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突然ですが、魔王はドMだと思います!

題名は作者の突然のひらめきです

私は驚愕している。




地に伏した勇者。

影に囚われた聖女。

魔力が切れた魔法使い。


真ん中から真っ二つになった聖剣。

赤く染まった聖衣。

力を失った聖杖。



そして、視線どころか興味すらこちらに向けず、玉座に鎮座する魔王。




もう一度言おう。

私は驚愕している。



「てめえ、その状態でよく世界征服しようと思ったな!」



ーーその、書類を処理する目にも留まらぬ手捌きを…ーー



奴は最初からこうだった。

我ら勇者一行が魔王城の最奥へ、魔王の部屋に辿り着いた時から。


目の前に静かにーー手以外はーー存在するこいつは、たしかに魔王だ。


この数年で大陸を二つ支配し、とうとう世界の中枢である王国にまでその手を伸ばした魔族の王。人外の美貌と色彩、魔力に筋力、果ては頭脳まで持ち合わせる地上最悪の生物。その影響力は、世界聖教会まで侵食しつつあった。それを危惧した世界同盟が、我らを魔王城(ここ)へ送り込んだのだ。


世界最強の聖剣士である勇者。

世界最清の巫女である聖女。

世界最多の魔力を誇る魔法使い。

そして、世界最硬の盾使いである騎士(わたし)


皆同じ村の出身にして、幼馴染で親友、さらに遠い親戚でもある私たちは、最高の冒険者パーティーだった。


それがこうも容易く敗れた。


しかしそれは、我らが弱かったわけではない。

魔王(ヤツ)が強すぎたわけでもない。

ましてや、部屋中に仕掛けられた(トラップ)に引っかかったわけはない。



奴があまりにも哀れだったから、我らは戦う前に戦意を失ったのだ。



入室早々我らが目にしたのは、今と変わらず、唯只管に書類を片付ける、悲壮感漂う魔王の姿だった。


手のみを激しく動かし、他が全くの無表情、無動作がそれに拍車をかけている。まるでそれ以外を僅かにでも動かす余裕が無いとでも言うように。



そうして、勇者は聖剣を叩き折るまで、床を打って大爆笑していた。

聖女は暇つぶしとばかりに、全ての罠に自ら飛び込んでいった。

魔法使いは、その場で座り込んで魔法の実験を始めた。



それは偏に、魔王の仕事が終わるのを待つためだったのだ。


しかし、あれから数日経ったが、魔王の仕事は一向に終わらない。


2日前から宰相の息子である私はその書類の仕分けをしていたが、その九割は、領地経営に関するものだった。


魔王(こいつ)は貴族や地主を就けず、全世界を一人で治めるつもりらしい。


それを2日目にして理解したが故に、私は驚愕したのである。



「世界征服がそんなに大事か!?そんなに世界を思い通りにしたいのか!?

できてねーじゃねえか!つか、お前が世界に翻弄されてるようにしか見えねえっての!!」



初見では涼しげに見えたその美貌も今となっては寝不足と貧血で顔色真っ白になっているだけだと理解できる。


城中に湧いていた魔獣達はペットでも家来でもなく、ただの害獣だと初日の晩飯で食ってわかった。


今世界を脅かしている魔王軍が、実は日に日に増える仕事に飽きて憂さ晴らしに飛び出していった者達で、魔王はその後始末と奴らがほっぽり出していった仕事と増え続ける領地を一人で片付けているのだと、読心術で知った。


この魔王、どうやら口を動かすのも億劫らしく、雰囲気だけで喋るのだ。お陰でまともに会話するのに十分もの修行時間を要した。



「こんの馬鹿!!

こことここの計算間違えてんだよ!なんだよ473854367って!ここはどう見ても473854368だろが!!

これくらい一瞬で計算しろよ!この鈍間ぁ!!」



あまりにも哀れになってきたから仕方なく手伝ってやったらこのザマである。



すでに、勇者は聖剣を粉々にし終わり、今では侵入してきた人型魔獣と相撲をとっている。

聖女は全ての罠にかかり終わり、今では罠を作る側に回っている。

魔法使いは魔力の回復が終わり、今では対世界用攻撃魔法の開発に取り掛かっている。



それでも書類は減らない。それどころか、段々と転移魔法で送られてくるペースが早くなり、こころなしか、束が1メートルほど高くなった気がするが、まあ誤差の範囲だろう。



「おらぁ!追加きたぞ!!休めると思うなよ!!

これから収穫の季節だ!定期報告が通常の数倍に膨れ上がる時期だ!

それが終わったら祭りの季節だ!警備の計画やら神輿による被害報告やらを総整理する時期だ!

その次は師走だ!全ての学校の実績やら入学と卒業両方の準備に入り、北国の降雪状況を数値化して被害を最小に抑える対策をしたり被害を受けた者を支援するために金策に走る時期だ!

世界の侵略状況は良好だ!!あと半分で世界征服が終わる!

つまり!これから仕事が二倍に増える!!

さあ働け!世界をてめえの好きなようにするんじゃないのか、ああ!?」



まったく…、こんなくらいで泣くとはな。魔王なんてこんなもんか。


世界征服だぞ?

小国の王でも寝る間を惜しんで政務に励んでいるというのに、世界の頂点が寝られるはず無いだろう。


世界征服とは世界の僕となって一生を世界のために尽くすことを誓うと言うことだ。まあ、それくらい、人外の頭脳を持つと言うこいつならわからないはずないだろう。



魔王(こいつ)ってマジなドMだわ。


引くわぁ……

その後…

魔王はその一生を世界のために費やした。

勇者一行は魔王の(過労)死後、村に戻り、各々のスローライフを送ったという。


裏設定…

実は勇者一行は魔王を倒すという名目で、お払い箱にされた優秀すぎる問題児集団。勇者が相撲をとっていたのは魔獣ではなく勇者一行を監視しにきた世界同盟の暗殺者(毒使い)。


本当のドMは魔王ではなく聖女である。

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