喧騒からの
春真っ盛り新しく冒険者になる少年少女達が冒険者ギルドに溢れていた。
新人ぽく真新しい革の上下に身に纏いギルドのクエストボードを真剣な目で見つめている。
ナナはギルドの賑わいを遠い眼で眺めながら・・・そっとギルドの扉を閉める。
「ふぅ、新人がいっぱいいるし賑やかなのは苦手だな。」
ギルドから出ても『ロースポーツ』の街中では
付近の農村や山村などから12歳になり仕事を求めて年若い者達が大勢いる。
ナナの様に仕事を求めて冒険者ギルドへ向かう者の他に
商人などが加入する商業ギルドやポーションなどを取り扱う調合ギルドなど
この『ロースポーツ』には数々のギルドと呼ばれる物があった。
ギルドの加入に伴い新人を新たにパーティーに誘う動きもあり
ギルド内でパーティーへの勧誘を耳にし逃げるように外へ出てしまった。
「ん?」
ナナが目を向けた先に真新しい革の上下を着こんだ数人が言い争いをしている。
遠目からも4人が1人を責めているように見えていたので
「何かあったのか?あまり街中で騒ぐと衛兵が来るぞ?」
「あぁー何か用かー。」
「こっち来んなー。」
攻められている1人は泣きそうな顔でナナを見つめ
「はぁー、何やってんだが数人で囲んでカッコ悪いな。ほら大丈夫か?」
囲んでいる少年らをかき分け泣きそうな子の手を引き
「ほれもう大丈夫だぞー。」と頭をぽんぽんすると「ありがとぉ」と消えそうな声が聞こえ
ナナと泣きそうな子を囲んでいる少年らは怒りで顔を赤くしながら
ナナを目掛けていきなり殴りかかってくる。
「あぁー、勝手な事すんな!」
「てめぇふざけんあぁ!!」
「ぶっ殺す!!」
「はぁ」とナナがため息をつきながら向かってくる少年らの攻撃を受け流す。
直線的な子供が何も考え無しの攻撃を『格闘』スキルの恩恵なのか身体が自然に動き
気が付くと少年らは地面に転がされ悔しそうにナナを睨めつけてくる。
「もういいか。今なら見逃す事が出来るがどうする?」
「ふざけんなぁ!!」
「もう無理だ・・・ぶった斬る!!」
「・・・殺す!」
少年たちは片手剣を抜きナナに斬りかかっり
次の瞬間地面が光り黒い帯状の鎖が少年達を拘束する。
少年達は黒い鎖が巻きつき地面に転がされ
「なんだこれはー。」
「てめぇ、何すんじゃー。」
「っく、動けん。」
「これは魔法か・・・?拘束系の魔法なのか??」
「『拘束鎖』は初めて見るか?」
冒険者ギルドの方からギルド職員が杖を構えながら歩いてくる。
鎖で拘束された少年達を見ながら
「罪人を拘束する魔法だが・・・まさか冒険者なりたてに使う事になろうとは嘆かわしい。
それで新人が集まってこんな事になったんだ?」
「さぁ、困っている子を助けただけなんですが?」
「困っている子というのは・・・後ろの子ですか?」
「はい。」
ナナの後ろに隠れながらギルド職員を見つめ「はい・・・。」と呟くだけだった。
とりあえず数人で囲みながら後ろの子を責めているのを見つけ助けたら
殴られそうになり次に剣を手にし斬られる寸前に拘束魔法で問題解決したと言う事
「ちなみに彼らとは初めて顔合わせしたので名前も何も知りません。
それと後ろの子も初めて見たので話せる事は無いです。」
「ふむ、どう考えても冒険者になりたてに見えるが・・・。」
暫らくすると冒険者ギルドからギルド職員が走って来て職員同士で話し合い
「あぁー、うちに加入した者たちですか困りましたね。」
「この場合はギルド脱退からの衛兵に連れて行ってもらった方がいいのでは?」
「ギルド加入時に注意事項をきちんと教えたはずなんだが・・・。」
「この少年らは言われた事を満足に聞く事も理解する事も出来なかったという事では?」
「そうだな、あとは領主の判断に任せるしかないか。」
「はい、我々が出来るのはここまでです。」
それから数分後に衛兵数人が現れ拘束された少年達を連れていく。
何らかの魔道具と思われる手錠をかけられ歩かされる。
その中の1人がナナを睨むそうに目を向け「てめぇの顔は忘れんぞ!」と
後ろの子が一瞬怯えたようにナナの背中にしがみつき
「さっさと歩け!」
「今年は春から馬鹿な冒険者が多すぎるぞ!」
「牢屋が溢れるほど罪人が多いのは問題だ!」
手錠をかけられ少年らは衛兵の詰所へと連行される。
これから領主の判断により罪人となるか罪を免れるか・・・。
暫らくすると街はいつもの喧騒に戻り
「それじゃ、我々はギルドへ戻るが君はどうする?」
「わたしは先に戻ります。」
「おぅ、彼らのギルド加入の資料を持って詰所へ向かってくれい。」
「はい。」
「どうするも何もいつもの生活に戻りますが?」
