浅い森での生活とか
浅い森での冒険者の遭遇は想定内の事ではあったが
予想以上に落し穴と革紐に助けられた印象が強い。
ナナが冒険者達の相手をしつつティアは大岩の上で弓を構えていた。
見上げるほどの大岩という事でけがをした冒険者達はティアの存在に気が付く事は無かったが
それでも大猪らがナナやけがをした冒険者達に向かってくる緊張していたはずである。
怪我をした冒険者曰く東の森の『深部』には紅い一角兎がいると
それは冒険者ギルドでも存在が確認され『深部』への進入が禁止されるほどの事であった。
冒険者の話には続きがあり『深部』から出る事が無いはずの紅い一角兎がすぐそこまで迫っていたと言う・・・。
確かに大岩の上から周囲を警戒していたティアが森の奥から無数の反応を感じており
次第に紅い一角兎以外の獣たちが押し寄せている可能性を感じていた。
「ハクトさんから教えて貰った落とし穴は討伐に使えるけど防衛面で優れている気がする。」
「まさか浅い森でゆっくり休めるのはハクトさんも想定して無いと思おうよ?」
落し穴の向こうには今にもナナ達を襲おうと考えている大猪や一角兎が見てとれた。
ナナが創りだした落とし穴は幅が3mの深さ5mという代物で
どうみても落ちたら骨折ではすみそうにない深さがあった。
「最初は落し穴に落ちていた大猪のいたはずなのに慣れちゃったのかな?」
「そりゃ、ぽんぽん穴に落ちれば警戒もするでしょ。」
「最初は足止め程度に浅い穴にした時は少しだけ怖かったけど
深すぎて今では向かって来る者すらいなくなったか・・・。」
「落ちたら回収が大変だから現状維持でー。」
「あははは、そうだね。」
お茶を飲みまったりと過ごしているナナとティアであったが
基本的に浅い森であっても危険な森である事に変わりは無い。
落し穴と大岩型のシェルターがあって初めて安心できる空間ともいえた。
前回怪我をした冒険者達もナナがいる事に驚いていていたのが普通の感想であろう。
浅い森でのナナ達は大岩型シェルターを拠点として活動し
薬草採取をしつつ向かってくる一角兎や大蛙を倒していた。
稀に大猪や黒熊に遭遇する事もあったが落し穴で動きを拘束し
ティアが連続で矢を射る事で怪我も無く討伐していった。
「それにしてもナナの結界魔法は大猪にも耐えたし
黒熊の突進にも難なく耐えた・・・消費する魔力がどれ程かはわかんないけど・・・。」
「常時展開するよりは魔力消費が大きいかな?
少なくても大猪なら3体まで耐えれそうだし・・・
無理をすれば5体前後はいけると思う・・・魔力枯渇で倒れる可能性が多きけど。」
「わたしの弓の威力では倒せはするけど時間がかかる。」
「特に黒熊は毛並みが太く堅甲だから攻撃が通り難い。
『蹴撃』をしようにも硬すぎて骨が折れるよ。」
「魔法で倒すと毛皮の価値が下がるし難しい。」
「それを考えるとランク上位の冒険者はどうやって倒しているのか気になるね。」
「良い武器使ってるのかなー。」
「凄いスキルでバシバシ倒してるのかなー。」
未だに浅い森での戦いに緊張し戦う前に防衛線を張り巡らせ
最低限の戦いのみをしナナ達の浅い森での生活は続く。
ちなみに大猪や黒熊は倒したら即『魔法工房』へ送り
アリスさんが解体し調理され試作を繰り返した後にナナ達が食べる事になる。
試食し美味しいと判断するのはグランさんを始め神様達であった。
一角兎や大蛙は試食以前に唐揚げやステーキとして調理され
どちらも大変美味しい味わいとして人気メニューになっていた。
「肉の確保は大事だけど今のままじゃ確保も難しい・・・。」
