからはナナと『魔法工房』のアリスさんから、お茶の淹れ方を教えてもらっていたので、2人は美味しそうにお茶を飲んでいる。
「はぁー、美味しいー。」
「そうですね、『ほっ』とします。」
「まずは落ち着いてお茶を飲みましょう。
外へ散策へ向かった冒険者さん達へもお茶を飲んでもらいましょう。」
「皆さんにも美味しいお茶を飲んでもらいたいです。」
「はぁー、美味しいです。」
焚き火で暖を取りながら、ティアは「護衛依頼も最終日かなー。」と思い、ナナが戻ったら焼肉にしようと思い、いそいそと焼肉の準備を始める。
護衛依頼中は新鮮な肉は十分に確保したし、『魔法工房』アリスさん特性の『焼き肉のたれ』もある。
問題があるとすればナナの帰還が未定であるという事だけ・・・。
「ナナはすぐに戻るのかなー。」
「外の『赤目』の黒熊は倒したんですか?」
「防壁外には『赤目』の黒熊は見当たらないという報告を受けましたが・・・。」
「街道の向こうに援軍の聖騎士団の一団が倒されているようですが?」
「それなら聖王都へ向かったという事ですか?」
「防壁外の冒険者達が散策をしているので大丈夫だと思いますが・・・。」
「『赤目』の黒熊の処理は大丈夫じゃないかな。
ナナが対処したと思うよ。何処まで行ったのかわからないけどね。」
ティアに聞かされた内容について普通は信じられない事だが、『大討伐』の時の事を思い出し納得し、「それなら大丈夫か。」とか「ナナさんなら無事ですね。」と呟くのだった。
一方その頃、『紅眼』の黒熊に吹っ飛ばされ瀕死の状態の聖騎士団の一団は、ティアから渡されたポーションにより生き残る事が出来た。
瀕死からの生還となったが、重傷者がいなくなっただけで感知に至らず、死なない状態になっただけでサウンドさん安堵し、聖王都へ向け援軍に派遣された聖騎士団が負傷したことを知らせに向かう。
怪我が治った聖騎士達は、何故負傷したのか理解できず、気が付いたら身体が破壊され、ギリギリの状態で助かったことを知る。
彼らは「紅いモノを見た気がしたが・・・。」とか「いきなり吹っ飛んだ。」とか口々に話す。
完全装備で命が助かったとし、砕かれた鎧に手を当て「命を救われたな。」と呟いている。
暫くすると聖王都から神父や修道女達が、荷馬車に乗り込んで負傷した聖騎士達の元へやってくる。
彼らは破壊し砕かれた装備を外し、回復魔法を唱えていく。
先にポーションによる回復で命を繋いだだけで危ない状態なのは変わらなかったが、神父や修道女達の回復魔法により、最低限に馬車に乗り聖王都へ戻るだけの体力は回復した。
起き上がり歩けるだけに回復したものの戦う事も出来ず暫くは身体を休ませるしかない。
負傷し歩けるほど回復した聖騎士達は、荷馬車に乗り込み聖王都へ戻っていく。
3台の荷馬車に乗り込んだ聖騎士団の一団に、神父や修道女達は聖王都へ向け急ぎ戻る。
彼らは『赤目』の黒熊がどこへ向かったのか調べなければいけない。
この場で『赤目』の黒熊に襲われ、どこへ向かったのか・・・『赤目』の黒熊の動向を知る必要がある。
それは聖騎士団が調べればいいだけの話であり、副隊長のサウンドは護衛依頼続行中の為に他人事のように考えていたが、後日護衛依頼終了後に『赤目』の黒熊の動向を、副隊長のサウンド達が担当する事になるのだが・・・それは後の話である。
「それじゃ、休憩場所のログハウスに戻るとするか。」
「「は!」」
サウンドさんらは騎乗し、休憩場所へ戻るのであった。
そして、防壁外の警戒にしていた冒険者達は、ナナと『赤目』の黒熊との戦闘で薙ぎ倒された木々を発見し、「あー、これは無理だ。」と考える。
薙ぎ倒された木々は森を超え、遥か山の彼方へと続いているようだった。
薙ぎ倒された後を見る限り何かを追っていたのが確認されるが、薙ぎ倒された後を見る限り捕まえる事も出来ず、遠くに見える山まで追いかけて行ったことを知る。
「それにしても倒された木々の幅が広い気がするが・・・。」
「防壁上から見えた大きさより巨大化してないかこれ?」
「喰うほどに巨大化していく魔物か・・・最終的に予想以上の大きさになったか。」
「木々が足止めにもならず、木々すらものともせずか・・・。」
「ある意味、天災と言える状態だな。」
「木々すら薙ぎ倒し、全てを破壊し突き進むモノか。」
「戦場で対峙したら逃げる事も出来ずに薙ぎ倒されて終了か・・・。
「しかし、これと戦った者は誰なんだろうな。」
その呟きは他の冒険者達も聞いていたが、この場にいない冒険者の少年を思い浮かべたが・・・。
この現状を見ては、『あの少年でも対峙するのは無理であろう』と思いながらも、『ひょっとしたら』と考えてはいたが・・・誰もそのことについて話す事は無かった。
「まぁ、なんだ。『赤目』の黒熊は山の向こうへ行ったと・・・。
これ以上は俺らには無理だな、後は聖騎士団に任せるしかないな。」
「目印を付けながら街道へ戻るとしようか。」
「暴虐の足跡か・・・。」
「護衛依頼も今日明日で終了か・・・。」
「戻ったら美味しいご飯があると思えば頑張れます。」
「・・・ご飯の用意してるかな???」
「「「・・・していたら嬉しいな。」」」
そして、休憩場所の野外調理場は戻ってきたナナが焼肉の用意をしており、護衛依頼最終日の最後の晩餐が始まる。




