危険な紅いあれとか
『ロースポーツ』の森の奥『深部』と言われる深い森にて
新種の魔物の情報が冒険者ギルドに届けられた。
『ロースポーツ』収獲祭は『焼き肉祭り』の10日前から交代で冒険者が森へ行っていたのだが
1つのパーティーが偶然見慣れない獣の姿を見たという・・・。
姿は『一角兎』でありながら角の数が複数あり何より身体の色が紅かった。
通常の『一角兎』の身体は灰色から煤けた茶色をしており
最初は姿形を意識する前に紅い一角兎の襲撃により撤退を余儀なくされたと言う。
この赤い一角兎も目撃情報は日に日に多くなり
冒険者ギルドとしては姿に惑わされず確実な討伐を徹底させる事になる。
冒険者ギルドの一室でも紅い一角兎の対策について話し合われていた。
「目撃情報の奥は東の森『深部』で間違いない様です。
昨日までに4つのパーティーから目撃情報が届いてます。」
「それで討伐した者はいるのか?」
「いえ、複数の一角兎を従えていたと言う事で・・・。」
「撤退したと・・・。それにしても一角兎は群れて行動しないはずなんじゃが?」
「それなんですが従えていたという証言とは別にもう1つの証言があるのですが・・・。」
「ほう、それは一角兎に関してのものか?」
「はい、別の冒険者からは一角兎を捕食していたという証言もあります。」
「共食い・・・。」
「ギルド長の言う通りかも知れません。一角兎を追いかける紅い一角兎を見たと。」
「同類を捕食して『進化』したか・・・もしくは一角兎の変異種か・・・。
それで紅い一角兎に襲撃を受けたと言う冒険者からどういう攻撃を受けたかは聞いておるか?」
「はい、暗闇から紅い目を見たと言うのが最初のイメージだったらしいですが
魔法で照らし姿を確認する間も無く突進を喰らったそうです。」
「一角兎の突進は誰しも知っている情報じゃが?」
「数回突進を受け流して攻撃を仕掛ける寸前に紅い一角兎から遠距離攻撃を受けたと・・・。」
「一角兎は遠距離から仕掛ける攻撃方法は無いはずじゃが?」
「冒険者の証言から自らの角を飛ばしてきたと・・・。
それを示す証拠ではありませんが冒険者の盾に紅い一角兎の角が数本刺さってました。
見た目は角ですが・・・明らかに硬く鋭く避けるのが精一杯だったと。」
「数本という事は紅い一角兎の角は即座に生え換わると・・・?」
「そういう事です。紅い一角兎の角は生え換わりに時間が数秒か一瞬であったと・・・。」
「それにしても良くその冒険者は無事に『ロースポーツ』に帰還で来たな。」
「なんでも一定の間攻撃をされていたが気が付けば追う事を止め『深部』へ移動したと
今のところ紅い一角兎の目撃情報と襲撃情報は東の森『深部』のみとなります。
気になるのは紅い一角兎が複数確認されている事でしょうか・・・。」
「複数の赤い一角兎か・・・いずれは討伐をしなければいけないが
今のところ『ロースポーツ』収獲祭は『焼き肉祭り』に支障は無いのか?」
「収獲祭に向けての準備は万全です。今回は大丈夫でも次回の準備はわかりませんが・・・。」
「それは領主様と要相談じゃのぉ。討伐するにしろ放置するにしろな。
現状はランクC以下の者は東の森への進入不可でいいじゃろう。
それと東の森以外の西と北の深部も警戒が必要かも知れんし
何とも面倒な事になりそうじゃのぉ・・・。」
「それでは東の森『深部』の進入禁止と紅い一角兎の目撃情報に努めます。」
「宜しく頼む。」
「「「「は!」」」
ギルドの一室で行われた会議の内容はは冒険者達に静かに浸透していく。
『深部』を避けて活動する者もいれば自ら危険を承知で『深部』を目指す者
それ以上に未確認の紅い一角兎という事で目撃情報の他に
紅い一角兎には討伐依頼と報酬が提示されていた。
『ロースポーツ』で紅い一角兎で話題で盛り上がっている頃
東の森では紅い一角兎に追われている冒険者達がいた。
最初は一角兎の討伐に出ていたはずが気が付けば限りなく『深部』付近で休憩をし
突然紅い一角兎の突進を喰らったと言うのが彼らの認識だろう。
ランクCという事もあってか突進を瞬時に受け流し体勢を整えた。
他のメンバーも盾を構え剣を構え弓を手にしているのだが
目の前には3匹の紅い一角兎が威嚇をするかの如く
『ググググググウググゥ。』と不快な声を上げている。
「ギルドで報告が聞いた通り複数の紅い一角兎を目視で確認。
誰でも良いからこの場所を覚えておけよ!!」
「了解!!」
冒険者の1人が小冊子の地図に大まかな現在地を書き込み
背負っているリュックに無造作に突っ込む。
他の冒険者がそれを確認し
「さて、遠距離からの攻撃もあると言うしどうするかなー。」
「逃げるなら・・・1時間以上は走らないと。」
「浅い森まで行けば大丈夫って聞いたな。」
「逃げるにしろ戦うにしろ突進は避けろよ。
角を飛ばすらしいが盾を貫通するらしいから受け流せ!」
4人の冒険者は紅い一角兎の動きを逐一観察し
「さて逃げ切れるか・・・。それとも・・・。」と心の中で呟く
次の瞬間、紅い一角兎が身体を沈めたと思った
その時『ドォ!』という爆音とともに冒険者の1人に突進してきた。
「あっぶね!」
突進し向かってきた角を盾で受け流したまではいいのだが
紅い一角兎に勢いを殺す事が出来ず1m程ふっ飛ばされてしまう。
即座に立ちあがり盾を構えて
「攻撃速度が段違いだ角を受け流せば大丈夫だ!」
「それにしても速すぎるし重すぎる攻撃だな・・・。」
「攻撃を受けた感想は無いか。」
「受け流せないと思ったら過剰に離れた方がいい。
かすっただけで致命傷になりそうな重く鋭いぞ!」
冒険者達は盾を構え少しずつ後ろへ下がり始める。
最初は戦えば何とかなると思っていたが
先程の攻撃の鋭さに驚き撤退を考え始めていた。
そんな冒険者の事などお構いなしに紅い一角兎は『ククククク』と声を上げ
一斉に冒険者に角を飛ばしてきた!!
