草原を駆けるとか
久しぶりにナナとティアは『ロースポーツ』の冒険者ギルドに向かう。
時間的に朝早いと言う訳ではないのでギルド内は冒険者もおらず
ナナ達が受付嬢に「「おはよう。」」挨拶すると
受付嬢はナナ達に一礼し「おはようございます。」と挨拶をされる。
ナナ達の時間的に数カ月ぶりの冒険者ギルドなはずなのに
クエストボードは相変わらずランクFの常駐依頼やらクエストがあり
いつもどうり『薬草採取』と『穴兎の毛皮』の依頼を発見し
納める数と報酬金額を確認してからギルドを出ようとする前に
「ナナさん少しお話しがございます。」
ギルド職員が話しながらナナの前に姿を現す丁寧な言葉の中に
『逃がさないよ。』的な語気を強めな感じだったので
「そうですか、ではどうぞ!」
ナナが手をパン!と鳴らし『さぁ、話せ!』という感じで構えると
ギルド職員は一瞬戸惑いながらも姿勢を正し
「2階のギルド長の部屋で詳しくお話します。」
そう言いギルド職員は2階へ歩いていく。
ナナはその後ろ姿を見ながら・・・姿が見えなくなってから
受付嬢に「それじゃ、薬草採取に行ってきますね!」と告げ
ナナとティアはギルドを後にする。
受付嬢は2階へ歩いて行ったギルド職員の方に目を向け
「ナナさんは一度もギルド長の部屋へ行くともいってないのに・・・。」
その一言は隣の受付も同様に頷き
「ナナさんはここで話を聞くつもりだったのを無視しましたし・・・。」
「少しだけ怒っているかも・・・。」
「それ以前に気にしていないと思うけどな。」
暫らく冒険者がいないギルド内で受付嬢達の話声が聞えていた。
30分後2階のギルド長の部屋から先ほどのギルド職員が声を荒げながら
「何故来ない!」
冒険者のいないギルド内を見渡しながらギルド職員は騒いでいたのだが
受付嬢の1人が「ナナさんは薬草採取へ出かけましたよ?」と教えると
「あいつは人の話を聞かないのか!!」
などど騒ぎ出したので受付嬢達は『馬鹿な人だ・・・。』と思いながらも
「あのナナさんは話を聞いていましたよ?」
「では何故ギルド長の部屋に来ない!」
「ナナさんは話を聞くともギルド長の部屋へ行くとも言っていませんでしたよ?」
「そんなものはギルドの命令は聞くだろ!」
「・・・あれはギルドの命令だったんですか?」
「当たり前だろ!!」
「・・・・そうですか。」
受付嬢はこれは何を言っても無駄だなと思い口を閉ざす。
ギルド内では1人騒いでいる者がいるが・・・それ以外の者たちは静かに仕事に向かう。
その後2階からギルド長が降りてきて騒いでいるギルド職員をぶん殴り
「それで何がどうなってるんだ?
ナナさんがギルドに来たら冒険者ギルドとして話をするつもりだったんだが?」
ギルド長の話を聞く限り騒いでいたギルド職員と多少違いがあるものの
少なくとも高圧的な感じで話を進めるつもりは無い感じのようだった。
受付嬢達は「どう話したらいいものか・・・。」と思いながら
「あのギルド長が殴った彼がナナさんに命令調にギルド長の部屋へ連れて行こうとして
簡単に言えばナナさんは拒否しました。」
「何故そうなる・・・話をするだけで拒否って・・・。」
「そこの彼の言い方でしょうね。」
「ナナさんは最初ここで話を聞くつもりのようでしたが
ギルド長の部屋で話を切り出されれば誰でも拒否しますよ?」
「ゆっくりと話しをするつもりだったんだが・・・。」
「ナナさん達は現在薬草採取へ出かけていますから夕方にでも戻って来る筈ですが?」
「その時にでも話をしたいんだが頼めるか?」
「・・・話をしたいと伝える事は可能ですが?
拒否や拒絶の可能性もありますよ?」
「その時はわしみずからここで話をするだけじゃな。」
「それでしたら夕方前から待合室においで下さい。
それと・・・倒れている彼はナナさん達の前に出さない方がいいと思いますが?」
「それもそうじゃな、誰か拘束して訓練場へ放置して来い!」
ギルド長の一言でギルド職員数人で倒れているギルド職員を拘束し連れ出していく。
ギルド長は待合室のイスに座り「あいつはクビだな。」とぶつぶつと呟いている。
それと聞き受付嬢達はにふにふと笑いをこらえながら仕事をする。
その日1日訓練場で拘束されたギルド職員が放置され・・・次の日には姿を見る事は無かった。
ナナ達は久しぶりに『ロースポーツ』の草原を駆けていた。
『速度強化』と『身体強化』を唱え身体を思う存分動かしていた。
『魔法工房』では訓練場で組み手を繰り返し身体を動かしていたはずであったが
建物の中で動かしているのと広大な草原でナナとティアがテンションが上がり
薬草採取そっちのけで穴兎を発見しては弓を構え矢を射る!
穴兎は見つけ次第狩り『魔法工房』へ送り
野犬は見つけては群れが大きくなるまで逃げるように駆けだし
5匹以上の群れになり次第ナナとティアが弓を構え連続して矢を射る!!
