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RE:collection of Justice  作者: カザハラ
chapter4 魔道都市国家スヴェート 2
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chapter4-1

 私としたことが、してやられてしまいましたわ。


 皆さんをお見送りして、一人ティータイムを楽しんでいる時に襲ってくるなんて、

 近頃の若者の教育はなってませんわ。


 それでも、飲んでいたのが普通の紅茶でしたらまだ許せましたのよ?


 オレンジペコですわよ!?オレンジペコ!!


 私がオレンジペコを飲む時は、約束された神聖なひとときに等しいんですのよ!?


 それを邪魔するなんて許せませんわ!!

 この拘束が解け次第、私から神聖な時間を奪った罰として一人残らずなぶり殺しにしてやりますわ!!

 ですから首洗って待っていやがれくださいましですわよ!!



 *



 ガルの言葉でフレア達は神殿に戻ってみたが、先程と状況は何ら変わりはなかった。しかしそれが逆に彼らの不安を焚き付けた。なんだか妙に静かすぎるのだ。

 また光魔道士達が戻ってきたのかと、警戒しながらも神殿におそるおそる足を踏み入れる。ハトガヤの私室はそうでもなかったが、やはり神殿の内部は奥へ行けば行くほど埃っぽかった。

 ジャリ、ジャリ、と足元に散らばる砂と床が擦れる音が響く。


「……ハトガヤさんはどこだろう?」


 神殿の最深部の手前で、フレアは辺りを見回す。あの神官のことだ。何かあったのなら大声をあげて暴れだしていそうなものだ。しかし、ここまで来る間に彼女には会わなかった。それどころか、声すら聞こえなかったのだ。


「うぅ心配ですぅ…手分けして探しましょう!」


 フロレアがそう提案する。しかしそれはすぐに却下された。


「手分けも何も、ここまでほぼ一本道な上に、そう広くはない。それに何があったのかもわからないのに、下手に散り散りになったら危ないだろう」


「それはそうですけど…。うぅ、ガルちゃん、まだ嫌な気配は感じますか?」


 フロレアはガルに尋ねてみる。しかしガルは答えなかった。


「ガルちゃん…?」


 ガルは神殿の最深部をじっと睨み付けていた。ガルだけではない、ラルフも同じように最深部を睨み付け、低く唸っていた。まるで、何かに警戒し、威嚇しているようだった。


「…この先に答えがあるみたいだね。行こう」


 フレアはそう促すと、ジリ…と最深部に足を踏み入れた。



 *



「まさか貴殿方までもがくだらないことを企んで要らしたなんて、驚きでしたわ」


 ハトガヤは柱に縛り付けられ、身動きが取れずにいた。

 つい先ほどまではご丁寧に口元まで布で縛り付けられていたのだが、聞きたいことがあると、今さっきほどかれたばかりだ。

 そして、ハトガヤをそうした犯人たちが、その柱の周りをぐるりと囲む。ハトガヤはキッと相手を睨み付けた。


「全く不覚でしたわ!人のティータイムを邪魔するなんて、なんて極悪非道!

 これさえほどけてしまえば貴殿方なんて瞬殺してやりますわ!殺戮の始まりですわ!」


 少し物騒なことも言いながら、ギャーギャーと喚くハトガヤに、犯人たちは金色に輝く魔道書を片手に一斉に手をかざす。そしてなにやらブツブツと呟くと、全員ほぼ同時に金色の光を手から放った。ピシャアア!と鋭い音と共に光がハトガヤを貫く。


