護衛依頼中盤、食い倒れ無双
年末年始の忙しさも終わり、スマホも新調し心機一転生きる。
護衛依頼も15日目になると盗賊団に襲われることもなく、順調に聖王都へ向けナナ達は街道を進む。
『ロースポーツ』から離れ3日目までは『赤目』の襲撃により、聖騎士達や冒険者達は寝不足と疲労で、移動速度が遅くなり、護衛以来5日目辺りから遠くからの視線を感じなくなり、6日目には気配感知で『赤目』や盗賊と言った『悪意』の気配は完全に消え去った。
聖王都に近づくにつれ『赤目』による大討伐の影響は無かったことを知る。
街道沿いの農村や街は何ら変わらない暮らしをしている。
『ロースポーツ』と違いは、集落を囲む防壁に違いくらいだろうか。
「この辺は丸太と板で防壁を作っているんだ。」
「森や林からも遠いからかな?」
ナナは周囲に穴兎や野犬の反応を感知し
「穴兎や野犬はいるみたいだけど・・・。」
「この辺は見晴らしもいいから穴兎は逃げやすいけど、野犬は生き辛いじゃない?」
「見える獲物は狩り辛いか。」
「穴兎狙い放題ー。」
街道を駆ける箱馬車から離れた場所から、穴兎が巣穴からちらちらこちらを覗いている。
「今は穴兎狩らなくていいよ。」
「うんー。」
ティアは手にした弓を背負い籠に戻し、代わりに干し肉を取り出し、ナナと2人で齧りつく。
小高い丘を下りながら進む箱馬車は、遠くに見える街を目視で確認する。
石積みの防壁が街を囲む街の様に見えるが、防壁の外側に丸太の塀が確認できる。
「次の街は石積みの防壁の様だけど・・・丸太の塀も見えないか?」
「んー、見えるけど崩れそうな塀っぽい。」
「まぁ、街それぞれの趣という感じかなー。」
「かなー。」
街が見え始めていたので昼頃までに到着すると思っていたナナ達であったが、距離の錯覚と街道の整備不純で速度を上げる事が出来ずに、街道の平らな場所で休憩を繰り返しながら、夕刻までに街へ到着する。
農村や街に立ち寄った時は、代表のシルバさんと隊長ランクルさんの2名が村や街の代表に挨拶に伺っていた。
大きな街なら宿屋に宿泊したり、教会や広場で野営をしていた。
防壁や塀に囲まれた人が住む領域という事で、夜営時と違い寝ずの番は最小限で済ませ、多少ではあるが酒を飲む者もいた。
街道沿いに野営しないという事で、村や街では2泊し身体を休めてから出発していた。
もっとも冒険者達は冒険者ギルドで依頼をこなしたり、聖王教会の神父や聖騎士達は教会に赴いたり、修道女達は食糧の買い出しや買い物をしたりしていた。
ナナとティアはマリアの護衛という事で行動を共にしていた。
ナナは籠を背負い、ティアは弓を手にし、マリアは楽しそうに2人の後ろを歩く。
「ここへ来る時に薬草が豊富に生い茂ってるのを確認したら採取です。」
「薬草採取をしているナナの護衛です。」
「では、ナナさんを護衛しているティアさんを護衛します。」
マリアはそう言い手にした杖をぶんぶん振り回す。
街から200m離れた位置でナナは薬草を丁寧に採取ナイフを使い採取していく。
傷つけず丁寧に薬草を1本1本採取し、10本1束にし背負い籠へ入れていく。
その様子をマリアは面白そうに眺めながら、ナナが採取している薬草を『じー』と見つめている。
「あのこの薬草は?」
首を傾げながらナナに質問すると、ナナは『んー?』と作業の手を止め、マリアが見つめている薬草を見ながら
「それは冒険者ギルドで常時採取依頼をしてる薬草だよ。名前は・・・なんだっけ?」
「さぁー、常時依頼だったから名前は忘れた。」
「あらそうなんですか?」
「この薬草はポーションの材料にもなるし、傷薬の材料にもなる。」
