chapter5-5
「ツチマホーーーッ!!」
聞き覚えのある声と共に、恐らく上の階から飛び降りてきたのであろう小さな体が、拳を振りかぶりながら落ちてくる。そして勢い良くヒドラの首の一つに脳天から拳を叩き込むと、ドゴシャァ!と強い衝撃と轟音と共に地面に拳をめり込ませつつ頭を叩き潰した。
思わぬ攻撃に、残りの首がピタリと動きを止めたと同時に、
「だから“ちまほう”だってば!」
頭上から大きく鋭く尖った岩の棘がズガァ!と勢い良く突き刺さる。
「ガルちゃん!ルークさん!」
フロレアがヒドラに攻撃を与えた正体に気づいて叫んだのも束の間。ヒドラの尻尾が、空中で落ちているままのガルとルークを目掛けて飛んで行く。
「おわっと!」
ルークは驚きつつ軽く指をぱちんと鳴らす。するとルーク達と尻尾の間にぐわっと地面から岩壁が一瞬にして生える。ビタンと岩壁に尻尾が当たり、攻撃を弾くとすぐに崩れ落ちる。
「お前ら!三つ同時だ!頭を三つ同時に潰すんだ!」
「三つ同時?」
フォルテの言葉にルークが首をかしげると、ガルが潰したはずの首がキシャアと眼前に現れた。
「なるほど、これはきついや」
苦笑いをしながら、ルークは首にくいっと指差し、壁から岩の柱を伸ばして首にぶち当てる。首は押されるがまま軌道を逸らし、ルーク達から少し外れた位置の壁に牙を突き立てた。
今度は軽く手を払い、同じように壁から足場を生やすとガルとルークはそこに着地した。
「無事だったんだね、ガル!それに、今のは……」
「ああ、ガルのあれは地魔法だよ。僕が教えたんだ。言葉は間違えて覚えちゃったけどね」
フレアの問いに、ガルではなくルークが答えた。
「あれは自分を強化する地魔法でね。拳に大地の力を込めて殴ってるんだ。ガルはそれしか覚えなかったけど、十分だろう?」
ルークが得意気に告げる。確かに、あの馬鹿力はこの先も大きな戦力になりそうだ。
「で、さっきの話を聞いたかい、ガル。三つ同時だって。君はあの治ったやつを頼むよ。残りの動けないやつらは僕がやる」
そう続けて、今度はガルに話すルークに、再び尻尾が迫る。が、すぐにギッと動きを止めた。
「尻尾は俺達に任せろ」
アヌの影と、フロレアの水魔法が尻尾の動きを止めていた。
「わかった!マドー!」
ガルがマドーに声をかけると、マドーは頷き風魔法を展開させる。ガルはそれに乗ると、ブワッと上空に打ち上げられる。
そしていつかのフレアがしていたように、マドーの風魔法を次々と足場にして再生した首の周りを動き回る。
首はちょこまかと動くガルに首を振り続けていたが、突然爆弾がその首に当てられる。
軽く首元が抉れるも、その部分を直ちに再生させながら首が爆弾を投げた犯人へ振り向く。
「やーいデカブツ!こっちだよーん!」
ニヤニヤと悪どい笑みを浮かべたフォルテとツェンが首を挑発する。単純な首はすぐさま挑発に乗り、ガルから狙いを変えてフォルテとツェンへ襲いかかる。
牙を光らせ噛み付こうとした瞬間、フレアが飛びだしレイピアを両手で横に掲げるようにして牙を受け止める。ギギギ、と踏ん張るフレアの背中を、フォルテとツェン、そしてラルフが押して全員で踏ん張る。
「ガル!今だ!」
フレアの合図と共に、頭上高く飛んでいたガルがぐっと足に力を込めるように曲げると、彼女の足元にブワッと風のフロアが広がる。それを思いっきり蹴り、拳を振り上げながらフレア達が押さえる首へと一直線に飛びかかる。
「ツチマホーーーッ!!」
ガルが叫んだ瞬間、ガルとすれ違うように巨大な岩の拳が二本、壁から勢い良く伸びていった。
岩の拳が棘が抜けずに動けない二本の首に、ガルの拳が残る一本の首に当たるのはほとんど同時だった。
ドォン!という振動と轟音と共に、三つの頭が同時に叩き潰された。
ぐらり、と全ての頭を無くした体は、そのまま力無く再び地面に沈んでいき、その衝撃で大きな砂煙が舞う中、ヒドラは動かなくなった。
その脇に、上から降りてきたガルとルークがすたんと着地する。
「フレア、フロレア!見たか!?ガル強い!強いぞ!」
着地するや否や、ダッとガルはフレアに駆けていくと、その勢いのままフレアに抱きついた。
「これでガルも手伝える!フレア達の力になれる!」
嬉しそうに体を跳ねらせ笑うガルの頭を、フレアは優しく撫でてやった。
「あ、ルーク。お疲れ」
「ルークいたんだ」
「ルーク死んだかと思った」
「お前ら!!勝手に僕を殺すな!!」
その横で、獣人達は先程までの緊迫感はどこへやったのか、なんとも気の抜けた会話でルークを迎える。
「いやぁ、ルークさん、すごいですよう!さっきのあの魔法!こう、バーン!ズバーン!ズガガーン!って!」
「ええ、流石“地の玄武”という感じでしたよ!」
