面倒事とか
ナナとティアが『魔法工房』で暮らし始めて10日が過ぎた頃
いつもの様に冒険者ギルドに薬草の束と穴兎と野犬の毛皮を納品時に
「そういえばティアさんに絡んできた冒険者達の事でお話があるんですが・・・。」
神妙な顔つきで受付嬢が話し始める。
それはティアに絡みナナに剣で斬りつけた冒険者の中に
『ロースポーツ』で権力のある御子息が含まれていた事
その馬鹿をした御子息が「向こうから襲われた。」と騒いでいた事
そして、それを聞いた馬鹿な冒険者の親もまた「向こうにも非がある。」と騒ぎ
それならばと「両方とも呼び決闘という形式で収めてはどうか。」と
領主が今回の采配をするにあたり権力がある方の声を聞いた形になり
冒険者ギルドとしてもナナ達に不平等が無い様に「一対一」という形で
ギルドの修練場で非公式の決闘を行いという話をナナに教えてくれた。
ナナ達は依頼報酬を貰いすぐにでも『魔法工房』へ戻る気でいたので
何とも面倒な話をしてくるなぁと思いながらも
「そういえば絡まれた初心者冒険者いたなぁ・・・。」
「最近忙しくて忘れていましたね。」
数日間の朝錬やらハクトさんからの特訓のおかげでティアは少しだけ強くなり
それで同時に考え方が内向的な考えから外交的な考えというか動きをするようになる。
色々考えてから身体を動かしていたティアが考えるよりも先に身体を動かす
それはナナとの依頼時でもティアが穴兎を発見し
「穴兎発見しました!」「撃ちます!」と
ナナに話しかけたと思ったらすぐさま行動する。
そんな女の子になってしまった。
「それでギルドとしては受けてもらいたいのですが・・・どうでしょう?」
ナナとティアは即答で「「いいですよ!」」と告げ
それには受付嬢も「あ、え、ありがとうございます。」と戸惑いながら答えてくれた。
「それで日時と時間は決まっているんですか?」
「はい、ナナさん達に通知後5日以内にギルド内の修練場で執り行う事
時間は冒険者ギルドが混みあう時間以外という事で昼前とする事
最後に形式的にも決闘という事で代表一名で行う事
代表一名は当事者のみとし代えの者は決闘することを禁ずる。」
「ふむふむ、5日以内で当事者のみね。」
「ねね、わたしが戦いですけど・・・。」
「あ、いや、ティアは今回は見学。」
「あう、残念です。」
「あの決闘ですよ?大丈夫なんですか??」
「決闘というの初めてですが、一対一で戦うんですよね?」
「そうです、訓練と違い真剣で行います。
相手が負けを認めれば決着がつきますが・・・
今回は領主の前での決闘ですので・・・最悪負けを認める判断をしない可能性も。」
「まぁ、大丈夫でしょ。最後に禁足事項はありますか?
例えば特定の武器の使用禁止や攻撃魔法禁止とかですが・・・。」
「基本的には攻撃魔法の禁止も複数の武器の持ち込み大丈夫ですが
1つだけ決闘時に邪魔をする行為を禁止しする。」
「それは一対一を部外者が妨害などの行為を禁止という事ですか?」
「はい、本来決闘とは神聖であるべきという考えから只一つの禁止事項となります。」
「それなら大丈夫かな。ティアは決闘邪魔しないでしょ?」
「うん、ちゃんと見てる。」
「それにしても攻撃魔法も武具の持ち込みも大丈夫となると
下手をすると攻撃魔法で修練場を破壊される可能性もあるのでは?」
「修練場は障壁魔法と結界魔法との複数の魔法により護られていますから
過去に数回しか破られた事はありません!」
「・・・破られてるじゃん。」
「・・・しかも複数。」
「大丈夫です。今回は領主さまも見学に来られますから
障壁も多重に重ねますし結界も厚く展開される予定です。」
「それなら本気で魔法を使っても大丈夫かな?」
「本気でやったら鎧も貫通するからダメじゃない?」
「鎧を貫通って・・・あの基本殺さずでお願いしますね。
相手も遣っちゃうと後々の処理に問題がありますので・・・。」
「「大丈夫!」」
「それで決闘に日時はどうしますか?」
「早い方がいいでしょう。明日でいいですよ。
明日は依頼をしないでギルドで休んでますから。」
「了解しました。明日の昼前に決闘を行うと・・・
出来ればギルドへは早めにお越しください。
今回の決闘について領主とギルド長からお話がありますので。」
「了解です。」
「はい。」
受付嬢はナナとティアが決闘をする事に不安が無い事に少しばかり心配になりながらも
いつものように受付嬢の仕事を従事していく。
このナナの決闘について即座に領主に報告され着々と準備されていく。
ギルド内でも久しぶりの決闘というイベントに酒場ではどちらが勝つとか
ナナのあずかり知らない所で賭けをする者達が増え
何故か最終的にギルドが元締めとなり今回の決闘が秘密裏に賭けの対象になっていた。
それは領主はナナに馬鹿な冒険者の親達は自分の子供に賭ける事になる。
その日の夜は修練場に多重の魔法障壁を展開する為に
修練場を囲む防壁に簡易的な魔法陣を刻むギルド職員の姿があった。
魔法陣は魔石内の内包されている魔力により起動する1つの魔法道具である。