「ポーションにした方が効果も報酬も多い。」
「ポーションや傷薬の材料ですか・・・ナナさん達も?」
「どちらも調合出来るよ。」
「出来るー。」
「それでは薬草はギルドへ納品せずにご自身で使用なされるんですか?」
「護衛依頼中は調合出来ないしギルドへ全部納品かな。」
「調合する時間もないしね。」
「それなら今度調合するのを見せてもらってもいいですか?」
「んー、道具も揃える必要があるから大丈夫とは言えない。」
「道具は家にあるしね。」
「あう、残念ですー。」
「護衛依頼中だから何もできないけど、依頼が終われば何かとやれる事もあるだろ?」
「料理とか?」
「料理??」
ナナはそういって魔法で身体の汚れを取り払い、『串焼き』や『焼き鳥』』を取り出す。
毎回マジックバックから取り出している風を装っている、ティアはナナが収納魔法が使えることを知っているし、収納魔法をあえて周囲に知らせることに対する危険も理解している。
ナナが料理を取り出し、ティアが背負い籠から寝ずの番で使っているマントを取り出し
「ここに座って休憩しよう。」
ナナは『串焼き』や『焼き鳥』を大皿に盛りつける。
この2つの料理は露店で売られている物より、味が濃厚であり下処理が完璧で何本で食べれると評判であった。
毎回酒があれば完璧と言われ、隊長のランクルさんが街や村でのみ酒を解禁したほどだった。
『串焼き』や『焼き鳥』の味付けは、『魔法工房』のアリスさんとの共同で開発した調味料で、今回の護衛依頼中に修道女達のお願いもあり、小瓶1つの『焼き肉のたれ』を送り、『焼き肉のたれ』の作り方を教えた。
『焼き肉のたれ』の材料は露店で買えるので、組み合わせ次第でいろいろな味を楽しめるとも伝えてある。
肉を美味しく食べれるという事で、食事前には冒険者達が、肉を求めて狩りをするのが日課になるほどに・・・。
『串焼き』と頬張り、美味しいそうに幸せそうに食べるマリアは
「それにしてもこの味付けを教えても良かったんですか?」
『焼き鳥』と頬張っているナナは『んご?』と口の中の『焼き鳥』を飲み込み
「なにが?」
「いえ、だからこの味付けをです。『焼き肉のたれ』でしたっけ・・・この味だけで一財産になるのではないですか?」
マリアの興奮した様子をティアは『串焼き』や『焼き鳥』を交互に頬張りながら聞いている。
ティアは美味しいから問題なしと黙々と食べ、ナナは少し考えながら
「一財産は大げさだけど、これを一緒に作った人曰く『美味しいは正義』。別に秘密にする事でも無いし、『串焼き』や『焼き鳥』は野営時では毎回食べていたし、家に帰った時の定番料理だったからなぁ。」
「ちなみにナナのマジックバックには、もっとおいしい料理があります。内緒ですがー。」
「なんで内緒にするんですかー!」
目を『くわっ!』と見開き、両手に持っている『串焼き』や『焼き鳥』を振り回しながら
「美味しい料理を食べ見たいです!」
晩ご飯までまた時間はあるにしても、大皿に盛りつけた串は20本以上が無くなり、マリアも10本以上食べているので
「あんまり食べると晩ご飯食べられなくなるよ?」
ナナは興奮しているマリアが落ち着くように諭すように話す・・・が
「それはそれです!まずは美味しい料理を所望します!!」
何故かティアも声を揃え
「「所望します!!!」」
あまりの2人の勢いに負け、ナナは両手を上げながら『降参』と小さく呟き、小分けして保管していた煮込み料理を取り出す。
「『黒毛牛の煮込みスープ』だけど肉が柔らかいから驚かないでね。付け合わせのパンもどうぞ。スープは調理時間が長いから護衛依頼中は作るのは無理だよ。」
