浅い森にて
ギルドのクエストボードを見ながらナナがティアに話しかける。
「今日は森の方へ行ってみようかー。」
「大猪ですか?」
「ランクEの常駐クエストの『一角兎の毛皮』と『薬草採取』が気になってな。」
「一角兎は穴兎より大きいはず・・・。薬草は聞いた事無い薬草ですね。」
「一応、薬草は聞いてみよう。受付嬢かギルドの資料室で調べれば大丈夫かな。」
「そうしましょうかー。」
冒険者ギルドは朝方の忙しい雰囲気が一段落したようで
数人の冒険者が待合室で談笑していたり
クエスト依頼にギルドに訪れる依頼人がギルド職員と相談していた。
それを横目にナナ達は静かに業務をしている受付嬢に
「あの少しいいですか?薬草採取の事で聞きたい事があるんですが?」
受付嬢は仕事の手を止め話しかけてきたがナナ達と知り
「はい、大丈夫ですよ。」
「あのランクEの常駐クエストの『薬草採取』なんですが・・・。」
「ランクEの薬草採取ですね・・・。」
そう言って受付嬢は1つの小冊子を取り出す。
そこには『ロースポーツ』で採取可能な薬草や目撃された野獣や魔獣が記載されていた。
その中でランクEの薬草を見つけナナ達にイラストを見せてきた。
「ランクEの薬草は『ポポリス』というものですね。
葉先が紅いという特徴がありますが、同じ特徴の『ポリトス』という毒草があります。
採取するときは葉先と葉の形状を間違えないようにして下さい。」
「葉先が紅い薬草か・・・。『ポポリス』ですね了解です。」
「似たような毒草もあるのか難しい。」
「冒険者に方々にはこの小冊子を希望者に渡していますが・・・どうしますか?」
「「欲しいです!」」
「わかりました。それではナナさんとティアさんに1冊ずつお渡しします。
小冊子には『ロースポーツ』の周辺の簡易的ではありますが地図が書かれていたり
冒険者ギルドで把握している野獣や魔獣の分布図も記載されています。」
ナナは手渡された小冊子に目を通しながら薬草の種類から注意する毒草
それから草原での狩りの注意事項や森での注意喚起など事細かに大事な事が記されていた。
「あの冒険者になって初めて小冊子の存在を知ったんですが・・・。」
「本来であれば冒険者全ての方へ配布される物なのですが
どうも冒険者の方々は小冊子や資料に目を通す事無くクエストへ行かれる方ばかりで
何度も注意と言いますか忠告はしているんですがどうにも・・・。」
「これは読み物としても面白い気がしますがね。」
「イラストがあって覚えやすそう。」
ナナは勿論だがティアも小冊子に目を通しながら「ふむふむ。」と真剣に読んでいる。
受付嬢は渡した小冊子が役に立った事が嬉しそうで
「その小冊子の内容は10年も前の物ですので
現在の草原や森では半分ほどしか役に立たないと思われます。
もしよろしければ小冊子に記載漏れや新たな発見があれば報告をお願いしたいのですが・・・。」
「個別依頼という事ですか?」
「厳密には違います。例えばランクEのナナさんが浅い森へ出かけて
常駐クエストの薬草以外に別の薬草を発見した場合や
記載されていない野獣や魔獣を発見討伐した場合には教えて欲しいという事です。」
「狩りに討伐した場合は解体さずにギルドに持ち込んでも大丈夫ですか?」
「はい、浅い森での異常の確認という事で報酬が出ます。」
「そういう事なら協力します。」
「ありがとうございます。」
「初めての依頼なので数日は森に野営すると思います。」
「野営ですか・・・道具屋で虫除けのお香や薬を購入した方がいいですよ。
今の時期は森がいい意味で賑わっていますから。」
「わかりました、ありがとうございます。」
ナナとティアは受付嬢にぺこりと頭を下げギルドを後にする。
ティアは「虫除けは絶対購入!」とナナにおねだりし
ナナは苦笑しながらも「虫除けのお香はティアが選んでね。」と話しながら道具屋へ向かう。
道具屋では見つけた虫除けのお香は線香の様な物から蝋燭の様な物があったり
虫除けの軟膏の様な物があったりで多種多様な物があり
ティアが道具屋の亭主と色々話し合いをしている。
ナナは道具屋の品物を1つ1つ見てまわりながらテントを探す。
「テントは無いのか?それともテントという物自体無い可能性が・・・。
それに寝袋も無いな・・・どうしようか。」
暫らくするとティアが「これに決めました!」とお香を掲げていたので
ナナが「はい、決めてくれてありがとう。」とティアの頭を撫でて代金を支払う。
ティアがお香を大事そうに自分の背負いのリョックに仕舞い
「それでナナは何を探していたの?」
「野営用に何か買おうと思ってな。」
「それなら大きめなマントを数枚買えば大丈夫じゃない?