「がああああッ…!?」


 裂けるような熱い痛みに、思わず悲鳴をあげ震える。そしてクタッと項垂れたハトガヤを、犯人たちは一瞥した。


「うるさい女だ。こんな奴が"白虎"だなんて、笑わせる」


 犯人たちの一人が一歩前へ踏み出し、ハトガヤの前髪を乱暴に掴むと無理矢理顔を上げさせた。


「おい、大人しく吐くんだ"白虎"。祭壇の封印はどうやって解くんだ?」


「し、知りませんわ、そんなこと…。そもそも、知っていても教えるはずがありませんわよ」


 ハトガヤは不敵に微笑む。その態度に苛立ったのか、犯人の一人はハトガヤの頭を乱暴に放すと彼女の腹に蹴りを入れる。


「ふん!吐かないのなら殺すまでだ!我々は知っているのだぞ。この祭壇には、光魔法を増幅させる力があることを!それを壊せばその力が解放されることも!」


「なんですの、それ?そんなの初耳ですわ」


「そうやっていつまでもしらばっくれていればいい」


 犯人の一人が手をあげると、他の犯人達はまた金の魔道書を取りだしハトガヤへ手を向ける。


「お前はここで死ぬのだからな」


 その言葉と共に、犯人の一人はあげた手を振り下ろした。

 —いや、振り下ろしたかった。のだが。


「ハトガヤいじめるなあああああああああ!!!」


 もの凄く大きな声と共に、何かが思いっきりぶつかってきた。

 いきなりの体当たりに、合図を送ろうとした犯人の一人はそのまま吹っ飛ぶ。その光景に、残りの犯人達は思わずたじろいだ。


「お、おい!魔獣だ!」


「なぜこんなデカイ魔獣がここに…!」


「それはこっちの台詞だよ」


 凛とした声が通る。聞き慣れない声に、犯人達は一斉に声がした方へ振り向いた。


「あなた達までここの祭壇を壊すつもりだったとはね…がっかりだよ」


 声の主—フレアは、目の前にいる犯人達に、失望した眼差しを向ける。そして、犯人達と同じような見た目の同行人に声をかけた。


「あなたもそう思いますよね、マドーさん」


 マドーは、その言葉を聞きながら、悲しげに目の前の同族達を見つめていた。


「ええ…。ルノマ族として恥ずかしいです」


 ハトガヤを囲んでいた犯人達は、ルノマ族だった。



 *



 あの日が来るまでは良かったんだ。


 勿論、グレゴイルみたいなやつもいたが、それでもみんなで仲良く暮らしていたんだ。


 でもあの日、邪魔物が消えて。


 あいつらが力をつけてしまったが故に。


 許さない。


 だからこれはあいつらへの復讐なんだ。



 *



「ハトガヤ!ハトガヤ!大丈夫ですか!?」


「大丈夫です。大丈夫ですわ。だからそんなに揺すらないでくださいましフロレア…」


 ハトガヤを縛っていたロープをほどくと、フロレアはぐったりしているハトガヤに声をかけながら思いっきり揺さぶった。

 フロレアがあまりにもグワングワンと大きな地震でも起きているかのように揺らすので、ハトガヤは若干吐きそうになったのはここだけの話。


「しかし…本来ならば、大人しくて争い事はあまり望まないはずのルノマ族のみなさんが…どうして…」


 フロレアは、ハトガヤからルノマ族達に視線を変える。


「……差別ですわ」


 フロレアの揺さぶりから解放されたハトガヤは、パンパンと軽く衣服をはたき眼鏡をかけ直すと、フロレアと同じようにルノマ族を見据えた。

 彼女の、深いエメラルドような翡翠の瞳が暗く伏した。


「この国では、ある日突然沢山の人が消えましたの。それも光魔法をよく思っていなかった人ばかりですわ。それを良いことに、光魔道士達は力をつけましたわ。

 実質、この国は本当の意味で光魔道士の国になりました。…それだけならまだよかったのですわ」


 ハトガヤは、目を悲しげに細める。


「ルノマ族は、いくら人獣に属するとは言えど、私たち人間と違って魔獣。

 そんな彼らが自分達人間と同じように暮らすのが気にくわない層も、当然ながらいたのですわ。

 その層にそそのかされたのか、毒されたのか。最近はルノマ族への風当たりが強くなってきていまして…。

 迫害、虐待なんてのもよく聞きますわ」


「そんな…!」


 フロレアはハトガヤの話に、驚きと悲しみを隠せなかった。

 魔獣だから。それだけの理由で差別をするなんて。ガルが聞いたら憤怒するだろう。ガルにとって魔獣は家族なのだから。


「にしても、その人間に復讐するために祭壇を壊しに来るなんて。馬鹿馬鹿しいことこの上ありませんわね。壊したところで困るのはお互い様ですのに」


 ハトガヤは呆れたように溜め息をつく。そして、突然声を荒げだした。


「でも、今はそんなの関係ありませんわ!」


 いきなりの大声に、フロレアはビクッと肩を跳ねらせる。


「差別とか迫害とかぶっちゃけどうでもいいですわ!誰であろうと、私のオレンジペコタイムを邪魔した罪は償ってもらいますわよ!!まずはここにいる全員一人残らず八つ裂きにしてやるですわ!!」