興奮気味にルークを讃えるフロレアとマドーの言葉を受けて、ルークがピクリと鼻先をひくつかせる。
「あれ、僕が玄武だっていつ話し──」
と、言いかけたところでルークはハッとして勢い良く獣人達の方に振り返る。ツェンとアヌはわかりやすいぐらいに顔を背け、そ知らぬ顔をし黙っている。ルークはその反応で大体察した。
などと下らないやり取りをしている間に。
「お!スイッチ見っけ!!」
一人、広間の奥に伸びる通路と平行するように作られていた、ヒドラが元々いたのであろう壊れた壁の向こう側の細い通路をうろうろしていたフォルテが楽しそうに声をあげる。
その声を聞くとフロレアは途端に顔をこわばらせ、すぐさまフォルテに駆け寄る。
「フォルテさん!!それ、絶対に押しちゃダメ──」
「ポチッとな」
フロレアが言い終わらないうちにフォルテは躊躇いなくスイッチを押した。
すると、ゴゴゴとスイッチの右側の壁がゆっくり下に沈んでいき、隠し通路が現れた。
「ビンゴォ……!やっと当たった!」
どうやらフォルテが手当たり次第にスイッチを押していたのは、隠し通路や隠し部屋を見つけるためだったようだ。
フォルテはその入り口で、鼻をわざとらしく、すん、と鳴らすと、
「お宝の匂いがする!!」
と顔を輝かせた。
「あれ、フォルテさん、先程匂いはわからないと仰って……」
「ふっふっふ、わかってないなあマドーちゃんは。これは長年の勘と言うやつなのだよ。お宝と言うのはこうした隠し部屋にこそあるものなのじゃ!」
ふふん、とフォルテは得意気に胸を張った。
「では、ここでお別れだね。君達は財宝、僕達は神殿。それぞれの場所でそれぞれの目的を果たそう」
そう言いながらフレアは獣人達に近寄り、手を差し出した。
「ありがとう。君達のおかげで助かったよ」
「こちらこそ、迷惑ばかりかけてごめんね」
その手をルークが取り、固く握手を交わした。
手を離すと、では、と軽く会釈をしてからルークはフォルテの方へ向かう。ツェンとアヌもそれぞれ別れの言葉を告げながら、ルークの後に続いて隠し通路へ進んでいった。
彼らを見送りながら、フレア達も目的地である神殿へ向かおうと、最初から広間に繋がっていた細い通路へ入ろうと足を踏み出した瞬間。
その通路への侵入を絶対に許さないとでも言わんばかりの勢いで、ズガンと黒い尻尾が横から通路を塞ぐ。
「……は?」
「フ、フレア様っ!後ろ……!」
フロレアの悲鳴にも近い声に、フレアは嫌な予感を抱えながら振り向く。予感は見事に的中した。何故ならば、ヒドラが再び立ち上がっていたのだ。
六本の首を携えて。
刹那、全ての首がフレア達に目掛けて飛んでくる。すぐさまフロレアとマドーが各々の魔法でバリアを展開し首を弾くが、一本だけバリアを避けてしまった。その首はそのままマドーに噛み付こうと口を大きく開けた。が、横から雄叫びをあげたガルの拳が当たり粉砕される。
その衝撃で胴体が少しよろけて壁にガアン!と当たる。しかし大したダメージではないようで、すぐに水と風に煽られた首達も体勢を直し、ガルにやられた首は、その上から先が無くなった首元からにゅるりと二又の首を生やす。
分かれた首は、分かれる前よりも細くなっていた。
「何だァ今の音は……っ!?」
「おいおい、まだ生きてたのかよこいつ!」
「首、増えてない?」
「ちょ、ちょっと!無茶苦茶だよ!」
先程の体がぶつかる音に気づいたのか、獣人達も広間に戻ってきた。そしてヒドラの姿と、以前よりも数が増えている首を見て、一斉に加戦しようと攻撃体勢に入ろうとした。
が、
「君達はそのまま進んでくれ!」
と、駆け寄り手助けをしようとしていた彼らを制すように、フレアは叫んだ。
「彼が邪魔をするのは神殿への道だけだ、君達は関係ないだろう。だから君達はそのまま進んでくれ!」
でも、と食い下がるルークに、フレアはレイピアをヒドラに向けたまま、軽く笑みを浮かべ振り返る。
「大丈夫だ。僕らは伊達にここまで旅をしてないさ。何度でも倒すまでだ」
フレアの言葉に、フロレア、ガル、ラルフ、マドーも振り返ると得意気に笑う。その彼らの表情を見たルークも、同じように笑うと、
「わかった、ありがとう!気をつけて!」
と、フォルテ、ツェン、アヌと共に奥の通路へ走っていった。
ヒドラは獣人達には興味がないのか、それとも財宝はどうでもよいのか、ルーク達を追いかけようとはしなかった。
「……なるほど、君は財宝の番人では無さそうだね」
フレアはレイピアをチャキ、と構え直す。
「とにかく、君を倒して僕らも先に進ませてもらうよ!」
フレア達は、再びヒドラにそれぞれ向かっていった。
ヒドラってエリンギみたいだよね




