聖王都直前の襲撃
護衛依頼最終日、街道の先『深い森』を超えたら聖王都が見えるという。
本来の街道は聖王教会が封鎖したという、今現在もナナ達が移動している街道は、旧道という事で急遽街道の拡張工事をしている。
馬車のすれ違いがギリギリの道幅しかなく、すれ違う時は急遽魔法で街道沿いの木々を伐採し、馬車の御者や騎乗している者は速度を上げれずにいた。
速く走るよりも緊張するというのもおかしな話であるが、馬は急に止まれず避けれずと『深い森』へ入ってから実感するナナであった。
御者席の隣に座るティアは、周囲の気配感知をし、前方からの反応にいち早く察知し、前を張る聖騎士へ口頭で知らせていた。
「来ます、前から反応2!」
「了解、減速始め!!」
「「「はい!」」
先頭で騎乗している聖騎士はティアの声に反応し、ティアは慌てて箱馬車の屋根に飛び乗り、並行して騎乗している者や、後続の馬車に手を振って『減速~減速~。』と謎の踊りを踊る。
ティアは手を上へ上げては、下へ下げながら『減速~減速~。』と手をぶんぶん降る。
『深い森』へ入る時に簡単な手信号として先頭の馬車が後続の馬車へ知らせた。
流石に走る箱馬車の屋根の上で手信号するのは無理があったのかティア以外の者は手信号せずに大声を上げている。『むふぅ』とティアは謎の踊りに満足したのか御者席に戻る。
ナナは『お疲れ様。』と声をかけ、ティアは『えへへへ。』と嬉しそうにしている。
少し広めの馬車に馬車を停車し、前方からの荷馬車を見送り、ナナ達は再び聖王都を目指す。
『深い森』へ新入してから3回すれ違い、減速と停車により馬達は疲れていたので、ナナは停車中に馬達の世話をしながら回復魔法を施していく。もっとも『元気になれ~』と馬達を撫でながら魔法を使っていたので、誰一人魔法を使っていたとは気が付かなかったが。
移動速度低下で聖騎士の隊長ランクルは、予定では夕刻前には聖王都へ到着するはずと思っていたが
「これでは森で野営するしかないか。」
「そうですね、もう少し行けば拡張工事している辺りに行けると思います。」
「拡張工事の休憩場所まで行けば安心して野営できるんだが。」
「このままではギリギリですね。時間的にも精神的にも・・・。」
「それと気が付いてるか?森の中に何かいるぞ。」
「微弱ではありますが・・・森の奥から様子を窺っている視線を感じます。」
「はぁ、聖王都直前で盗賊とか勘弁してくれ。」
「盗賊か夜盗か・・・まっとうな奴じゃないでしょうが・・・。」
「とりあえず、警戒態勢はしっかりきっちりしましょう。」
「そうだな。」
その後は馬車の御者は周囲の警戒を第一に、他の者は馬車の中の者達は馬車の周囲に魔法障壁を展開したり、荷馬車の冒険者達は弓を構えたり周囲を警戒している。
『深い森』の奥から漂う気配の為なのか、森の中に穴兎の反応は皆無であった。
代わりに黒熊と黒狼が興奮している感じがする。
ナナは周囲の気配が今までと違い危険な感じがするので、魔法障壁を常時展開し、ティアも前方のみならず全方位に気配感知をしている。
「森の奥に反応多数あるけど近づいては来ないな。」
「ん、向こうからは反応ないー。」
「一応は弓の準備をして。」
「んー。」
背負い籠から弓と矢筒を取り出す、視線を前に向けつつ全方位警戒を行う。
速度を落とし、緊張しているのを馬達も気が付いたのか、速度を抑えているまずなのに、馬達が何かから逃げるように速度を上げていく。
数度の休憩を繰り返し、街道の拡張工事をしているの場所まで進む。