「ハ、ハトガヤ落ち着いてください!!」


 猛牛のように鼻息を荒げるハトガヤを、後ろから羽交い締めにして勇めるフロレア。今ここでハトガヤが本気で暴れたら、本当に全滅してしまう。

 ど、どうしたらいいんでしょう。とフロレアが焦っていると、それはその場に飛び込んできた。


 ゴシャア!と壁が崩れる乾いた音と共に、それはこの場に現れた。金色に輝くボディ、その回りにバチバチと白い火花を散らす、電に似た閃光を纏っていた。


「なっ、なんだこれは…!」


 今まで見たこともない異物に、フレアは目を見開く。魔物…と言っていいのだろうか。しかしそれにしてはあまりにも生気がない。死体と言うよりも、無機物。そう、本当にただの「物」のような感じなのだ。

 フレアやフロレア達が異物の登場に驚く中、マドーも含めたルノマ族達だけが驚かず、落ち着いていたマドーはその異物を見上げ、悲しそうに目を歪ませる。


「…やはり、あなたたちもカンマくんの発明品を起動させていたのですか」


 その異物は、カンマが以前作っていた機械の試作品だった。


「なんだ、知っていたのか。そうさ、これはあのガキの発明品!魔法で起動する対人装置のようだったんでな、もしもの為に拝借したのさ!」


 ルノマ族のリーダー格が得意気に声を張り上げる。その間も機械は、まるで息を吐くかのようにバチバチと閃光を弾けさせながら、その場にたたずんでいる。

 フレアは機械に警戒しつつ、じり…と間合いを詰めようと一歩踏み出そうとする。…と、


「おおっと!それ以上我々に近づかないでもらおうか!さもなくばこいつが暴れるぞ!」


 リーダー格は魔道書を片手で抱えなおすと、空いた方の手を機械に向ける。どうやら、こちらが近づいたら魔法で機械に指示を飛ばすつもりらしい。

 フレアはギッと足を止める。ここは神殿の中でも一番広い空間ではあるが、機械はかなりの大きさ。そんなものがこの中で暴れれば、それこそ神殿ごと崩れるだろう。


「ははは!やっぱりこいつがいる以上手は出せないか!そうだ、それでいい!そうしてそこで我々が力を手にいれるのを見ていればいい!」


 リーダー格は高笑いをあげ、くるりと祭壇へ向くと詠唱を始めた。それに合わせて残りのルノマ族達も祭壇へ向けて詠唱を合わせ始める。


「いけません!あの人たち祭壇を壊すつもりです!」


 フロレアが慌てて止めに入ろうと動いた。が、それを牽制するかのようにルノマ族の一人が祭壇から機械へばっと狙いを変える。フロレアは思わず止まってしまった。

 このままでは祭壇が壊されてしまう。しかし動こうとするものなら機械が起動してしまう。

 どうしたらいい、フレアは頭をフル回転させ、解決策を探っていた。その時、マドーは以前カンマにこの機械について訊ねたことがあるのを思い出していた—



 *



「え?この機械がなんなのかって?」


 カンマはうーんと唸ってから、答えにくそうに言った。


「悪いけど、これ僕が作ったものじゃないんだよね。だから何に使うものなのかよくわかんないんだよ。

 人の形はしてるけど、両腕は鎌みたいな形してるし、採掘でもしたかったんじゃない?」


 カンマは生意気そうに笑いながら、機械をコンコンと叩く。あ、でも…と何かを思い出したのか、先程の説明に付け加える。


「これね、雷魔法でしかちゃんと起動しないんだってさ。

 他の魔法を使うと中の電気エネルギーと反発して暴走するんだって。

 でもね、もし暴走してしまっても、雷魔法と対になる魔法で押さえつければ中和して落ち着くんだってさ。

 ま、暴走することなんて、そうそうないだろうけどね」


 そう言うと、カンマはまじまじと機械を見つめる。邪魔だから早く売りつけるかスクラップにしたいんだけどなぁ…と呟いたのが聞こえた。



 *



「そうです、あの機械は雷魔法でないとちゃんと起動しない…!

 ルノマ族の知り合いに雷魔法が使えるものはいなかったはず。

 なのにああして閃光を纏っていると言うことは、光魔法で無理矢理起動したのでしょう…

 つまりもう既に暴走状態だということです!」


 マドーは思い出して得た情報をフレアに伝える。


「今は落ち着いていますが、彼らが更に光魔法を浴びせたら、暴走が悪化する…

 その前に雷と対になる魔法で押さえつければ機械は暴れません!だから彼らを絶対に刺激しないで…」


 マドーは慌てて全員に忠告を発したが、遅かった。と言うよりも、間に合ったとしても話をよく理解できずに同じことをしていただろう。


 しびれを切らしたガルが、ラルフと共にルノマ族へ突っ込んで行った。

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