「冬期間中に消費した穴兎の肉の補てんに多めに狩ろう!」
「はい、アリスさんの料理は美味しいので沢山狩りましょう!」
去年までのナナは気配を殺し静かに穴兎を狩っていたのだが
今年のナナはティアと一緒に『範囲感知』スキルをフルに活用し
半日で10匹以上の毛皮と肉を確保しニコニコしながら昼ご飯を頂く。
アリスさんの料理が詰まったお重は肉料理が多く
育ち盛りのナナ達は会話を忘れるほど黙々と食べ続ける。
食後のお茶を飲みながらティアは朝の事を聞いてみる。
「ねね、朝ギルドでお話があるって言われたけどどうするの?」
ナナはお茶を飲む手を止め・・・少し考えてから
「どうもしないよ?面倒そうだったら話を切り上げるし
聞くだけで今の生活の支障が無ければそのままかな?」
「最初から話を聞かないってことは無いんだね。」
「まぁね、。こっちの話を聞かない相手だったら無視するかもしれないし・・・。」
「あー、朝の職員の様な?」
「そそ、押し付けられても困るし。」
「高い確率で冒険者のランクを上げる話だったら上げちゃうの?」
「どうだろ・・・今のままで問題無いし上げるメリットが無いんだよな。」
「クエストの幅が広がるんじゃ?」
「広がっても薬草採取と穴兎は狩ると思うよ。」
「確かに穴兎美味しい・・・これは止めない方がいい。」
アリスさんの料理の味を知ってしまったティアは穴兎の確保を第一に考えている節がある。
『範囲感知』スキルはナナの方が習得Lvが高いはずなのに
穴兎の発見から討伐まではティアの方が数段速く正確だったりもする。
「しかし、ランクFの13歳の子供の何の用があるのやら・・・。」
「あれほど目立つ様な事をすれば自分の側に置きたいと考えるんじゃないの?」
「はぁー、それはまた面倒な話だ。ただ普通に暮らしたいだけなんだけど。」
「それなら冒険者以外の道もあったんじゃ?」
「冒険者になったのは1年前にはそれしか道が無かったからなんだよ。
最初は薬草採取ばかりだった気がする。」
「穴兎は倒してなかったの?」
「倒していたけど基本は薬草採取のみだったなぁ。」
「今のナナを見ていると昔から穴兎や野犬に突っ込んでいくのかと思ってた。」
「それはないない。戦うの苦手で弓矢で遠距離で戦ったような・・・。
この頃は戦うのにも抵抗があったのかな。」
お茶を飲みながらナナは自分の事を話しているのだが
ティアは話を聞きながらナナの自称13歳の話ではないと思うし
しみじみと語るナナは自分の事を客観的に考え行動している。
それは大人な考えだと思うのだが・・・その事をナナに指摘する事は無かった。
何故ならティアの知ってるナナはどちらかと言うと
ハクトさんと限界ギリギリまで組み手をするほど戦闘好きだし
1つの事を黙々とこなし技術を極めようとするし
最近ではアリスさんやルナさん達と一緒に甘味を作り試食会をしたり
工房ではティアはナナからポーション調合を教わったり
最近では革細工の修得を目指して頑張っていた。
「なんにしても話を聞いても面倒な事だったら断るかもしれない。」
「それでいいよ。」
「それで『ロースポーツ』で暮らし辛いと感じたら引っ越ししよう。」
「了解!」
「活動場所が変わっても帰る場所は『魔法工房』なんだけどね。」
「その通りです。ですからナナさんはあまり気にしないでください。」
「ん、ありがとうね。」
お茶を美味しそうに飲む姿は子供のそれでは無く
『魔法工房』の屋敷の縁側でお茶を飲むグランさんを彷彿とする姿だった。
ティアもまたナナと同じくお茶を美味しそうにお茶を飲む。
この時間だけはゆっくりと流れていた。
その後も草原を縦横無尽に駆け穴兎と野犬を狩る。
駆ける速度は野犬よりも速く弓を構える姿は冒険者というより狩人。
一矢一殺で確実の倒し全てを回収し『魔法工房』へ送る。
穴兎を倒した分だけ食糧が増える事でティアは倒した分だけニコニコし
ナナは「そう言えば薬草採取する。」と言ってギルドを後にしたのを思い出し
「薬草採取してないけどどうする?」
「今からでも薬草は採取可能ですけど・・・いつもよりは数を揃えるのは難しいよ?」
「今日ギルドへの納品は止めよう。」
「了解、このまま穴兎と野犬を倒すの?」
「そそ、夕方まで草原で狩りまくろう!!」
「おぅ!」
「明日は午前中に薬草採取をしてギルドへ行く事にしよう。」
「今日は狩りまくり!そして明日は採取しまくり!!」
一日中草原を駆け穴兎と野犬を狩る2人の姿は他の冒険者達から目撃され
「弓を構えたまま野犬を追いかける姿は怖かった。」
「あれは冒険者というより弓を構えた殺し屋だった。」
「野犬を追い詰める猟犬の様な動きで倒していた。」
「あれは決闘をしたナナだったと思うけど弓の腕も凄いんだな。」
「いや、あのナナについている相方の方が凄いんじゃないか?」
その噂はナナ達の知らない所で広まり冒険者ギルドでナナ達を待つギルド長は
「薬草採取へ行ったんだよね?
聞こえてくる話では穴兎と野犬を倒しているみたいなんだけど?」
朝方に受付嬢から薬草採取へ向かったと聞かされていたギルド長は
「もしかして薬草採取して無いからギルドに寄らないとか無いよね?」
その呟きに受付嬢達は誰一人視線を合わす事無く黙々を仕事をこなしていく。
そして、夕方を過ぎてもナナ達の姿をギルドに戻る事は無く。
夜遅くまでギルド長は誰もいない待ち合わせ室に座り続ける事になる。




