護衛依頼2日目
『赤目』との戦闘後、交代で寝ずの番をしていた。
聖王教会の神父と修道女達は、傷ついた聖騎士と冒険者達を魔法で癒し、今は箱馬車で仮眠をしている。
怪我をした者達を優先的に休ませたり、戦闘の興奮からか目が冴え、干し肉を頬張っている者もいた。
ナナとティアは魔法障壁を展開を維持し箱馬車の御者席で仮眠をする。
夜営場所を森の中から草原へと移動したことで、聖騎士と冒険者達は箱馬車の側面の木盾で簡易防壁を築き、焚き火の周りに座り先ほどの戦闘を思い起こしていた。
「あれは『赤目』だったか?」
「1カ月前の大討伐で暴れた奴も『赤目』と聞いたが・・・同じ奴??」
「確かに目が赤かったが・・・ギルドで聞いた噂と違ったような・・。」
「そうだな、ギルドで聞いた話では一角うさぎの目が赤く光ったと聞いたぞ。」
「目が赤く光り狂暴になり・・・だっけ?」
「そして群れて襲い始める。」
「原因不明で目撃情報から『赤目』が増え始め、共食いの後に強い個体が『ロースポーツ』を襲った。」
「けど先の『赤目』はどうみても人間だったぞ?」
「鎧はボロボロで怪我をしている感じだったが、燃えるような赤い目をし襲撃してきた。」
「冒険者ランクで言えばランクC以上の実力だと思う。」
「森の中での移動速度が尋常じゃなかった。」
「戦い方は武器を振り回していたに過ぎないがな、武器を使う事に慣れていなかった。」
「それは違う、武器を武器として扱っていなかった。大剣をこん棒の様に殴りかかってきていただけだ。叩く様に殴るように武器を振っていた。」
「それでか、大剣にしろ戦斧にしろ大振りしかしていなかった。」
「それよりも人間も『赤目』になるのか?」
冒険者の1人が聖騎士隊長ランクルさんの目を見ながら聞くと
「人が『赤目』なるとは聞いた事がない。」
「それじゃあれはどういう事だ?状況的には『赤目』と同じ感じだったぞ?」
「同じ感じか・・・目が赤く光り狂暴になるか・・・。」
「『ロースポーツ』を襲ってきた『赤目』の強さは強大で凶悪で絶望的だったが、さっきの『赤目』はどう考えても違う気もするし何なんだ?」
「我々では『赤目』なのかどうかは判断できない。わかる事は盗賊団より厄介な事だけだ。集団で群れて襲い掛かる厄介な『赤目モドキ』としか言えん。」
「『赤目モドキ』・・・確かにな。」
「倒せないモノだったら厄介だったか、何とか止めを刺せたし問題ないのか?」
「そうだな、我々でも倒せる。それだけが救いだ。」
「聖王都まで20日前後、何事もなければいいが。」
焚き火を囲い身体を休め、そのまま寝落ちするもいるが、日が昇るまで寝ずの番をしている者はいなかった。
火が消えないように何度かナナが薪を入れ、広範囲に魔法障壁を展開しなおしたり、ティアは周囲を警戒し弓を構え矢を射る。近付く野犬を威嚇するように何度が撃ち、離れていくのを確認すると再び仮眠をする。
火が昇り始めると箱馬車の中から神父と修道女達が起き始める。
馬の世話や食事の準備が始まるとナナとティアは、弓と矢筒を手に取り草原に向け駆ける。
「穴兎の反応があるので行ってきます。」
「少し待っててー。」
神父と修道女達は首を傾げるているが、聖女候補生のマリアだけはにこりと微笑み手を振る。
「いってらっしゃい。」
ナナとティアは手を振りながら草原を駆けながら弓を構え次々と矢を射る。
何度かナナ達と一緒に草原や森に出かけていたので、穴兎の気配を感知し討伐に向かったのだ。
遠距離から穴兎を倒すのを何度か目撃していたからか、『今日は朝からお肉かしら』と思っている。
『ロースポーツ』から離れた草原という事で、穴兎の反応が多くあり、ナナとティアは穴兎を30羽以上討伐し、背負い籠に10羽をいれると残りを『魔法工房』へ送る。
ナナは手を合わせながら『穴兎送ります。調理お願いします。』とお願いをし、夜営場所へ急ぎ戻るのだった。