野営時で食べれるように小さな鍋に入っていた煮込みスープは、ナナが話している間に
「なんですかこれはー!肉が口の中で溶けますわー!」
「んー、うまうまー。パンにつけても美味しいよ。」
マリアはパンを手に取り、煮込みスープにつけながら一口食べ
「パンが信じられないほど柔らかいし、スープをつけるといくらでも食べられますわー!」
「うまうまー。」
「パンは自家製だからねー。作り方は独特だから教えても作れないかな。」
実際には『魔法工房』でのパン作りはアリスさんが楽しそうに焼き上げているので、ナナがパンを作る事で教えてあげる知識が皆無なだけであるが・・・。
「あのこの料理はナナさん達は家で毎日食べているという事ですか・・・・?」
「んー、毎日じゃないかな?パンとご飯交互だから・・・。」
「・・・ご飯?なんですかそれ??」
「お米ですよ、この辺ではあまり食してないので珍しいですが。」
「ご飯も美味しいよー。」
ティアはご飯のおいしさを身体いっぱいで表現し、マリアは目を『くわっ!!』と見開き
「ナナさんご飯は無いんですか!」
ナナは口元を汚しながら叫ぶマリアの口を拭きながら、炊き立てのご飯もあるが今のマリアには『これ』の方がいいなと思い、アリスさんが握った『おにぎり』を取り出す。
アリスさんが丁寧に握ったおにぎりは、店売りのごとく三角形の形をし、焼きのりに包まっている。
マリアは最初こそ『?』と首をひねり、おにぎりの匂いが嗅ぎ『??』と再び首を傾げ・・・。
次の瞬間、ティアはおにぎりの1つを『ぱくり』と頬張り、にへらーとしながらも美味しそうに頬張る。
「んまー。」
マリアはティアの美味しそうな顔を見ながら、おにぎりと一口ぱくりと頬張り、『くわっ!!!』と目を見開き・・・次々と口へと運ぶ。
「なんですかこれは美味しいです!美味しすぎです!!」
「うまうま。」
護衛依頼で大量に握ったはずのおにぎりの山は、マリアが平らげるという事態へ発展した。
12個あったはずのおにぎりの山は・・・大半をマリアが食べ・・・食べつくし・・・淑女であるまじき姿をさらしている。
マントの上でお腹をポッコリ膨らませにやにやしながら横になっている。
「もう食べれませんは・・・動けませんわ。」
「あれほど食べれば動けないよ。」
「マリア食べすぎ。」
数人分の料理を数日分の料理を平らげたマリアはナナに背負われながら街へと戻るのであった。
このマリア食べすぎ問題で露呈した料理は護衛依頼中に1度解禁したが、料理が無くなるまで食べ続けてしまう事態に陥り、聖王都へ到着したら必ず食べる機会を設けることを約束される。
修道女達からは料理のレシピをお願いされたが、露店で購入できる調味料では作るのは難しいと教えたにもかかわらず『大丈夫です、あの味は無理でも近づける事は可能です。』と懇願され、料理のレシピを教えるのであった。
食べ過ぎてお腹がポッコリしたマリアは、食事制限で数日後には元の体形に戻ったが、食べては馬車での移動で、休憩時に無理やり身体を動かす事になり、逆に身体を鍛え上げられる。
神父のシルバさんは休憩時にナナと無手で組み手をしているのを見ながら
「身体を動かすのはいいことですが・・・マリアさんは何と戦うつもりなんでしょう。」
「なんでもいいんじゃねーか?強くなればお前さんも安心だろ?」
にやにやしながら隊長のランクルさんに声をかけられ、シルバさんは疲れた表情をしながら
「聖女候補生の強さは無手で相手を倒すことではないんですよ・・・。」
と、小さく呟くのであった。




