護衛依頼2日目。
護衛依頼2日目、昨晩の『赤目』との戦闘で傷ついた身体を癒し、箱馬車は草原の街道を進む。
森を抜けた先は見渡す限りの平野になっており、遠くに穴兎が様子をうかがっている。
その穴兎を狙って野犬の群れも遠くに見える。
ティアは周囲に獲物がいるので落ち着きがないし、騎乗している聖騎士や冒険者も野犬の群れを横目に移動速度を上げていく。
昨日と同じく箱馬車の御者席座るナナとティアは、先頭の騎乗している聖騎士が速度を上げたので、箱馬車を引く馬達に『身体強化』と『速度強化』を唱える。
魔法の効果なのか馬達が嬉しそうに駆けだし、後続の箱馬車や荷馬車も同じく即座に魔法を唱える。
「野犬の群れが複数目視で確認!速度を上げるぞ!!」
「「「「おぉ!!」」
箱馬車や荷馬車を守るように騎乗している聖騎士や冒険者が駆け出す。
速度を上げ揺れる箱馬車内部では、揺れる室内で振動に耐えている。
多少は揺れに耐性がある箱馬車や荷馬車のはずなのに、街道自体が凸凹で揺れまくりであった。
ナナとティアは厚手のマントをクッションにしていたので、それほどひどい揺れではなかったが、箱馬車の耐久的には大丈夫なものかと思っていた。
野犬の群れが見えなくなるほど走り続けると、騎乗している聖騎士の1人が「周囲好し!」と声を上げると、周囲の騎乗している聖騎士や冒険者も「周囲好し!」と叫び、最後尾の騎乗している聖騎士が『速度落とせ!先頭の者は休憩場所の確保!!」と叫ぶ。
先頭を走る騎乗している聖騎士は速度を落とし、箱馬車のナナとティアに『速度を落とせ。』と合図を送り、5分後に街道わきに箱馬車を停車する。
騎乗者と御者との合図は『注意』『警戒』『停車』など複数あり、今回は停車の合図だったので箱馬車を静かに止め、馬達に飲み水の準備をしたり岩塩の用意をする。
ナナが魔法で樽に魔法を作り出すと馬達は嬉しそうに水を飲み、ティアが小粒の岩塩を馬達の口に運ぶ。
箱馬車や荷馬車が停車すると同時に修道女達は、火をおこしお茶の準備を始める。
騎乗している者達も馬から降り、固まった体をほぐしている。
森を抜けた事で薪の消費を考えてか1つの鍋で全員分のお湯を沸かし、沸かし終わると同時に火を消し、燃え残りの薪は火消し箱に入れる。
小さなカップのお茶を飲みながら周囲を警戒する、隠れる場所がない平野の草原という事で、盗賊団の襲撃の心配はないものの、野犬の群れなどの野獣達の反応を感知する。
「見渡す限り草原か、盗賊団よりも野犬の群れが見えると・・・。」
「目視で見えてるから対応出来ない事はないはずだ。」
「それに穴兎も結構いるみたいだな。」
弓を手にし穴兎を見つめる冒険者が声を上げるが、聖騎士の1人が首を振りながら
「今は狩りよりも先に進む事を優先しよう。」
「今日は草原を抜ける事は難しいが出来るだけ先へ進もう。」
「近くに村や街はあったはずだが・・・。」
「本来であれば夕刻には小さな村に着くはずなんだが・・・先の『赤目』騒動で廃村になった。」
「廃村だと・・・?『赤目』に潰されたのか?」
「村の住民は違う場所へ避難したが村は『赤目』の集団に荒らされ蹂躙され住める状態で無くなったんだ。」
「それでは廃村は放棄されたのか?」
「あぁ、村を囲む防壁が崩壊してな。防壁や家はもちろんの事、井戸なんかも全て壊されて復興を諦めたんだ。」
「今回の騒動で結構な数の村や街が無くなったのか?」
「正確な数はわからないがな。結構な数の住民と一緒に消えた村や街がある。」
「俺たちは運が良かった方なのか?」
「生き残っているという意味では運が良かったんじゃないか。」
実際の廃村や放棄した村や街の数は聖王国でも把握していない。
それと同時に亡くなった者や行方不明者の数も誰にもわからない事であった。
