紅く黒く静かに
『ロースポーツ』の東の森での大討伐は失敗に終わった。
その知らせは聖王国のみならず周辺国にも激震が走った。
聖王国国王は直ちに『聖騎士団』を『ロースポーツ』へ向かわせる。
王都の冒険者ギルドのギルド長もランクSのパーティーを招集し
『聖騎士団』と共に『ロースポーツ』の事案の解決に行動を開始する。
『ロースポーツ』では周辺の山村や農村に避難を呼びかけ
ランクC~Dのパーティーが護衛として派遣していた。
『ロースポーツ』は都市から逃げる者
家や屋敷に篭り食糧を買い求める者
東の森からの襲撃に備える者
武器を手にする者や荷馬車で離れる者
それは賑わいとは違い混乱であり混沌と化していた。
冒険者ギルドもまた同じく東の森へ大討伐の詳細が解らないまま
戻らぬ冒険者の事について説明を求められる事になるのだが
大討伐に参加したギルド関係者が誰一人戻っておらず
誰の目にも大討伐失敗後に何が起こるのか不安要素が漂う事になる。
領主もまた大討伐には大勢の私兵を対応に向かわせ
何の成果も出せぬまま・・・誰も戻らない事に恐怖し
領主の館は関係者達が大討伐の詳細を求めようにも
生存者もいない状態では『あの場所』の対応をどうすればいいのかと
会議を繰り返しては何も決まらず無駄な時間だけが過ぎていく。
只一つ『ロースポーツ』の周辺の農村や山村に避難を呼びかけ
東の森から離れるよう通達をする。
領主は東の森の大討伐の失敗を聖王国に知らせ
『聖騎士団』が『ロースポーツ』へ向け移動を開始した事を知る。
「聖王国から聖騎士団が数日後に到着する。
数日後に移動魔法にて聖騎士団1500名と有史の冒険者500名
教会から300名と商業者ギルドから300名が領主館前に召喚される。」
「それでは宿泊と食糧などの手配を急ぎます。」
「ギルドと連携し次の討伐に立案を考えなければならん。」
「薬草やポーションも時間がないが出来る限り集めてくれ!」
「「「は!」」」
領主は今回の件で領主としての責任を取らねばならないと考えていたが
今はまだ領主としての責任を果たさねば・・・と行動を開始する。
一方その頃、草原で薬草採取をしているナナ達は
荷物を大量に積んだ荷馬車が列をなし街道を駆けるのを見ながら
「街道の先はどこへ行くんだっけ?」
「んー、南へ進めば・・・確か王都の方だと思うけど・・・。」
「ティアも向こうへは行った事ないの?」
「うん、生まれた村から初めて『ロースポーツ』に来たし
街道の向こうも話で聞いただけで本当の事は全然わかんない。」
「機会があれば色々な場所へ行きたいな。」
「それは面白そう・・・。」
「しかし、大勢の荷馬車が見てとれるけど何かあったかな?」
「東の森の大討伐に関してとか?」
「いやいや、上位冒険者が対応してるから失敗とか無いでしょ?」
「そうならいいんだけど・・・。」
「あれほど人の流れが激しいと街として心配になる。」
「それに荷馬車の人達は運んでいる物や服装から富裕層の方々みたいです。」
「そうなの?」
「はい、見た目も華やかで荷馬車に混ざって貴族様の箱馬車が混ぜってますし。」
「箱馬車・・・装飾が綺麗なのが箱馬車か・・・。」
街道を綺麗な箱馬車が遠目から見える。
荷馬車には荷物が大量に積み込まれ街道を駆けていく。
それよりも巨大なリュックを背負った住民達も街道を南に歩いている。
子供の手を取り歩いている者もいれば
手押し車に荷物やお年寄りを乗せ歩く者までおり
『ロースポーツ』の現状に今一理解していないナナとティアは首を傾げ
何時もの様に薬草を採取したり穴兎を討伐したりした。
野犬の群れが街道を歩く住民を襲うのを何度も目撃し
ナナとティアは悲鳴を聞くたびに撃退しては『魔法工房』へ送り続ける。
街道を歩く住民達は護衛を雇う余裕も無いのか
野犬を倒す度にお礼を言われナナ達は「大丈夫!」とだけ言い
気が付けば薬草採取よりも野犬討伐の方をメインとなる。
住民達の護衛っぽい事を気が付けば草原を抜けるまで倒し続けた。
中には次の街まで一緒について来て貰いそうだったが
謝礼も用意できないし自分達にもそれほど余裕がないので
「ここまでありがとう。」と住民達から言われはしたが
ティアが「もう少し一緒に行った方が安心する。」と言われ
「まぁ、急ぎでも無いし良いか。」とナナとティアは一緒に歩きだす。
街道を歩く住民達は少しでも安心して移動が出来ると喜び
ナナとティアは野犬が集まっては倒す事を繰り返し
気が付けば大量の野犬の毛皮と入手する事になる。
それと穴兎を見かけては倒し続ける。
穴兎は『魔法工房』へ送らずナナとティアが解体し調理をし
