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RE:collection of Justice  作者: カザハラ
chapter5 冒険の砂漠ロカーム
12/17

chapter5-2

「すっげー!!人工のオアシスだ!!!」


 獣人達と共に遺跡を探して砂漠を歩き続けること早半日。どっぷりと日がくれ、暑さが寒さと交代をはじめた。

 目的地が同じなら一緒に行動した方が早いと、ルークからの提案をフレア達は承諾した。そしてその最初の休憩でフロレアがいつものように水魔法の人工ミストを披露すると、フォルテがすかさず食いついた。


「いーなー!いーなー!俺も魔法が使えれば良かったんだけどなぁ」


 フォルテはミストの噴出箇所近くで三角座りをし、直に浴びながらぐでぐでと体を揺らす。

 ガルも隣に同じようにちょこんと座り、ぐでぐでとフォルテの真似をして体を揺らしながらフォルテに話しかける。


「フォルテ、まほーつかえない?」


「んー、俺は使えないよん。使えるのはルークとアヌだけぇー」


 フォルテはぐでんと大の字を描きながら仰向けに寝転ぶ。

 ガルもすかさずぐでんと真似をして寝転ぶ。


「俺ね、爆弾技師なの。さっきの見たでしょ?あれ俺お手製の対サンドジェイル用爆弾。あ、サンドジェイルってのはさっきのオージサマが吸い込まれてたやつね!で、ツェンはね、その俺の爆弾を弾にする砲術師。あいつ見かけによらず馬鹿力なんだよねぇ」


「だぁぁぁれが馬鹿だゴルァァァァァ!!!!」


 少し離れた位置で手持ちの干し肉を切り分けていたツェンが、もの凄い勢いで駆け寄りフォルテにスライディングをかます。フォルテはそのままスライディングを食らって吹っ飛んでいった。


「馬鹿はテメーだこのクソ鳥が!!!サボってんじゃねえお前も仕事しろや撃ち殺すぞ!!!」


 吹っ飛んだフォルテの首根っこをツェンが乱暴にひっつかみ、ズルズルと干し肉が置かれた場所へ引きずっていく。

 その様子にルークとフレアは苦笑いをしながら食料を分ける作業を続ける。


「すみませんね、騒がしくて。フォルテとツェンはあれが通常運転なもので」


 ルークは分けていた食料を一つフレアに渡す。

 黒くぶにぶにとした、見たこともない種類の肉のようなものだった。受け取りながら、フレアは一口かじってみる。


 ビャリ


 瞬間、口の中でなにかが破裂しベチャリとした液体が広がる。液体は舌が溶けるのではないかと勘違いするほどに酸味が強烈だった。と、同時に苦味も少しだけ感じたが、それよりも酸味が強すぎる。飲み込めない。フレアは咳き込みながら肉をベッと地面に吐き出す。


「ああ……やっぱり人間にはキツかったか。ごめんよ」


 ルークはフレアの背中を擦りながら詫びをいれた。


「まあ獣人でもキツい部類だし仕方ないよね、サンドワームの睾丸」


 フレアは胃の中の物を全部吐いた。



 *



 期せずして体内の洗浄が完了し、死んだ目で三角座りをしてミストに当たるフレアを、フォルテとガルが両脇からバシバシと背中を叩いて励ましているのをよそに、フロレア達は食料を分けあい腹ごしらえをこなすと、夜に備える。

 昼間は活発なサンドワーム達も夜には大人しくなるとはいえ、他の魔物が襲ってこない保証はない。しかし、砂漠には遮蔽物などどこにも無く、更に夜は一転して気温が急激に下がり凍えるような寒さを耐えることになる。

 フロレア達はなるべく固まり、ガルを除いた三人と一匹で交代しながら見張り、夜を越していた。

 今回もそうしようと、その場で雑魚寝の準備を始めた瞬間、ツェンが思いっきりフロレアに飛び蹴りを食らわせる。

 そのままフロレアは砂にべしゃあとめり込んだ。すぐさまガバッと砂まみれのまま起き上がる。


「なにするんです!?」


「邪魔なんだよどけ!!」


 ケッとツェンは吐き捨てると、ルークに顎で指示をする。ルークは頷くと、改めてフロレアとマドーに離れるよう呼び掛ける。

 そして地面にしゃがみ、スゥ、と深呼吸をしてから勢いよく両手を地面に当てる。

 その直後、ルークの周囲の地面が円を描くようにモコモコと持ち上がり、ゴゴゴと大きな音を立てながらドーム状に形成されていく。あっという間にルークをすっぽりと覆い、土のドームが出来上がる。