「落とし穴が無くなったら一斉に襲ってくると思うけど倒せるか不安だね。」
「危険な事と危ない事はしたくないしやりたくない。」
「倒すとしたら安全に一撃で倒すやり方がいい。」
「足止めしての一斉射撃とか?」
「弓矢の乱れ撃ちーとか?」
「どっちもティア頼みではあるけどねー。」
「頑張るよー、撃ちまくるよー!」
「そういえば紅い一角兎は角を飛ばすみたい。
しかも連続で撃つみたいだから気をつけないとヤバい。
盾や鎧は見事に壊されたと言うし・・・貫通力半端なし。」
「盾で受け流せば問題無いんだっけ?」
「そうみたいだね。連続で放たれた角を即座に受け流す事が可能なのか・・・。」
「ランクCにもなると何でもありなんじゃ?」
「話を聞いても逃げ切れるとは思えないんだが・・・。」
「ナナの結界魔法なら大丈夫でしょ?」
「耐える自信はあるけど・・・絶対魔力枯渇になると思うよ。
連続で貫通性のある攻撃でしょ?耐えきれなきゃ穴だらけになっちゃうよ。」
「この大岩型シェルターなら耐えれるかなー。」
「んー、どうだろ?居住スペースを減らして外壁部分を厚くすればいけるかな?
その場合は大岩の上から弓を構えて一緒に矢を射るしかないかも。」
「上から狙い撃ち?撃ちまくり??」
「そそ、見上げたら矢が降り注ぐー!」
それはそれで面白いかも・・・などと考えていると
落し穴の手前にいたモノ達が一斉に移動を開始した。
ナナの『範囲感知』で何があったか反応を調べてみると
草原の方から数名の冒険者の反応があり
落し穴の手前にいたモノ達が一斉に襲いかかっているのが知れた。
ナナは最初森へ来る冒険者だからランク上位だと思っていたが
襲われてい冒険者と思われる反応が芳しくない事に気がつき
「ティア緊急事態だ。向こうで冒険者が襲われてる。」
ティアはコクリと頷き急ぎシェルターから飛び出し
2人は弓を構えながら浅い森を駆け出す。
暫らくすると襲われている者たちの姿が見えた。
それは数日前にナナが助けた冒険者であったが
何故か前回より人数が増えているにも拘らず前回よりも戦い方が雑であった。
彼らを目視で確認しナナ達は静かに弓を構え矢を射る。
冒険者に誤射しない様に離れているモノから倒していき。
戦闘開始から30分後に何とか全てのモノを倒し終える。
その中には一角兎らしきモノや大蛙っぽいモノもいたが
どこか怪しいモノあり、どこ奇妙なモノであった・・・。
「姿形は一角兎っぽいけど何かおかしい・・・。」
「こっちの大蛙も変?」
ナナが『鑑定』して調べても『一角兎(?)』としかわからず
正体不明の気味の悪いモノが多く死骸として確認された。
ナナ達が死骸を調べていると向こうの方から
「おーい、助かったー。」
武器を収め手を上げながら冒険者らが歩いてくる。
ナナが彼らと同じく片手を上げながら「おぅ!」と応え
ティアがペコリ頭を下げるのを見てか
彼らも慌ててペコリと頭を下げてから笑顔で
「今回も助かった。しかし、いい腕だな!」
「浅い森であれほど獣が溢れるのは珍しいぞ。」
「てか、倒したこれは獣なのか??」
それは先程までナナ達が奇妙なモノとして見ていたモノで
冒険者の彼らも初見の奇妙な変なモノという話であった。
「それで今日はどうしたんですか?」
「いや前回の事をギルドに報告したら確認する必要があるとかでな
何故かギルド職員と一緒に森へ向かっているんだわ。」
ナナ達が話している後ろで息を切らしているのがギルド職員らしい
真新しい革の上下を身に纏い冒険者らしからぬ細身で・・・。
前回怪我をした冒険者の4人組は破壊された装備を一新し
真新しい鎧を身に纏っているが何故か盾を複数背負っているみたいで