「いや、そうじゃなく後ろの彼はどうすると聞いたんだが・・・?」
「後ろの彼ですか・・・どうするも何も・・・ねぇ~?」
ナナとギルド職人に見つめられ・・・またしても泣きそうな顔をしているので
「ふぅ、まぁいいか。」と呟き泣きそうな子の頭を撫でながら
「取りあえずギルドへ戻ります。彼の名前も知らないし話をしてみます。」
「そうか、なら戻るか。」
「はい。」
ギルドへ戻るとさっきの事がギルド内で話題になっており
「よ、色男!」とか「流石だな!」とか言われている。
「何故に色男なのか・・・それに流石って何がだよ。
まぁ、ここなら怖いやつらもいないからゆっくり話出来るだろ?」
ギルドの待ち受け室のイスに座り話を聞こうとしたら
何故か対面に座ると思いきや・・・隣に座り
「さっきはありがとうございます。」
「あぁー、まぁ気にすんな。」
「さっきの彼らはギルドにいる時から話しかけられ逃げても追いかけられ・・・
気が付けば囲まれ色々言われたんですが次第に言葉がきつくなり・・・。」
「はぁ、逃げても追いかけてかよ。」
「そしたらあなたが助けてくれました。」
「まぁ、そういう事なら別にいいが大丈夫だったか?」
「はい、さっきまで怖くて震えていたんですが大丈夫です。」
「そかそか、それで冒険者になったと言う事は後輩という事なのかな?」
「そうですね、今日初めて冒険者になりました。
あの・・・名前を教えてもらっても??」
「名乗って無かったか・・・名前はナナだよ。
12歳・・じゃないな。今年13歳になるはずだ。」
「わたしはティアです。12歳でランクF冒険者です。」
「そかそか、1つ下でランクは一緒だな。」
「ランクFですか・・・もっとランクが上の方かと思いました。」
「ほら周りを見てみ、ランク上位の冒険者はもっと強そうだろ?」
ナナはギルドにいる冒険者に目を向けティアに話しかけると
ナナ達の話を盗み聞きしていた冒険者達は嬉しそうにそわそわしている。
ナナとティアが話しているテーブルに先程のギルド職員がやって来て
「えーと、ナナさんとティアさんで間違いないですか?」
「はい。」「・・・はい。」
「先程の件で現状分かっている事をお教えします。
彼らは衛兵の詰所にて牢屋にて拘束しております。
事の次第で鉱山への数年の労働か金貨数枚の賠償となります。」
「鉱山での勤労だけでなく・・・金で解決する事も出来るのか・・・。」
ナナの金で解決と聞きティアがナナの服を掴む。
ナナは「ふぅ。」と一呼吸置きティアの頭を撫でる。
「それで我々に話があると言う事ですか?」
「・・・ん?」
ティアが首を傾げながらギルド職員の話を聞き
「もし彼らがまた君達の前に現れた場合どうするかですが
ナナさんはランクFといえ彼らを相手に大丈夫だと思われますが・・・
ティアさんに関しては彼らと遭遇した場合対処出来るかどうか・・・。」
隣で泣きそうな顔をしているティアは「無理です・・・。」と小声で話し。
「ギルドで護衛をするのは・・・無理ですよね。」
「えぇ、そこまで特定の冒険者を依怙贔屓する訳にもいきませんし。」
「まぁ、ティアが一人前になるまで面倒みる事は出来ませんが
暫らくは行動を共にする事は可能ですよ。」
「彼らが罪状が決定するまで10日余りその間は行動を共にして下さい。」
「いつも通り薬草採取と穴兎狩りをしますがいいですか?」
「はい、ナナさんの薬草採取は丁寧という事でギルドでも耳にします。
出来ればティアさんにも薬草採取をご教授お願いします。」
「わかりました。ティアもそれでいいか?」
「・・・はい。お願いします。」
ティアはナナの隣でぺこりと頭を下げる。
10日程パーティーを組む事になる。
この10日間は『魔法工房』へ行く事が不可能になるので
ナナは心の中でティアと一緒に行動を共にするので
『魔法工房』へは10日後に伺いますとだけ呟くと
グランさんから『別にこっちに連れてきても大丈夫じゃよ。』と言われ
ハクトさんからも『ティアさんなら問題無いですぞ!』とやはり大丈夫宣言する。
もう一度心の中で『それなら今夜にでもティアを連れて戻ります。』と呟く。
するとルナさんとアリスさんから『歓迎します!』と声を揃えて聞えて来た。
アポロさんからは『ほうほう初めてのパーティーメンバーか良きかな好きかな。』と
隣に座るティアは嬉しそうにナナを見ているが
革の上下に腰に解体ナイフだけ・・・背中にリュックがあるから荷物はそれだけか。
まずは武器屋かな・・・それとも薬草採取をきちんと学べば大丈夫かな?
・・・泣きそうな子を拾う。
・・・・10日間の限定パーティーを組む。




