初めての鍛冶とか
年明けからのまったり期間を終了し
ハクトさんと『蹴撃』での組み手をしたり
アリスさんと試作料理を作って試食会をしたり
ルナさんとお菓子作りをしたり
グランさんやアポロさんらとゲームで遊んだり
ナナの冬期間は忙しさを増していく。
新年を迎え1カ月を過ぎた頃には薬草が無くなり
ポーション調合を中止にし
鍛冶場に篭りナイフを作り始める。
グランさん曰く「鍛冶を始めるなら最初はナイフから始めなさい。」と
ナナは『鍛冶』を修得済みだったので
鍛冶場ではスキルに身体を任せナイフを創造していく。
「ナイフを作ったつもりが鉈になった?」
ナナは頭にナイフを思い浮かべながらスキルに身体を任せて鍛冶をしたつもりなのだが
片手持ちに適する刀身が厚く丈夫な刃渡り60cmの鉈になっていた。
『鑑定』スキルで出来あがった鉈を調べると
『剣鉈』となっていた。
持ち手と刃が一本化しており見た目は無骨な感じになっていたので
持ち手部分に『革細工』で握りを作る。
「これで滑って抜ける事は無いな。
しかし、解体ナイフよりも無骨な作りになったな。」
常時装備している解体ナイフから剣鉈に装備を変える事にし
新たに剣鉈用に鞘を作りナナの腰にさす
「少し重いが頑丈さで言えば最高な物だな。」
それから黙々と鍛冶に篭りナイフ作りを励む。
次に考えたナイフは小刀を思いながら作っていたはずなのに
ナナの完成したナイフは、『苦無』と言われる物だった。
その中でも小型の『飛苦無』と思われ
「出来あがった物は投擲武器か・・・。」
出来上がりの物が予想の斜め上に完成している。
頭の中で考えている武器がそうなのか
ナナ自身が求めている武器のイメージがそうさせているのか
こればかりはナナの預かり知らずの部分があり
それ以上にナナは鍛冶をするのが楽しく朝夕の修練や食事以外の時間を鍛冶場で過ごす。
鍛冶場の倉庫にはナナ製のナイフが数多く並べられており
鉈っぽい物や小刀っぽい物、苦無などがあり
その中でも野営でも使われる鉈や苦無はナナの常時装備に加わる。
革の手甲や革の脛当ての内部に苦無を隠せる様にし
投擲武器でありながら暗器となる装備の完成である。
試しに1本の苦無を取り出し剣を振りまわす
刀身が15cmしかない苦無はナイフとしては攻撃範囲が極狭であり
どうみても護身でしか使えない武器に見えるが
苦無は後部が輪状になっており紐や縄を通して使用したり
使い方次第では面白い事が出来そうな武器と言えた。
ここでは苦無を投げる事が出来ないので
ナナは鍛冶場の火を消し修練場へと向かう。
『土弾』で的にしていた物を並べてから10m離れた位置から苦無を放つ!
苦無の的は木製になっており当たりこそすれ弾かれ転がる。
10本の苦無を放ち命中率こそあれ威力が無い事に気が付く。
「命中してもダメージが通らないか・・・。
苦無そのものの武器性能が低すぎるか。」
只投げたナイフに攻撃力を求めるのは無理があるな。
木にも刺さらないから革装備に攻撃が通らない可能性がある。
暫らく修練場で苦無を投擲していると
ハクトさんがニコニコしながらやって来て
「ふぉふぉふぉ、今度は投擲ですか面白い。」
的から弾かれた苦無を手に取り「ふむふむ、なるほど。」と呟き
ハクトさんはボールでも投げる感じで投擲し
『トス!』と苦無は的に深く刺さる。
「やはり投擲武器として優秀ですね。」
深く刺さった苦無を的から抜き差し刃零れを確認し
次に苦無後部が輪状に紐を結び的へ投擲するのだが
的の中央に刺すのでは無く
的の端ギリギリに投擲し斬り裂き
紐を操作し手元に苦無を引き戻す。
「投擲武器とは違った使い道があるのも面白い。」
「ナイフを作るつもりが斜め上の物が完成しました。」
「腰のナイフも予想以上の出来みたいでナナさんには鍛冶の才能がありそうじゃ。」
「どちらも正統派の武具という訳じゃないが
ナナさんらしいと言えばナナさんらしいのぉ。」
「そうなんでしょうか・・・、良く分からないんですが?」
「どちらも無骨でありながら面白いですよ。
腰のナイフは斬ると言うよりも裂くナイフの様だし