冒険者というより攻撃を耐えうる戦士の様であった。
「それは大変ですね。この先にも色々なモノが集まってますから頑張って下さい。」
ナナとティアがペコリと頭を下げ帰ろうとすると
冒険者の1人が慌ててナナに声をかける。
「え、帰るのか?」
「はい、どうやら大丈夫そうなので戻ります。」
「ばいばいー。」
ティアは手を振りながら帰ろうとすると
冒険者の4人は「ならしょうがないかー。」と呟くのだが
突然後ろでダウンしていたギルド職員が向かってきて
「協力して下さい!」
「無理です。」
切羽詰まった勢いでナナに話しかけるのだが即行断り
ナナはティアの手を握り大岩型のシェルターへ歩き出す。
暫らく歩いてから思い出したように
「すぐそこまで紅い一角兎が来ていますよ。
今から帰れば襲われる事も無いと思いますが・・・?」
それを聞いた冒険者達は苦笑しながら
「やっぱり行動範囲を広げているか・・・。」
「今回は装備も一新したし大丈夫と思いたいが・・・。」
「足手まといがいるから逃げる事は無理と思わなきゃ・・・。」
「はぁー、絶対遭遇する・・・。今回は逃げるのは無理そう・・・。」
どうやら彼らは最初から戦う前提で装備を揃えている感じがするが
ギルド職員が一緒という事で半分以上撤退は不可能であることを理解していた。
足手まといと言われたギルド職員は今の現状に少し震え
周囲が気になるのかきょろきょろとしきりに警戒を強めている。
ナナはすぐに行動しない彼らに小声ではあるがはっきりと
「逃げるなら早めにした方がいい。
最近は大猪や黒熊も浅い森でよく見かける。」
それを聞きギルド職員は慌てながら一心不乱に草原を目指し駆けだす。
それを追いかける彼らであったがその中の1人がナナに「君達は逃げないのか?」と聞くと
ニコリと微笑んでから「大丈夫。」とだけ告げ森へ歩き出す。
ナナは『範囲感知』でギルド職員を追いかけ冒険者達が草原へ向かうのを確認し
急ぎ大岩型シェルターへ避難を開始した。
途中何度か襲われ弓矢で倒しては『鑑定』し回収するか放置するかをしたが
その半数近くが正体不明の????というモノだった。
「ねね、この????って焼けば食べれるかなー。」
「正体不明な????でしょ・・・。解体するのも憚れる気がするよ。」
「放置するのが一番かな。焼却するにも火事の危険性があるしな。」
「さすがに????を食べるモノはいないんじゃないかな?」
「さぁ、何度も喰う蟲とかいるかも知れんぞ。」
「雑食過ぎるネズミとか?」
「考えただけで気が滅入る。」
「帰って休もう。」
「そうだな。」
少しずつではあるが東の森での生態系の変化が冒険者ギルドに報告され始め
『ロースポーツ』の東の森一帯に進入禁止の知らせは即日には知れ渡る。
知らないのはナナ達だけになるのだが大岩型シェルターと落し穴で無事に数日過ごし
『ロースポーツ』に戻った時には受付嬢始めギルド職員から説教にも似たありがたい話を聞く事になる。
「まぁ、ナナさん達が危ない事態というのは想像できませんが・・・」
受付嬢のその一言で周りの受付嬢達が頷いているのを見ていると
心配しているのか不安になりつつもナナとティアは声を揃えて
「「次から気を付けます」」という事しか出来なかった。
ナナ達が持ち込んだ薬草は10本1束のモノが200束以上あり
紅い一角兎騒動でのポーション不足が多少ではあるが解消される見込みが出てた。
紅い一角兎騒動は怪我人多数の死亡者ゼロという奇妙な感じがあるのだが
今わかっている事は確実に東の森を紅い一角兎に支配されたと言う事だけだった。