穴兎を手にし夜営場所へ戻ると、冒険者達が嬉しそうにナナから穴兎を受け取り解体を始める。
解体が終わると修道女達が嬉しそうに調理を始める。
「お疲れ様、穴兎いっぱいいたの?」
「うん、この辺は穴兎が戻り始めていて穴場かも。」
マリアとティアが楽しそうに話を始めたので、ナナはティアから弓と矢筒を受け取り荷物を御者席へ運ぶ。
先ほどの戦闘で汚れたのでナナは魔法で身体を綺麗にし、話に夢中なティアも同じく魔法で綺麗にする。
身体が綺麗になり気持ち好かったのか「爽快ー。」と呟く。
マリアは「?」と首を傾げるので、ナナはマリアも同じく魔法で汚れを落とすと、「はぁー。」と呟き
「今のは魔法なの?初めての経験かもー。」
「そうなの?ナナが使ってたから普通かと思ってた。」
「冒険者の必須スキルと聞いて習得したんだけど?」
「聖王教会では習わなかったよ。」
「ナナに教えてもらったから習得したけど・・・マリアも覚える?」
「んー、今は無理っぽいから聖王都へ行ってから教えてもらってもいいかな?」
「そうだな、今はごたごたしてるから向こうへ着いてゆっくりしたら教えるよ。」
「えへへ、楽しみです。」
「えへへ。」
「あのさっきの魔法ですが、神父と修道女達にもお願いしてもいいですか?」
「ん、食事の後に?」
「はい、食後にお願いします。」
「「了解-。」」
ナナはこくりと頷き、ティアはにこりとしながら元気よく応える。
護衛依頼2日目の朝ご飯は、保存食の堅パンと言われる『硬すぎるパン』と、『穴兎の肉と野菜たっぷりのスープ』だった。
ナナとティアは手を合わせ「「いただきます。」」と食べ始める。
マリアもナナ達と同じく手を合わせ「いただきます。」と、それを不思議そうに聖王教会の面々は見ている。
堅パンを齧りながら食べてみると、パンと言うよりビスケットやクッキーみたいで、ナナとティアはスープに浸しながら食べていく。
「サクサクカリカリのパンか。」
「おもしろいね。」
「ん、今度夜営する時に買ってみよう。」
「うん、食べ方を色々考えたいかもー。」
「スープも具沢山で美味しいし、安心する味がする。」
「美味しい・・・。」
調理した修道女達も美味しそうに食べているナナ達を嬉しそうに見ている。
マリアもニコニコしながら美味しそうに食べている。
冒険者達は朝方出かけたナナ達を見ていたので短時間で10羽の穴兎を見て驚いていたが、弓を構え草原で駆る2人の姿が噂になっていたので、実際の実力を目撃しても
「あの噂はナナ達だったか・・・。」
「薬草採取が専門だと思っていたが、弓の腕もすごいんだな。」
「草原や森での採取をしてるから弓の腕がいいんだろうな。」
「穴兎を解体したが、10羽1矢で倒しているから、毛皮も傷が少なかったな。」
「あの腕でランクEとか不思議だ。」
聖騎士達の方も短時間で10羽の穴兎を狩る実力を知り
「普通の冒険者は短時間で10羽の穴兎を狩る力があるのか。」
「それ以前にランクEであの実力なのかよ。」
「魔法障壁の展開に周囲の感知能力、1羽1矢の弓の腕は冒険者と言うより狩人だ。」
「聞くところによると2人は薬草採取がメインの活動だと聞いたんだが・・・。」
「採取冒険者であの実力とか『ロースポーツ』の冒険者のランクはどうなってんだ。」
ナナ達の知らないところで『ロースポーツ』の冒険者達の評価が上がる。
聖騎士達の話を聞いていた冒険者達は複雑な顔をしながら『あの2人が変わっているんです。』とは言えず、『普通の冒険者と一緒にしないで!』と心の中で叫ぶのであった。
聖騎士達の声も冒険者達の心の叫びも気にせず、ナナとティアはニコニコしながら美味しい朝ご飯を頂き、食後に手を合わせ「「ごちそうさまでした。」」と、やはり2人の行動は見慣れないもののようで、聖騎士達や冒険者達に聖王教会の面々は不思議そうに見ている。