この投げナイフも斬るとはかけ離れて刺すナイフでしょう?」
ナナは的から弾かれた苦無を回収しながら
斬り裂くナイフというよりも投げて刺すナイフというのを考え
「ナイフらしくないですけど良いんですか?」
「良いも何もナナさんが求めたナイフを手に入れたと考えた方が良いじゃろう。
それに形状的にも『オールグラウンド』では初めて見る形じゃしのぉ。」
「それと的に当たりはするんですが弾かれるのはスキル的な問題ですか?」
「そうじゃのぉ、的に当たるのはナナさんに投擲の才能があるからじゃし
的に刺さらないのはスキル的な問題よりも基本的に筋力不足があるかもしれん。
ナナさんは冒険者になったばかりじゃし・・・何より12歳の身体という事を忘れちゃいかん。
身体は成長と共に力を付けるもんじゃ、何もせずに身体能力が上がる事はまず無い。
魔法で一時的に能力が向上しても魔法の効果が切れたと共に何も出来なくなるのは愚そのものじゃ。」
「身体の成長か・・・。ゆっくりやっていくしかないか。」
「実際にナナさんは12歳の身体をし有し冒険者をやっておるが
普通の12歳の子供は冒険者として1人でやっているのは奇跡に近いんじゃよ?」
「冒険者ギルドにも同じような子供がいっぱいいたと思うけど・・・?」
「あれは冒険者と言っていいのか微妙だが荷物持ちや見習いみたいなもんじゃ。
実際に穴兎や野犬と倒せる子供は普通おらん。」
「ギルドでは何も言われなかったから気にして無かったけどそうなのか・・・。」
「ギルドとしても優秀な冒険者が増えたと喜んでるはずじゃ
何より薬草採取を行う冒険者をギルドは喜ぶ。」
「そうなのかな?」
「その証拠にギルドから薬草採取をお願いされたじゃろ?」
「個別依頼ありましたね。」
「面倒と思って即行断ったみたいじゃが・・・。
それに毎日同じ量の薬草をギルドに納品しているから
ギルドからは何も言ってくることはないじゃろうが。
『ロースポーツ』には3つの冒険者ギルドがあるが
薬草採取はナナさんが加入したギルドだけが採取依頼をしておる。
そして、あのギルドに加入している冒険者は100名前後おるはずじゃが
薬草採取をする冒険者は10人はいないはずじゃ・・・。」
「それでは薬草不足になるんじゃ?」
「そうとも限らんのじゃ、ギルド以外に個人で薬草を採取し
ポーション調合し販売している者もおる。
パーティー内で採取し調合しておる冒険者もおるしのぉ。
クエストや依頼はギルドにお願いするがポーションなどは自前で用意する。
そういう者達が多いのも事実じゃしのぉ。」
「僕の自分でポーションは用意してるから人のこと言えませんね。」
「ナナさんは子供らしくないしギルドでも対応に困っている可能もあるし
今更そんな事を考えてはダメじゃろうなぁ・・・。」
この話には続きがあって冒険者ギルドでは12歳になれば正式に冒険者になれるが
12歳未満の子供は8歳から冒険者見習いとして加入可能だったりする。
そういう冒険者見習いの子供達は『ロースポーツ』の周辺で薬草採取をしたり
『ロースポーツ』の街の中で冒険者には不向きな依頼をしているそうだ。
買い物やら荷物運びやら・・・色々ありそうだが
ギルド的には普通に冒険者としてやって貰いたいので内緒にしていた。
冬期間は街の中の仕事が多い事から12歳未満の子供達は仕事に追われる事になる。
『ナナの装備』
革の上下は基本装備であり防具。
革の帽子・・・革製の頭部を守る防具。
革の胸当て・・・胸と背中を守る防具。
革の手袋・・・指貫の手袋。
革の手甲・・・革製の腕を守る防具で苦無を2本隠し持つ。
革の脛当て・・・膝から脛を守る防具。
革のブーツ・・・革製のブーツで蹴り抜く事も可能で苦無を2本隠し持つ。
防具は基本軽量で堅甲である。
ナナの冒険者としての動きを束縛しない駆動域の広い仕様になっている。
基本武具は弓矢である。
木の弓・・・店売りの普通の弓。
ナナ専用の矢筒・・・使った分だけ木矢が増える不思議な矢筒。
鉈・・・ナナの腰の装備している、刃渡り60cmの鉈。
苦無・・・手甲とブーツに暗器として装備している。