 フロレアとマドーが呆気に取られていると、中からバゴオと穴が空き入り口が出来た。


「出来たよツェン。さ、みなさんもどうぞ」


 ルークが手招きをすると、ツェンはさも当然のように中に入っていく。今まで全く動かなかったアヌも、のそのそとフロレアとマドーの横を通って中に入っていった。フロレアとマドーは顔を見合わせる。


「あの、これって……」


「地魔法、のようですね……」


 おそるおそるフロレア達が入っていき、ラルフもとてとてと続いたあと、最後にフォルテとガルがフレアを引きずりながら中に入る。全員が入ったのを確認すると、ルークは壁に手をつき穴を閉じた。

 中では既にツェンが手持ちのカンテラに火をつけていたようで、暖かい光がフロレア達を出迎えた。

 ドームの中は、全員が寝転んで少し余るくらいの、そこそこの広さだった。


「なるほど……これなら外敵の心配はありませんね」


 マドーはペタペタと壁を叩きながら見上げる。砂の下に広がっていたのであろう岩盤が盛り上がって形成されたようで、かなりの硬さを感じた。

 加えて、厚さもあるようだ。ちょっとやそっとの攻撃では砕けそうになかった。


「むむむ……これは水魔法には出来ない芸当です。見張り要らずですねえ」


 フロレアが少し悔しそうにルークを見ると、ルークはいやいやそれほどでも、と謙遜した。


「まあ、砂漠の夜は冷えますから。見張りなんてしていたら体力の消耗も激しいし、使えるものは使って少しでも楽にしないと」


「だから早く寝た方がいいよん。俺らは獣人だから毛皮や羽毛や体温調節とかで耐えられるけどさ、人間にはこの寒さもキツいっしょ~」


 フォルテのいう通り、これから更に気温が下がる。フロレア達は既に寒さを感じており、ガルに至ってはくしゃみを繰り返していた。ここはお言葉に甘えて、フロレア達は先に寝ることにした。

 獣人達はもう少し起きているようだったが、ようやく魔物を警戒せずに寝れる安心からか、フロレアとマドーとガルはすぐに眠りについた。



 *



 獣人達も寝静まり、砂漠に静寂が訪れる。

 フレアは、眠れなかった。

 魔物の警戒は確かに必要なくなった。しかし、何故か眠れなかった。その原因は何となく察しはつく。隣の蛸だ。

 アヌもまた起きていた。だがフレアのように眠れないから起きているわけではなく、体を完全に起こし、壁に持たれかかるように胡座をかいて座っており、自分の意思で起きているようだった。

 カンテラから火が消え、マドーのように真っ黒な顔が更に闇に溶け込み見えなくなる。時おり緑の光がパチリ、パチリと瞬いていた。

 フレアはとにかくそれが気になって仕方がなかった。他の三人の獣人達は、少なくとも自分達には友好的ではあった。が、アヌだけは何も反応がなかった。本当は、人間と共に行動するのが嫌だったのではないか。だから、夜の今のうちに自分達になにか仕掛けようと──