騎乗している聖騎士が守護する箱馬車に、驚く工夫たちが驚きながら作業し、ナナ達は街道を進む。
馬車がすれ違うほど広がった街道に出た事でティアの前方の警戒を抑える。
ここまで来れば拡張工事の休憩場所まであと少しというところで、森の奥から黒狼が群れで飛び出してくる。
街道の拡張工事をしている工夫達と、森から飛び出した黒狼の群れが鉢合わせ
「助けてくれ!」「狼がでた!!!」「こっちにくるなぁ!!」
ナナ達の箱馬車を狙っていた黒狼たちは、狙う標的を工夫に狙いを定める。
街道の拡張工事をしている工夫達は、冒険者ギルドのクエストで参加した者や、聖王都周辺からの出稼ぎの住民達であった。
冒険者であっても手にしたスコップでは満足に戦えずにいた。
ナナ達は急ぎ箱馬車や荷馬車を停車する、ナナは箱馬車に乗る神父の1人に御者をお願いし、ティアと2人で工夫達の元へ駆けだす。
魔法で強化しナナ達は弓を構え矢を射る。
工夫に噛みついている黒狼を優先的に倒していく。
ナナ達の後ろから冒険者達も弓を構えて駆けてくる。
黒狼達も逆に襲われている事態に慌てだし、襲うか逃げるか躊躇している。
その僅かな隙をついてナナ達は連続で弓を構え連続で矢を射る。
黒狼を11頭倒した辺りで、黒狼達は森へ逃げ出す。
噛まれ負傷した工夫は傷おさえながら蹲っている。
助かったと思って気が抜けたのか工夫達は腰を落とし
「助かったのか・・・。」
「死んだかと思った・・・。」
「助かったよ、ありがと・・・。」
血を流し蹲っている工夫達にナナは回復魔法を施し、ティアは怪我した者達にポーションを傷に振りかける。多少は店売りより効果があるのか、血が止まり傷が塞がる。
瞬間傷が癒された事で、工夫達は噛まれた跡を触っている。
「傷が消えた?」
「いあ、治った??」
「狼に噛まれたはずだ、血もあんなに出たはずだが・・・。」
回復が間に合いナナとティアは『間に合った。』と『ほっと』とする。
怪我人もいるという事で荷物を下ろした荷馬車2台が襲撃場所へ戻ってくる。
回復魔法が得意な神父と修道女達が乗り込み、慌てて工夫達の怪我の様子を確認していく。
「あれ、直ってる?」
「傷が塞がってるし・・あれ??」
「まぁ、流した血は回復しないから無理しないように。」
「とりあえず、荷馬車に乗ってください。」
「ここは危険です。黒狼が戻ってこないとも限りません。」
「全員急いで荷馬車に乗ってください。今日の拡張工事は終了です。」
神父の今日の仕事終了と聞き、工夫達は慌てて荷馬車に乗り込む。
倒した黒狼を街道の奥へ放置し、工夫達が慌てスコップを落としていったので、ナナ達は忘れずに回収し荷馬車を追いかける。
怪我人を優先的に荷馬車に乗ったことでナナ達を始め、冒険者達は「置いて行かれた。」と言いながら歩き出す。
ナナとティアは森の奥に目を向け、黒狼の群れは森の奥へ逃げ買ったのを確認し
「まずは一安心かな。」
「黒熊の反応が・・・。」
ティアが黒狼の群れが逃げた方向とは違うところに黒熊が潜むのを感知していた。
距離的に余裕があるのでナナは黒熊が潜む方向へ目を向け
「今はまだ大丈夫。暗くなったらわからないけど今は休もう。」
「んー、気を付ける。」
「黒狼の群れのせいで穴兎の反応が無くなったな。」
「今日の狩りは無しか・・・。」
黒狼の群れ襲撃よりも、穴兎を狩れない事に凹んでいるティア。
ナナは夜の野営は危ないかもと思いながら、『疲れた。』と呟き歩き出す。