「やばい、木の陰に隠れろ!!」
その一言に冒険者達は太めの木々に隠れるように身体を低くする。
次の瞬間『ドガガガガガガッガガガッ!!!』と無数の角が周囲に放たれる。
木々が砕ける音だけが数秒続き響きわたり静かになったのを確認したのか
紅い一角兎は冒険者達に目もくれず『深部』へと移動していく。
周囲に紅い一角兎の反応が消えたのを確認し
冒険者達はボロボロな姿でお互いの現状を確認し合う。
とりあえず次に襲撃されれば命が無いと思う彼らはしゃべらず静かに移動する。
鎧は砕け盾は破壊され着ている物と言えば
キズだらけの革の上下に革のブーツだけだった。
その他の装備は意味もなさないほど壊されていたので森へ廃棄した。
冒険者らは歩きながら常備していたポーションを飲んだり
携帯食を齧りながら休まず歩き続けた。
背中のリュックは紅い一角兎の角による遠距離攻撃で無残にも破壊され
リュックの中身に入れていた食糧や水など野営に必要な物資は尽く無くなってしまった。
それに加え装備は腰に差してある解体ナイフのみとなっていた。
「はぁはぁはぁ、ついてないな。」
「はぁはぁはぁ、逆に幸運だっただろ?」
「はぁはぁ、生き残れたしな。」
「はぁはぁはぁ、それにしてもお互いボロボロだな。」
4人はポーションを飲んではいるが深く刺さった角のキズを癒すには至らなかった。
傷口を抑えながら浅い森を目指す・・・。
途中薬草を見つけては簡易的なキズ薬を身体に塗りはしたものの
彼らの足取りは遅く流した血に森の中の獣たちは静かに彼らを囲み始めていた。
「はぁはぁはぁ、やばい気配がするんだが・・・。」
「はぁはぁはぁ、少し前から囲まれてますよ。」
「はぁはぁ、もう少しで森を抜けるのに・・・。」
「はぁはぁはー、とりあえず警戒しつつ行きましょう。」
周囲を囲まれているので警戒も無いのだが
攻撃に備え解体ナイフを構えながら移動する。
こちらが弱っているのを見せれば即座に襲いかかる気でいるのが感じられた。
「もう少しで森を抜けるぞ・・・。」
「それまで気を抜くなよ。」
「了解!」
「やばいぞ・・・、大猪がこっちを見ている!」
森の奥からギラリと大猪の両目が光った様な気がした。
そして、冒険者の1人が「あれは無理だ。」とぼそりと呟く。
次の瞬間、大猪が凄い勢いで駆けて来るのを感じながら4人は一目散に走り出した。
浅い森まで抜ければ大丈夫と心の中で叫びながら走り続ける。
そして、浅い森を抜けて気が抜けたのか冒険者の1人が足をからませ転んでしまう。
直ぐに転んで耐性を崩した者を支え走り出そうとすると
追いかけてきた大猪とは別の大猪が冒険者達に向かってくる。
冒険者達は盾を構え「これまでか・・。」と思いながら衝撃に備えてると
「もう少し走れば助かりますよ?
落し穴と革紐を避けて後ろの大岩まで急いで下さい。」
「「「「え?」」」
声の主はまだ少年の様だが「これを飲んで走って!」と
言われるがまま渡された物を飲み急ぎ走っていく。
少年の言った落とし穴や革紐を避けながら大岩まで走り
息を整えていると先程の少年が
「落し穴があるから近づいてきませんよ。
とりあえず休憩にしませんか?」
「え?何を??」
冒険者は戸惑いながらも前方に目を向けると落し穴が大岩を囲む様に掘られていた。
落し穴は深く広く掘られており冒険者達は「いつの間に・・・。」と思い
「とりあえず助かった、ありがとう。」
命辛々走り続けた冒険者達は何とか生き残れた事を今実感した。
それ以上に何故こんなところに少年が1人でいるのかという方が不思議だったのだが
彼から御馳走になった食事の美味しさにすっかり忘れてしまっていた。
その後、身体のキズも回復し食事を済ませた冒険者達は
少年にお礼を言い急ぎ冒険者ギルドへ報告へ向かう。
そこで彼らは浅い森で1人の少年に助けられた事と
『深部』から東の森へ紅い一角兎が移動してきた事を報告する。
この報告によりランクC以外の冒険者は東の森への進入を禁止される運びになる。