「あの」


 急にアヌに話しかけられ、フレアはビクッと思わず肩を震わす。


「そんなに見つめられると、やりにくいんですけど」


 アヌの瞳が眠そうに歪む。完全に起きているのがバレているようだったので、フレアは体を起こしアヌに向き合う。


「えっと、邪魔?してごめんよ。けど、何をしていたんだい?」


 アヌはフレアの問いかけに、無言で地面を指差す。それに従って、フレアも地面を見る。

 と、なにかが地面で蠢いていた。

 フレアはすかさず警戒体勢を取る。が、アヌが「まあまあまあ」とそれを制した。


「大丈夫。これ、俺の影」


 害はないから、と影をポンポンと叩きながら、アヌは続けた。


「俺、影使い。闇魔法で自分の影を操ってる。今はその影を使って、遺跡を探してるとこ」


 暗くて良く見えないが、地面をするすると蠢く影は確かに何かを探しているようだった。

 恐らくドームの外にも影を大きく伸ばして探しているのだろう。

 しかし、とフレアは一つ疑問をアヌにぶつけた。


「何故、夜に?君も明日に備えて寝ないとまずいんじゃないかい?」


「夜じゃなきゃ駄目なんで」


 アヌは再び自身の影を指差した。


「昼は光が強くて影が近くにしか伸ばせない。でも夜は光が弱くなるから影が遠くまで伸ばせる。だから、夜の方が効率が良くて」


 それで昼間は眠くて、反応が鈍くなるんだ。とアヌは続けた。その言葉に、フレアはなるほどと頷いた。


「で、遺跡は見つかりそうかい?」


「駄目だ、この周りには無い。別の場所に行かないと」


 アヌは残念そうに首を振った。


「それよりお前は寝ないのか?人間は寒さに弱いんだろ?」


「……そうだね。君の行動の理由もわかったし、僕は寝るよ」


 とにかく、アヌに敵意が無いのはわかった。それだけで十分だ。フレアは再び横になり、今度はしっかりと目をつぶる。

 おやすみ、とアヌが軽く声をかけたのを聞くと、安心しきったのか、フレアはすぐにまどろみの中へ旅立った。



 *



 もう何度目の朝だろうか。

 一行は未だに遺跡を見つけられず、砂漠をさ迷っていた。

 たくさん買い込んだ食料もそろそろ底を尽きかけ、獣人達は現地調達だとサンドワームやその他の魔物を狩って肉を調達し出していた。

 アヌの夜中の影探索を他の三人は知っていたようで、それを頼りに旅を続けていたらしい。だが全くそれらしいものが引っ掛からず、飽きかけてきたところにフレア達と出会ったため、数を増やして人海戦術に切り替えようと思ったのだという。

 しかしフレア達も、頼みの綱はガルとラルフの野生の嗅覚だけだった。フロレアが詳しい場所さえ覚えていてくれれば解決した話だったが、ポンコツ神官はポンコツ神官だった。

 じりじりと砂漠の日差しに肌を焼かれながら、こちらももう何度目になるかのサンドジェイルと対峙する。

 ごごごと吸い込むサンドジェイルにフォルテが高く飛び上がり渦の中心へ爆弾をダンクする。吸い込まれた爆弾が内部で爆発し、爆風でサンドジェイルが飛び出てきたところをフレアがバッサリと斬る。

 その騒ぎでサンドワームが砂の中から飛び出し、おこぼれを貰おうとフレアに襲いかかる。すかさずルークが地魔法でフレアの前に岩壁を作り攻撃を弾くと、ラルフが噛みつきサンドワームの動きを止める。その隙をついてマドーが風魔法でサンドワームを切り刻んだ。

 と、すぐさま砂の中から二匹目が飛び出す。一匹目の肉片を鎌首を左右に振り避けながら、フロレア目掛けて噛みついた。が、フロレアが水魔法のバリアでその攻撃を受けとめつつ弾き体勢を崩させると、するすると黒い手のように伸びたアヌの影がサンドワームの体に絡み付き、ギチッと締め付ける。その間に、背負っていたバズーカにフォルテの爆弾を装填し終えたツェンが、狙いを定め、サンドワームに弾をぶっ放した。

 ズドンと大きな爆発音を立てて、サンドワームの体が砕け散る。ボトボトと、あっという間に辺りには二匹分のサンドワームの肉片と、一匹の真っ二つに分かれたサンドジェイルの死骸が積み上がった。


「いやーいやー流石にそちらさんも慣れてきたね!」


 フォルテが楽しそうにケラケラ笑う。が、フレア達はとても喜べるような気分じゃなかった。

 確かに、砂漠の魔物の退治には慣れてきた。だが、あとこれをどれだけ繰り返さないといけないのか。下手をすると一生魔物退治で終わるのではないか。なかなか見つからない目的地のおかげで、フレア達の心は折れかけていた。