マントを羽織れば虫除けにもヒル避けにもなるし
雨が降ればマントを張れば雨避けにもなるしー。」
「なるほど、寝る時は包まればいいの?」
「そうそう、水を弾くマントと厚手のマントがあれば大丈夫!」
「ならマントもティアが選んでもらいたいんだけど良い?」
「うん、任せて!」
そう言って再びティアは道具屋の亭主とマントを並べては話を聞き
数枚のマントがナナとティアの前に並べられる。
雨避けも出来るマントとマントの裏地が厚手の布の物に加え
森の中を歩くという事で柄の長い鎌や丈夫な革紐も購入する。
それと別途にいつも使っている背負いのリュックよりも大きいサイズの物を買い
さながら山歩きやキャンプに行く様な重装備となる。
リュックは背負いやすいのは当然なのだが直ぐに降ろしやすい物を選び
突然の戦闘時に荷物が邪魔にならない物を選んだ。
「これなら突発的な戦闘時に邪魔にならないからいいいな。」
「ナナのは少し大きいから重くならないか心配。」
「ん、そうか?色々詰めそうだから嬉しいぞ。」
「そっか、それならいいんだー。」
リュックを背負いナナ達はゆっくりと浅い森に向け歩き始める。
地図で見る限り『ロースポーツ』を囲む様に森があり
ナナの目指す浅い森は草原から3kmの範囲の場所を指すようだ。
浅い森は実際には木々が生い茂る森という感じでは無く
丈の長い草木が広がる大地になっていた。
『範囲感知』でも対象様々な反応がありナナが草むらに杖を指すと
蛇が逃げるように這って言ったり小さな動物などが生息していた。
その中でも一番驚いたのは革のブーツにヒルが張り付いていた事で
見つけては杖で払い魔法で焼く作業を進めていく。
草原を歩いていた時から虫除けのお香に火を灯し
ナナとティアはお香の香りに包まれて歩いていたせいか
虫は寄る事がないかわりに野犬などが群れで攻撃を仕掛けてきていたのだが
ナナとティアの弓矢の前には接近する前に倒されるしかなかった。
「野犬の毛皮もギルドに卸せるからキッチリ倒していこう!」
「おぅ!」
ナナは止めを刺した野犬を『魔法工房』へ送り浅い森を歩き続ける。
丈の長い草木から疎らに木々が生い茂る森が見えてきたので
「この辺で一旦休憩しよう。」
「はい。」
ナナとティアは背負ったリュックを降ろし『範囲感知』で周囲を調べる。
やはり無数の反応がありナナは魔法障壁を展開しお茶を飲み始める。
「無駄に反応が多いなぁ。」
「丈が長い草木が狩りづらくて大変そう。」
「隠れているのが何かわからないから緊張するね。」
「魔法障壁を常時展開した方が安心できるけど・・・。」
「何もせずに常時展開するなら問題ないけど襲われたら危険かな?」
「とりあえず、ハクトさんから教えて貰った通りに魔法で落し穴を作るかー。」
「わたしは周囲を監視しつつ薬草採取の用意します。」
ナナが周囲に落し穴を作り始めティアは薬草採取をする前に丈の長い草を刈り始める。
葉先が紅い薬草の生い茂る場所を数カ所見つけては周囲の草を刈り穴を掘る。
ナナが『鑑定』スキルで『ポポリス』を確認してはティアが採取をし
『ポポリス』を10本1束で結び『魔法工房』へ送る。
草原での採取と違い周囲からの反応が多くあるからか
ティアも緊張しながら採取をしていたし
ナナも魔法障壁を展開しながら『範囲感知』で周囲を警戒する。
「ふぅ、『ポポリス』の採取終わったよー。」
とりあえず薬草を採取しすぎない様に採取をし
ナナは落し穴の撤去を始める。
ティアは弓を構え即座に矢を射れるように周囲を警戒する。
落とし穴を撤去しナナとティアはリュックを背負い
次の薬草が生い茂る場所を探しながら浅い森を歩き始める。
虫除けのお香を複数使用している為か薄い煙の中をナナ達は歩く。
虫除け効果がある筈なのだが多少は野獣にも効果があるのか
この日は一度も戦闘が無く緊張しつつも結構な数の薬草を採取する事になる。
夜は焚き火を囲みながら晩ご飯を食べるのだが
ティアは緊張し疲れていたのか食べ終わると同時に寝落ちする。
厚手のマントにティアを包みながらナナは焚き火を前にお茶を飲み
「浅い森での活動はハクトさんとアリスさんに助言でなんとかなったなぁ。
落とし穴と周囲の草を刈るのは手間はかかるけど効果はあるな。
問題があるとすれば『範囲感知』に頼ると反応が多すぎた場合対応に困るな。」
今もまた『範囲感知』では無数の反応があり常に緊張感漂う感じになっている。
周囲を落し穴を設置していたので襲われる前に足止めが可能であり
その上で結界の前には革紐で周囲を囲い二重三重に罠を展開していた。
ハクトさんからは『土魔法』の落とし穴をスムーズに展開する事を教えられ
アリスさんからは薬草の種類の見分けから革紐で簡易の柵の設置を勧められた。
更に『結界魔法』で自分らを囲み何があっても対応出来るようになった。
その為かティアは安心して眠っているし
ナナもまた眠ろうとしたら結界の周囲に無数の虫達が群がっており
「これは気持ちの悪い風景だ・・・。
朝になったら消えないかなぁ・・・。」
結界を『カリカリカリ』と齧る音を聞きながらナナも眠り始める。