住民達と一緒に草原で焼き肉を始める。
穴兎の量も多くなかったものの住民達は嬉しそうに食べていた。
気が付けば住民達の数が増え続ける。
そして、気が付けばナナ達と一緒に護衛をする冒険者も増え
住民100名以上に護衛の冒険者13名が街道を南へ歩き出す。
「護衛っぽい事をしてるけど報酬も無しで大丈夫なんですか?」
ナナ達と一緒に住民達の護衛っぽい事をやっている冒険者に話しかけると
「気にすんな、行き先が一緒だしな。
それに自然に野犬が集まれば倒せば金になるし
あんたらが一緒なら奇襲の心配も無いしな。」
「それと護衛依頼はランク的に初めてやってるから気にすんな。」
「俺たちも自分達の実力的に『ロースポーツ』ではやっていけないし
彼らと一緒に街を離れると言う意味では報酬とかは考えてない。」
「穴兎を倒せば食事にも困らないしな!」
住民が歩く範囲内であればナナは野犬の襲撃を完全に対応でき
ティアも遠距離から野犬を弓で射る事が可能で
ナナの指示とティアの弓矢のおかげか野犬や穴兎の回収は10名の冒険者が行い
3名の冒険者が解体をしながら次の街まで歩き続ける。
『ロースポーツ』を離れて5日目で目的地の街へ到着し
ナナとティアは穴兎と野犬の毛皮を13名の冒険者と人数割にて配分する。
とりあえず、ナナとティアは毛皮をギルドに納品し予想以上の報酬を手にする。
穴兎の肉は街へ到着時には綺麗に食べ尽くし
街道を歩き続けた住民達は誰一人欠ける事無く到着する事が出来た。
住民達の感謝を受けてからナナとティアは『ロースポーツ』へ帰還する。
「それじゃ、『ロースポーツ』に戻ります。」
「ばいばいー。」
「ありがとう、君達のおかげで助かった。」
「野犬に怯えなくて済んだ、ありがとう!」
「おにいちゃんありがと!」
「ばいばいーありがとー!」
「また、会おう!」
ナナ達が到着した街は『ロースポーツ』から離れている事もあり
東の森での大討伐の噂は聞こえはするが距離的に離れている事から
歩き続けた住民達は久しぶりに安心して身体を休める事になる。
13名の冒険者は5日間の護衛を全うしたことから
街の冒険者ギルドから護衛の依頼が多く来る事になる。
ナナ達が『ロースポーツ』を離れている間に
聖王国から聖騎士団や勇士の冒険者達が集結し
東の森への第二次大討伐が開始される。
東の森の『深部』では紅い一角兎が静かに動きだしていた。
全てのモノを侵食し吸収し姿形を変え異形なモノは深部の全てを喰らい尽くし
静かに森全体に広がり霧と共に喰らい続ける。
聖騎士団と異形のモノとの戦いは人知れず霧の中で始まる。
『魔法工房』の屋敷の大広間でゲームをしている神様2人はゲームの手を止め
「『ロースポーツ』の東の森で大討伐が失敗したのぉ。」
「まさか『氾濫』・・?」
「一角兎の変異と呪いが合わさったみたいじゃのぉ。」
「それとも呪われて変異したか・・・。」
「東の森で溢れ出た暗闇の波は変異に耐えれず異形の姿を保てなくなったと?」
「姿を保てず半解したと・・・あれは人が倒せるモノなのか・・・。」
暫らく『モノ』の対応を話し合っていたが聖騎士団の対応するのに気が付き
魔のモノを倒すには聖なる騎士が迎え撃つしかない。
とりあえずは『ロースポーツ』の東の森対策に目途が立ち
再び神様達はゲームを再開する。
「教会からも『聖女』候補生が派遣されたみたいじゃな。」
「『聖女』じゃなく候補生の方が?」
「聖王国の教会も『もしも』の事を考えて王都から出さぬようじゃのぉ。」
「候補生がものになるものか・・・死線の先に学べるものがあればいいが・・・。」
「もしもの時はナナさん達に護って貰おうかのぉ。」
「それならルナに聖女を通して『お話』をしてみたら?」
「ふぉふぉふぉ、それはそれで面白いかも知れん。」
「ふふふ、ナナさんの驚く顔が見れるかも知れん。」
ゲームをしながらニムニムしている神様らをルナが冷ややかな目で見てる。
どうみても『ロースポーツ』を取り巻く現状は不安要素しか無い
それに聖女候補生に危険が及ぶと言うならルナは全力で護らなければならない。
その日の晩、ルナは聖都の『聖女』に『お話』という名の『神託』を告げる。
『冒険者ナナとティアを聖女候補生の護衛役にしなさい。』
「この2人は神様の・・・使徒という事ですか?」
『今は言えません、ただし彼らの協力は必要ですよ。』
「はい、必ずや協力を請う事に致します。」
夢で中の神託により教会はナナとティアの2人の人となりを調べ上げ
冒険者ギルドを通して聖女候補生の護衛の指名依頼をお願いするのだった。