30分ほど休憩し再び移動を開始する。
速度は一定で街道を駆けだす、数回の休憩をしながら進むと、廃村した村に到着する。
防壁は砕かれ家なども潰され原型を保っていない。
ナナとティアは壊され放棄された村の前で静かに手を合わせる。
それを横目に聖騎士達と冒険者達は壊された家の廃材を小さく斬り薪を作り上げる。
箱馬車の屋根や荷馬車に薪きつく結びを積み上げ、修道女達は調理に使える薪が増えたことに喜ぶ。
廃村を見回り現状を確認していた聖騎士や冒険者達は、互いに首を振りながら戻ってくる。
「ここでの野営はやめた方がいいな。馬車を止めるスペースがないし、暗くなったら危険すぎる。」
「村へ馬車を入れるにも狭すぎるし薪を補充したら移動しよう。」
「それがいいな。」
「この馬車に盗賊が住み着かなければいいな。」
「もしくは村の復旧を早くした方がいいのかもしれん。」
「今の聖王教会にはそこまでの余力は無いがな。」
これから先も同じような廃村や放置された村や街を見る事になる、そう思うとナナとティアは暗い気持ちになる。
今日はもう少しだけ街道を進むという事で、再びナナ達は街道を駆けだす。
『ロースポーツ』以外での被害の大きさを知り、聖騎士達や冒険者達は次こそは負けないと心に刻む。
2日目の野営場所は見晴らしのいい草原という事で、馬達を馬車で囲み箱馬車側面の木盾で簡易防壁を作る。杭と蔓草やロープで外周を囲み二重に簡易防壁を設置する。
修道女達が晩ご飯の調理を始める前にナナとティアは朝と同じく弓を手にし草原へ駆ける。
周囲を感知すると穴兎の反応があり、ティアが先行して穴兎を狩っていく。
ナナは穴兎を狙う野犬の群れを狩りながら次々と『魔法工房』へ送り、手を合わせ『お願いします。』と小さくお願いする。
ティアが6羽目の穴兎を狩り、ナナの背負っている籠に入れる。
「近くの穴兎は・・・反応なし。」
「それなら戻ろう。」
「うん。」
短時間で穴兎を倒したティアは少しだけ疲れていたので、魔法で綺麗にしてから頭を撫でながら
「お疲れ様、今日はゆっくりしよう。」
「うん、昨日より周囲の気配が静かだし襲撃は無いかもー。」
「あぁ、昨日みたいなのが毎日じゃヤダな。」
「昨日は忙しかった。あんまり寝れなかったし。」
「今日は大丈夫じゃない?交代で寝ずの番はあると思うけど・・・。」
「ナナと一緒に寝ずの番なら安心ー。」
「あははは、ティアと一緒なら安心ー。」
ナナとティアは笑いながら野営場所へと戻り、穴兎6羽を持ち帰るのであった。
冒険者達が解体し修道女達が調理し、晩ご飯が少しだけ多くなる。
ナナ達以外にも冒険者達も穴兎を狩ってきおり、肉入りスープだけでなく、少ないながらも焼肉にしてみんなで頬張った。
保存食ばかりと思っていた護衛依頼の食事は、討伐した穴兎により格段に向上していく。
そして何よりナナが大皿に『串焼き』や『焼き鳥』が並ぶ、みんながお腹一杯食べ食後のお茶を飲む頃には、冒険者が持ち込んだ酒が出てくる。
流石に酔いつぶれるほど飲む者はいないのだが、先に酔った者が担当し、飲まなかった者が後で寝ずの番をする事となる。
ナナとティアは飲まなかった者達と一緒に寝ずの番をすることになるのだが、疲れていたティアはナナの隣で寝落ちして、慌ててマントに包み眠らせる。
焚き火を前に夜営をするのだが、周囲を警戒してか聖騎士達や冒険者達は静かに周囲に目を向けている。
寝ずの番中は各々でお茶を淹れたり、干し肉を齧ったりひとそれぞれで、ナナとティアはお茶を飲んだり干し肉や干し果実を頬張っていた。
今日は静かに朝を迎えそうだなと思いながら草原での満点の星空を眺め『綺麗な星空だな』と小さく呟くのだった。