一応、明日の決闘時には魔法障壁を展開する為に冒険者に複数声をかけてはいるが
決闘がどういう訳か賭けの対象になり予想よりも見学者はいると思うのだが
どうにも心配になった冒険者ギルドの方が徹夜で修練場に魔法陣を刻む事となった。
その中の1人が魔法陣を刻みながら「この魔法陣の耐久性はどんなものなの?」と
それを聞いたギルド職員達は作業の手を止め
「魔法陣の耐久性に関しては魔石に内包されている魔力量によって異なる。」
「この小さな魔石なら・・・中型の魔法数発は大丈夫なはずだ。」
「今回の決闘はランクFの冒険者と初心者冒険者という事だから大丈夫だろ。」
「ランクFと初心者冒険者の決闘ね・・・普通ならランクFの方が断ると思ったんだが・・・。」
「普通はな・・・断るよな?」
「ランクFの方が普通じゃないと?」
「少なくとも見た目は普通じゃないかな?」
「名前は確か・・・『ナナ』だったかな?」
「あぁー、確かに少しばかり初心者冒険者の方に同情するかも。」
「確かに薬草採取を多くするナナさんの事ですよね。そんなに強いんですか?」
「強いかどうかじゃなくな・・・ナナさんは冒険者になってから無傷で依頼をこなしてるんだわ。」
「それは薬草採取をしてるからじゃないんですか?」
「ナナさんは基本薬草採取を多くこなしているイメージがあるけど
薬草採取と並行して穴兎や野犬の毛皮も結構な数納めているんだわ。
そして面白い事に穴兎や野犬には弓矢の跡しか毛皮に残って無くてな
噂では弓やあの名人じゃないかとギルド職員の中では噂になってる。」
「去年だったかなナナさんに個別依頼をお願いしたら尽く断られたし
冒険者としては優秀なのでギルドとして個別待遇を考えていただけに
一時期ギルド内でナナさんに関して会議をした覚えがあるな。」
「へー、凄い冒険者だったんですね。」
「見た目12歳の冒険者なんだけどね。」
「それで先輩から見て明日の決闘は・・・。」
「100%ナナさんが勝つんじゃないかな。残念ながら相手が初心者冒険者ではな。」
「只心配な事が1つあってな。武器の複数使用に攻撃魔法もOKとなるとわからないわな。」
「そうなんですか?聞いた限りではナナさんの常勝なきもしますが??」
「相手方の親がブラウド商会の会長なんだわ。」
「あー、金貸しのブラウドですか・・・。」
「良い話を聞いた事がないブラウド・・・。」
「違うだろ悪い話しか聞かないブラウド商会な。
裏で非合法な魔法装備を揃えれば明日の決闘は荒れると思うぞ。」
「何事も無く終わればいいんだがな・・・。」
「そうですね。」
「さぁー、もう一仕事して帰ろうや~。」
「「「「はい!」」」
このギルド職員の魔法陣を刻む仕事により
修練場の損害は最小限に抑える事が出来た事をギルド職員達は後々知る事になる。
そして、修練場に刻む魔法陣も少しだけ質のいい物へ変わる一つの事柄にもなる。
決闘が決まり『魔法工房』のナナとティアはいつものように夜の修練を終え
工房の2階でお茶を飲みながら明日はどう戦うかを相談していた。
「基本は弓矢をベースにした遠距離装備か『蹴撃』をメインに考えた近距離装備。」
「去年のナナさんは遠距離装備だったんですよね?」
「去年は・・・そうだね。薬草採取をしつつ弓矢で穴兎を倒してたかな。」
「『蹴撃』は使用しなかったんですか?」
「んー、穴兎や野犬には使いどころがな・・・。
『蹴撃』は基本対人戦闘だし・・・
今回の決闘でも相手は片手剣に対して蹴り技で対抗していいものかどうか
今も少しだけ悩んでいると言えば悩んでいるか。」
「わたしを助けた時は『蹴撃』を使わなかったですけど?」
「あそこで『蹴撃』を使えば相手を遣ると思ってな・・・。」
「それなら悩んでいるといっても遣る気はあるんですね。」
「まぁね、曲がりなりにも『決闘』という事だし
相手方は装備にお金をかけてくると思うから全力で戦ってもいいかなと。」
「全力戦闘ですか・・・ハクトさんと毎朝やってる・・・あれですか?」
「朝錬の事を言ってるならそうだね
少し違うとしたら明日は『身体強化』と『速度強化』を使うかな。」
「・・・初心者冒険者を殺す気ですか?」
「え、なんで、普通に戦うだけだよ?」
「既に過剰戦闘力を保持しているんですから程々にしないと・・・。」
「・・・了解。」
「あの明日の決闘ですけど、ナナさんが勝ったとしたらどうなるんですか?」
「さぁー、相手が納得するんじゃない?」
「普通に断っても良かった気がしてきました。」
「冒険者生活2年目ともなると予想以上のイベントがある気がしてきた。」
「普通は無いですよ?」
「普通に冒険者をしていたはずなんだが・・・。」
「原因の一端があるだけに何も言い返せません。」
ナナは少しだけしょげているティアの頭をぽんぽんと撫で
「気にすんな。とりあえず明日の応援はお願いね!」
「はい!」
2人は明日の戦いを楽しみにしつつ夜遅くまで話をする事になる。
最終的には目立たず完膚なきまでに相手もぼこぼこする事を基本にし
今回の決闘が最後の決闘にする事を決めた。