 はあ、とフレアは深いため息を尽き、かかった魔物の血や肉片を払っていると、なにやらラルフが吠えていた。


「ど、どうしたんですようラルフさん!どこか痛いんですか?」


 フロレアがおろおろしながらラルフに近づき訊ねるも、ラルフは首を横に振り吠え続ける。ルーク達も何がなにやらさっぱりわからないと言うような顔をしていた。

 何か気になるものでもあったのかと、フレアは辺りを見回してみる。自分達が退治した魔物の死骸以外には、相変わらず砂しかない──


「……ガルがいない」


 フレアの言葉に全員が周りを見渡す。確かにガルの姿がない。ラルフはそれに気づいて吠えていたようだ。

 更に全員で見回したことで、マドーもいないことに気づいた。


「ガル!マドー!どこにいるんだ!」


 フレアが大声で呼び掛けるが、ガルからの返事はなかった。


「ここです!ここにいますよー!」


 なにやらくぐもった声のマドーの返事はあった。

 もう一度辺りを見回して声のした場所を探してみると、バタバタともがく砂から生えている足を見つけた。先端が丸く曲がっているあの靴の形からして、マドーだ。


「あーあーあー、なにやってんだよルノマさんよぉ。アヌ、頼んだ」


 舌打ちしながらツェンがアヌに指示を出すと、アヌは影を伸ばしマドーの体に巻き付かせる。そのままぐぐぐと影で上に引っ張り上げ、引っこ抜こうと試みる。


「いやぁすみません……流砂があったようで」


「はいはい喋んない。砂飲むぞ」


 ハハハと苦笑するマドーに、アヌが呆れたように返す。

 その救出劇を見て、フレアは嫌な予感がした。


「まさか、ガルはこの流砂に吸い込まれたんじゃ……」


「ええっ!?も、もしそうなら一大事ですっ!!」


 フレアの言葉を受けて、フロレアがあわあわと砂を掘り出したのでフレアは一旦落ち着かせる。

 その間にマドーがスポンと流砂から引き抜かれ、アヌはそのまま影を流砂の中に吸い込ませる。


「何してんのアヌ……?」


 ルークが不思議そうにアヌの顔を覗きこむ。アヌは瞳を閉じて、何かを探っているようだった。

 しばらくして、ゆっくり瞳を開けルークに伝える。


「この下、()()()()


 ルークの目の色が変わる。


「そうか……そういうことか!そりゃあ見つかるわけないよ!」


 ハッハッハと一人で理解し一人で笑うルークをフレアとフロレアはポカンと見つめる。おい、一人で納得すんなよ!とルークにつかみかかったツェンに、ルークはごめんと軽く謝ってから何かを頼んだ。

 そして今度はフォルテのに顔を向けると、飛びっきりの笑顔で伝える。


「強いの、撃つよ!」


 フォルテの顔がパアッと輝く。すぐにごそごそと鞄をまさぐり、中から今まで使っていた黒く丸い爆弾より少し大きくて、赤や黄色など派手な色で塗られた爆弾を取り出した。

 それを見て、ルークは最後にフレア達に向くと「ちょっと離れてね」とにっこり笑った。フレア達は言われた通りに少し離れる。

 離れたのを確認すると、ルークは地面に手をつき、魔法で土を盛り上がらせる。モコモコと形成させていき、出来上がったのは側面にスライド式のレバーのついた土の大筒だった。

 そのなかに、フォルテが先程取り出した爆弾を入れる。すぐさまルークが再び魔法で筒を閉じ、台座を作ると地面を少しえぐって地面側の筒の底に穴を開けた。

 台座にツェンが上り、ゴーグルを下ろす。そして筒のてっぺんに跨がるような形でレバーを握る。


「爆弾よし、レバーよし……あー、少し左に三度」


 ルークが魔法で左に三度筒を傾ける。


「よし、OK!そんじゃあ、いきますよっと。3、2、1──」


 ゴー!とツェンが叫ぶと同時にレバーを思いっきり引く。と、大筒から爆弾が発射され地面にぶつかると激しい大爆発を起こす。

 ドオオオンという轟音と地響きと砂煙が舞い上がり、大筒ごと地面が崩れ全員が落下する。

 フレア達はルーク達の行動に目を白黒させ、フォルテとツェンの楽しそうな高笑いを聞きながら落ちていった。

 そのままべしゃり、と砂の山に突き刺さる。

 すぐに顔をあげ見上げてみれば、天井には穴が開き青空が見えた。またその穴の外からは大量の砂が滝のように流れ落ちている。

 周りには同じような砂の滝。この近くに流砂がたくさんあったようだ。


「やっぱり、思った通りだ!」


 すぐ近くでルークの声がした。隣を見れば、いつの間にか本人がいる。まっすぐ嬉しそうに前を向いていたので、フレアも同じ方を向いてみる。


「やっと見つけた、僕達の目的地……!」


 目の前には、丁寧に積まれた石壁にがっしりとした白い柱が中央にそびえ、草木が絡まり、差し込む光に照らされて緑に輝く「遺跡」があった。

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